少年野球人口が少子化を上回るペースで減っているという。野球に触れる機会の減少や、親の負担の大きいことなど様々な原因が考えられる中、子ども達の体の負担の大きい長時間練習、指導者による罵声や暴言など、過度に勝利を求める「勝利至上主義」のチームが多いことも原因として指摘する声も多い。
このような少年野球の現状を、野球少年達の憧れでもある大阪桐蔭高校野球部を率いる西谷浩一監督はどのように思っているのだろうか?
■ まずは楽しさ、素晴らしさを教えてあげるべき
野球を続けたくて少年野球チームに入っても、厳しい指導についていけず野球をやるのが辛くなり、辞めてしまう子どもも多い。小学生年代では勝利を求めすぎず、まず野球の楽しさを教えることが先ではないかという声もあるが、西谷監督はどんな思いを抱いているのだろうか。
「もちろん、そうだと思います。最初から野球の勝ち負けで厳しいことを言っても仕方がありません。特に小学生でしたら、野球の楽しさ、素晴らしさをまず教えてあげるべきです。そこから野球はこういうものなんだ、こうやって勝つんだということを学ばせてあげるのが望ましいですね。勝ち負けはその先だと思います」
ただ、西谷監督は指導者目線でこんな意見も述べてくれた。
「子どもたちに厳しく指導している指導者は、全員が子どもが憎くてそうしている訳ではありません。指導者も人間ですから感情的になることもあります」
「昔だと、叱られると“叱ってもらえたんだ”という“見込まれ感”があったんですけれど、今はそうじゃない。今の子は叱られて育っていないので、叱ることに拒否反応を起こす子が多い気がします。だからこちらの意図の伝え方が大事だし、昔より言葉の力が必要になってきたと思います」
昔はまかり通った厳しい言葉でも、今では暴力や体罰に受け止められてしまいがちだ。誰かが怒っていたら、違う人間が「今怒っていたのはこういう理由なんだよ」と教えるなど、指導者間での役割分担をするなど、指導体制を分担することも必要だ。
■ 叱り方も指導者のスキル
「怒る」と「叱る」の違い。諭す、言い聞かせる......色んな言い方があるが、そのあたりの使い分けがどれだけできるか。その子、その子に応じた言葉の使い方も必要になってくる。
ただ、指導者と子どもには信頼関係も必要だ。信頼関係さえあれば、言葉ひとつにでも愛情を感じることがある。受け止め方によってはハラスメントにもなるし、関西と関東では少し言葉ひとつの意味合いが変わってくる場合もある。そこに順応している指導者も現実的には多いそうだ。
「今は指導者の叱り方が変わってきているのは確かです。それで人間関係が築けていけたら一番良いんですけれどね。それが今の指導者のスキルにもなる。これは学校の部活に限らず、会社などでも同じだと思います。信頼関係を築いた上で、色んな叱り方ができる。いかに子どもたちに信頼される関係を築けるかも大事だと思います」
■ 大切にしている子ども達とのコミュニケーション
全国から色んな選手が集まる大阪桐蔭では、色んなキャラクターの子どもがいる。西谷監督はコーチだった若い頃は寮に住み込み、選手と共に生活していたため、練習が終わってもご飯やお風呂で一緒になり、お互いの良いところも悪いところも知って自然と信頼関係が生まれたという。
「大きく言うと家族みたいでした。そんな中だから何でも言えたし、最後は自分の子どものようになっていましたね」
少年野球チームはそこまで指導者と子どもが一緒にいる時間は長くはないが、子どもたちの心をほぐすような会話やコミュニケーションを取ることも、ひとつの手段ではないだろうか。
少年野球人口の減少という深刻な状況を、野球にかかわる大人たちもまっすぐに見つめなければならない。
「野球をする人間がここまでいなくなるのは、昔は想像できなかったと思います。野球が当たり前だった時代もあったのに、今はそうではない。だから危機感を持たなくてはいけませんし、あぐらをかいてはいけない時代になったと思います」
野球の楽しさ、素晴らしさを1人でも多くの子どもたちに伝えるために、まずは指導者が目線を下げて子どもたちの“心”を掴むことが、ひとつのきっかけになると信じたい。
(取材・文/写真:沢井史)