己龍 九条武政に聞く、YouTube活動から見出したヴィジュアル系シーンの活路 「夢を見ることができなくなったら終わり」

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2020年03月29日 13:31  リアルサウンド

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写真九条武政
九条武政

 己龍は2010年代のインディーズヴィジュアル系シーンを牽引したバンドだ。そんな彼らが2年前から所属プロダクション・B.P.RECORDSのチャンネルで、YouTube動画の配信を始めた(昨年11月からはバンド個別チャンネルに以降)。機材紹介や楽曲解説だけでなく、「利き手と逆で演奏してみた」、「1時間でパートチェンジって出来る?」といった一風変わった演奏動画から、ヴィジュアル系の特徴であるメイクを生かした「本人だったら目元の写真だけでいつの自分か解る説」など、様々な動画の更新を続けている。何故YouTubeに挑戦したのか、己龍のリーダーでギタリストで、己龍チャンネルの動画編集を主に担当している九条武政に話を聞いた。(藤谷千明)


(関連:2020年現在のシーンにおける“V系っぽい歌詞”を構成するものは? 己龍、BugLugからヒプマイ 四十物十四までを分析


■ヴィジュアル系への危機感を覚えても、行動しなきゃ何も変わらない
――この10年くらいのヴィジュアル系シーンを振り返ってみると、面白い動画をアップして注目を集めるという戦略は、ゴールデンボンバーがニコニコ動画でのネタ動画がきっかけでブレイクしたことはもちろんですし、Resistar Records所属バンドがYouTubeでの学力テスト動画を公開するなど、そのコミカルな様子が新規ファン獲得の間口になっていました。まず、己龍チャンネルの前身であるB.Pチャンネルが、どうして2年前にYouTubeでの動画配信に挑戦したのかをお伺いしたいです。


九条武政(以下、九条):現在の世間の流れを見ていると、昨日流行ってたものがもう今日冷めているくらいのスピード感じゃないですか。それに比べて僕らのいる世界、ヴィジュアル系は良い意味でも悪い意味でも閉鎖的というか、「世間に遅れをとってる」感覚が拭えなかったんです。


――ヴィジュアル系には、昔ほどではないですが一定数のファンが存在しています。それ故にある程度の安定した活動はのぞめるものの、新規ファンが少ない分、外部と隔絶されてしまうと。


九条:そうですね、もちろん僕らはファンを第一に活動はしているんですけれども、長く続けていく以上、「夢を見て活動したい」という気持ちも強いんですよ。自分達をもっと多くの人に知ってもらいたいし、もっと大きな会場でライブがしたい、それに僕達に夢を託してくれているファンも沢山いると思うんです。そこを模索した上で、B.P.チャンネルで動画を毎日更新するようになったんです。


――所属バンド全員でメントスコーラをされていましたね(笑)。ここまでYouTuber的に「寄せた」バンドは珍しかったと思います。当初は周囲から反発もあったのではないでしょうか。


九条:もちろんありました(笑)。


――不安になりませんでしたか?


九条:最初は僕達もどんな動画を出したら良いか分からない手探り状態だったので、「ヴィジュアル系らしくない」と反発していた人の気持ちは分かりますし、自分たちも不安な気持ちがなかったといえば嘘になるけど、活路を見出せたって気持ちも強かったんです。それに一度決めたこと、信じた道を貫き通すしかないじゃないですか。途中でやめるのってダサいし。


――それはたしかにそうですね。


九条:それに、この数年ヴィジュアル系のシーンの流れが悪くなってきたように感じていて。でも、ただ危機感を覚えているだけじゃ何も変わらないじゃないですか。何か行動しなきゃ何も変わらないと思って始めたことでもあります。1年以上やってきて、ようやく定着してきた感はありますね。


――動画の企画はどのように出しているのでしょうか。


九条:企画は参輝が出してくれてることが多いですね。企画会議を行うというよりは、ライブハウスの楽屋で「こんなんやったら面白いんじゃないか?」「あ〜、いいじゃんいいじゃん」みたいなやりとりです。本当に日常会話の中で決めてますね。


――スタート当初は、さきほどのメントスコーラだったり、5000万円をATMに入れたり、ドッキリだったり、YouTuberに「寄せすぎた」動画を公開している印象もありました。最近はバンドリハーサルや利き手の逆で演奏する動画だったりと、バンドの要素を強調した動画が増えたことも支持につながってきているのだと思います。


九条:それも試行錯誤の結果、B.Pチャンネルの動画毎日更新をやってわかったことではあるんですよね。今では自分達にしか出来ない「バンド」、「音楽」を主軸にやっています。最初は僕らもどんな動画を出したらいいか、判断がつかないところはありましたし。だから自分が見て好きだった動画の真似をしたり。まあATMの動画なんかも、MCでは「5000万円〜〜!」なんてネタにすると盛り上がっていましたけど(笑)。それに、続けていくにつれて、「最初は反対していたけど、面白くて見ちゃってます」とメッセージをくれるファンの人は増えましたね。コメント欄やファンメールでは「動画でバンドのことを知りました」という方も目立つようになってきました。ありがたいことに。あ〜、辞めずに続けてきて良かった〜って(笑)。


――人気動画の傾向はありますか。


九条:一番反響があるのは「極限リハーサル」シリーズだったり、演奏系の動画ですね。


――やはりファンからすると、楽器を弾いてる姿が一番だということですね。男女比や年齢の傾向は?


九条:ライブ会場は女の子が多いんですけど、YouTubeチャンネルを観ているのは意外と男の子も結構見てくれているんです。年齢層は20代前半の層が一番多いと思います。こちらはライブに来てくれる層と同じですね。もう少し年齢層を広げたいとは考えていますが、これからの課題ですね。YouTubeの視聴者層はもう少し若い子が中心だとも思うので、そこにもアプローチできたらいいですよね。


――そこが課題ということですね。また、近年はYouTubeにMV以外の動画を公開しているミュージシャンも増えていますし、YouTuberの音楽活動も当たり前になりましたが、現在注目しているアーティストはいますか?


九条:色々見てますよ。毎日のように「バンド YouTube」で検索してます(笑)。


――なんてストレートな検索ワード! 


九条:ウチのフェス(※昨年11月に幕張メッセで開催された『B.PチャンネルFes.』、ゴールデンボンバー、現在はYouTuberとして活躍するヴァンビがボーカルを務めていたバンド・LOG-ログ-の1日復活などで注目を集めた)でも共演したこともありますが、夕闇に誘いし漆黒の天使達はすごいですよね。一見バンド活動とは関係ないような動画でも、メンバーの個性や関係性がわかるじゃないですか。その上でライブのダイジェストや演奏動画を見ていくと、バンドとしても好きになってくる。そういうことができるのはすごくいいですよね。


――彼らも所属は大手YouTuber事務所のUUUMですが、バンドからキャリアをスタートさせていますからね。先日己龍チャンネルの「利き手と反対の手で演奏せよ」でも、ネタの許可をとるために夕闇に誘いし漆黒の天使達のともやんさんに電話をかけていましたね。


九条:フェスに出てもらってから、友達としての関係も続けてもらえているので(笑)。やっぱりバンドマン同士だから、マインドに通じるものがあるんですよね。飲みに行った時も朝までになっちゃうぐらいな感じです。すごいですよね、若いのにこの仕事量やってるの? と思って(笑)。


――己龍にしても夕闇に誘いし漆黒の天使達にしても、バンド活動と並行してYouTube更新を続けるのは、大変だと思うんです。


九条:大変ですけど、楽しいですからね(笑)。どうして楽しいかというと、喜んでいる人がいるからで、やっぱりそこに尽きると思うんです。人が楽しくないものをやっても僕は楽しいと思えないんで。僕らは編集作業も自分でやっているので、時間かかっちゃうんですけど、そこをモチベーションに頑張れてます。


■動画編集と曲作りで使う脳味噌は似ている
――これまで動画編集の経験は?


九条:B.P.チャンネルが始まったタイミングで、Adobeのデジハリ・オンラインスクール(通信講座)で、テロップの打ち方から勉強したんですよ。


――そこからですか!? ちなみに、動画編集を外注しようとは?


九条:だってそれは……、お金かかるじゃないですか(笑)。それに、これはYouTubeを見るようになって気がついたことなんですが、YouTubeって自分たちが好きなもの、楽しいと思ったことを撮影して、自分たちで編集するから面白いんですよ。


――なるほど。YouTuberの方も、編集は自分で、あるいは信用したスタッフでないと任せられないという方は多いそうですね。


九条:実際に撮影の現場に行ってない人が編集するのと、現場で空気を知ってる人が編集するのでは、テロップの打ち方や効果音の入れ方も絶対違うと思います。だからこそ、自分たちでやらないとダメなんでしょうね。


――そしてB.P.RECORDSというプロダクションは、事務所にスタジオが併設されていたりと、映像制作に強い印象があります。そこもYouTubeチャンネルをスタートさせたことと関係あるのでしょうか?


九条:そうなんですよ。ウチにはMV制作もできるくらい、有能なスタッフたち、つまりは映像の先生がいっぱいいるんですよ! わからないことがあれば、すぐ相談できるんです(笑)。


――万能なサポート体制が!


九条:そういうサポートがあったのは大きいですね。


――編集は九条さんと、ギターの酒井参輝さん(インタビュー時は網膜剥離治療のため欠席)のおふたりでやっていると伺いました。


九条:主な編集は僕らですね。そこにひよりん(ベース・一色日和)と、事務所のスタッフが少し手伝ってくれている感じですね。


――未経験から1年で、動画編集の技術もずいぶん上達されましたよね。たとえば、「レペゼン地球」や「カルマ」らが多用するような、ボケに音楽をかぶせて歌詞でツッコミを入れるような編集も見られますが、あのあたりのYouTuberも参考にされているのでしょうか?


九条:参考にしているというか、普段好きで見てるから、自然と出ちゃうって部分もありますし、自分達の音楽を動画にのせることで音楽を伝えられるなとも思ったんです。そこで視聴者さんが己龍の音楽に触れたいって思えたら最高だし、己龍のファンだからこのボケが分かるっていいですよね。編集していて思うのが、曲作りと使う脳味噌がめっちゃ似てるんですよね。作曲を始めた頃って、オリジナルのつもりが好きなバンドの曲にそっくりだったりするんですよ。動画編集も似たようなところがあると思います。最初は真似でもそこから自分のオリジナリティを出していけたらいいって思ってやってます。


――ちなみに編集で気をつけてることとかありますか?


九条:う〜ん、マネージャーの顔にモザイクをかけるとか(笑)。


マネージャー:プライバシーは大事ですね!(笑)。


九条:あとはテンポ感も大事ですよね。色々なYouTubeチャンネルを見てると、編集のテンポに時代の流れも感じるので、そこは意識しています。


――たしかに、YouTubeの編集の流行の移り変わりのスピードは早いですね。


九条:同じYouTuberでも、去年と今年の動画では全然違ったりしますよね。そういった研究は怠らないようにしています。それに、最近は芸能人のYouTubeチャンネルも増えてきて、“テレビ寄り”のクオリティの動画も増えてきたでしょう。「そんなのウチで同じような動画は作れねーぞ!」という焦りもあったりして。そこは勉強ですね。きっと今年以降、5Gが来て画質も変わりますし、もっと動きがあると思います。


――そこまで考えてますか。


九条:そりゃあ、売れたいですからね(キッパリ)。せっかくやるなら、見ている人を楽しませたいし、一番になりたい。それに、何をやるにも夢を見ることができなくなったら、終わりだと思うんです。


――また、動画投稿を始めてから、バンドメンバー同士の関係に変化は起きましたか?


九条:空気はすごく良くなりました。普通に楽屋が明るくなったというか(笑)。元々仲が悪いわけでもなかったけれど、楽屋内の会話が減ったなーみたいな時期もあったんですよ。


ーーつまり、動画のネタなどの話題を通してバンド内のコミュニケーションが活発になったと。


九条:そうそう! もちろん仕事の量は増えたし、忙しくなったのは間違いないけど、前よりもさらに気持ちよくバンドができるようになりました。それは大事なことじゃないですか。バンド内の雰囲気って、ファンの子にも伝わってしまいますし。


――昨年はチャンネル主宰のフェスも開催しましたが、今後考えているイベントはありますか?


九条:大運動会、やりたいんですよ!


――それは『ヴィジュアル系大運動会』ということですか(※正式名称は『ドキッ!! ビジュアル系だらけの大運動会!』。かつてバラエティ番組『パパパパパフィー』で行われた企画。La’Mule、美流沙女など様々なヴィジュアル系バンドがフルメイク、衣装で運動会をするというシュールな光景がお茶の間をざわつかせた)。


九条:もちろん! 『ヴィジュアル系大運動会』、今やっても絶対に面白いと思うんです。何年か前に『BREAK OUT』(※テレビ朝日系列の深夜音楽番組。90年代はヴィジュアル系メインだったが、現在はアイドル、声優など様々なジャンルを紹介する)でもやっていたんですが、3バンドくらいの規模だったから、もっと大きな規模で、まわりのバンドを巻き込めるような形でやりたいです。やっぱり僕らはヴィジュアル系の畑で育って、ヴィジュアル系シーンで生きてるし、これからもヴィジュアル系シーンで生きていくつもりなので、ヴィジュアル系を盛り上げたいという使命感もあるんです。


――楽しみにしています。そして目下、新型肺炎の感染拡大防止のため、イベントなどの「自粛」が続いています。YouTubeチャンネルを使っての活動は考えていますか?(※取材は3月上旬)


九条:現在、無観客ライブやトークの配信は考えています(※己龍はツアー公演日にメンバーと親交の深いバンド仲間を招いてトークを生配信、3月15日の新横浜 NEW SIDE BEACH!!公演にて無観客ライブを行った)。今後も己龍チャンネルを使ってファンとのコミュニケーションをとっていきたいです。できることがあれば、すぐに行動に移せたらと考えていますね。


――コンスタントに動画配信してきたノウハウを、この状況で活かせるのは不幸中の幸いかもしれませんね。


九条:そうですね。SNSの文字や短い動画だけだと、伝えられないこともあるので。本当にやり続けてよかったと思っています。
(藤谷千明)


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