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“アカデミー前哨戦”トロント映画祭を振り返る 『ジョジョ・ラビット』はジンクス証明なるか?

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2019年09月19日 10:11  リアルサウンド

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 9月上旬の開催というタイミングと、北米で最大規模の映画祭というポテンシャルも相まって、近年賞レースに向けた有力作が北米プレミアの場として選ぶようになったトロント国際映画祭。華々しくお披露目をし、批評家たちの支持を集めて作品の存在を周知させ、10月から11月ごろにかけて劇場公開することで興行的成功もしくは高評価を集める。そうすることで、年末ぎりぎりに公開される作品よりも充分なキャンペーンを積むことができると同時に、年初めのサンダンス映画祭や5月のカンヌ国際映画祭でお披露目された作品よりも極めてフレッシュな印象を維持したまま賞レースへと臨むことができるのである。


参考:『ジョジョ・ラビット』場面写真はこちらから


 先日幕を閉じた今年のトロント国際映画祭で、本映画祭におけるグランプリと呼べる位置付けにある「ピープルズ・チョイス・アワード(以下、観客賞)」を受賞したのはタイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』。第二次大戦下のドイツを舞台に、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラーの助けを借りながら立派な兵士になろうとする少年ジョジョが、ある時ユダヤ人の少女を母親が匿っていることを知るという物語だ。非常に早い段階からアカデミー賞の有力作品の一角として噂されていた本作は、必然的に来年の第92回アカデミー賞作品賞への“最初の切符”を手にしたと言ってもいいだろう。


 しかしながら、この『ジョジョ・ラビット』。トロントでお披露目されたばかりの段階では批評家からの賛否が分かれ、下馬評ほど熱狂的な盛り上がりを見せることがなく、昨年トロントの観客賞からアカデミー賞作品賞へと上り詰めた『グリーンブック』を彷彿とさせるという声も。“空想上のヒトラー”という大胆不敵な発想と、アカデミー賞と相性が良いナチスドイツを題材にした作品(そのイメージはいまだに強いが、近年はそれほど目立っていないのも事実であるが)、そしてコメディやアメコミ作品を手がけてきたワイティティ監督が新境地に挑んだ点など、様々な期待すべきポイントがあったわけだが、はたして本作は近年のトロント国際映画祭とアカデミー賞の関係性を裏打ちすることができるのだろうか。


 遡ること10年前、第82回アカデミー賞から作品賞の候補枠が65年ぶりに“5枠以上”となった(初めは10枠で、その後もルールの変化を重ねて5〜10枠という形で落ち着いたわけだ)。この変革は、その前年に大絶賛を集めた『ダークナイト』が作品賞候補に挙がらなかったことなど、年々保守的なアカデミー側と観客の“民意”との乖離が浮き彫りになっていったことで、アカデミー賞への関心が薄れたことを受けてのテコ入れのひとつである。映画関係者の評価も残しながら、“民意”をきちんと反映させて作品と観客、そしてアカデミー賞をしっかりと結びつける。結果的に枠を増やしたことによってそれまでなかなかアカデミー賞では相手にされなかったSF映画やアニメーション映画、インディペンデント映画などが作品賞候補に入りやすくなり、昨年にはアメコミ映画として初めて『ブラックパンサー』、批評家からの評価とは裏腹に大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』が候補入りを果たしたのだ。


 そうした流れがあるだけに、批評家や映画関係者が審査員として作品を評価する他の映画祭と異なり、観客の投票によって話題の中心が決まるトロント国際映画祭が重視されるのも充分に頷ける。たしかに、アカデミー賞作品賞が5枠だった時代までの観客賞受賞作31作品の中でアカデミー賞に駒を進めたのは8作品(うち『炎のランナー』と『アメリカン・ビューティー』、『スラムドッグ&ミリオネア』が作品賞を受賞)。そしてアカデミー賞が“民意”を意識しはじめるようになってからのこの10年間では9作品がアカデミー賞に駒を進め、3作品が作品賞に輝いている。しかも唯一アカデミー賞に絡まなかったナディーン・ラバキー監督の『Where Do We Go Now?』は翌年5月までアメリカ公開がされず、選考基準外だったことを考えると、実質的にトロント観客賞受賞で年内に全米公開される作品は確実にアカデミー賞作品賞にノミネートされると言えよう。


 もちろん、「北米を代表する映画祭で観客から絶賛された作品だからアカデミー賞に」というベクトルではなく、「アカデミー賞に民意を反映しなくてはいけない」という前提ありきで、賞レースを狙う作品がこぞってトロントに集中し、その結果としてこの10年のような形ができあがったという見方も否定できない。今年のラインナップを振り返ってみれば、カンヌで話題を集めた『パラサイト 半地下の家族』や『Pain and Glory』、『Portrait of a Lady on Fire』といったアカデミー賞を狙えそうな外国語作品をはじめ、『マリッジ・ストーリー』や『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』、『Judy』、『The Lighthouse』など期待作が顔を揃えていたのである。


 それだけに『ジョジョ・ラビット』が、他の有力作を抑えて“民意”を勝ち取ったというのは間違いなく後押しになるといえよう。しかも本作の配給は近年のアカデミー賞でひときわ存在感を放つフォックス・サーチライト。今年のカンヌでお披露目され(トロントでもマスターズ部門で上映された)テレンス・マリック監督の『A Hidden Life』も北米配給がフォックス・サーチライトだが、一般大衆から愛される作品と批評家や映画関係者から愛されると棲み分けができており、どちらも盤石の状態で賞レースへ参戦していくことになるだろう。先日のベネチア国際映画祭といい、世界的な注目を集める映画祭が直でアカデミー賞へと結びつく今の状態は、アカデミー賞はもちろん映画界全体にもいい効果をもたらしているのではないだろうか。


 ところで、観客賞の対象となったスペシャル・プレゼンテーション部門には新海誠監督の『天気の子』と是枝裕和監督の国際共同製作作品である『真実』が出品され、いずれも受賞は逃したものの賛辞を集めた。前者はアカデミー賞の国際長編映画賞日本代表となり、長編アニメーション賞の有力作品の一角としても期待されており、後者は演技部門や脚本部門での賞レース参戦が目されている。他にも深田晃司監督の『よこがお』や黒沢清監督の『旅のおわり世界のはじまり』といった国際的に活躍する日本人監督の作品が相次いで上映されたのだが、やはり注目はミッドナイト・マッドネス部門で上映された三池崇史監督の『初恋』だろう。


 ロッテルダム国際映画祭をはじめ世界各国の映画祭で熱狂的な支持を集める三池監督にとって、初のラブストーリー作品となる同作は、カンヌ国際映画祭の監督週間でお披露目された。その際も日本にはあまり前情報が出ないままで驚かされたが、さらに来年2月の日本公開に先駆けて9月下旬から北米先行公開されるという異例の決定が。北米初お披露目となった今回、深夜の上映にもかかわらず観客が殺到し大盛況の中で上映されるなどその作品への注目度の高さ、そして三池監督の人気を証明することとなった。もしかすると、今年のトロント国際映画祭は現在の日本映画を取り巻く環境が変わるひとつのきっかけになるかもしれない。 (文=リアルサウンド編集部)


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