博報堂、30年働いた非正規社員を雇止め 「雇用継続」命じた判決が痛快だった

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2020年03月21日 10:21  弁護士ドットコム

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広告大手「博報堂」の九州支社で約30年働いていた有期雇用の女性が、「無期転換逃れ」で雇止めされたと訴えていた事件で、福岡地裁(鈴木博裁判長)は3月17日、雇用継続と約700万円の賃金(バックペイ)を認める判決を出した。


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博報堂は、女性が「これ以上は契約を更新しない」などとする「不更新条項」のついた契約書にサインしていることから、契約終了は合意によるものだと主張していた。



一方、裁判所は、サインを拒否すればその時点で契約を更新できなくなるのだから、サインがあるからといって、ただちに明確な意思表明とはみなせないと判断。女性が契約を29回更新してきたことなどを理由に、雇止めを無効とした。



女性の代理人を務める井下顕弁護士は、「裁判所が、安易な雇止めはダメだと牽制した形。実態を判断するので、不更新条項があるからといって、諦めないでほしいというメッセージを感じました」と話した。



●「不更新条項」に意味はある?

2013年4月に施行された改正労働契約法は、同じ企業で5年働いた有期の労働者が望めば、次の契約更新から無期に転換できるとしている。



無期転換の申し込みが可能になったのは2018年4月からで、無期になれば辞めさせるのが難しくなるといった理由から、雇止めされるケースがあいついでいた(2018年問題)。





今回の女性のケースもその1つといえる。女性は1988年4月に入社し、1年ごとの契約を更新し続けてきた。



ところが、2013年の改正労契法の施行を前に、博報堂は契約期間の上限を5年に設定。毎年の契約書にも「2018年3月31日以降は契約を更新しない」などとする「不更新条項」を設けてきた。



これに対して、裁判所はすでに説明した通り、サインを拒めば、その段階で契約が終わってしまうため、サインだけでは、ただちに不更新条項に同意したとはみなせないと指摘。



雇用継続について、女性が博報堂側や労働局に相談していることも踏まえ、合意による契約終了ではないと判断した。



なお、福岡労働局長は博報堂に対して、女性との雇用契約を終わらせるのは、労契法に照らして疑問があるとして、女性と改めて話し合うことを助言していた。しかし、博報堂は受け入れなかった。



●労契法改正前の契約更新を評価

労契法では、有期の労働者であっても、一定の条件を満たしていれば、簡単には辞めさせられないようになっている。



たとえば、労働者側に契約更新を期待することについて、合理的な理由があるときなどだ(労契法19条2号)。この「期待権」は、女性のように何度も契約を更新しているときなどに生じうる。



労働契約法19条2号
当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


裁判所は、女性の契約がほぼ自動的に更新されていたとして、入社した1988年〜2013年については、「いわば形骸化したというべき契約更新を繰り返してきた」とし、「定年まで勤続できるものと期待していたとしても不思議なことではない」としている。



また、改正労契法が施行された2013年以降は、博報堂側も更新の面談を設定し、契約書にも不更新条項を入れるなどして、「期待させないように」してきたが、裁判所は過去の契約状況などを踏まえ、それでも女性の期待は揺るがないと判断した。



5年で終わりと言いながら、博報堂の社内文書には好成績なら更新もありえると書かれていたことも大きかった。これは裁判になってから分かったことですが、無期転換したかどうかは不明ながら、実際に6年目の有期労働者もいたようです」(井下弁護士)



●博報堂側の主張をバッサリ

契約更新について、女性の期待が認められる以上、雇止めの合理性を認めるにはかなりの理由が必要になる。



労働契約法19条本文
(略)使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。


博報堂側は、女性の雇止めについて、人件費を削る必要があったことをあげ、合理性があると主張した。



しかし、裁判所は人件費の削減や業務効率の見直しといった一般的な理由では、雇止めの合理性を肯定するには不十分と判断している。



また、過去のクレームをあげ、女性のコミュニケーション能力が不足しているという主張もあった。



これに対しても裁判所は女性の能力に重大な問題があるとは認め難いと指摘。さらに新卒から30年間雇用しておきながら、会社側がそのような問題点を指摘し、適切な指導教育をしていたともいえないと一蹴している。



●更新拒否恐れ、権利を使えない

事件を振り返って、井下弁護士は次のように話す。



「有期雇用の労働者は、次年度の更新を心配するあまり、有給休暇も使わないし、残業代も請求しない傾向が強い。原告の女性もそうでした。そこを改めようというのが労契法18条(無期転換ルール)で、立法趣旨に立ち返った判断だったと思います」



ただし、不更新条項つきの契約書への署名押印は、無期転換ルールの趣旨を没却するものとして、公序良俗(民法90条)に反し無効とする主張は十分には検討されなかった。



「無期転換逃れに関する裁判例はまだ少数で、これから判断が積みあがってくると思います。博報堂は控訴してくると思うので、しっかり準備したい」


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