川本真琴、℃-want you!、影山朋子、河内宙夢……アーティスト仲間と育んで生まれた作品4選

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2019年09月14日 14:21  リアルサウンド

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川本真琴『新しい友達』

●川本真琴『新しい友達』
 溢れるほどのソングライティングセンスを持ち、ボーカリストとしても華やかさを併せ持つ川本真琴は、もちろん90年代から活動するキャリア十分のアーティスト。だが、もしかすると現在が一番いい状況にあると言えるかもしれない。もちろん、今に至るまで決していい時代ばかりではなかっただろう。けれど、豊田道倫(パラダイス・ガラージ)、植野隆司(テニスコーツ)、三沢洋紀(LABCRY、真夜中ミュージックほか)、澤部渡(スカート)といった曲者たちと交流、共演する機会が増えるにつれ、彼女が潜在的に持っていたチャレンジ精神、独創性にこだわる姿勢が徐々に作品の中に現れるようになる。


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 自身の名義としては9年ぶりとなる川本真琴のニューアルバム『新しい友達』は、そんな川本真琴の本質が開花した大傑作だ。植野隆司と共におもむいたニューヨークで現地のミュージシャンたちとセッションした3曲や、山本精一がsenoo rickyら京都の仲間とセッションして作った曲(「あの日に帰りたい」)、七尾旅人とmabanuaと共演した曲(「君と仲良くなるためのメロディ」)などとにかく多彩。豊田道倫や久下惠生らが参加した曲(「新しい友達ll」)では峯田和伸(銀杏BOYZ)とデュエットもしているし、マヒトゥ・ザ・ピーポーのアコースティックギターだけを相手に歌っている曲(「へんないきもの」)もある。まるでいろいろな記事が載っている雑誌をめくるようなワクワク、楽しさがあるのが何よりの魅力で、いつまでも貪欲で好奇心旺盛な川本の底なしの無邪気さが堪能できる1作だ。7インチシングル、アナログ12インチレコード、カセットテープなど様々なフォーマットで楽しめるのもいい(収録内容はそれぞれ異なる)。


●℃-want you!『℃-want you!』
 川本真琴同様、良き理解者のサポートを得てアルバムを完成させたのは℃-want you!(シー・ウォンチュ!)。住所不定無職やMagic, Drums & Loveなどで活動する彼女の1stソロアルバム『℃-want you!』は、彼女の才能を早くから見抜いていた漫画家/イラストレーターの本秀康が、自らのレーベル=雷音レコードから彼女の7インチシングルを4枚リリースするなど時間をかけて育ててきたその成果のような1枚だ。雷音レコードからはこれまでに前野健太、大森靖子、台風クラブらのシングル盤がリリースされてきたが、杉真理、牛尾健太(おとぎ話)もゲスト参加した『℃-want you!』はAKB48や木村カエラ、SMAPなどの楽曲を手がけてきた武藤星児のプロデュースが奏功し、広くJポップのフィールドを視野に入れたような強度の高い音作りが特徴になっている。例えば、武藤の手がけた代表的な1曲「恋するフォーチュンクッキー」の場合、ホーンやストリングスを華やかに配したその70年代〜80年代のニューソウル調のアレンジがリリース当時に多くの音楽通を唸らせたが、ここでもリズムや曲展開などお手本になっているのは50年代〜60年代のガールポップやオールディーズ。だが、録音や演奏は意外にもタフだし音像もシャープ。結果として℃-want you!の舌足らずな愛らしいボーカルが埋もれずにしっかりと聞こえてくるし、本秀康と武藤星児のディレクションが本人作の曲をも鮮やかに引き立たせる結果となっている。


●影山朋子『光の速度、影の時間』
 森は生きている、折坂悠太、ゑでぃまぁこん、ザ・なつやすみバンドなどの作品やライブに参加してきた影山朋子の『光の速度、影の時間』は、音楽性や指向こそ川本真琴や℃-want you!とは異なるが、同じく仲間アーティストと時間をかけて育んできた成果が結集した素晴らしい“うた”の作品集だ。ビブラフォンやマリンバ奏者として様々な現場で圧倒的な信頼を得ている彼女にとって、自ら主役になって歌を歌うことはどこかこそばゆいところもあるのだろうか、どの曲も少しはにかみながらメロディを手繰り寄せるような横顔が柔らかい風合いを醸し出している。だが、リズム、譜割り、構成、全体のアンサンブルはジャストと言ってもいいほど厳しいもの。雰囲気ありき、フィーリングありきの作品に落ち着かず、むしろジャズ、MPB、AORとしてのポップスにまで昇華させて聞こえるのはそのためだろう。そして、こうした結果を生んだのが谷口雄、増村和彦といった森は生きているの元メンバー、ゑでぃまぁこんのメンバーら約20名ものゲストプレイヤーたちと、葛西敏彦、西川文章というレコーディングエンジニアによる鉄壁なサポートだ。ポツンと一人で歌っているような佇まいを、大勢の仲間たちのバックアップで創出したことの意味を、この作品を聴きながら何度も何度も反芻している。


●河内宙夢&イマジナリーフレンズ『河内宙夢&イマジナリーフレンズ』
 今回は仲間たちとの連携があればこそ誕生したインディー作品の中から、特に傑出した4枚を取り上げているが、最後は、心から信頼できる仲間に出会ったことで活動拠点まで移してしまった河内宙夢(こうちひろむ)を紹介する。もともと東京でコツコツと弾き語りスタイルで活動していた河内は、なかなか芽が出ないまま悶々と過ごしていた矢先、共通の友人を通じて知り合った本日休演の岩出拓十郎に誘われるまま、昨年京都に引っ越してしまったというツワモノだ。現在の京都を面白くしている重要バンドである本日休演の岩出は、現在、他にもラブワンダーランドというレゲエ〜ラヴァーズロック系バンドでも活動していたり、ムーンライダーズの鈴木博文のプロデュースを担当したりと多忙を極めているが、同世代で同じ音楽指向の河内とはとりわけ意気投合したようで、二人の間を繋いだドラムの小池茅(本日休演やラッキーオールドサンなどのMVも手がける映像作家でもある)と共に河内をメインにしたバンドを結成。ついには河内宙夢&イマジナリーフレンズでベースを担当するばかりかデビューアルバム『河内宙夢&イマジナリーフレンズ』をプロデュースするに至った。おまけにこのアルバムをリリースするレーベルは本日休演と同じミロクレコード。新たな仲間との出会いが河内宙夢の人生を一変させたというわけだ。豊田道倫を思わせる生暖かいエロスが滲む歌詞やボーカルに、The Velvet Underground)やジェームス・チャンスのようなフリーキーでラフなサウンドプロダクションを掛け合わせるアイデアは、少しもたつくタイム感を持つこの3ピースにピッタリ。意識的にローファイでパンクな方向を目指したというだけに、今回紹介した4作品の中では飛び抜けて音質はデッドだが、そこにもまた彼らの確信犯的なアイデンティティが現れていると言えるだろう。今年の『ボロフェスタ』にもソロで出演することが決まっている河内宙夢。ぜひとも覚えておいてほしい存在だ。(岡村詩野)


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