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サム・メンデスの新境地! 『1917 命をかけた伝令』の“シンプルな物語”と“実験的な手法”

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2020年02月22日 12:31  リアルサウンド

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写真『1917 命をかけた伝令』(c)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
『1917 命をかけた伝令』(c)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

 1917年。第一次世界大戦の戦場で過ごす2人の若者ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)とスコフィールド(ジョージ・マッケイ)は、唐突に上官から呼び出しを受ける。彼らを待っていたのはエリンモア将軍(コリン・ファース)だった。将軍は先行している部隊が敵の罠に落ちつつあり、このままでは壊滅的な打撃を受けることを告げる。しかし、通信は敵の手によって絶たれており、部隊を救うには現地に行って口で情報を伝えるしかない。もしも2人の情報伝達が間に合わなかったら、1600人の味方が敵の攻撃で死ぬ。将軍の話を聞くやいなや、ブレイクはすぐさま戦場へ駆け出してゆく。その1600人の中には、彼の兄がいたからだ。はたして2人は過酷な戦場を突破し、伝令を渡すことができるのか?


参考:初登場2位『1917』 同時代に作られた戦争映画を劇場で観ることの尊さ


 本作『1917 命をかけた伝令』(2019年)の監督を務めたサム・メンデスは、なかなか変わったキャリアを築いている人物だ。一つの家族がブッ壊れていくさまを描いた『アメリカン・ビューティー』(1999年)、レオナルド・ディカプリオ×ケイト・ウィンスレットという『タイタニック』(1997年)のコンビを起用しながら、またしても家族がブッ壊れる話『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008年)のような、いい意味でささやかなスケール感の、しかし丁寧で意地の悪い傑作を手がけている。その一方で、『子連れ狼』に影響を受けた渋いノワール・アクション『ロード・トゥ・パーディション』(2002年)や、言わずと知れた人気シリーズ『007 スカイフォール』(2012年)、『007 スペクター』(2015年)も監督しており、意外なほど幅は広い。


 『1917』は、そんなメンデス監督の新境地だ。彼はこれまで入り組んだ人間模様を描くストーリーテラー的な側面が強かった。しかし、本作はビックリするほどシンプルな物語だ。さらに「全編ワンカットに見せる」という極めて実験的なアプローチもなされている(もちろん実際の撮影は全編ワンカットではないし、途中でハッキリと暗転も挟むが)。シンプルな物語と、実験的な手法。この2つの要素のせいか、彼のこれまでの作品とは毛色が大きく違う。これまで変化球を投げていた選手が、いきなりド真ん中ストレートの球を投げて来たような感じだが、彼の挑戦は成功している。


 やや話は逸れるが、この世の地獄のような戦争映画『オペレーション:レッド・シー』(2018年)を撮ったダンテ・ラム監督は「観客に『映画とはいえ、スゲェことしてるな』と思ってほしい」と言った(引用:『映画秘宝EX激闘!アジアン・アクション映画大進撃』(洋泉社))。この『映画とはいえ、スゲェことしてるな』という感覚は大事だ。『1917』にも同種の驚きがある。泥まみれになりながら戦場を駆けずり回り、爆破に巻き込まれて死にかけて、川に落ちて激流に流されるなど、主人公たちは次々と悲惨な目に遭う。もちろん映画なのだから、安全対策はきちんとしているだろう。しかし、執拗な長回しと、俳優たちが実際に体を張っているという事実が、これが“お芝居”であることを忘れさせてくれる。「物語」以上に、役者たちの「肉体」が魅力となっているのだ。少し前に『キャッツ』(2019年)のレビューで「フルCGのSASUKEに感動できるか?」という意見を書かせていただいたが、この映画はその逆だろう。半壊した橋をおっかなびっくり進んでいると、銃弾が飛んでくる。周りがバンバン爆破する中で必死に全力疾走する。こうしたシーンには『映画とはいえ、スゲェことしてるな』という感覚、一種のSASUKE的な感動があった。


 観客に『映画とはいえ、スゲェことしてるな』と思わせる新境地を開拓しつつ、これまでのキャリアで培った技術も忘れてはいない。些細な仕草や表情一つで感情の機微を見せるのは、かつて人間関係が徐々にブッ壊れていく映画を手がけてきたメンデスの面目躍如。任務が始まる前は気の抜けたアンちゃんだった主人公が、終わった後にはまるで別人に見えるのは、役者の好演と的確な演出があってこそ。また、『007』シリーズで培った活劇の基本「走る」、サスペンスの基本「隠れる」を上手く使っている。物語の要所でベネディクト・カンバーバッチやマーク・ストロングといった大スターを配置しているのも心憎い。塹壕でタバコを吹かしたり、スキットルで酒を飲んだりと、「第一次世界大戦映画」として見たい映像も押さえてくれているし、死体をきちんと見せてくれるのも嬉しいポイント。個人的にはイイ感じに白骨化している馬や、犬の死体など、人間以外の死体も平等に見せてくれるのが好きだった。戦争では人も動物も平等に死ぬのである。


 本作は全編ワンカット風の撮影が最大の売りであるが、それ以上にサム・メンデス監督の新境地として魅力的だ。これまで培ってきた技術と新しい挑戦。彼は今回、自分にはまだまだ大きな「伸びしろ」があると証明してみせた。本作は彼の円熟期の作品にして、新たな代表作となるだろう。(加藤よしき)


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