細野晴臣 50周年記念公演で音楽ルーツと現在地を実感 東京国際フォーラム2日間をレポート

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2019年12月06日 18:02  リアルサウンド

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細野晴臣(写真=関口佳代)

1969年に伝説のバンド“エイプリル・フール”のベーシストとしてデビューしてから、今年で音楽活動50周年を迎えた細野晴臣。はっぴいえんど、ティン・パン・アレー、イエロー・マジック・オーケストラ、さらにソロアーティストとして、ロック、テクノ、ワールドミュージック、アンビエントなどジャンルを超えた活動を行い、国内外の音楽シーンに多大な影響を与え続けてきた細野が、2019年11月30日、12月1日、東京国際フォーラム ホールAで50周年記念公演を開催した。


 『細野晴臣 50周年記念特別公演』と銘打たれた初日は、10年以上、細野と活動を共にしてきたバンドメンバー高田漣(Gt)、伊賀航(Ba)、伊藤大地(Dr)、野村卓史(Key)を引き連れ、20世紀のポップミュージックをルーツに持つ細野晴臣の現在地を実感できるステージが繰り広げられた。


・(1日目/『細野晴臣 50周年記念特別公演』)


 開演前のBGMは、フランク・シナトラの「Nancy(with the Laughing Face)」、ベニー・グッドマンの「On A Slow Boat To China」など。ミッドセンチュリーの名曲が響くなか、バンドメンバーがステージに上がり、「銀河鉄道の夜」のエンドテーマを演奏(アニメ映画『銀河鉄道の夜』(1985年)は、細野が初めて音楽映画を手がけた作品)。リズムに合わせて細野が軽快な足取りで登場し、エキゾチックなムードの「Honey Moon」を歌った。カナダ出身のシンガーソングライター、マック・デマルコがカバーしたことでも知られるこの曲は、アルバム『トロピカル・ダンディー』(1975年)の収録曲。細野のエキゾチカ時代を象徴する楽曲のひとつだ。


 「先日、照屋林賢から電話があって。”忙しいでしょ、晩年”と言われまして。今日もそうですけど、明日もあるんですよね」「今日は総集編ということで。新曲は3曲くらいかな」というMCに続いては、リトル・リチャードの歌唱で知られる「Tutti Frutti」さらにアーティ・ショウの「Back Bay Shuffle」、アーヴィング・バーリンの「The Song Is Ended」の日本語カバーを披露。往年のアメリカンミュージックを再解釈して現在に伝える、細野晴臣バンドの魅力がしっかりと伝わってきた。


この後は、最新アルバム『HOCHONO HOUSE』バージョンにアレンジされた「薔薇と野獣」「住所不定無職低収入」「CHOO CHOOガタゴト」。『HOCHONO HOUSE』は、細野晴臣名義のソロ第1作『HOSONO HOUSE』(1973年)をリメイクした作品だ。20代の頃に制作された『HOSONO HOUSE』について「とにかくこのアルバムを完成させよう」という気持ちだけで。だから、アレンジも生煮えっていうのかな」(参考:細野晴臣が語る、『HOCHONO HOUSE』完成後の新モード「音楽の中身が問われるようになる」)と語っていたが、打ち込み、弾き語りなど多彩なスタイルでリメイクされた『HOCHONO HOUSE』の制作、そして、新たなバージョンをライブで演奏することで『HOSONO HOUSE』はようやく完成の日を迎えたのだと思う。


 「ボブ・ディラン、また来るんですよね。負けらんないなんて思わない、負けてもいいです(笑)」「20年くらい前、温泉に行ったとき、仲居さんが“YMOをされてたんですよね。引退されたんですか?”って」「来年は51年目だから、いよいよ引退かなと思ってたんですけど、外国から“やってくれ”という話があって。やめられないんですよ」というMCの後、巨大なミラーボールが下りてきて、「ここからはチークタイムです」と「Angel On My Shoulder」「I’m A Fool To Care」を演奏。続いてゲストのReiが登場し、彼女がリクエストしたという「Pistol Packin’Mama」をセッション。さらにReiがひとりで「my mama」「BLACK BANANA」を熱演し、大きな拍手が巻き起こった。


 ここからライブは後半。「アンサング・ソング」(映画『メゾン・ド・ヒミコ』より)、「アーユルヴェーダ」(映画『グーグーだって猫である』より)と映画のために制作した楽曲を挟み(どちらの曲も3拍子に独自の解釈を加えたリズムが印象的だった)、「Ain’t Nobody Here But Us Chickens」からブギウギのセクションへ。オリジナル曲「Body Snatchers」(アルバム『S・F・X』/1984年)、「Sports Men」(アルバム『フィルハーモニー』/1982年)の豊かな高揚感はまさに絶品だった。10年以上に渡り、バンドメンバーとともにブギウギを追求してきた細野。「ブギウギがいちばんラク。“言葉”を覚えちゃえばいいから」というコメントからも、ブギウギのエッセンスがしっかりと血肉化されていることが感じられた。


 ピアニストの斎藤圭士を交えてブギウギの名曲「The House of Blue Lights」を演奏し、本編は終了。鳴りやまない手拍子に応えて再びステージに上がった細野は「これをやらずには帰れない」と「北京ダック」(アルバム『トロピカル・ダンディー』)を披露。さらに「Pom Pom 蒸気」(アルバム『泰安洋行』/1976年)で心地よい一体感を生み出し、ライブはエンディングを迎えた。


・(2日目/『イエローマジックショー3』)


 12月1日の公演『イエローマジックショー3』は、音楽バラエティ番組『イエロー・マジック・ショー』がステージ上で繰り広げられる公演。細野晴臣に加えて、安部勇磨(never young beach)、伊賀航、伊藤大地、小山田圭吾、清水ミチコ、清水イチロウ、ジョイマン、高田漣、高橋幸宏、豊崎愛生、野村卓史、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、水原希子、水原佑果、宮沢りえ、U-zhaan、Little Glee Monster、ロッチが出演。さらに坂本龍一と星野源がVTRで参加し、ナイツが声で出演するなど、豪華な内容となった。


 ステージにかけられた紅白の幕が落とされると、舞台には“茶の間”のセット(“黄色魔術”と記された書が飾られている)、そして庭先には細野バンドのメンバー(高田漣/Gt、伊賀航/Ba、伊藤大地/Dr、野村卓史/Key)の姿が。バンドが「福は内鬼は外」(はっぴいえんど)のインストバージョンを奏でた後、「みんな〜お昼ごはんよ。日曜だからってお昼まで寝ちゃって」と母親役の宮沢りえが登場、お茶の間コントが始まる。メンバーは細野晴臣(お父さん)、高橋幸宏(おじいちゃん)、水原希子(娘)、そして、ネコ役のハマ・オカモト、イヌ役の安部勇磨。水原がテレビをつけると、映画『NO SMOKING』がはじまり、「確か50周年なのよね」(宮沢)、「細野さんがいかに海外で人気があるかわかる映画だった」(水原)、「あんなにユーモラスでおちゃめでカッコいい人いない」(ハマ)、「個人的に音楽を作ったりするから、どうしても細野さんの影響があります」(安部)と細野さんをまつわるトークを展開。細野が顔芸(ニコニコ笑顔→真顔→怒った顔を一瞬で変えるギャグ)で盛り上がったあと、「勇磨は“お手”以外に何が芸できるの?」(宮沢)と振られたイヌの安部が「じゃあ、歌います」と庭先に移動。バンドとともに「恋は桃色」(細野晴臣『HOSONO HOUSE』収録)を披露した。


 さらに“パリでバリスタ修行中”の息子・源(星野源)の話題に。「源はお腹が弱いから。心配でしょうながいから、行ってこようかな」と細野が“火星歩行”で移動。細野がパリにいる源のもとを訪ねる(という設定の)VTRが映し出される。特に何をやるわけでもなく、二人でコーヒー豆を手挽し、入れるだけ。それ以外ほとんど何も起こらないユルさも『イエローマジックショー』らしい。


 家に戻ってきた細野は、家族にパリのお土産を渡す。お母さん(宮沢)にはスカーフ。「懐かしいわ。ハネムーンを思い出すわ」(宮沢)「楽しかったな。“Santa Fe”」(細野)というまさかのやり取りの後、イヌの勇磨がおもむろに立ち上がり、バンドとともに「Honey Moon」をゆったりと歌い上げた。


 20分の休憩を挟んだ後半も、コントと歌を中心に展開。高校生に扮した水原希子、水原佑果、豊崎愛生がベンチに座って細野の魅力を語り合い、「やっぱりいちばんいいのは“声”だよね〜」と盛り上がっているところに細野が登場。さりげなく声をアピールしていると、今度は“ウソノ晴臣”(ハマ・オカモト)が姿を現し、「本物の細野晴臣だよ」と言い放つ。「私たちのために演奏してもらえませんか?」という女子のお願いに応え、「細野はどんな楽器でも弾けるんだけど、今日はベースを弾こうかな」と、ハマ(Ba)、伊藤(Dr)、高田(Gt)、野村(Key)、安部(Vo)のラインナップで「はいからはくち」(はっぴいえんど)を演奏。貴重なセッションが実現し、大きな拍手が巻き起こる。


 続いては、清水ミチコ、清水イチロウ、U-Zhaanが登場。「私が心を込めて地声で歌ってもしょうがないので、ユーミンさんを降ろそうかと思います」と、ユーミンの声マネで「卒業写真」(荒井由実)を披露(この楽曲のレコーディングには細野が参加している)。現在のユーミンの声に寄せた清水ミチコの歌声に、観客は笑いながら唸っている。さらに清水イチロウが細野、清水ミチコが矢野顕子のマネをして「絹街道」(『トロピカル・ダンディー』)も。エキゾチックなグルーヴを生み出すU-Zhaanのタブラ演奏も素晴らしい。


 “声の出演”のナイツが“細野晴臣50周年”ネタの漫才を披露した後(「今日は“細野を見る会”に来てくださってありがとうございました」に笑いました)、舞台には某国営放送の『のど自慢』を模したセットが。合格の鐘を叩く役目は細野。バンドは小山田圭吾(Gt)、U-Zhaan(タブラ)、野村(アコーディオン)。司会役の高橋が「細野さんの大ファンという女の子5人組です!」とLittle Glee Monsterを呼び込み、「君に、胸キュン。」(イエロー・マジック・オーケストラ)をアカペラで歌い上げる。続いては、ハマ、伊賀による“ベース兄弟”が「ライディーン」をベース2本で演奏。ハマが主メロ、伊賀がベースラインを弾くという(絶対にここでしか観られない)超レアなセッションが実現した。クスクス笑いながら観ていた観客はもちろん、演奏が終わったとたんに拍手喝采! 


 リトグリが細野バンドとともに「風の谷のナウシカ」を歌った後も、あまりにも貴重なシーンが続く。吉本新喜劇のテーマ曲が流れ、細野、高橋がスーツ姿で登場。さらに坂本龍一の映像もステージに上がり、YMOの3人が揃う。“かわいい女の子がスタジオに入ってきたとき、なぜか髪を触る坂本龍一”のマネを細野が披露した後、「じゃあ、何かやろうか」(細野)「何が聴きたいですか?『ライディーン』?」(高橋)というトークから、「Cosmic Surfin‘」「Absolute Ego Dance」を3人でセッション。収録された坂本の演奏、細野、高橋のリアルタイムの演奏が融合したステージが繰り広げられた。坂本がメインのメロディを弾き、正確かつタイトな高橋のドラム、抑制の効いたグルーヴを生み出す細野のベースが響き渡るシーンは、今回のイベントの最大の見どころだったと言っていい。


 凄いものを見てしまった……という感動を打ち破ったのは、この後の“学校コント”。


 ロッチのコカドケンタロウが先生役で、生徒(高橋、清水姉弟、小山田、ハマ、安部、水原姉妹、豊崎、リトグリ、U-zhaan)の前で「細野が転校することになって、挨拶にきてます」と告げると細野と母親役のロッチ・中岡創一が登場。生徒たちが“細野くんを何と呼んでいたか”を話し(リトグリのかれんは“ダンディ音楽辞典”、清水ミチコは“シロキクラゲ”、と呼んでいたそうです(笑))、細野が答える(内気なので、母親役の中岡に耳打ちしてしゃべってもらう)とユルいやりとりが続いた。


 細野バンド×小山田×U-zhaanによる「FIRECRACKER」(これも超貴重なセッション!)の演奏から、最後の出し物。ジョイマンが登場し、「Here we go! イエローマジックショー、松尾芭蕉、おねしょ」とラップネタを披露。さらに水原姉妹、豊崎、リトグリもジョイマン・高木さんと同じ白シャツ、黒パンツで“なななな〜”とラップネタに加わる。最後は細野を含む出演者全員が登場し、“ななななな〜”をしながらステージを去った。アンコールを求める拍手が鳴りやまない中、そのままイベントは終了した。


 4日間に渡って行われた『祝!細野晴臣 音楽活動50周年×恵比寿ガーデンプレイス25周年『細野さん みんな集まりました!』』(10月11、13〜15日/東京・恵比寿ザ・ガーデンホール)、50周年のキャリアを網羅した記念展『細野観光1969-2019』(六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー・スカイギャラリー)、ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』の公開、そして、今回の『細野晴臣 50周年記念特別公演』『イエローマジックショー3』と続いた50周年関連のイベントもひとまず終了。インタビューや会見、MCなので何度も「ずっとやってれば誰でも50年になるんですよ。大したことじゃない」と発言していた細野にとっては、この1年も通過点。最新アルバム『HOCHONO HOUSE』以降の活動にも大いに期待したい。(取材・文=森朋之)


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