【MotoGPコラム後編】リンスが行ったスズキのレジェンド、ケビン・シュワンツと同じ悪いクセ

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2019年09月13日 18:01  AUTOSPORT web

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シュワンツと同じくレース中に後ろを振りむくアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)
イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラム後編をお届け。後編ではスズキのアレックス・リンスがレース中に行った戦略とミス、1周目の多重クラッシュについて分析する。

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 アレックス・リンスは第12戦イギリスGPでスズキGSX-RRの強みを見事に引き出した。コーナースピードにおけるアドバンテージで、加速のパフォーマンス不足を埋め合わせることができたのだ。高速コーナーをライバルよりも速く通過できたら、リンスはそのスピード差を次のストレートに持ち込めるだろう。

 レース中、リンスはマルケスとは異なるラインを取っていた。マルク・マルケスがホンダRC213Vをエイペックス(コーナーの内側の頂点)に到達させる一方で、リンスはよりワイドなラインを取っていた。

 コーナー立ち上がりのパフォーマンス不足を埋め合わせる賢いやり方は、コーナー進入時に引き下がることだ。そうして前にいる遅いバイクにエイペックスでスローダウンさせられないようにするのだ。一瞬引き下がることでスペースが生まれるため、そのスペースを使用してコーナーをより速く通過することができる。これをうまくやれば、コーナー出口でライバルを抜くことになるだろう。コーナースピードを使い、大きな馬力に打ち勝つのだ。

 リンスはこの作戦を何度も行なっており、彼が最終ラップと思い込んで行なった13コーナー、14コーナー、15コーナーのセクションを通しての攻めは顕著だった。

 13コーナーに差し掛かる際、リンスはマルケスから数メートル引き下がった。そうして、13コーナーでタイトなライン取りをすることができ、続く14コーナーへのワイドで高速なラインを確保した。これでリンスは14コーナーを通過中にコーナースピードを活かすことができ、15コーナーでマルケスのイン側をつくことができたのだ。

■リンスが行ったシュワンツと同じ悪いクセ
 もしリンスとスズキがこのように仕事を続けていけば、彼はケビン・シュワンツ以来スズキで最も成功したライダーになるチャンスを掴めるかもしれない。シュワンツは1988年から1994年の間にスズキRGV500で25回優勝したのだ。

 リンスとシュワンツを比べるのは、多くの理由から正しいことではないだろう。ふたりは非常に異なる性質を持っている。シュワンツは騒々しく、向こう見ずでワイルドだった。一方、リンスは物静かで謙虚であり、マナーが良い。リンスはシュワンツのような自信たっぷりの態度を取っていない。だがそうした態度は多くの成功から生まれるのかもしれない。リンスの18コーナーでのアウト側からイン側への見事な攻めは、シュワンツを多少彷彿とさせるものだった。

 リンスはシルバーストンでシュワンツの特質のひとつを示した。シュワンツはレース中に後ろを振り返るという悪いクセがあり、そのせいで多くのミスを犯した。肩越しに素早く後ろを見る場所と時間はあるが、それを行えるのは大抵はフリー走行の間だ。コースの一部で、前方への集中を途切らせることなく、自分の後ろがどうなっているのか素早くチェックするのだ。

 リンスはイギリスGPのレースを台無しにするところだった。あと3周を残すところで、7コーナーの右カーブの立ち上がりで後ろを振り返ったのだ。ここは目を離すのには良くない場所だ。7コーナーの次には最短のストレートが続き、コースのなかで最低速コーナーである8コーナーの入り口に下っていく。リンスが後方のビニャーレスを振り返り、再度迫ってくるコーナーにまた集中を切り替えるまでに、彼は8コーナーでまさにヘマをして転倒しかけた。

■スズキGSX-RRのタイヤライフが保った理由
 リンスのGSX-RRはシルバーストンで見事な性能を発揮し、マルケスのRC213Vよりもタイヤをセーブできていた。シルバーストンの新たに舗装された路面に対処するために、ほとんどのライダーがフロントとリヤにハードタイヤを選んでおり、リンスには終盤で間違いなくグリップがあった。レース中、ふたりはパワーマッピングによってタイヤからさらなる寿命を引き出そうとしていた。だがリンスの非常にスムーズなテクニックとGSX-RRのエンジン構成が、タイヤの寿命をいっそう伸ばしたのだ。

 V4エンジンのRC213Vはクランクシャフトが短いが、それはバイクがコーナーにスムーズに進入できる理由のひとつとなっている。だが一旦コーナーに入ると、ラインをうまく維持できない。インライン4のGSX-RRのクランクシャフトはより長く、コーナー進入はスムーズにはいかない。だが一旦コーナーに入れば、長いクランクの慣性が働き、バイクがコーナー通過中に弧を描く助けになる。このセルフターン効果(自然とバイクが曲がっていく状態)によってライダーはそれほどタイヤを労わらなくてよくなり、重要な段階でより多くのラバーを残せることになる。

 もちろん、シルバーストンでの戦いには他のライダーたちも加わっていたはずだった。そうではなかったのはリンスのせいにできるかもしれない。リンスは1コーナーを初めて通過した際に横滑りし、大きなタイヤ痕をつけたが、そのせいでファビオ・クアルタラロが転倒した。

 ルーキーのクアルタラロはリンスの真後ろにいて、やはり横滑りしてタイヤ痕を残した。クアルタラロがリンスを避けるためにスロットルを閉じて再度開けた時、彼のリヤタイヤがグリップしてハイサイド転倒を起こし、投げ出された。そしてそこにドヴィツィオーゾが投げ出されたヤマハYZR-M1に乗り上げて転倒した。この時点でリンスかクアルタラロのトラクションコントロール(TC)は機能していなかった。TCは1コーナーでは3速にマッピングされていたが、グリッドからコーナーまでは非常に距離が短く、ライダーたちは1周目は2速でコーナーに進入したのだ。

 この多重クラッシュの前にいたライダーは、マルケス、リンスとロッシのみであり、集団はすぐにばらけた。そして集団が長く形成されなかった理由はもうひとつある。それはシルバーストンでは時として起こることだが、タイヤのトラブルがあったのだ。

 シルバーストンのグリップの強い新たな路面(新路面になってミシュランタイヤが走ったことはない)と、イギリスらしくない44度の路面温度(2019年シーズンでこれより路面温度が高かったのは、イタリアGPとカタルーニャGPだけだ)の組み合わせが、タイヤに大きな影響を及ぼしたのだ。

 バレンティーノ・ロッシ、ジャック・ミラー、カル・クラッチローを含む数名のライダーは、酷くダメージを受けたタイヤについて不満を漏らし、何人かはリヤスリックに塊ができたことを明らかにした。一部のライダーはフロントタイヤに懸念を抱いていた。クラッチローは、マルケスが最終ラップでそうだったように、18コーナーを5速で通過する際に何度かフロントのコントロールを失いかけた。クラッチローは非常に心配しており、何度か立ち上がってフロントタイヤのダメージをチェックしていた。

 おそらくMotoGPでのトップ集団は変わってきている。リンスは、第3戦アメリカズGPでリタイアしたマルケスから勝利を引き継いだ後、正式な初優勝を飾った。そしてクアルタラロは間違いなく、インライン4のマシンと相性が良いコースでは、優勝できるスピードを出している。だが、クアルトアラロの初めての大きなミスが、精神状態にどのような影響を及ぼすかは、まだ分からない。

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