虐待者の心理を理解する必要性について――『ザ・ノンフィクション』「目黒・結愛ちゃん虐待死事件」

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2019年10月29日 22:42  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

10月27日に放送された『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)、「親になろうとしてごめんなさい〜目黒・結愛ちゃん虐待死事件〜」が大きな反響を呼んでいる。その番組内容について、都内の児童相談所に心理の専門家として19年間勤務し、『告発 児童相談所が子供を殺す』(文藝春秋)などの著書を刊行した山脇由貴子氏が考察する。

 『ザ・ノンフィクション』で、東京・目黒で船戸結愛ちゃん(当時5歳)が虐待死した事件に関し、船戸雄大被告の友人や同級生、元上司や雄大被告が兄のように慕っていた知人らが、その人柄について語った。

 結愛ちゃんの痛ましい死、そして反省文を覚えている方も多いと思う。5歳の女の子の書いた文章としてはあまりに切なかった。

「ほんとうにおなじことはしません ゆるして きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおす これまでどんだけあほみたいにあそんだか あそぶってあほみたいだから やめるから もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいやくそくします」(反省文の一部)

 私は児童相談所に勤務していた頃、同じように、親に書かされたであろう子どもの反省文をたくさん見てきた。子どもを虐待し、そして反省文を書かせる親は、自分が正しいことをしていると信じている。自分は子どものために、しつけのために正しいことをやっている。だから、自分の言うことを聞かない子どもが悪い。本当にそう思っているから、反省文を書かせるのだ。そして子どもの書いた反省文を、自分が虐待などしていない証拠として、自慢げに持って来る親もいた。

 雄大被告も、自分のやっていることは正しいと信じていたのだろう。実際、番組内では紹介されなかったが、裁判の中で、結愛ちゃんを2度保護した香川県の児童相談所の職員は、雄大被告が「子育てに自信を持っていた」と証言した。雄大被告は、結愛ちゃんをここまで良くしたのは自分だ、と児童相談所職員に話していたのだ。自分のしていることが虐待だと気づかぬまま、結愛ちゃんのために、正しいことをしていると信じ続け、そして死に至らしめたのだ。

語られる人物像から見える「強い孤独感と承認欲求」

 一方、友人や知人らが語る雄大被告の人柄から見えてくるのは、強い孤独感と承認欲求だ。

 雄大被告は、仕事も真面目で、飲み会の幹事も積極的に引き受けていた、という。また、友人のやっている香川のキャバクラで人手が足りないと言われ、友人を助けるために北海道から香川へ転居している。品川のマンションに住んでいた時は、友人を招待することも頻繁だったようだ。

 雄大被告は、独りでいることが耐え難かったのではないだろうか。バーに足を運んで、そこで知り合った人を兄のように慕っていた、という話もある。常に孤独を抱え、一緒にいてくれる人を求めていたのではないだろうか。そして、人から好かれるため、認められるためなら必死に努力した。ほかの人が嫌がる役割も引き受けた。仕事が真面目だったのも、認めてほしい気持ちが強かったからだろう。

 強い孤独感と承認欲求は、雄大被告の生い立ちが関係しているように思える。雄大被告がどんな育ち方をしたのかはわからないが、孤独感と承認欲求の強さからは、子ども時代に寂しい思いをしてきたのではないか、と推察される。もしかしたら「誉められる」という経験も少なかったのかもしれない。だから大人になった後も、人から好かれようと必死に努力していたのではないか。大人になっても、雄大被告は愛情を求め続けていたように思える。

 香川で出逢った優里被告が、雄大被告を頼っていた様子も番組内からは見える。雄大被告は、頼られて、とてもうれしかったのだろう。ようやく認めてくれる、自分を必要としてくれる存在と出逢えた、と思ったのではないだろうか。優里被告と結愛ちゃんを幸せにしたいという気持ちは、きっと本心だったとも考えられる。そして、自分の思い描く理想の家庭を作りたいと願ったのも本心だろう。そしてまた、結愛ちゃんを理想の子どもにしたいと思ったのも本心だろう。

 しかし雄大被告は精神的に脆かった。番組からも、裁判内容からも、雄大被告が完璧主義であったことも垣間見られる。“理想の家庭”など簡単に実現はできない。しかし、雄大被告にはそれが耐えられなかった。自分の思い通りにいかないことに耐えられない。その完璧主義は精神的な脆さだ。雄大被告は、自分の間違いを認める柔軟性を持っていなかった。だから自分の言うことを聞かない優里被告と結愛ちゃんを許せない気持ちが強まっていった。それが、虐待のエスカレートにつながったのだ。人当たりが良く、外で不満を語らない人間は、外での疲れや怒りを家族に向ける傾向が強い。それも雄大被告が虐待をエスカレートさせていった一因であろう。

虐待を繰り返す親の心理状態

 しかしながら、雄大被告がなぜ結愛ちゃんを死に至らしめるほどの虐待を繰り返したのか、その心理状態の詳細はわからない。

 私は児童相談所勤務時代、悪質な虐待を繰り返す親にたくさん会ってきた。そして親の心理テストを取ることも多々あった。しかし日本には、子どもを虐待する親の心理を分析したデータの蓄積がない。児童相談所は親が虐待を繰り返さないための指導はするが、更生のための心理分析やプログラムは十分ではない。

 同じような事件を繰り返さないためには、虐待されている子どもの早期発見や早期の保護も必須であり、児童相談所の強化も必須だが、なぜ親が子どもを虐待するのか、その心理を分析したデータを蓄積し、児童相談所や子どもに関わる現場で働く人間が、虐待者の心理や行動特徴をしっかりと理解することが必要だ。それは各自治体に任せるのではなく、国が方針を出し、子どもを虐待した親に心理分析と更生プログラムを受けさせるという取り組みが必要なのではないだろうか。

山脇由貴子(やまわき・ゆきこ)
家族問題カウンセラー、子育てアドバイザー、心理カウンセラー、作家。都内児童相談所に心理の専門家として19年間勤務。現在、山脇 由貴子 心理オフィス代表。新聞、テレビ等で児童虐待に関するコメントを発信。著書『教室の悪魔』(ポプラ社)『告発 児童相談所が子供を殺す』(文春新書)『思春期の処方せん』(海竜社)他多数。
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山脇由貴子心理オフィス

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