難病「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー」、新たな治療選択肢として「RNAi治療薬」が登場

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2019年09月18日 17:00  QLife(キューライフ)

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進行性の命に関わる病気、症状は多様


長崎国際大学薬学部アミロイドーシス病態解析学分野教授 安東由喜雄先生

 トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、「遺伝性ATTRvアミロイドーシス」「FAP」などとも呼ばれ、全身の組織や臓器にアミロイドが蓄積することで心臓や神経などにさまざまな症状が現れる遺伝性の「全身性アミロイドーシス」です。進行性であり、治療をせずに放っておくと歩行困難、寝たきりとなり、発症後約10年で命を落とすこともあるほどの重篤な病気ですが、未だに根治療法はありません。この難治性疾患に対する新たな治療選択肢として、9月9日に日本初のRNAi(アールエヌエーアイ)治療薬「オンパットロ(R)点滴静注 2mg/mL」(一般名:パチシランナトリウム)が発売されました。RNAiとは一体どのように作用する薬なのでしょうか?

 オンパットロを販売するアルナイラムジャパン株式会社は9月13日に、「ノーベル賞技術を応用した日本発のRNAi治療 最前線」と題したメディアセミナーを都内で開催。同セミナーでは、同社代表取締役社長兼アジア地区シニア・バイスプレジデントの中邑昌子氏がRNAi技術の応用による医薬品開発の展望を挨拶として述べた後、長崎国際大学薬学部アミロイドーシス病態解析学分野教授で同大学副学長の安東由喜雄先生が、「21世紀の疾患、アミロイドーシス〜治す神経内科の実践〜」と題し、講演を行いました。

従来の治療法は肝移植またはTTR4量体安定化剤

 トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、トランスサイレチンというタンパク質を作るTTR遺伝子の変異が原因で起こることがわかっています。この変異でTTRタンパク質が異常になると、アミロイドと呼ばれる特定の構造を持つタンパク質が形成され、やがてアミロイドはアミロイド線維となり、神経、心臓、消化管、腎臓、目など、全身の各所に沈着、蓄積し、さまざまなつらい症状をもたらします。「涙腺にアミロイドが溜まって目が痛み続ける、手足がやせ細る、激しい下痢でトイレから離れられずお尻に褥瘡ができるなど、つらい症状の患者さんを何人も診たら、この病気の治療から離れるわけにはいかなかった」と、安東先生。熊本大学病院に、アミロイドーシス診療センターを立ち上げるのに貢献しただけでなく、現在、日本アミロイドーシス学会理事長、および国際アミロイドーシス学会理事長として、この病気の克服に向けて、世界をけん引しています。

 この病気の患者数は世界で約5万人、日本はポルトガル、スウェーデンに次ぎ3番目に患者さんが多く集積している国です。特に、熊本県、長野県、石川県に患者さんが集積しており、これは遺伝性であることと深く関連しています。20〜80歳まで、幅広い世代に発症する上、症状が多様で決定的な症状というものがないため、診断がとても難しい病気です。原因遺伝子が見つかっても、思うような治療が見つからなかった中、1990年にスウェーデンで肝臓移植が開始され、徐々にその効果が確認され始めました。TTRタンパク質のほとんどは肝臓で作られるため、この治療法は、異常なTTRタンパク質を作っている肝臓を入れ替えてしまうという狙いで開始されたものです。ところが、徐々に肝移植で効果が得られるのは、50歳未満の若年発症で発症から3〜5年未満、そして心臓の症状が軽い人で、高齢者に効果を期待するのが難しいとわかってきました。さらに、一部の患者さんでは肝移植後も症候が進行することもわかってきました。また、肝移植にはドナーが必要なので、簡単に治療を行うことはできません。

 そのため、肝移植以外に「TTR4量体安定化剤」という薬が、この病気の治療薬として2006年から国際的治験が開始され、2013年に「タファミジス」という薬が国内承認され、現在も使われています。TTRタンパク質は、正常では4つひとかたまりとなった4量体という形で機能しますが、TTR遺伝子に変異があると、4量体が不安定になりバラバラになります。これを安定化させ、4量体を保たせようとするのがこの薬の作用です。

RNAiは原因タンパク質が作られるのを抑える治療法

 「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、原因タンパク質を抑える治療法が最も有効」と、安東先生は主張。そうした意味でも、病気の原因となるTTRのmRNAをRNAiで壊し、タンパク質が作られないようにする、国内初のRNAi治療薬オンパットロは、患者さんの症状を緩和しうる治療薬で、患者さんのQOL向上も期待できるそうです。安東先生が携わった治験において、この薬を約4か月に1回注射することで、TTRのmRNAを8割抑えられたというデータが国際治験の結果として示されています。

 さらに2006年、RNAi発見の功績に対し、ノーベル生理学・医学賞が贈られました。タンパク質は、DNAを鋳型としてメッセンジャーRNA(mRNA)を介して作られます。RNAiは、mRNAの狙った部分を認識し、認識したmRNAを壊すことにより、タンパク質が作られないようにはたらき、「核酸医薬」という新たな種類の薬としてさまざまな創薬研究が進められています。

 その他、安東先生はこの病気の克服に向け、さまざまな仕組みを利用した新しい治療薬開発に、日々精力的に取り組んでいます。患者さんを苦しめる希少難病。今後も多くの医学的研究が重ねられることにより治療薬の開発が進み、患者さんの治療選択肢がより広がっていくことに期待したいですね。(QLife編集部)

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