チャンピオン争い最終決戦前夜。実質一騎打ちとなる山本尚貴 vs ニック・キャシディのそれぞれ気になる要素

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2019年10月25日 20:01  AUTOSPORT web

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今年からタッグを組む山本尚貴とDOCOMO TEAM DANDELION RACINGの杉崎エンジニア
実質、1ポイント差で山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)とニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)の一騎打ちとなる2019年スーパーフォーミュラの最終戦チャンピオン争い。両陣営はどのような手応え、そしてプランでタイトル争いに臨むのか。山本、そしてキャシディの気になる不安点について、金曜走行を終えた両陣営の担当エンジニアに聞いた。

 ドライバーにとって、現在のスーパーフォーミュラを戦う上で外せないのが担当エンジニアとのコンビネーション。サーキットに持ち込むセットアップ、そしてセッション中にドライバーが自分好みのクルマに仕上げるために、細かな調整を担うのがエンジニアの役割だが、タイムが僅差で争われる現在のワンメイクのスーパーフォーミュラでは、そのわずかなセットアップの違いが順位に大きく影響してくる。

 今シーズンの最終戦で1ポイント差でチャンピオンを争う山本、キャシディとそれぞれ二人三脚でここまで戦ってきた両エンジニア。まずは山本担当の杉崎公俊エンジニアに金曜専有走行を終えて、週末の戦い方を聞く。

「チャンピオンを獲得するためにどうすればいいかを考えて来てはいますが、基本的にはいつもと同じ形ですね。開幕戦の鈴鹿、第1戦のときから前回の第6戦までやってきたなかで、第1戦の時に足りなかった部分や進化できた部分など、アップデートした状態でセットアップは持ってきています」と、最終戦に向けてのアプローチを話す杉崎エンジニア。

 もちろん、戦う前に細かく手の内をさらすようなことはしないが、同じ鈴鹿で行われた開幕戦との違いに関しては、「だいたい毎年、開幕戦の時からコンディションが変わってタイムは1秒くらい遅くなるので、当然、そのあたりを含めて持ち込みを考えています」と、ヒントを話した。

 開幕戦が行われた4月の鈴鹿はエンジンがフレッシュで気温の面でも出力が出やすい。最終戦となる今回の鈴鹿とは、同じコースとは言えどもサーキット、そしてマシンのコンディションともに開幕戦の時と同じとは言えないのが実情だ。開幕戦のデータがセットアップの基本となっているのはどのチームも同じだが、そこからの微調整が勝負のポイントとなる。

「今週末はもちろん、できるだけ予選で前に行ければいいですが、予選よりも決勝で前にいるという状態の方が重要です。相手も同じようには考えているとは思いますけどね」と杉崎エンジニア。

 山本尚貴と杉崎エンジニアのコンビとして気になるのは、2週間前に同じ鈴鹿でF1マシンでの走行を経験している点だ。山本尚貴のF1デビュー走行を杉崎エンジニアはトロロッソ・ホンダのガレージ内で見つめ、無線でトロロッソのエンジニアと山本尚貴のやりとりを聞いていた。

「F1と言いますかトロロッソの印象としては、スーパーフォーミュラと走らせ方が全然違うのと、クルマのセットアップなどはF1は全然、変更していませんでしたね」と、F1のフリー走行の印象を話す杉崎エンジニア。その経験は、今回のスーパーフォーミュラに何かのメリットとして反映できるのだろうか?

「F1は車高とかキャンバー、スタビやダンパーを変えるとかはなくて、タイヤを替えてエンジンのマップやブレーキバランスを変えてエンジニアの指示どおり走っていたので、何もクルマはいじらなかった。ですので、スーパーフォーミュラの参考にはならなくはないですけど(苦笑)……ドライバーのフィーリングとしてコーナーで同じフィーリングがあるところと、それに対するアプローチでどうなったとか、そのあたりは参考になりましたね」と、杉崎エンジニア。

 ドライバーのフィーリングの面でも、スーパーフォーミュラのヨコハマタイヤに比べてピレリタイヤはグリップが低く、山本尚貴も「S字などのコーナリングスピードはスーパーフォーミュラの方が速い」と話すなど、タイヤの感覚の違いは大きかったようだ。

 一般的には速いマシンに乗ることで、その後スピードの遅いマシンに乗ると視覚的な面でメリットが大きいと聞くが、F1からスーパーフォーミュラに変わってドライバーの感覚的な部分の調整はどうか。杉崎エンジニアが話す。

●F1、そしてDTMなどさまざまなカテゴリーの経験を経て辿り着いた山本尚貴とニック・キャシディの実質一騎打ちバトル

「F1のコーナーリングの進入速度がそこまで高いかというとデグナーの飛び込みで250〜260km/hとかですし、ブレーキングもそんなに変わらない。ただ、鈴鹿の1周のタイムがスーパーフォーミュラと比べてF1は7〜8秒も速くて、クルマのトータルの違いとして圧倒的にF1は加速が速いので、普段走って慣れていると違うリズムで次のコーナーに来てしまう。鈴鹿の普段のリズムが体に染みついている分、そこの感覚の部分でのアジャストがなかなか大変だったかもしれないですね。それでもF1マシンに乗ったのは1セッションだけだったので、今回スーパーフォーミュラで乗りづらいかというと、そんなことはないと思います」と杉崎エンジニア。

 F1鈴鹿を終えてからの山本尚貴の様子も、「今回、鈴鹿に来る前に事前にいろいろと打ち合わせをしましたが、ここに来てからも普段と同じように落ち着いていますし、今日の雨のセッションでもできることを粛々とこなしましたので、(ドライ予想の)明日はまたイチからのスタートです」と、いつもどおりのアプローチで進んでいることを話した。

 一方、1ポイントで追う立場のランキング2位、ニック・キャシディ。チャンピオン獲得への手応え、そして今週末の戦い方について担当の小枝正樹エンジニアに聞いた。

「もちろん、やってみないとわかりませんが、ここまではいい流れで来ていることはたしかです。前回の岡山でも結果にはつながらなかったですけど速さはあったので、それをうまく鈴鹿にアジャストできれば十分、チャンピオン獲得の可能性はあると思っています」と、まずはパッケージとしての手応えを話す小枝エンジニア。

 気になるのは、キャシディと小枝エンジニア、そしてトムスチームは翌週のスーパーGTでもKeePer TOM'S LC500がランキング2位でトップのWAKO'S 4CR LC500と実質一騎打ちで、2週連続でタイトルを争うことになる点。それぞれ別カテゴリーとはいえ、チームとしての負担は当然大きい。

「ドライバーもそうだと思いますが、しんどいです(苦笑)。なにかいじめられているような気分です(苦笑)」と、プレッシャーと作業量の多さを認める小枝エンジニア。トムスとしてはDTM最終戦のホッケンハイムにもチームとして参戦しており、厳しいスケジュールのなかでの戦いとなる。

 そのDTM最終戦ではキャシディが練習走行、そして決勝レース1と2度、雨のセッションでクラッシュしており、ナーバスになっている姿が見られたが、今回のスーパーフォーミュラ最終決戦に向けてメンタル的な不安はないのだろうか。

「それはないと思いますね。あのイベントはセットアップもドライビングの仕方も含めて普段やっていることと全然違うので、それで何かこちらが影響を受けるというほどのものではないですね」と小枝エンジニア。

「ドライバーの気持ち的な部分はわからないですけど、本人は切り替えていると思いますよ。ひとつのカテゴリーだけで戦っているわけではないですからね。ここに来る前のミーティングでも、昨日、今日もいつもと同じ感じでしたし、今日の雨のセッションも『ドイツの時よリマシだろ?(笑)』とネタとして話していますので、大丈夫ですよ」と小枝エンジニア。

 今週末の戦い方についても「とにかくこっちは前に出る必要性があるので、予選も最終結果もとにかくすべてにおいて前を狙っていくしかないという考えです」と、追う立場を強調した。

 山本尚貴、そしてニック・キャシディともに、F1やDTMなど、世界トップクラスのカテゴリーでの経験を得て辿りついたスーパーフォーミュラ最終戦でのチャンピオン争い。異なるチームでの2連覇がかかる山本尚貴、そしてスーパーフォーミュラで初めてのチャンピオン獲得を狙うキャシディともに、さまざまな経験と期待を背負って今週末のレースに臨むことになる。

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