ホンダがNSXをFR化する大決断。清水MS部長「社内で議論があったのは事実。ファンの皆様のためにも必要だと判断しました」

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2019年09月12日 05:41  AUTOSPORT web

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スーパーGT 2020年『クラス1』GT500車両発表会でNSXのFR化を発表したホンダ・モータースポーツ部の清水宏部長
「2017年に発売しましたNSXをベースに、新たに技術規則クラス1に完全に準拠したスーパーGT車両を来シーズンからGT500クラスに投入することを発表いたします」

 ホンダのモータースポーツ(MS)部、清水宏部長が9月11日に鈴鹿サーキットで行われたメディア向けの2020年GT500クラス車両の発表会で、2020年のスーパーGT500クラスをFR(フロントエンジン・リヤドライブ)化したNSXで戦うことを発表した。清水宏MS部長、そして車両開発担当の徃西友宏氏にFR化したNSXとスーパーGTへの思い、そして開発の苦労の一端を聞いた。

 来季からスーパーGTはドイツのDTM(ドイツ・ツーリングカー選手兼)と車両規則が共通化される『クラス1規定』の導入によってFR車両のみの参戦となる。そのなかでミッドシップ+前輪モーター駆動による四輪駆動のNSXは参戦継続が懸念されていたが、ホンダはフラッグシップモデルでもあるNSXの駆動方式をFR化して対応。スーパーGT500クラスの3メーカーが7年ぶりに同一条件でレースを戦うことになったのだ。

 これまで市販車だけでなく、スーパーGT500クラス、そしてGT300クラスなどに参戦しているGT3マシンを含め、ホンダNSXはMR(ミッドシップエンジン・リヤドライブ)を一貫して採用してきたが、来季2020年のスーパーGT500クラスにはNSXのアイデンティティでもあったMRの駆動方式を変更するという、大きな決断を経ての参戦となる。そこにはホンダのスーパーGTへの並々ならぬ思いが込められている。

「決断の最大の理由は、ホンダが決めたというよりもレースのレギュレーションが変わるということで、我々としてレースに参戦するからにはレギュレーションに準拠しなければいけないというところから判断をしています」と清水部長。当然、MRからFRへの駆動方式変更の決断に至るまでにはさまざまな調整や苦労があった。

「もちろん、社内ではオリジナルのミッドシップを変えるということで議論があったのは事実です。ただ、冷静に周りを見渡してみると日本だけでなくドイツでも、たとえば市販車は四駆でもレースでは違うなどいろいろな駆動方式がありますよね。各メーカーともにモータースポーツではそのような駆動変更を行っているわけですし、クラス1規定で戦うにはファンのみなさまのためにも必要なことだと判断いたしました」

 ホンダとしても、国内だけでなく国際的にも成功している世界最高峰のハコ車レースであるスーパーGTを支え、ファンを増やして発展させたいという願いもある。

「スーパーGTは昨年、2018年の実績でも国内で40万人のお客様がサーキットに足を運んで下さっている。世界的に見てもかなり大きなカテゴリーになっているのは事実ですから、そのカテゴリーからホンダがいなくなるということはできないという考えからも決断しています」と清水部長。まずはホンダがスーパーGTへの参戦を継続するとともに、NSXのFR化という大決断に至ったことは、国内だけでなく世界的にも多くのモータースポーツファンが歓迎しているに違いない。

 スーパーGTに参戦しているホンダの現場スタッフ、HRD Sakura研究所のスタッフたちにとってもFR化はうれしい面が多い。

 昨年はミッドシップハンデとしてNSXには昨年の開幕時で+14kg、今年の開幕時で+29kg、ニッサンGT-R、レクサスLC500より重い最低重量となっただけでなく、FRとMR(ミッドシップ)では重量配分の面でも同一になることは本質的には不可能だった。NSXはこれまで勝っても負けても最低重量の違いやミッドシップであることに触れざるを得ないことがあり、現場のスタッフとしてもイコール条件で自分たちの技術を証明して戦いたいという思いは強かったに違いない。

 NSXではないが、これまで過去にはホンダは4シーズン、FR車両でスーパーGTに参戦した期間がある。2010年から2013年にかけて、ホンダはHSV-010の車両でGT500クラスに参戦した経験がある。


●2020年にFR化するクラス1規定NSX-GTの開発の難しさと現在の進捗状況

 HSV(ホンダ・スポーツ・ヴェロシティ)-010は、もともとはアキュラブランドから市販車での販売を目前にして開発中止になったFRスーパースポーツ車をベースとしたGT500専用車両。HSV-010の参戦によって、2010年のGT500クラスは初めて3メーカーの駆動方式が揃うことになり、2014年からは現在の新型NSXを先取りする形でMRのNSX CONCEPT-GTが特認車両で参戦し、その後、NSX-GTとして今年まで特認での参戦を続けていた。

 そのHSVでのFR車両の開発経験があるとはいえ、7年前の状況と現在では規則も技術も大きく異なる。FR車両のNSXの車体開発を担当するホンダの徃西友宏エンジニアがFR化NSXの開発の難しさを語る。

「いわゆるミッドシップエンジンのクルマからフロントエンジンに変えるという難しさというよりも、これだけ共通部品が多くて開発が絞られていると、できることは限られています。みなさん同じようなクルマになっていくなかで、どのようにクルマの特性を味付けして、性能を出していくのかという難しさがありますね」と徃西エンジニア。

 MRとFRではエンジンを搭載するためのサブフレームなどが異なるため、現在とはまったく異なる新しいエンジンを開発しなければならず、その搭載方法も難しい。

「エンジン面での開発の自由度はスーパーGTはありますし、エンジンそのものというよりもFRに合わせた車体とのマッチングの部分はまだまだやりようはあると思っています。今まで後ろにエンジンを搭載していましたので、冷却面、エンジンの熱の処理などは我々は他車と全然違うことをしていたので、今のMRから前に持ってくることでは難しい面も多いです」

「空力的にもそうですし、まずはFRはエンジンルームが狭いですよね。空間が狭いなかにいろいろなものを押し込んで冷却の風の処理をしなければならない。後ろにエンジンを搭載していたときは、まずは必要なエアをどのようにエンジンまで導くかというのがひとつの壁になっていたわけですけど、そこをうまく制御できればエンジンルーム内はリヤは高さもあるので広い。フロントエンジンはボンネットの低い中にかなりのものが収まっているので、そこは初めてのところですね」と徃西エンジニアは開発の苦労の一部を話す。

「HSVでFRの経験があるとはいえ、当時のNAエンジンと現在のターボエンジンでは補機類も多いですし、HSVの時はフロントのサスペンションも自由に設計できる前提があったのでいろいろ工夫ができました。クラス1規定はモノコックもサブフレームもサスペンションもほぼ決まっているので、そのなかでうまく配置しなければならない難しさはあります。本当にゼロベースからの開発です」

 実際、この発表会の翌日から行われる鈴鹿での合同テストは、GT-R、スープラは参加するもののNSXは欠席。今回の発表会で展示されたFR化したNSXもショーカーモデルで、実車はリヤのMR用のインテークダクトが塞がれるなど、リヤフェンダー周辺の形状が大きく異なってくるという。いずれにしても、2メーカーに比べてNSXの開発が遅れているの状況は明からだ。

「まだ開発の途上でして、明日のテスト走行には間に合いませんが、来年のシーズン開幕戦にはトヨタさん、ニッサンさんと完全に競争できる、いい状態のクルマを持ってくる決意です。これまでのNSX-GTの功績に恥じることのない、すばらしいパフォーマンスをお見せできるように開発を加速していきます」と清水部長。

 2020年のNSXは次回の合同テストにはシェイクダウンされる方向で開発が進められているようだが、まずはFR化したNSXが無事に2020年の開幕戦に間に合うことを願いつつ、そして何より、7年ぶりの同一条件で戦うことを選択して決断したホンダの関係者たちの決断に敬意を表したい。

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  • もうただ速さを競うだけの祭だな。
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