『ガリーボーイ』監督が語る、インドのヒップホップを描いた理由 「共感できる部分は必ずある」

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2019年10月18日 10:11  リアルサウンド

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(取材・文・写真=島田怜於)

 インド映画『ガリーボーイ』が本日10月18日より公開される。インドで活躍するアーティスト・Naezyの驚きの実話を基に描かれた本作は、インドのスラムで生まれ育ったある青年がラップと出会い、それまでの人生が一変、フリースタイルラップの大会で優勝を目指すさまを描く。Facebookだけで900万のフォロワーを誇るインド映画界のスター、ランヴィール・シンが主演を務め、プロデューサーにはナズが名を連ねる。


参考:場面写真はこちらから


 本作でメガホンをとったゾーヤー・アクタル監督に、ラップを題材にした理由、シンとのやりとり、インド映画界の現状まで話を聞いた。


ーー本作からは、ヒップホップ映画という一ジャンルにとらわれないスケールの大きさを感じました。


ゾーヤー・アクタル(以下アクタル):本作を一言で表すなら、若者の成長譚と言えると思います。ヒップホップというのは、ある種のメディアであって、若者が、自分の技量で階級社会を突破することをまずは描きたかったんです。


ーーインドのラップにフォーカスしたきっかけは?


アクタル:現在のインドの若者はネットで、ナズやエミネム、ケンドリック・ラマーを学んで自己流に解釈している。ラップの特徴というのは、たとえ貧困層であっても自分でペンで詩を書いて、誰かビートを刻む人がいて、マイクがあれば表現できるということです。音楽や芸術がもたらす力を伝えたくて、インドのヒップホップをモチーフにしました。


ーー主人公たちのモデルにもなったラッパー、NaezyとDivineとはどのようなやりとりを?


アクタル:脚本家のリーマー・カーグティーと私で、NaezyとDivineの2人に限らず、とにかく多くのラッパーにインタビューしました。彼らの家や遊び場を訪れたりも。Naezyが電車の中で、iPadを使って録音したというのを聞いて、実際にシーンに取り入れています。そうやって聞いた情報や彼らが過ごした生活を取り入れた上で、フィクションとして描くようにしました。


ーー本作はスラムが舞台になっています。アクタル監督にとって、スラムとは身近なものだったのでしょうか?


アクタル:撮影などで行ったことはありました。ただ、実際にスラム出身であるNaezyやDivineと一緒に行くと、すごく安心できました。それに、彼らは裏道を全部知っているし、遊び場も紹介してくれたので、よそ者じゃない目線でスラムを見ることができました。


ーー主人公・ムラドを演じたランヴィール・シンの印象は?


アクタル:特別な人だと思います。本作で演じたラップを志す青年から王の役まで幅広い演技力と、俳優としての広いキャパシティを持った人です。情熱を持って仕事に取り組んでくれますし、共演者やスタッフともいい関係を築ける俳優で、ムードメイカーのような存在です。以前にも一緒に仕事をしたことがあって、今回もぜひ彼にお願いしたかったんです。


ーーラッパーを演じるのは、普通の役以上に難しい印象があります。アクタル監督からはシンにどのようなアドバイスを?


アクタル:私がアドバイスしたというより、Divineからのアドバイスが多かったと思います。ラップは、自分のスタイルを確立しないとただのマネになってしまうので、フロウや発音の指導をDivineがしてくれました。私も彼には助けられましたね。


ーー本作ではオリジナル楽曲も効果的に使われていますが、本作と楽曲の間ではどのような関係を目指しましたか?


アクタル:映画と音楽のバランスは、まさにカーペットの刺繍のように、自然にシーンの背景に溶け込むよう気をつけました。歌詞と、シーン内の主人公の気持ちが連動していないといけない一方で、その関係が分かりやすすぎても面白くないんです。


ーー本作を作るにあたって苦労した部分は?


アクタル:本作では、新人のアーティスト……ラッパーだけじゃなくてプロデューサーや作詞家、ビートメイカーを初めて紹介しているんです。彼らはアーティストですから、今まで映画の仕事をしたこともないし、10代の人だっている。そんな人たちをある意味で映画デビューさせるのは大変でした。本作が公開されたことで、出演してくれたアーティストのファンベースが増えたことは嬉しかったです。


ーーアクタル監督はインドで制作するNetflixオリジナル作品のプロデューサーを務め、アカデミー賞会員の招待も受けるなど、インド映画界を代表する監督の一人であるとも言えます。インド映画の現在の盛況をアクタル監督も感じていますか?


アクタル:インド映画界において今は、映画を作るのにとてもいい時代だと思います。スクリーン数も増えて、むしろ上映するトピックを探しているような状況なんです。なので資金面も良好ですし、Netflixなど配信サービスの影響で、鑑賞者のテイストも多様化し、作るプロダクトにおいても様々な冒険ができるようになりました。女性監督もどんどん増えています。


ーーインドでも多様化の動きが起こっているんですね。


アクタル:インドでも去年、#MeTooの旋風が吹き荒れて、映画界も大きく変わりました。とても大事なことだと思います。声をあげた女性たちは素晴らしいですね。制作会社でも、ガイドラインを作るようになったり、今まで意識していなかった点を話し合うようになりました。様々なハラスメントにどう対処するか考えるようになったのはとても喜ばしいことだと考えています。一方でその対処が十分かというとまだまだなので、男子を正しく育てる、ということが今必要だと思いますね。


ーー『ガリーボーイ』も、これまで階級や差別を意識してこなかった人が観ることで学べる部分があると思います。


アクタル:自分にとって親近感のない題材だと思ったとしても、人の根源である感情の部分で、この映画から何か感じとってもらえたら嬉しいです。どんなに知らない文化でも、なにかつながりを持てれば、共感できる部分は必ずあると思います。 (文=リアルサウンド編集部)


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