可夢偉以来の快挙遂げた佐藤万璃音「いつでも新たな環境で戦う用意はしている」【独占インタビュー】

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2019年09月30日 13:11  AUTOSPORT web

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2019年のユーロフォーミュラ・オープンチャンピオンを獲得した佐藤万璃音(モトパーク)
スペイン・バルセロナで2019年9月19〜22日に開催されたユーロフォーミュラ・オープン(EFO)第8大会、佐藤万璃音(モトパーク)は決勝レース1で10位に終わったものの3レースを残してドライバーズチャンピオンを決めた。

 ヨーロッパのジュニア・フォーミュラで日本人ドライバーが年間王座を獲得するのは、2005年フォーミュラ・ルノーでユーロ・カップとイタリアの両シリーズを制した小林可夢偉以来のこと。

 さらに旧F3規格のシリーズに絞れば、2001年イギリスF3で年間王座を獲得した佐藤琢磨以来となる。戴冠直後の佐藤に現地バルセロナでチャンピオン獲得までの道のり、そして将来の展望を聞いた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 
――2019年に向けて、当初はモトパークとFIA-F3選手権へ参戦予定でしたが、チームのエントリーが却下され、DTMドイツツーリングカー選手権と併催される予定だったFEMフォーミュラ・ヨーロピアン・マスターズ(旧FIAヨーロピアンF3選手権)への参戦を決めました。しかし、FEMはシーズン開始を待たずに消滅。最終的にEFOへの参戦へと至りましたが、どのような気持ちで過ごしていましたか?

佐藤万璃音(以下、万璃音):「FIA-F3参戦がなくなり、FEM参戦もなくなったのかと思っただけで、不安が先に立ったわけでもなく、『じゃあ、どのシリーズに参戦するのかな?』と思いましたね」

――EFOはクルマの基本構造こそ昨年までのユーロF3と同じとはいえ、エアロもタイヤも異なります。フランス・ポールリカールの開幕大会直前のプライベート・テストから、決していい滑り出しでもありませんでした。

万璃音:「決勝レース1はクルマの不具合もあり結果はよくなかったけれど、決勝レース2は順調に物事が進んで勝てました。ユーロF3で履いていたハンコックタイヤより、EFOで履くミシュランタイヤのほうが自分に合っていると感じましたね。チームのエンジニアリングも、つねにいい方向へ動いていたと思います」

――続く第2大会のフランス・ポーは雨に見舞われました。

万璃音:「決勝レース1は最低限の目標だった表彰台に立てました。決勝レース2はスタート直前に雨が降り始めてチームのタイヤ交換に関する判断は難しかったと思うし、あとになって分かったこととはいえ、エンジンに不具合の予兆もありました」

万璃音:「順調な週末ではなかったし難しい週末でしたね。しかも、ポーでは同じモトパークのリアム(ローソン)も(角田)裕毅もジュリアン(ハンゼス)も速かった。チームメイトと比較して出遅れた感じはありましたけど、2レースとも最低限のポイントを手にできたことは長い目で見ると大きかったですね」

――ドイツ・ホッケンハイムの第3大会では素晴らしいパフォーマンスでした。

万璃音:「決勝レース1はポール・トゥ・ウイン。決勝レース2はポールポジションからのスタートながら、一瞬の気の緩みで裕毅に抜かれてしまいました。でも、チャンピオンシップで競っている3人のなかでは、もっともトラックエンジニアとのコミュニケーションがうまくいっていたし、苦手なホッケンハイムで2レースともポールポジションを取れたことは、自分のなかではけっこう大きかった」

――角田選手やローソン選手に比べて、佐藤選手はF3で2年間のアドバンテージがあるから、やはりふたりには負けられないと?

万璃音:「周りからは“佐藤は勝って当たり前”と見られるだろうし、それは普通の感覚だと思います。それがプレッシャーになりはしないけれど、ふたりには勝たないといけないと多少なりとも感じていた」

――その気持ちが顕著に表れたのは第4大会のベルギー・スパでした。

万璃音:「そうですね。ホッケンハイム終了後にドライバーズチャンピオンシップの首位に立ちました。その先のオーストリア・レッドブルリンクとイギリス・シルバーストン2大会、EFOとFIA-F3は開催日程が重複していましたけれど、当時は裕毅やリアムがEFOとFIA-F3のどちらを優先するのか分かりませんでした」

「個人的には彼らはEFOでスーパーライセンス・ポイントを稼ぐだろうと思っていました。結果的に僕は2連勝。ふたりがレッドブル育成ドライバーだからというのではなく、単純に僕は彼らより2年間多く時間を使っているから、その差はあったと思います」

――スパではまったく負ける気配を感じませんでした。

万璃音:「スパではクルマの調子もよかったし、担当トラックエンジニアと僕はいつもリアムや裕毅より一歩先にいました。だから決勝レースでは彼らに対してアドバンテージを持っていました」

「まあ、言い方はどうかと思いますが(角田とローソンが絡んでリタイアした)レース2は“ラッキー”でもありました。とはいえ、ふたりがリタイアしなくても勝てるだけのクルマを僕は持っていた。あのスパでさらに選手権の得点差を広げられたのはすごく大きかったです」

――ポールポジションを取れなかったとはいえ、第5大会のハンガリー・ハンガロリンクも2連勝。FIA-F2に参戦中の松下信治選手がスポット参戦しましたが、負けることもありませんでした。レース1は2番グリッドでレース2は3番グリッドからのスタートながら、いずれもホールショットを奪って逃げきりました。

万璃音:「開幕大会のポールリカールからスタートにはずっと自信があったんです。リアムと裕毅はF3は1年目でクラッチに慣れていないのかもしれない。でも、僕はコンスタントにいいスタートを切れていました」

■佐藤万璃音、EFO最終戦では「ポール、優勝、ファステストで有終の美を」

「じつはその時期(7月ごろ)からFIA-F2に出場する話が持ち込まれて準備も進めていた。だから、現役F2ドライバーの松下選手にも負けられないと思っていましたね」

――EFOの第6大会オーストリア・レッドブルリンクと第7大会イギリス・シルバーストンに、角田選手もローソン選手も出場しないとなった時点で、彼らふたりにはドライバーズタイトル獲得の権利が消滅しました。気が抜けたりはしませんでしたか?

万璃音:「まったく気は抜けていませんでした。自分の連勝記録を伸ばしたかったし、できるだけ多く勝ちたかったですから」

――そして9月頭、FIA-F2第9大会ベルギー・スパのデビュー戦を迎えました。

万璃音:「F2マシンはEFOのクルマとはまったく違う乗り物。すごく限られた走行時間のなかで戦うことは、自分のアダプタビリティ(順応性)の低さもあってすごく難しかったです」

――スパでは不幸な事故もあってほとんど走れないまま、次は日程が重複しているEFO第7大会イギリス・シルバーストンを欠場してFIA-F2第10大会イタリア・モンツァへ向かいました。

万璃音:「モンツァのフリー走行に関しては、スパよりもかなり慣れてきた感触はあった。ただ、予選はすごく難しいコンディションで、チームも僕もうまく戦えなかった。フィーチャー・レースに関してはタイヤがバラバラになって、入賞圏内を走っていながら、余計なピットストップを強いられました。スプリント・レースは単純に僕のペースが足りませんでした」

――チームメイトのジャック・エイトケンが優勝したレースでした。

万璃音:「はい。しっかり自分と比べられる相手がいるから、毎回対策ができて、学習ができるんです」

――ひさしぶりにEFOへ戻ってきてこの第8大会スペイン・バルセロナは、いきなりの不運に遭遇しました。

万璃音:「はい。土曜日の決勝レース1に向けては、土砂降りで予選を走ることができませんでした。もしも、カーリン勢がそこまで読んで練習走行でタイムを出していたなら、あっぱれですね。僕たちの読みが足りなかった可能性もありました」

「ただ時間は戻せませんから仕方ないです。それにリアムは8番グリッドからのスタートで勝っていますから」

――レース1で10位に終わったとはいえ、EFOタイトル獲得でひと区切り。気持ちはすでに今季のFIA-F2や来季のFIA-F2へ大きく傾いているのではないですか?

万璃音:「いや、モトパークに居るときはEFOのレースに集中していますよ。FEO最終大会のイタリア・モンツァは、イタリアF4時代から走り慣れているコース。不調に終わったスペイン・バルセロナのデータをしっかりと見直して、ポールポジション、優勝、ファステストラップを狙い、有終の美を飾りたいと思います」

――FIA-F2はアブダビ大会が残っています。

万璃音:「アブダビは2018年シーズン終了後のテストで3日間走って、そのうち2日間はカンポスで走りました。2日間のうち1日はジャック(エイトケン)と一緒だったので、それから自分がどのくらい成長しているのか? あるいはまだまだ足りない部分があるのか? しっかりと確認したいと思います」

――来季はカンポスでFIA-F2に参戦するのでしょうか?
万璃音:「それは分からない。ただ、マネジメントチームがしっかりとケアしてくれているので心配はしていません。F3ではユーロF3とFEOで3シーズン戦って今年タイトルを取ることができました」

「先ほど言ったように、今季の開幕戦からFIA-F2で乗るという選択肢もあったんです。でも、やはりタイトルを取りたいと自分の意思でEFO参戦を決めました。今回ここバルセロナでそれを叶えられたのはよかったです」

――F1参戦も視界に入りつつあるのでしょうか。
万璃音:「まだ、自分がF1の舞台にいる光景は想像できません。ここまで、すべて臨機応変に対応している。実際、FIA-F2への参戦も2019年シーズン開幕当初は想像もしていませんでした。でも、つねにどんなレースでも走れるようにふだんから準備を続けることが大切。いつでも新たな環境で戦う用意はしている自負があります」

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