年末企画:小田慶子の「2019年 年間ベストドラマTOP10」  アラフィフの三角関係とホームドラマ回帰の兆し

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2019年12月30日 10:32  リアルサウンド

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リアルサウンド

『いだてん』(写真提供=NHK)

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2018年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第17回の選者は、雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当するライター/編集者の小田慶子。(編集部)


1.『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』(NHK総合)
2.『きのう何食べた?』(テレビ東京系)
3.『サギデカ』(NHK総合)
4.『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK総合)
5.『だから私は推しました』(NHK総合)
6.『凪のお暇』(TBS系)
7.『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)
8.『あなたの番です』(日本テレビ系)
9.『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK総合)
10.『フルーツ宅配便』(テレビ東京系)


【写真】『いだてん』撮影現場の様子


■総評


 ドラマは現実社会の表層をネタにして深層を映し出すもの。残念ながら2019年の現実は厳しかったようで、連続ドラマの主人公たちは、とにかくみんな疲れていた。『凪のお暇』も『同期のサクラ』(日本テレビ系)も『だから私は推しました』も全て、ヒロインが会社を辞めてしまう。辞めないためには『わたし、定時で帰ります。』のヒロインのように毅然と定時退社を貫くぐらいしなければならない。2018年は『おっさんずラブ』(テレビ朝日)、『アンナチュラル』(TBS系)のように、職場で心を通わせながら働く人たちのドラマが目立ったが、今年は「やっぱり働くのはしんどい。周りの空気読まなきゃいけないし、人間関係に疲れるし、お給料も安いしね」という会社員(特に女性)の本音が見えてきたように思えた。


 もうひとつ気になったのは、恋愛機能不全世代ともいえるアラサーや20代に向けて、どんな恋愛ドラマが“刺さる”のかということ。20歳の75%は恋人がいないというデータもあり、もはや「恋愛なんて面倒」と思われている現在、従来のボーイミーツガール的なラブストーリーや禁断の愛の物語では共感を得られない。『G線上のあなたと私』(TBS系)のように、じれったいほど何回もお互いの気持ちと覚悟を確かめてから付き合うのでなければ、リアルじゃない。逆に40代、50代の物語ならば、過去に恋愛をしてきたことや新しい恋を楽しむ様子にも説得力があるので、『グランメゾン東京』(TBS系)、『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)ではアラフォーどころかアラフィフの三角関係が展開していた。筆者にとっては同世代なので面白く見たけれど、果たしてこれでいいのか。


 また、ホームドラマ回帰の兆しもあって、『俺の話は長い』(日本テレビ系)や『G線上』の幸恵(松下由樹)の家の場面は、懐かしいホームドラマの構造だった。一周回って再ブームが来るのか? よく考えてみれば、ここまで書いてきたように会社はしんどい場所で、恋愛もしないとなれば、頼れるのも愛情の対象になるのも家族しかいないわけだ。他に、男の2人暮らしを描いた『きのう何食べた?』もホームドラマの進化形と言えるかもしれない。


 そんなことを考えながら、今年の連続ドラマベスト10を選ばせてもらった。配信サービスの攻勢を受け、テレビ業界が新しい方向性を探っている中、クオリティの高さだけでなく、題材(ネタ)、放送形態など、何か新しい要素を持った作品を中心にした。


■1位『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』


 スマホをいじったりご飯を食べたりしながら見ると理解しきれないけれど、テレビの前に正座待機し集中して見れば、こんなに面白いドラマはなかった。『木更津キャッツアイ』(TBS系)で草野球チームのおバカな青年たちを描いていた宮藤官九郎が17年を経て、日本を代表するアスリートたちの物語を描くとは! スポーツマンシップだけでなく、歴史ドラマとして日本が無謀な戦争に突入していく過程も戦争の悲惨さも描き出し、「クドカンどうした? そんな人だったっけ」と良い意味で驚かされた一年間だった。スタッフから膨大な史料が提供されたということで、オリジナルだけでなく脚色もうまい宮藤にとっては、史実が原作の役割を果たしたのかなと推察する。また、あまり他で言及されていないが、『いだてん』が伝説的ドラマになったのは、中村勘九郎と阿部サダヲという2人の主演俳優の魅力も大きかった。勘九郎が演じた金栗四三と阿部が演じた田畑政治は、どちらも大河ドラマの主人公らしい有名な人物ではない。オリンピックの魅力にとりつかれ、馬鹿のひとつ覚えのようにオリンピックオリンピックと言って周囲に迷惑をかけながら騒いだ挙げ句、クライマックスとなる1964年の東京オリンピックでは脇役となってしまう。そんな“負け組”の人物をリアルに構築した演技が、歴代大河の主演の誰にも負けないぐらい素晴らしかった。金栗は一度もメダルを取ることのないまま、教え子を戦場に送り出すことになり、オリンピックを開く予定だった競技場で無念のバンザイをする。田畑はオリンピック組織委員会で更迭されたとき、「どこで間違えた?」と自問し、かつて自分が政治家を利用していたことが巡り巡って自分を追い込んだと悟る。2人が自分の弱さやあやまちと向き合うときの迫真の演技にしびれた。登場人物としては、古今亭志ん生を中心とする落語家たちは必要だったかという議論があるが、宮藤勘九郎が馴染みのないスポーツの話を一年間描く上では、芸能世界をクロスさせることが必要だったのだろうと思う。半身不随の志ん生を演じていたビートたけしが、ラストで立ち上がり、ひとつの噺としての『いだてん』を終わらせてくれる趣向は最高に粋だった。


■2位『きのう何食べた?』


 よしながふみという優れた作家が、BL(ボーイズラブ)的な漫画から一歩踏み出してリアル寄りの男性カップルを描いた物語を、西島秀俊と内野聖陽という大物俳優の夢の共演で実写化。主人公のシロさん(西島)とケンジ(内野)が毎晩、自宅で夕食を作って食べるなど、男女の夫婦と変わらない日常生活を送る様子を描くことで、ゲイの人たちが特殊ではないことをさりげなく伝えた。脚本の安達奈緒子は、40代のおじさん2人が見せるかわいらしさと性的マイノリティとして生きる彼らの抱えるせつなさという原作のエッセンスをうまく抽出。原作どおり明らかなラブシーンはないのだが、最終話、ケンジがシロさんの髪を切り、後ろからギュッと抱きしめる場面は、愛情が前面に出た名シーンだった。ラストシーンのアドリブでのやり取りのように、彼らが性愛も込みでのパートナーであることを演技で匂わせたい内野と、そこで照れてしまう西島という役者同士の関係性も微笑ましかった。


■3位『サギデカ』


 『きのう何食べた?』と同じ安達奈緒子の脚本で、こちらはオリジナル。オレオレ詐欺を組織的に仕掛ける男たちと、正義感の強い警部補(木村文乃)の対決を描く。オレオレ詐欺は『詐欺の子』(NHK総合)、『スカム』(MBS・TBS系)でも描かれた今年流行のテーマだが、本作は捜査サスペンスのフォーマットに沿っているので、まずシンプルに面白い。物語が展開するにつれ、詐欺組織の実働員である“かけ子”(高杉真宙)、その上司の“店長”(全裸シーンがインパクト大の玉置玲央)、さらにその上の“番頭”が長塚圭史と、しだいにラスボスに近づいていく。青木崇高演じる実業家も登場時から明らかに怪しくていい。さらに、詐欺の被害者である老人たちの心の傷もきちんと描いており、リアリティがあった。2018年の『アンナチュラル』(TBS系、脚本は野木亜紀子)もそうだが、地上波にとっては本作のようなオリジナルでクオリティの高いサスペンスをコンスタントに作っていくのが、配信サービスに対抗する上でのポイント。その書き手が女性になってきている現状も興味深い。


■4位『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』


 同性愛を描くドラマとして2018年の『おっさんずラブ』から2019年の『きのう何食べた?』へのアップデートだけでもすごかったのに、『何食べ』の直後に本作が放送開始し、驚いた。腐女子のひとりとして「こんなにかっこよくて演技力のある俳優さんたちがカップルを演じてくれるなんて、尊すぎる。いい時代だ〜」とほくほくしていたところ、その顔を写真に撮られてしまったような衝撃があった。本作ではゲイの高校生(金子大地)が学校ではセクシャリティを隠している様子、そこに無邪気に突進してくる腐女子(藤野涼子)、そんな彼女なら付き合えるかもしれないと考える主人公の打算など、きれいごとではない人間関係が描かれる。終盤、主人公はアウティングされ校舎から飛び降りる。原作小説を書いたのはゲイの作家で、まだまだ社会が性的マイノリティの人を救えていない現状を突き付けられた。「混ぜるな危険!」の関係であるゲイと腐女子をあえて出会わせ、両者のリアルを描き出しながら相互理解の物語に仕上げた原作小説と脚色がみごと。金子大地と藤野涼子の好演も忘れられない。


■5位『だから私は推しました』


 アイドルの「推し」と「押し」(階段からの突き落とし)を掛けたタイトルに座布団一枚。描かれるのは、部活のような感覚でアイドル活動をしている女の子たち。年下の彼女たちに幻想と自己承認を求めるファンという名の大人。そんなアイドルとファンの近すぎる距離。アイドルが風俗サービスのように自分の時間とプライバシーを切り売りするシステム。数年前、筆者が地下アイドルを取材したときに感じた“危うさ”が全て反映されていて驚いた。脚本の森下佳子の素材の取り込み方はさすが。アイドルが粘着質のファンからストーキングされ自宅を突き止められるという展開も、現実にもあったことだけに怖い。キャストでは、女性なのに女子アイドルに夢中になる美人というトリッキーな主人公を体現した桜井ユキ、主人公の“推し”になる弱気なアイドルを演じた白石聖がすばらしかった。


■6位『凪のお暇』


 コナリミサトという旬の漫画家の代表作を黒木華、高橋一生、中村倫也という旬のキャストで実写に。この時点でもう半分、成功したようなもの。くるくるパーマヘアも厭わない黒木はハマり役だし、高橋はこじらせ男子を演じさせたら当代一で、毎回オイオイと泣くエンドで笑わせてくれた。中村は原作のゴンとはビジュアルが違うが、今年の人気上昇ぶりはすごかったので、世間的にも“メンヘラ製造機”であったことは間違いない。凪とゴンのラブシーンは今年のプライム帯ドラマで唯一、エロさを表現した場面では。主人公の凪は毒親の母やモラハラ気味の元カレに搾取されていた女性で、見ていると危なっかしくてハラハラ。しかし、原作にない展開となった最終回では、元カレのハグしようという提案をきっぱり断るなど、彼女が自分の人生をしっかりと選び取っていたので、後味が良かった。


■7位『わたし、定時で帰ります。』


 画期的な働き方改革ドラマ。これまで『ハケンの品格』(日本テレビ系)、『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日系)のように一匹狼的な存在で「残業いたしません」と17時に帰るヒロインはいたけれど、本作のヒロインは正社員として長く仕事をしていくためにこそ定時で帰ると考えていて、そこが新しかった。そう、サステナビリティ(持続可能性)こそ、これからのテーマ。民放の連ドラとしては硬派な問題に取り組んでいて、勇気のいる打ち出し方だったと思うが、「例えホワイト企業でも社員が残業してしまうのはなぜか?」という問題まで描き、きちんと着地させたところが素晴らしい。キャストではヒロインの元カレを演じ、理系男子らしい不器用さを見せた向井理がハマり役。ユースケ・サンタマリアも「働き方改革といっても、残業なしには現場が回らないよ」という立場の管理職役を怪演し、まるで日本型組織の怨霊のようにも見えた。


■8位『あなたの番です』


 今年最もお茶の間を賑わせたドラマ。飲み会や小学校の保護者会で共通の話題になったのはこの『あな番』だけだった。マンションの住民間で起こった交換殺人を描き、真犯人は誰か? という謎をミスリードの連続で2クール分展開した。キャストのひとりが言っていたとおり「脚本と演出にマジックがかかっていて」、視聴者はそれにだまされ振り回された。ネットでは「実はこの人が犯人では」「主人公の翔太は二重人格?」と考察班が大活躍。現在、地上波の連ドラは“バズる”ことをひとつの目標にしていると思うが、その点において大成功し、最終的に高視聴率にも結びつけた。死体描写の本気度も日曜放送のドラマとしては画期的だった。キャストでは田中圭が本作の成功で一番手のポジションを確かなものにし、ストーカー気質の女性を怪演した奈緒が一躍、注目された。


■9位『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』


 今年最も意表を突かれた作品。地方の町で突然ゾンビウィルスが蔓延し、のどかな木造家屋の庭にゾンビがのそのそと這って来る。パターンとしてはゾンビものの王道だが、主人公たちのどうしようもなさや家族関係を丁寧に描いていたのでキャラクターに愛着がわき、「この人もゾンビになっちゃったら嫌だな」と思えて緊張感が持続した。しかも、容赦なくみんながゾンビになっていく。和製脱力系『ウォーキング・デッド』という感じで、“善きゾンビ”を先頭にしたチューチュートレイン、ゾンビにビニール傘で対抗するなど、このジャンルにおける発明も。当サイトでインタビューしたが、オリジナルでここまで書ける劇作家の櫻井智也は今後、ドラマ界でも注目の人だ。


■10位『フルーツ宅配便』


 原作漫画に基づく物語、演技、演出、音楽のどれもがハイレベルで完成度が高かった。濱田岳が演じるお人よしの主人公をデリヘルの店長にスカウトするのが松尾スズキ、店の用心棒が荒川良々。劇団・大人計画のファンなら、まずここで笑ってしまう。そして、それぞれの事情を抱えるデリヘル嬢のキャストも仲里依紗を始め「みなさん、よくこの仕事受けたな」と感心するほど豪華。“社会の底辺にいて”“人生をどぶに捨てている”と思われがちなセックスワーカーたちが幸福を模索する姿を描いてみせた。白石和彌監督はこういう作品も撮れるのだから、映画『麻雀放浪記2020』のように前時代的な女性描写はやめていただきたい。


 10位以内に入れるかどうか迷ったのは『G線上のあなたと私』、『セミオトコ』(テレビ朝日系)、『同期のサクラ』、『みかづき』(NHK総合)。配信ドラマでは、Netflix『全裸監督』が意外に“本番”以外の部分が面白く、女優の肖像権の問題さえなければ入れたかった。キャストで他に面白い演技を見せてくれたのは、『G線上』と『トクサツガガガ』(NHK総合)の松下由樹、『ゾンみつ』、『本気のしるし』(メ〜テレ)などで大活躍の土村芳、『モトカレマニア』(フジテレビ系)で驚異の女子力を発揮した田中みな美。『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)の戸次重幸。『ゾンみつ』、『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京系)、『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)の岩松了。


(小田慶子)


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