Perfume、次なる野望はどこへ向かう? 『Reframe』で新たなスタンダード確立するか

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2019年10月16日 13:21  リアルサウンド

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Perfume『Perfume The Best "P Cubed"』(通常盤)

●『コーチェラ』での健闘とベスト盤でのキャリア総括


 「今年の3月からは約2年半ぶりの北米ツアーが始まり、さらに4月には世界のポップミュージックのショーケースともいうべき『コーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル』への出演も決まるなど、この春の活動はPerfumeの今後の海外戦略における試金石となる。


 先日発表されたコーチェラの出演者一覧におけるPerfumeの文字は小さく(一方で同じアジア勢のBLACKPINKはヘッドライナーに次ぐ位置づけである)、グローバルにおけるこのグループの実勢を突き付けられたような気持ちにもなる。ただ、こういった逆境こそ、Perfumeにとっては「燃えるシチュエーション」だろう。今年の夏を迎えるころに、世界中で「Perfumeやばい!」という声が広がっていることを大いに期待したい」


(関連:【参照】Perfumeが次に越えるのは“世界”への境界線? 挑戦の1年振り返りと2019年への期待


 これは今年の2月、世界を転戦する直前のPerfumeについて期待を込めて書いた原稿のラストである。


 すでに2019年の終わりの音も聞こえてきた現在、この期待はめでたく成就しただろうか?


 現時点で、たとえば海外で特定の曲が大ヒットしたというような具体的な事実は確認されていないと思われる。ただ、『コーチェラ』において何らかの爪痕を残した、とは言うことができるだろう。彼女たちの初週のパフォーマンスは、チャイルディッシュ・ガンビーノやビリー・アイリッシュとともに『Rolling Stone』選定の「Coachella 2019: The 16 Best Things We Saw」にチョイスされた(参照:https://www.rollingstone.com/music/music-lists/coachella-2019-best-performances-ariana-grande-nsync-822246/)。YouTubeでも放送された2週目のステージでは、「だいじょばない」でリアルタイムエフェクトを披露するなど「Perfumeらしさ」を存分に発揮。会場での評判も上々だったようである(参照:https://realsound.jp/2019/09/post-417180.html)。


 大いに刺激を受けたであろう海外ツアーの日々を経て、夏には各局の大型番組で新曲「ナナナナナイロ」を披露。合わせて、9月18日にはキャリアを総括する3枚組のベストアルバム『Perfume The Best “P Cubed”』をリリースするとともに、各所から熱望されてきた日本国内での「サブスク解禁」に踏み切った。これを機に、また新しい形でPerfumeの音楽の魅力に触れる人が増えるはずである。


 新曲であると同時に実は中田ヤスタカがPerfumeをプロデュースする前から元曲が存在していたという「Challenger」で始まり「ナナナナナイロ」で終わる『Perfume The Best “P Cubed”』は、中田ヤスタカによるリマスターによって過去曲の聴こえ方がだいぶ異なっているのも印象的である。また、年齢を重ねていく中で3人の歌声がより大人びていくさまも彼女たちの歴史を感じることができる。だが、それ以上に、Perfumeが歩んできた楽曲面での進化を追体験できることが今作の存在意義として大きいように思える。


 エレクトロ風味を基調としながらメロディでJ-POPとしての汎用性を担保するという大きな構造をベースに、特に現時点でのキャリア後期においてはEDM、トロピカルハウス、フューチャーベースなどを時期に応じて導入してきた彼女たちの楽曲群は、ヒットチャートの常連であると同時に海外のダンスミュージックの潮流との出会いを演出するものでもあった。「売れているものが尖っている」という「言うは易し、行うは難し」なテーゼをPerfumeは常にハイクオリティで実現してきたことを、このベストアルバムは改めて気づかせてくれる。


●『Reframe』の「常設公演」への道
 今年公開された海外メディアでのインタビューで、Perfumeは自分たちのここまでの活動について「アイドルがロックフェスに出るという道を開いた」「自分たち以降アイドルが武道館を目指すようになった」という旨の発言をしていた(参照:https://www.vice.com/en_asia/article/59vxaz/perfume-japan-jpop-girl-group-experimental)。そういう点では、多くのフェスでメインステージの常連となり、来年にはドームツアーも控えているという今の状況は「女性グループが目指すべきこととして言われることを全て体現してしまっている状況」とも言える。


 一方で、「キャリアを総括するベスト盤の後のドームツアー」という区切りとしてはあまりにもちょうどよいタイミングを迎えることになっても、周囲からのそんな声を笑い飛ばしながら活動を続けていく意思を強く持っていることは各種インタビューからも伝わってくる。


 道半ばである海外戦略に対して、国内ではトップアーティストとしての地位を名実ともに確固たるものにしているPerfume。この先、日本でやるべきことは残されているのだろうか?


 現在彼女たちがひとつの野望として掲げているのが、まもなく2回目の開催を控えているコンサートプログラム『Reframe』の「常設公演」である。


 昨年3月に2デイズで開催された『Reframe』は、最新テクノロジーを織り込んだパフォーマンスをMCなしで披露するこのステージで、タイトルの通りステージエンターテインメントのあり方を大きく再定義するようなものになっていた。その『Reframe』が今度は場所をLINE CUBE SHIBUYAに移して、同会場のこけら落とし公演として計8日間開催される。


 この『Reframe』を2日間、もしくは8日間やる、というのではなく、「いつでもやっている」「ふらっと立ち寄れば見れる」というような状況に近づけたいというのが「常設公演」のイメージのようである。これがどうやら「ちょっとした思い付き」ではなさそうなのは、『音楽と人』10月号のインタビューや9月21日に放送された『SONGS』(NHK総合)での森山未來とのっちの対談など多くの人の目に触れるメディアでこの話が積極的に発信されていることからもうかがえる。


 実際にこのプランを実現に移そうとした場合、越えないといけないハードルが多数存在するだろう。おそらく活動の軸足自体をそちらに寄せる必要も出てくるはずだし、その際の海外戦略との折り合いも問題になってくる。また、そもそも会場の確保という課題をクリアしない限りこの話は先に進まない。


 ただ、このチャレンジは日本の音楽業界にとっても非常に重要なものになるはずである。「音楽ビジネスはライブが大事」という言説がすっかり定着した昨今だが、その内実は大規模会場に多数人を集めることでグッズの販売と合わせて収益をあげるといういわば「お祭りで人をさばく」ことにフォーカスしたものという側面もある。限定されたキャパシティの会場で同じ公演を繰り返し行うという取り組みはそんなトレンドと逆行するのものだが、「クオリティの高いステージを多くの人が見やすい形で行うこと」、つまりは「一発の“お祭り”ではなくて、“日常”として最先端のステージを体感できる環境を作ること」を目指すというのは、ライブビジネスをよりサステナブルなものとして進化させるために大きな意味を持つことになるのではないだろうか。


 これまでの活動において、何度も「前人未到」を実現してきたのがPerfumeである。規模拡大ではなく居を据えて自らの表現を磨き上げる、そんな新たなスタンダードの確立こそが次に彼女たちが成し遂げる「前人未到の取り組み」なのかもしれない。今回の『Reframe』シリーズと来年のドームツアーを経て、今度はどんなビジョンが打ち出されるのか今から楽しみである。(レジー)


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