柄本佑、たった一言でドラマを動かす声と色気 30歳を過ぎてにじみ出る人間的な魅力

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2020年01月29日 06:01  リアルサウンド

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『知らなくていいコト』(c)日本テレビ

 俳優、柄本佑の人気が急上昇中だ。柄本明、角替和枝を両親に持ち、妻は安藤サクラ、弟・時生も俳優で、義理家族も芸能一家という、言わずと知れたサラブレッドである。03年に映画『美しい夏キリシマ』で主演デビューを飾り、昨年の12月に33歳を迎えた柄本。これまでもその演技力は高く評価されてきたが、ドラマ『知らなくていいコト』(日本テレビ系)、『心の傷を癒すということ』(NHK総合)が放送中で、2月21日からは映画『Red』の公開が控えるいま、「色気」のある俳優としての支持を伸ばしている。


 幅広いジャンルや役柄をモノにできる役者はいるが、柄本ほど、いい男からキモイと言われる役、さらに普通の青年までを、「そこに生きる人」としてリアルな空気を宿して演じられる役者は少ない。


 2010年以降だけでも、向井理、松坂桃李、窪田正孝と大学生4人組を演じた、今ではかなりお宝感のある『僕たちは世界を変えることができない。』や、ナレーションも兼ねた『大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]』、『フィギュアなあなた』、『GONINサーガ』、『64(ロクヨン) 前編・後編』といった映画や、連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』『あさが来た』『なつぞら』、大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(いずれもNHK総合)、ドラマ『天皇の料理番』(TBS系)、『令和元年版 怪談牡丹燈籠』(NHK BSプレミアム)などなど、助演、主演を問わずにさまざまな役柄を演じてきた。


 ここ数年は、30歳を過ぎ、確かな演技に加えて人間的な魅力がにじみ出ているのだろう。2018年には、数奇な運命を背負った雑誌編集長の半生を演じた『素敵なダイナマイトスキャンダル』、佐藤泰志原作の『きみの鳥はうたえる』の演技で高く評価され、キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞ほかの映画賞に輝く。『きみの鳥はうたえる』では、なんとなく漂い生きているような主人公が時折見せる暴力性やラストでの感情の爆発に、同じ人物の一面としての説得力を持たせ、共演した石橋静河、染谷将太とともに、まるでドキュメンタリー作品であるかのような湿度を乗せた。


 柄本が他の同年代の役者と違った色気を感じさせるのは、R指定作品への出演をいとわずにやってきたことも大きいかもしれない。『フィギュアなあなた』でも変態性をいかんなく発揮していたが、昨年公開された『火口のふたり』では瀧内公美とのW主演で、激しい濡れ場を体当たりで演じきった。


 また柄本は弟の時生と08年より演劇ユニット「ET×2」を組んでおり、父・明を演出に迎えた17年の舞台『ゴドーを待ちながら』の稽古場を収めたドキュメンタリー『柄本家のゴドー』が2019年に公開。とても生真面目に演技に取り組む柄本の姿を垣間見ることができる。


 そんな柄本が吉高由里子主演の『知らなくていいコト』では、吉高演じるヒロイン・真壁ケイトの元カレのカメラマン・尾高由一郎に扮している。ケイトは週刊誌「イースト」の記者で、母(秋吉久美子)の急死をきっかけに、自身の父・乃十阿徹(小林薫)がかつて世間を騒がせた殺人犯だと知ることに。傷つくケイト。そこを「どうした?」と優しく慰める尾高がたまらなくいい男なのだ。


 第2話のラストでは、乃十阿の娘だと知りながら、かつて尾高が自分にプロポーズしていたことを知ったケイトが涙。すでに既婚者で子供もいる尾高は、ケイトを見守りながらも、決して肩を抱いたりはしない。その距離を保った男らしさがさらに尾高の好感度を上げ、そうしたしぐさをどこまでも自然体で見せる柄本に評価が集まった。


 第3話では、同じく乃十阿のことを知ってケイトとの婚約を破棄した、重岡大毅(ジャニーズWEST)演じる野中春樹に向け、尾高が「お前、最低だな」と投げ捨てるひと言が強烈な印象を残した。非常に静かな芝居で尾高の優しさを表現しながら、ほんの短いセリフで、物語を動かす強烈な引力を生む柄本。今後もどんなひと言で物語を動かしていくのか注目したい。


 一方、全4話で放送される『心の傷を癒すということ』は、阪神・淡路大震災から25年を機に制作されたドラマであり、自らも被災しながら被災者の心のケアに努めた精神科医・安克昌氏をモデルに描くヒューマンドラマ。第1話では自らのアイデンティティに苦しみながら医学部へ進んだ安が、終子(尾野真千子)と出会って結婚し、第1子も誕生して心穏やかな日々を送る最中、大地震が発生するまでが描かれた。第2話では被災地の人々を目の当たりにした安が、精神科医としてできることは何かを模索していく。


 今では日本でもPTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉が知られるようになったが、安氏は、その研究の先駆者になった人だ。教科書がないなか、手探りながら多くの被災者に寄り添った安氏。「調子はどうですか?」と声をかける柄本演じる安、祖父がまだ見つかっていない少年に「そうか」と頷くその姿に、在りし日の安氏が浮かぶ。


 まとう空気だけでなく、柄本は、その声でも人を惹きつけている。「そうだ 京都、行こう。」のフレーズで有名になったJR東海のCMナレーションも、長塚京三から柄本が引き継いでいるが、長塚のような強い個性はないものの、柔らかで温かみのある柄本の声は耳に心地良く、2代目としての責任を果たしている。


 直木賞作家、島田理生の原作を『幼な子われらに生まれ』の三島有紀子監督が夏帆と妻夫木聡主演で映画化した恋愛映画『Red』も、さらに柄本のファンを増やしそうだ。一流商社勤務の夫がいながら、かつて愛した男と再会したことで、思いを止められなくなる塔子を夏帆が演じ、10年ぶりの再会を果たした秋彦を妻夫木が演じている。無意識のうちに塔子を追い詰めてきた夫の真には間宮祥太朗。柄本は塔子が働き始める設計事務所の営業・小鷹役だ。初対面の塔子をいきなり口説きにかかる軽い男と思いきや、ここでも柄本は「色気」伴う包容力を発揮。さほど多くはない出演シーンながら、きっちりと印象を残してみせる。


 もともと目指していた映画監督という夢を、今も抱き続けているという柄本。その夢の実現も見てみたいが、今は役者・柄本佑の稀有な魅力にただただ浸りたい。(文=望月ふみ)


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