嵐が2020年に見せてくれるもの 『ARASHI’s Diary -Voyage-』で赤裸々に映し出された“葛藤”を見て

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2020年01月05日 19:31  リアルサウンド

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 嵐が活動休止するまで残り1年となった12月31日、Netflixオリジナルドキュメンタリーシリーズ『ARASHI’s Diary -Voyage-』が、ついに配信開始された。「1. 二十年」と題されたエピソードは、全20回以上の配信が予定されている中の、ほんの序章に過ぎない。だが、彼らの抱えてきた葛藤が赤裸々に語られており、見ていて胸が詰まる思いがした。5人が笑顔で届けてくれたものの背景に、どれほどのものがあったのか。そのありのままを受け止めたいという気持ちと、直視してもいいのかという戸惑いと……。ただひとつ確かなのは、映像から伝わってくる現実がシリアスであるほど、それを感じさせまいと振るまってきた彼らのプロ意識の高さだ。


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 VTRは、嵐の近況を知るところからスタートする。2019年、日本は新たな時代の幕開けを迎えた。嵐は、天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典にて奉祝曲を披露。そしてその足で、飛行機に乗り込みジャカルタ、シンガポール、バンコク、台北とアジア4都市をめぐる。日本のみならず、各国に多くのファンがいること。もはやその人気は「国民的」という言葉さえも超えていることを再認識させられる。


 移動中に効率よく仮眠をとり、本番前にはメンバー全員で握手をして士気を高め、ファンの前に笑顔で登場する。どんなにハードスケジュールでも、どんなに心身共に余裕がないときでも、この20年変わらず続けてきた「嵐」という営みがそこにはあった。嵐は、メンバー間の仲が良いグループとしても有名だが、彼らの仲には好きや嫌いといった感情での仲の良さを超越した、運命共同体としての信頼関係があるように感じられた。本番前の握手はまるで、お互いの命綱を確認するかのよう。ステージの上、カメラの前という大海原で、プレッシャーやさまざまな視線や意見の波に飲み込まれないために。5人でつながりを確かめ合って生きてきたのではないかと想像してしまう。


 そして、迎えた活動休止発表。会見時の彼らは終始とても和やかで「これぞ嵐」といった雰囲気だった。だが、そこに至るまでには、想像以上にシビアな話し合いがあったことが明かされる。休止なのか、解体なのか……どのパターンでいくかを書き出す櫻井翔の手は震え、机を叩いて怒鳴ったこともあったという。松本潤は、自分の手で愛するものを殺す感覚と、刺激の強い言葉で語る。それも、彼らにとって“嵐”であることが、人生の主軸になっているからこそ。


 10代の少年だった5人は、いまや35歳を超えた大人に。それぞれが主張をしていては、ひとつになることは難しい。だから、「調整していくしかない」と櫻井は語る。個別インタビューの様子を見ても、この1年を「燃え尽きるまでやる」と意気込むメンバーもいれば、「燃え尽き症候群になったら戻ってこられなくなる」と口にするメンバーも。そんな5人5色の個性があればこそ嵐だと思う一方で、改めて20年という長い期間、仲の良いグループとして継続してこられたのは、彼らの高い“調整力”の賜物なのだと実感する。そして、今回の活動休止という決断も、“嵐”というグループ人格を生かし続けようと願っての調整策であるということも。


 人気アイドルグループが活動休止までの1年間をリアルタイムで記録していくのは、これまでも類を見ない試み。この嵐の足跡が今後、長く活動していくアイドルグループたちの、そして応援するファンたちの新たな道しるべになるに違いない。さらに、それはアイドルグループに限らず、個と共同体との間に発生する誰もが経験するであろう、さまざまな課題にも通じるものがあるように思えてくる。いかに私たちは他者とつながり、そして調整して生きていくのか。そのためにはシビアな話し合いを繰り返してでも、策を見出す努力が求められるということ。嵐が2020年に見せてくれるのは、仲良しの先にある、人と共に生きていく調整力の重要性なのかもしれない。(文=佐藤結衣)


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