『キャロル』翻訳家・柿沼瑛子も絶賛 『ロニートとエスティ』は「希望に満ちたラスト」

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2020年01月24日 13:32  リアルサウンド

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 映画『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』の試写会トークイベントが1月22日にユーロライブにて開催され、翻訳家・柿沼瑛子と映画ジャーナリストの金原由佳が登壇した。


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 アメリカの人気作家パトリシア・ハイスミスのベストセラー作品で映画化もされた小説『キャロル』の翻訳を務めた柿沼。『キャロル』と同じく、2人の女性の愛を描いたについて、「『キャロル』が書かれた時代設定では男性はもちろんのこと女性の同性愛も罪であるとされ、それがバレたら追放されたり、追い込まれて自殺をしてしまう人が出てくるような世界でした。『キャロル』はそのような時代に書かれた唯一のハッピーエンドの物語なわけです。それに対して本作は、『キャロル』の時代とは全く違い、同性愛は罪ではないし、州によっては結婚も認められる現代の世の中を描いています。そのような現代において、本作のように同性愛が抑圧されることがあるとすれば、それは本作で描かれるような宗教やコミュニティの中で起こりうるということです」と解説した。


 さらに、ユダヤ教の中でも特に戒律が厳しいとされる“超正統派”のコミュニティを描いた点にも触れ、「既婚者は異性に触れてはいけないとされているので再会した男女がハグをすることが禁止されています。女性はかつらを被って皆同じような髪型をしていて、ファッションも黒っぽくて皆同じような服を着ています。神様からもらった肌にタトゥーを彫ることはご法度とされています」と、そのタブーの多さについて言及した。


 また、原作ではロニートの職業がファイナンシャルアナリストであったが、映画ではカメラマンになっていることについて、柿沼は「ユダヤ教には目撃してそれを書き留める“書記”という役割の人が存在します。だとするとロニートはカメラによって記録をしていると言える。自分の捨てた過去、それからこれからの未来、とにかく良いものも悪いものも全てをカメラで記録することによって彼女は“書記”の役割を果たしているのではないか」と、映画で職業を変えたことの意味を分析する。


 金原は、「この作品が面白いのは、ある種のはっきりした結末を描かず、観客の立ち位置やこれまでの生き方に委ねているところがあり、ラストについて様々な捉え方ができます」とラストシーンについてコメント。柿沼も「希望に満ちたラストでした。エスティはこのまま子供を産んでコミュニティの中で生き続けていくのかと感じた人もいるかもしれないけれど、エスティは自分にとって一番辛い生き方を選んだのだと思います。生まれてくる子が女の子のような気がしてならないのですが、娘だけを自由に育てたいと。それに希望を託して。尚且つ彼女にはそれを守ってくれるドヴィッドもいる。ドヴィッドは妻のすべてを受け入れてくれる。ドヴィッドが『君は自由だ』と叫ぶシーンは感動しました」とうなずいた。


 また、金原は、“Civil Disobedience”(=市民的不服従)という自分たちの身の丈に合わないルールには服従する必要性はないという市民的な運動を意味する言葉が出てきていることを挙げ、「日本でも女性のハイヒール強制へ反対する#kuToo運動や、医学部での下駄履かせ問題、無駄な校則は要らないのではという問題など、本作の原題でもある『不服従』という問題は日本でも広がっていると思います」と国内でも身近なテーマであることを語った。


 柿沼も「単によその国の違う宗教の人たちを描いた作品というよりも、今の日本の社会が抱えている閉塞感を破るには、少しづつ自分が変わっていく必要があって、変わるためのきっかけが見つかる作品なのではと思います」とコメント。最後に「これは皆に知られてほしい映画です。観ることによって明るくなるものもあります。たくさんの人に観てもらいたいです」とメッセージを送った。 (文=リアルサウンド編集部)


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