ポスト・マローン主催『Posty Fest』レポ。地元のヒーローが帰還

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2019年11月25日 12:31  CINRA.NET

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『Posty Fest』野外エリアの様子
テキサス州ダラスは、成田空港からフライトで10時間の距離にあるアメリカ南部の都市だ。このダラスを故郷とする24歳のアーティスト、ポスト・マローンは、2019年10月に自身の愛称「ポスティー」を冠した第2回となる音楽フェス『Posty Fest』を開催した。

今年アメリカで最も売れたアルバムと目されている『Hollywood's Bleeding』で正真正銘トップに立った若手ミュージシャンによるローカル主催イベントはいかなるものだったのか。現地レポートをお届けする。

■最新鋭でありながら伝統的でもある、「ポスト・マローンらしい街」テキサス州ダラス

はじめに、テキサス州ダラスについて紹介したい。世界的にはケネディ大統領が暗殺された地として有名だが、周辺地域を含めると全米5位規模の大都市圏とされる。アジア系の姿は少ないが、黒人の人々は多く、ディクシー・チックスからアッシャーまでさまざまな音楽スターを輩出している。2010年代の代表格はもちろんポスト・マローンだ。

いざ観光してみると、非常に彼らしい街だと感じられた。ネットワーク企業が集まるネオンシティだが、アート地区や遊園地もあり、近隣都市フォートワースには古き良きウエスタンなストックヤード国立歴史地区がそびえ立つ。トラップラップ的かつカントリーやフォーク要素も孕むジャンル越境サウンドでストリーミングチャートを制した、つまりは最新鋭でありながら伝統的でもあるポスト・マローンのバランス感覚も腑に落ちるバラエティー豊かな地域だ。

■フェス会場にはディッキーズやクロックスが出店。「Sunflowerの壁」やギター破壊体験など、徹底した「ザ・ポスト・マローン」な世界観

ポスティーが熱心に応援するNFLチーム「ダラス・カウボーイズ」の本拠地AT&Tスタジアムで行なわれた『Posty Fest』は、『コーチェラ』などの有名フェスとはさまざまな面で異なっている。スタジアム横の広大な野外エリアで行なわれた昼の部で目を引いたのは、徹底して「ザ・ポスト・マローン」な世界観だ。

美術は2ndアルバム『Beerbongs & Bentleys』のアートワークと同じイエローカラーで統一されており、マスコットキャラクターであるディミトリくんの巨大バルーンや着ぐるみも登場。ヒット曲“Psycho”のMVから飛び出したような戦車や巨大車両、“Sunflower”をイメージしたひまわりウォール、アルバムカバー柄のドリンクカップなど、すべての要素がポスト・マローンというアーティストのレプリゼーションになっている。

大衆ビールのバドライトや地元ブランドのディッキーズなど、これまでコラボレートしてきた企業を中心とした出店も並んでおり、なかでもクロックスは人ひとり入れるコラボサンダルのモニュメントまで設置していた。

さらにポスト・マローンの名物パフォーマンスとなっているギター破壊体験に、ゲーマーの彼らしいビデオゲームコンテストなど、パーソナルイメージを娯楽化したイベントも盛況。もはや、どこで写真を撮ってもポスティー要素が写り込む環境ができあがっている。ここまでの完成度だと、ただの音楽フェスではなく「ポスト・マローンというポップスター個人の世界観の没入体験」イベントだ。

■幅広い世代の客層が集まる、地元のお祭りのような空気感

パフォーマンスアクトのラインナップもパーソナルになっている。ポスト・マローンの友人が揃っているため、ラップアーティストが揃うなか、ニューヨーク出身のインディーロックバンド・Beach Fossilsも参加する不揃いさが面白みになっている(同バンドに関しては、仲良くなれると確信したメンバーがTwitterでリプライを送って以来の友人関係だそうだが、ラップ寄りのメガスターながらインディーロックアクトにも親密感を与える幅の広さがポスティーらしい)。

客層は若者中心だが、意外なことに中年層やファミリーも多かった。ユースカルチャーのイベントというより、幅広い世代が参加するローカルなお祭りの空気感だ。若きポスティーの地元人気を見せつけられたわけだが、その結果、パフォーマンス環境も独特だったかもしれない。

■地元アクトやミーク・ミル、レイ・シュリマーは大盛り上がり。一方、ファレルらビッグネームが苦戦する場面も

地元アクトであるYella Beezyや近年のチャートヒッターであるミーク・ミルにレイ・シュリマーは姿を現しただけで大盛況を博していたが、その一方、ビッグネームでもオーディエンスの盛り上げに苦戦する場面が見られた。アーティスト主催フェスなだけあり、子どもから中年まで、ほとんどの参加者のお目当はポスト・マローンである。ポップ寄りとされる彼のリスナーは、必ずしもヒップホップやラップジャンルのファンではない。この傾向は、地元ダラスではなおさら強かったのかもしれない。

夕方から始まったメインステージは4万人を収容するスタジアムで行なわれたが、国民的ヒップホップアーティストであるファレル・ウィリアムズすら、モッシュピットがおさえめのテンションである場面があった。そんななか、若者にも人気なケンドリック・ラマー“Alright”のカバーなどによって活気を与えてみせるベテランパフォーマーたるステージでもあった(意外にも、ダンサーたちによるグウェン・ステファニー“Hollaback Girl”のパフォーマンスは2004年の曲ながら会場の女の子たちが大合唱していた)。

ほかにも、昼の部の野外ステージに出演した女性ラッパーのドジャ・キャットは、個性的な大きな声を出店方面にまで響かせ、注目を一挙に集めるスター性を発揮。音楽フェスらしく、よく知らないアーティストとの出会いの場としても機能したはずだ。

■主催者ポスト・マローンは派手な映像演出を省いた、質素かつ贅沢なパフォーマンス

ポスト・マローンは、2018年の第1回『Posty Fest』でパフォーマンスのイントロとしてエミネムの楽曲を3曲も流したという。「エミネム以降最大の白人ラップアーティスト」宣言ともとれるその演出は話題を呼んだが、それから1年経った今回、正真正銘トップに立った彼の登場は真逆だった。派手な映像で存在感をアピールしていた他の出演者とは対照的に、静寂な暗闇からゆっくりと姿を表したのである。

以降のパフォーマンスでも、会場の巨大画面はほぼステージ上のポスティーの姿を捉えるだけの実況中継。まさに大規模フェスティバルの主役たる一本勝負だ。この質素で贅沢な選択が十分に可能なことは、会場のキャパシティーが前年の1万8千人から4万人へと急成長したイベント規模自体が証明している。

なにより、それまで大人しいこともあったオーディエンスの盛り上がりが凄まじい。全曲全リリック大合唱の嵐は感動的ですらあった。茶目っ気のあるゆるい人柄で知られるポスト・マローンも感極まった様子で、オーディエンスに対して何度もお辞儀する姿が印象的だった。会場に響かせたシャウトは、混じり気のない本心だろう。「世界でもっとも素晴らしい街、世界でもっとも素晴らしいスタジアムでこれができて……最高に幸せだ!」

■ポスト・マローン自身のレプリゼーション、地元のヒーローによる恩返し

ポスト・マローン個人のレプリゼーションイベントとして、『Posty Fest』にダラスという土地は必要不可欠だった。カウボーイスタイルなど、彼をポップアイコンたらしめた「ジ・アメリカン」なスタイルは、明らかにこの土地に根づいている。なにより、ダラスの人々は、ポスティーがスターになる前から彼を支えつづけてきた。『Posty Fest』は、故郷への恩返しのようなフェスだ。そこで証明されたものは、アーティストとホームの相思相愛な関係性の昇華、そしてポスト・マローンがテキサス州ダラスのヒーローであることだろう。

■成功までの速度が速いストリーミング時代、音楽スターとブランドのコラボが相次ぐ2010年代らしいフェス

ダラスがポスト・マローン本人のような街であるように、『Posty Fest』も非常に彼らしく、そして今日的なお祭りだった。

アルバムデビューからたった3年にして、ここまで大規模な「ポップスター個人の世界観」イベントを行なえる早成ぶりはストリーミング時代ならではだろう。会場に並ぶ有名ブランドとの提携ショップの数々にしても、音源収入が減り、音楽スターたちの他業種コラボレーションが増加した2010年代らしい。ファンダム需要やソーシャルメディア受けも約束されているので、今回のようなパブリックイメージを全面に行き渡らせるアーティスト主催フェスは増えていくかもしれない。
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