香港アグネス・チョウさん抗議も幸福実現党は「霊言」撤回せず…幸福の科学「霊言」シリーズの危険性とタブーに怯えるマスコミ

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2019年09月09日 07:00  リテラ

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リテラ

周庭さんの「守護霊」と称するインタビューを公開した「幸福実現NEWS」

 香港の大規模な抗議デモは、権力の横暴に対抗する市民の結束力の可能性を見せつけた。香港当局が中国政府と結託して民主派市民の弾圧が繰り返されるなか、林鄭月娥長官がついに、容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案の完全撤回を表明したのだ。だが、これで終わりではない。市民の運動は他にも普通選挙の実現や警察による暴力行為を調査する独立委員会の設置などを求めており、まだまだ抗議の市民デモは続いていくだろう。



 そんななか、日本では香港デモをめぐって、あの宗教法人「幸福の科学」がバックについている政党・幸福実現党が香港民主化運動の中心メンバーを生命の危険に晒し、中国当局の軍事介入を誘発するような行為を行なっていたことをご存知だろうか。



 先日、幸福実現党が公式サイトで、幸福の科学の総裁・大川隆法氏が香港民主化運動の中心メンバーのひとりである大学生・周庭(アグネス・チョウ)さんの「守護霊」と称するインタビューを公開したのだが、それが中国で大問題になっているのだ。



 周知の通り、幸福の科学といえば、大川隆法氏が様々な人物の「守護霊」なるものを「降霊させて話している」と称する「霊言」で知られる。しかし、メディアへの大量の広告出稿や訴訟圧力などによって、日本のマスコミでは半ばタブー化された存在でもある。



 今回の幸福の科学をめぐる問題はすでに日本の一部ネットメディアが報じているが、あらためておさらいしておこう。まず、幸福実現党が4日付で、機関紙「幸福実現NEWS」特別号を出した。そのトップに「香港デモへの『弾圧』が激化 自衛隊を派遣して香港の自由を守れ」なる題で、周さんの顔写真と「霊言」記事を掲載。さも大川総裁が周さんの持論を聞き出したかのようなかたちで、こう記されている。



〈大川隆法・幸福実現党総裁は、9月3日、「習近平vs.アグネス・チョウ―守護霊バトル」を収録。香港情勢について、中国の習近平国家主席と民主化運動の中心人物、アグネス氏の本音を探りました。〉



 そして、「自衛隊を送って助けてほしい」なる中身出しのもと、〈アグネス氏の守護霊〉が〈日本への期待をこのように述べました〉としてこう書かれている。



〈現在の抗議デモが目指すところについては「できたら香港独立まで持っていきたい」と語りました。〉

〈「日本は、われわれの屍を乗り越えて国是を変えて、正しいものとは何かをはっきりと言える国になってください。できたら、自衛隊を送っていただきたい。邦人保護の名目で、自衛隊を送ってください。そしたらアメリカも動きますから」

「アメリカ、イギリス、日本が軍隊を送ってきたら戦い続けることは可能です。戦うべきは今だと私は思います。」〉



 記事は周さんの「守護霊」の発言に同意するかたちで、〈幸福実現党は、武装警察や人民解放軍によるデモ隊への弾圧が行われたなら、即座に経済制裁を実施すると共に、自衛隊法の改正により自衛隊を香港に派遣すべきだと考えます〉などと締めくくられ、その霊言の内容は書籍『習近平vs.アグネス・チョウ―守護霊バトル』として近日発刊予定とPRされている。



 ……相変わらずのやりたい放題だ。しかし、恐ろしいことに中国のネットでは、これが周さん本人の語った内容であるかのように拡散されてしまった。



 事実、“中国版Twitter”である「微博」(ウェイボー)を見てみると、国営テレビ・中国中央電視台のニュースチャンネルであるCCTVが「幸福実現NEWS」をソースに「香港独立運動の周庭が日本の自衛隊に香港に来るよう呼びかけた」という意味のタグをつけて投稿し、他の新聞系メディアやテレビ局、さらに政府系機関の公式アカウントまでもが一斉に広めていった形跡が確認できる。もちろんフェイクであり、香港デモを抑圧しようという中国政府のプロパガンダと見るべきだ。



●幸福実現党は「お詫び」をしたが、削除したのは写真のみ、霊言は撤回せず



 しかし、こうした事態に周さん本人が反応した。5日、自身のTwitterに日本語でこんな「声明」を出したのである。



〈最近、ある日本の政党の出版物に、私の名を騙って、私が「自衛隊に香港を助けてほしい」と主張していると書かれていました。

 私はこのようなことは言っていませんし、このような主張はしていません。私について誤解を招くような文章を削除し、訂正することを求めます。〉



 日本ではスルーされがちな幸福の科学の「霊言」を、しっかり「自分の主張ではない」と否定し、正面から削除と訂正を要請したのである。さすがの幸福実現党もこれを受けて6日、公式サイトで〈厳しい環境の中で民主化運動にご尽力されている周庭氏におかれましては、誤解に基づくとはいえ、ご心配をおかけしたことをお詫び申し上げます〉と謝罪せざるをなかった。



 だが、幸福実現党は周さんに「お詫び」こそしたが、記事の訂正や削除に応じたわけではない。たとえば、同じページに出した「声明」では〈本内容は、周庭氏の守護霊の発言を紹介したものであり、地上の御本人の発言ではありません。「霊言」とは、あの世の霊存在の言葉を語り下ろす現象です〉と釈明。さらに、周さんへのお詫びについてもこう付け加えている。



〈その背景には、この度の「幸福実現NEWS」特別号が中華系ニュースサイトにて、「周庭氏本人が日本に自衛隊派遣を要請している」という誤った内容で拡散されたことがあると考えられます。その点を考慮し、周庭氏の写真を削除し、ご本人ではなく守護霊発言であることを強調した形で改訂版を発行させて頂きます〉



 ようするに、幸福実現党は削除に応じないばかりか、“中国のニュースサイトが「誤った内容」を拡散したことが悪く、自分たちはあくまで「霊言」だから問題ない”と主張しているのである。常識的に考えて、そんなのってアリなのか。



 実際にこの後、ネット掲載の「幸福実現NEWS」は「改訂版」に差し替えられたが、それをチェックしても、せいぜい周さんの写真をカットし、例の「自衛隊を送って助けてほしい」なる中身出しの上に小さく〈アグネス氏守護霊〉と付け足したくらいで、「守護霊」の発言内容はまったく変わっていない。そして、この「幸福実現NEWS」特別号で紹介した『習近平vs.アグネス・チョウ―守護霊バトル』なる書籍も相変わらず近日発刊予定のままにしているのだ。



●中国の軍事介入を誘発し、アグネス氏の身を危険に晒しかねない「霊言」



 大川隆法総裁の長男である大川宏洋氏は、今回の件について、6日、自身のYouTubeチャンネルでこう見解を述べていた。



「(アグネス・チョウさんは)かなり人気の方なのでしょうね。だからこの人に乗っかっておけば人気がとれるんじゃないかみたいな、そういう浅はかな理由で、隆法がこの人を利用しようとしてるんだろうなってところですね」

「この隆法の霊言シリーズっていうのはね、ほんとにいっつもそうでございまして。結局、隆法の我田引水なわけですよね。この場合で言ったら、幸福実現党にとって有利になるようなことを言うために、アグネス・チョウさんを利用して数字を取ろうとしている。姑息なやり方ですよね」

「何回も言ってるんですけど、霊言っていうのは隆法の妄想なんで、これはまったくそもそも事実無根ですので、霊言っていうのは。嘘ですよ、はっきり言えば嘘」

「アグネス・チョウさんについては、本人が明確に嫌だと言っているわけなので、幸福の科学としては、この『習近平vs.アグネス・チョウ―守護霊バトル』は即日発刊停止をして、幸福の科学の公式ホームページに大川隆法の名前で謝罪文を掲載すべきだと僕は思います」



 いずれにしても、あらためて考えさせられるのは、幸福の科学の「霊言」手法の危うさだろう。



 今回のケースで言えば、「守護霊」と称して、あたかも“アグネス氏の言葉”で日本に自衛隊の出動を要請しているのだ。実際にはありえなくても、情報が出回れば、日中の戦争は現実的にありえなくても、プロパガンダによって、中国政府による香港への軍事介入の口実にされる可能性も決してゼロではない。



 しかも、民主化運動のアイコンでもあるアグネスさんは常に当局から睨まれており、8月末には警察に拘束されて、恣意的な逮捕までされた(即日釈放)。当然、中国共産党からも言動を監視されているとみられる。そんなかで、日本の政党が「アグネス氏の本音」と称し、本人がまったく主張していないことをでっち上げて広めればどうなるか。運動への悪影響だけでなく、周さんやその家族、仲間の身を危険にさらしてしまいかねない。「霊言」を騙っている者はこれっぽちの痛痒も感じないのかもしれないが、その結果、人の生命を脅かしてしまうことだってあるのだ。



 にもかかわらず、幸福実現党はなぜか“被害者”の体で開き直っているわけである。はっきり言って、自分たちがしてしまったことに対する自覚が皆無であると断じざるを得ないだろう。



●ムハンマドの霊言本では、シャルリ・エブド襲撃事件やタリバンの学校襲撃を肯定



 いや、今回だけのことではない。幸福の科学は、こうした「霊言」をシリーズ化しており、歴史上の人物や故人はもちろん、キムタクや星野源、広瀬すず、蒼井優、宮崎駿など、存命の芸能人・文化人の「守護霊」インタビューを膨大に出版していることは前述のとおり。実は、そのなかには戦争や紛争あるいはテロの呼び水になりかねないものだって少なくなかった。



 一例が、2015年1月に幸福の科学出版から出た『ムハンマドよ、パリは燃えているか。―表現の自由VS.イスラム的信仰―』だ。日本でもIS(イスラム国)の問題やシャルリ・エブド襲撃事件がメディアにクローズアップされていたなかで出版された同書は、大川総裁が「霊言」でムハンマドを降ろし、過激な発言を連発させるという内容である。



 たとえば、質問者がやんわりと“言論ではなく暴力で対抗するのは受け入れがたい”と伝えると、大川氏が降ろしたと称するムハンマドの「守護霊」は、「だって、犯人だけ撃ったんだろう? 犯人を潰しただけでしょ? あれは、ほとんど、池田屋の斬り込みと一緒だよ」などと言い出す。



 他にも、過激派である「パキスタン・タリバン運動」がペシャワルの学校を襲撃した事件については「それは、イスラム教の崩壊を招くからね、そのままだったら」と容認したり、ISの最高指導者アブバクル・バグダディ氏を「いいねえ。久々にいいねえ」「あの小さいのに、よくカリフを名乗った。偉い。うん。偉い、偉い」と褒め称えたりしている。過激派によるテロやバグダディの行動をムハンマド(の守護霊)に肯定させるというのは、イスラム教への冒涜であり、イスラム教徒を侮辱する行為ではないのか。



 だが、こうした幸福の科学の「霊言」シリーズを、これまでほとんど誰も表立って抗議できず、マスコミもまともに追及せず黙殺してきた。それは、幸福の科学がメディアに大量出稿する“スポンサー様”であることや、問題提起する記事を書けば訴訟を起こしてくることと無関係ではない。ようは、マスコミも幸福の科学に尻込みしているのである。



 その意味で言っても、今回、周さんが幸福実現党を念頭に、ちゃんと「私はこのようなことは言っていませんし、このような主張はしていません」と声明を出し、削除と訂正を求めたことは当然である一方、ある意味日本では画期的だったと言えるだろう。無視してもよいものと、悪いものがある。マスコミは“タブー”を振り切って、幸福の科学の手法の危うさを検証し、きちんと批判すべきだ。

(編集部)


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