ホーム > mixiニュース > コラム > 高齢者が運転継続するためには

免許返納で要介護リスク2倍…高齢者が運転とうまく付き合うには?

128

2019年12月13日 08:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真80歳男性が逆走を始めたとみられている赤城高原サービスエリアの入り口 (c)朝日新聞社
80歳男性が逆走を始めたとみられている赤城高原サービスエリアの入り口 (c)朝日新聞社
 高齢ドライバーによる悲惨な自動車事故が後を絶たない。12月1日には群馬県渋川市の関越道で80歳男性が運転する軽自動車が逆走して対向車と正面衝突、計3人が死傷した。高齢者への風当たりは強くなるばかりだ。一方で、運転免許返納で生じるリスクもある。高齢者が運転を継続するためにはどうすればいいのか。

【図を見る】運転時認知障害早期発見チェックリスト30はこちら

「運転をやめた高齢者は、運転を継続している人に比べ、要介護となる可能性が約2倍高くなるという調査結果が出ています」

 超高齢社会における移動と健康について研究する筑波大の市川政雄教授(公衆衛生学)は、こう指摘する。

 市川教授を含む研究チームは、65歳以上の男女約3千人を対象に、高齢運転者が運転をやめるとどうなるかを追跡調査した。2006〜07年時点で要介護認定を受けておらず、かつ運転をしている人に、10年時点で運転を継続しているかを改めて確認し、さらに16年まで追跡して分析した。

 年月を重ねれば、身体能力や認知機能は衰えがちだ。そういった調査対象者の元々の健康状態を統計学的に調整して分析したところ、運転をやめて公共交通機関や自転車を利用するようになった人は要介護となるリスクが1.69倍、家族の送迎などを利用し、公共交通機関や自転車を利用しない人は2.16倍になるという結果が出た。

 年間千人当たりに換算した要介護認定率では、運転を継続した人は37.6人なのに対し、運転をやめた高齢者の数字は非常に高い。「公共交通・自転車利用あり」の場合は82.3人、「公共交通・自転車利用なし」の場合は118.6人が要介護認定を受けるという結果だ。原因は何が考えられるのか。

「運転をやめて活動的な生活が送れなくなった人においては、体の衰えが加速してしまったのかもしれません。しかし、運転をやめても能動的な移動手段を使って外出できれば、この数字を見る限り、要介護認定に至りにくいと言えます」(市川教授)

 高齢者が車を使用する理由は、通院や買い物など生活に密着したものが多い。車の代わりの交通手段がない地域では、生活が立ち行かなくなる恐れもある。

 免許更新の際の認知機能検査についても、市川教授はこう指摘する。

「現在、75歳以上で免許更新する際、認知機能検査を受けることになっていますが、(09年の)検査導入後も事故は減っていないんです」

 認知機能検査の結果が芳しくなければ、自身の運転を見直したり免許を返納したりして事故が減るはずだが、直接的な影響は与えていないということになる。

 こんなデータもある。内閣府の交通安全白書(令和元年)によれば、交通事故死者数は自動車乗車中の死者数の構成率より、歩行中と自転車乗用中の死者数の構成率が高くなっている。年齢層別では、65歳以上が約6割と非常に多い。

「検査を導入してから、高齢の交通弱者の死傷率が高まりました。運転を控えたり、やめたりして歩行者となった高齢者が事故に遭ってしまっている可能性は否定できません」(市川教授)

 公共交通機関の整備など、高齢者が車を手放しても暮らせる環境づくりはもちろん必要だ。だが、これまでのデータを見ても、「高齢になったら運転をやめよ」は極端な意見といえる。市川教授は言う。

「免許保有者数あたりの事故件数は高齢期になると徐々に増えますが、高齢ドライバーよりも若年ドライバーのほうが実は多いのです。高齢者に免許返納を一律に促すのは理にかなっていませんし、返納が全てを解決するわけではありません。『運転してはいけない』社会ではなく、事故を起こしやすいドライバーを見極めつつ、『運転してもいい』社会づくりを目指すべきです」

 政府は11月、国内で販売される新車に衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)の取り付けを義務づける方針を固めた。車が事故防止をアシストしてくれれば、高齢者も安心して運転できる。一方で、自動運転とは異なる視点での車の研究開発が進められている。

「ドライバーと車が“協力”することで、安全で快適な運転に進化できるシステムの開発を目指しています」

 そう語るのは神奈川工科大の井上秀雄教授(自動車制御工学)だ。元々はトヨタ自動車の社員。横滑り防止システム(ESC)などの車両制御システムの開発に携わっていた。事故防止のためには、現在主流となっている自動運転車とは違う方向性の車が必要なのではないかと考えたという。

「現状の自動運転車は、センサーで認識した物に回避制御するが、陰からの急な歩行者の飛び出しなどは、見えてからでは遅い。もっと前の段階で危険を察知することはできないか。それが開発中の『自律運転知能システム』です」

 軸となるのは「先読み運転知能」の開発だ。誰もが免許取得の際に教習所で「かもしれない運転」を心がけることを教わったはずだ。歩道から歩行者が飛び出してくるかもしれないし、見通しの悪い交差点で車が速度を緩めずに進入してくるかもしれない。こうした危険を予測するべく、井上教授をリーダーとする産学連携プロジェクトではタクシー運転手の協力を得た約14万件の「ヒヤリハットデータ」(東京農工大管理)を知能化。事故が起きやすい地点や時間帯、路上駐車が多い地域などを先読み運転知能に学習させることで、ヒヤリとする前に速度を落としたり、ハンドルの切りすぎを戻したりといったことが可能になる。いってみれば、「熟練ドライバーが助手席に座っているイメージ」(井上教授)だ。

 プロトタイプは3年ほど前に製作。高齢ドライバーによる公道での実証実験も進んでおり、実用化されれば、現行の自動運転車よりも事故を大幅に減らせる可能性がありそうだ。

 今すぐにサポートを充実させたいという人には、自動車保険を活用する方法もある。あいおいニッセイ同和損保では、来年1月から「タフ・見守るクルマの保険プラス」という保険を開始する。契約者に貸し出したドライブレコーダーによって、「急加速や車線逸脱、指定区域外の走行などがあった場合にアラートを鳴らす」「定期的に運転診断レポートを提供する」「車に衝撃があった際には、24時間対応可能なオペレーターが安否確認のコールをする」といった従来のサービスに、自身の運転スコアに応じて保険料が割引される「運転特性割引」を追加したものだ。

 同社自動車保険部の梅田傑さんは言う。

「安全運転を心がけていただくには、運転診断レポートをいかに見てもらうかが大事だと考えています。スコアによって割引を受けられることが、運転技術向上へのモチベーションにもつながります」

“第三者の目”に運転を見てもらうことは、高齢者が自身の運転を振り返るのに大事なポイントだ。

「ご家族ではなく、第三者の目によっての診断ならば、素直に聞き入れられるというお客様もおられます」

 近しい人の助言に耳を傾けなかったことで、結果的に事故を招いた例として典型的なのが、前述の群馬県で起きた事故だろう。死亡したのは逆走した軽自動車を運転していた80歳男性。朝日新聞によると、男性は足も不自由だったことから親族や知人から運転免許返納を勧められていたが、「病院やスーパーに行くのに必要だ」と応じなかったという。

 高齢者安全運転支援研究会理事長の岩越和紀さんは、親族による指摘が返納につながらないことについて次のように分析する。

「普段からのコミュニケーションが足りていない場合が多いです。普段の会話がないのにいきなり注意しても、不快に思われて終わりです。安全に運転を継続できるかは、高齢者の技術だけでなく、家族との結びつきが問われていると言ってもいいかもしれません」

 セゾン自動車火災保険が8月、40〜50代の男性300人に行ったインターネット調査では、高齢の親の運転に不安を感じても、今後の運転について話し合ったことがないとする人が約4割いた。不安を感じたことがない人に至っては、約7割が話し合ったことがなかった。

 もし、高齢ドライバー自身で運転が困難になってきたと感じたら、段階を踏むことが効果的だと岩越さんは助言する。

「まったく運転をしなくなるのではなく、『自分なりの限定免許』を作ることをお勧めします」

 視界が悪くなる夜は運転しない、地域の子どもの登下校時は近くを走行しないなど、時間帯や走行地域を制限し、徐々に運転量を減らしていけば、車がない生活への変化に戸惑うことも避けられる。

 運転のやめどきの指標となるのは、同会が推奨する「運転時認知障害早期発見チェックリスト30」(下記)だ。5項目以上当てはまった場合は、認知機能検査を受け、運転を制限し始めるといい。岩越さんはこう呼びかける。

「現状、運転をやめる人が増えるのは、大きな事故が起きたときだけ。報道が減れば、のど元過ぎれば熱さを忘れるように反省を忘れます。常日頃から安全運転への意識を持つことです」

(本誌・秦正理)

■運転時認知障害早期発見チェックリスト30

・車のキーや免許証などを探し回ることがある。
・今までできていたカーステレオやカーナビの操作ができなくなった。
・トリップメーターの戻し方や時計の合わせ方がわからなくなった。
・機器や装置(アクセル、ブレーキ、ウィンカーなど)の名前を思い出せないことがある。
・道路標識の意味が思い出せないことがある。
・スーパーなどの駐車場で自分の車を止めた位置がわからなくなることがある。
・何度も行っている場所への道順がすぐに思い出せないことがある。
・運転している途中で行き先を忘れてしまったことがある。
・よく通る道なのに曲がる場所を間違えることがある。
・車で出かけたのに他の交通手段で帰ってきたことがある。
・運転中にバックミラー(ルーム、サイド)をあまり見なくなった。
・アクセルとブレーキを間違えることがある。
・曲がる際にウィンカーを出し忘れることがある。
・反対車線を走ってしまった(走りそうになった)。
・右折時に対向車の速度と距離の感覚がつかみにくくなった。
・気がつくと自分が先頭を走っていて、後ろに車列が連なっていることがよくある。
・車間距離を一定に保つことが苦手になった。
・高速道路を利用することが怖く(苦手に)なった。
・合流が怖く(苦手に)なった。
・車庫入れで壁やフェンスに車体をこすることが増えた。
・駐車場所のラインや、枠内に合わせて車を止めることが難しくなった。
・日時を間違えて目的地に行くことが多くなった。
・急発進や急ブレーキ、急ハンドルなど、運転が荒くなった(と言われるようになった)。
・交差点での右左折時に歩行者や自転車が急に現れて驚くことが多くなった。
・運転している時にミスをしたり危険な目にあったりすると頭の中が真っ白になる。
・好きだったドライブに行く回数が減った。
・同乗者と会話しながらの運転がしづらくなった。
・以前ほど車の汚れが気にならず、あまり洗車をしなくなった。
・運転自体に興味がなくなった。
・運転すると妙に疲れるようになった。
*日本認知症予防学会理事長、鳥取大学医学部教授 浦上克哉さん監修、NPO法人高齢者安全運転支援研究会提供

※週刊朝日  2019年12月20日号

このニュースに関するつぶやき

  • 逆に、高齢者のほとんどは、マニュアル車のほうが事故らない気がする…。
    • イイネ!2
    • コメント 0件
  • 免許返上絶対拒絶の一部高齢運転者ら。事故件数も重なり損保側も契約拒否寸前。それでも乗るような思考に問題がないか。家族の支援が要。
    • イイネ!39
    • コメント 2件

つぶやき一覧へ(82件)

あなたにおすすめ

前日のランキングへ

ニュース設定