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電子書籍にはない「触感」を 装幀家・菊地信義のドキュメンタリー映画公開

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2019年12月13日 17:00  AERA dot.

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写真菊地信義(きくち・のぶよし)/1943年、東京生まれ。77年に装幀者として独立。以来、中上健次や古井由吉、吉本隆明などの書籍の装幀を担当してきた。映画「つつんで、ひらいて」は12月14日から全国で順次公開(撮影/写真部・小山幸佑)
菊地信義(きくち・のぶよし)/1943年、東京生まれ。77年に装幀者として独立。以来、中上健次や古井由吉、吉本隆明などの書籍の装幀を担当してきた。映画「つつんで、ひらいて」は12月14日から全国で順次公開(撮影/写真部・小山幸佑)
 山口百恵の自叙伝『蒼い時』や俵万智の『サラダ記念日』など約1万5千冊の本の装幀を手掛けてきた装幀家・菊地信義さん。その仕事ぶりを追った映画が12月半ばに公開される。ヒット作の背景や紙の本への思いを聞いた。

【写真】菊地さんが手掛けた作品はこちら

*  *  *
「以前にもテレビ局から依頼はありましたが、『装幀家・菊地信義ありき』の提案ばかり。へそ曲がりの僕は、そういう枠から自分を撮られることが照れくさくて、嫌だったんです」

 ドキュメンタリー映画「つつんで、ひらいて」について、装幀家の菊地信義さん(76)は言う。当初、広瀬奈々子監督(32)の依頼も断ったが、何度か会ううちに、ある共通点を見つける。

「僕のドキュメンタリーに対する考え方とは、意味やイメージで汚れた対象や物を、素っ裸にすること。広瀬さんには僕をもっと裸にしてみたいという興味を感じた。あ、僕と同じだなと」

「酒と戦後派」と書かれた紙をしわくちゃにしてコピーし、文字のカスレ具合を確認したり。タイトルの文字をはさみで切り、ピンセットで並べ、テープで留めて並べ方を調整したり。映画は菊地さんが手作業で丁寧にデザインする手元から、印刷や製本に至る工程を描いていく。本づくりもデジタル化が進む中、紙の本やアナログなものに対する菊地さんと広瀬監督の愛着が、ひしひしと伝わってくる。

「僕は言葉も『もの』だと思います。たとえば『愛』という言葉は、その意味と、愛という言葉の印象によって織り上げられた織物。それを入れる容器が本という『もの』。紙の本の魅力とは、『もの』の魅力です。僕の仕事はその『もの』の表層を作り、『読んでみたい』という思いを生み出し、言葉という『もの』に出会わせることです」

 菊地さんが手掛けてきた本の中でも有名なものの一つが、俵万智さんの『サラダ記念日』(1987年)だろう。当時、一般書として短歌の本が出版されること自体がめずらしかったという。「とにかく売れるものに」という版元からの要請にひと思案した菊地さん。ある白黒写真の中の俵さんの顔に注目した。

「とても印象に残るお顔でしょ。文芸書のカバーに著者の顔を使うなんて例がなかったけど、これでいこう、と」

 タイトル文字も、これまた文芸作品では異例の蛍光ピンクのローマ字表記にした。

「どこかの外国で出た日本人の文芸作品が、あまりにもそこでヒットしたので逆輸入され、日本語版を出しましたっていう風情にしようと。それが、ヒットの仕掛けのすべてです(笑)」

 装幀は読者が本を手に取るきっかけになるもの。映画では「触感」というキーワードが何度も出てくる。ある紙の質感を「愛しい彼女の肌」と菊地さんが表現したり、印刷工場ではお気に入りの紙クロスに思わずある行為をしてしまう驚きの姿も。

「本を手に取り、『え? 何この紙、ただの紙に見えたけど少しザラついてる』と。そういう感覚が発生する一瞬に、その人の『私』が立ち上がり、言葉の世界に入っていく。その本の世界を読み始める最初のスイッチが、実は『触感』なんです。無意識の領域ですが、そこがとても大事です」

 触感。電子書籍には、むろん望むべくもないものだろう。

「僕は、紙の本は絶対に消えないと思いますよ」

 取材中、何度もきっぱりと、強く口にしたのが印象的だった。(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2019年12月16日号

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