有村架純以外では成り立たない絶妙な企画 『有村架純の撮休』は二つの点で異色の作品に

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2020年03月25日 08:01  リアルサウンド

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WOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』(c)「有村架純の撮休」製作委員会

 WOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』が面白すぎる。タイトル通り、日本中の誰もが知る人気女優有村架純が、撮影中の架空のドラマ(『検察官 轟夕子』)が共演者やロケ先の都合などで突然1日だけ撮影休止になったことで、その空いた1日をどのように過ごすかを8つのエピソードで描いたオムニバス作品。企画そのものは、ケイシー・アフレック監督の『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年)あたりをきっかけに、昨今国内外で数多く作られてきた有名人を主人公にしたフェイクドキュメンタリーの一種で特別な目新しさがあるわけではないのだが、この『有村架純の撮休』は二つの点で異色の作品となっている。


参考:是枝裕和、今泉力哉らが描く“国民的女優の休日” 『有村架純の撮休』の見どころを徹底解説


 一つは、それぞれのエピソードが作り手(監督、脚本家)が想像した「有村架純の実像」(ノンフィクション)をもとにした独立した物語(フィクション)となっていることだ。これまで有村架純の出演作品をほとんどすべて見てきたような熱心なファンから、テレビのCMくらいでしか認知してない人まで、すべての視聴者にはそれぞれ有村架純のイメージがあって、それは部分的には似通っていて、部分的には異なっているだろう。本作『有村架純の撮休』では、作り手という点では特権的な立場ではあるが、有村架純リテラシー(略してアリムラシー)的には視聴者と変わらない立場から、有村架純像の8つのバリエーションが変奏されていく。


 もう一つは、その作り手の顔ぶれの豪華さだ。8エピソード中、是枝裕和監督が2エピソード、今泉力哉監督が2エピソードの監督を担当。是枝監督がテレビドラマの演出をするのは、『ゴーイング マイ ホーム』(関西テレビ・フジテレビ系)以来8年ぶり、もちろん『万引き家族』でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞して以降では今回が初となる。もともとテレビのドキュメンタリー作品のディレクター出身で、テレビドラマというフォーマットにも強い愛着がある是枝監督とはいえ、このタイミング、そしてあくまでも5人の監督のうちの1人という立場での今回の参加は、そのフットワークの軽さに驚かずにはいられない。一方、今泉監督で驚かされるのは、そのアウトプットの旺盛さだ。2020年に入ってからだけでも既に『mellow』、『his』と2作が公開されていて、5月には『街の上で』の公開も控えている。しかも、いずれの作品も様々なかたちの恋愛をテーマにした目を見張るような秀作で、その一貫性とアベレージの高さには恐れ入るしかない。ちなみに、脚本はもちろんのこと、有村架純のスタイリングや住んでいる部屋までそれぞれのエピソードによって違うのも、通常のフェイクドキュメンタリーとはまったくアプローチが異なるところだ。


 各エピソードは約24分だが、是枝監督が担当した第1話『ただいまの後に』のみが15分拡大版となる。昨今、日本の女優でもYouTubeに進出して、自身のプライベートを配信する動きもあるが、この『ただいまの後に』の「撮休になって突然実家に帰る」という設定はまさにそれを予見していたかのようでもある。風吹ジュン、満島真之介をはじめ優れた役者がしっかりと脇を固めているものの、兵庫県(実際に有村架純の出身地)という舞台設定も含めて、作品のタッチは是枝監督的なリアリズム描写が徹底されている。『ただいまの後に』で印象的だったのは、母親との腹の探り合いの中で、刻々と変化していく有村架純の表情のニュアンスの豊富さだ。「こんな有村架純の表情、これまで見たことがない」という瞬間の連続。そのあまりの相性の良さに、「いつか是枝監督の長編映画に出演する有村架純を見てみたい」と思わずにはいられない。


 一方、作品そのものの批評性がグッと上がるのが、今泉監督が担当した第2話『女ともだち』だ。こちらも、「撮休の日に女ともだちとゆったり過ごしていたら、その女ともだちと親しい男に紹介されることになる」というあるある話(いや、自分は人気女優じゃないので実際にそういう局面が「あるある」なのかはわからないが)。女ともだち役は伊藤沙莉、女ともだちの職場の同僚役に若葉竜也と、今泉作品でお馴染みのバイプレイヤーが登場することもあって、作品のテイスト自体は今泉監督ならではのライトなものなのだが、その内容はなかなか辛辣にして強烈。普段、有村架純が演じることの多い「男子が理想とする“かわいい”女性」像に対して、有村架純自身の口から容赦のない断罪がされる居酒屋のシーンでは、視聴者の誰もが息を呑むはず。個人的には、このシーンの存在だけでも、今回の『有村架純の撮休』という企画の意義は達成されたと思う。また、是枝監督が有村架純の「表情」にフォーカスを当てていたのに対して、今泉監督は有村架純の「身のこなし」にフォーカスを当てているのにも注目。自室のベッドの上でする変な足のポーズの癖など、まさに今泉作品の真骨頂と言えるだろう。


 先ほど「有村架純像の8つのバリエーション」としたように、実際に監督の参加メンバーは5人だが、脚本家はすべてのエピソードが異なっていて、普段は自作の脚本も手がけている是枝監督は演出のみ、今泉監督も第6話『好きだから不安』の脚本は自身で手がけているものの第2話『女ともだち』の脚本はペヤンヌマキ。つまり、『有村架純の撮休』は有村架純という素材を元にした、それぞれの監督にとってだけではなく、それぞれの脚本家にとってもショーケース的な作品になっている。


 ただ、自分が最も感心したのは、それぞれのクリエイターの期待に100%以上の演技で応えている、有村架純の女優としての多才さとポテンシャルだ。こんな面白い企画ならば、他の女優でも見てみたいと一瞬思ったが、それはきっと違うのだ。この作品の仕組みの面白さが万全に発揮されるためには、有村架純くらいそのイメージが広く認知されている女優じゃなければいけないし、そもそも「撮休」が特別なことであるほど超多忙な女優じゃなればいけないし、その上で演出や脚本を超えていく演技の基礎体力がなければいけない。結論として、2020年の日本において有村架純以外にはできない絶妙な好企画、それが『有村架純の撮休』だ。(宇野維正)


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  • 架純ちゃん めちゃめちゃ可愛いですねwww
    • イイネ!13
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