『水曜日のダウンタウン』が仕掛けた不思議なテレビ体験

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2020年03月31日 17:03  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

写真浜田雅功
浜田雅功

テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(3月22〜28日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

「この番組は2月8日に収録したものです」

 不思議なテレビ体験だった。25日の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)は、画面左上に次のようなテロップが出て始まった。

「この番組は2月8日に収録したものです」

 見ていた私は、最初、新型コロナウイルスの関係だろうかと思った。この日の『水曜日のダウンタウン』には観客がいたけれど、少しずつ無観客の番組も増えている。批判を避けるために、収録日を明示したのだろうか? そう思った。

 しかし、そんな対応をしている番組はほかにない。なぜ『水曜日のダウンタウン』だけが? 疑問は残った。

 疑問をよそに、番組はいつものように進行していく。この日最初のプレゼンターはチョコレートプラネット。松本人志とゲストが2人を迎え入れる。

 今回最初に検証する説は、「下層YouTuber地獄説 第2弾」。4年半ほど前に扱われた説の追加検証だ。以前に比べると人数も増えたYouTuber。しかし、誰もが人気者になれるわけではない。動画の再生回数がほとんど伸びないケースも多い。いわば“下層”に位置する彼ら・彼女らの動画は面白いのだろうか? それとも”地獄”なのだろうか? そんな、例によって悪意てんこ盛りの説である。

 だが、このあたりから、番組の雰囲気が通常と違うことに気づき始める。不思議な画角で切り取られた画面。流れないオープニングのタイトル映像。いつもは浜田雅功が「下層YouTuber地獄説、第2弾ー!」という具合に高らかに読み上げる説のタイトルを、ナレーターの服部潤がしっとりと読んでいる。

 そう、浜田がいない。浜田の声も姿も、テレビ画面から一切消されている。番組冒頭には収録日のテロップ。こうなると当然、次のような結論に達する。

 浜田に何かあったのではないか?

 もちろん、一筋縄ではいかないこの番組。これもまた何かの説に関係しているのかもしれない。しかし、確証もない。昨年は、一連の吉本興業をめぐる騒動や、薬物関連疑惑での逮捕などで、収録にいたはずの出演者が編集でいないことになっている番組をたくさん目にした。そんなときはいつも、「この番組は○月○日に収録したものです」というテロップが番組冒頭に出ていた。

 新型コロナ関連なのか? “説”なのか?  それとも、考えたくないことだが、浜田が何か不祥事を起こしてしまったのか――? さまざまな可能性を残しながら、番組はそのまま進行していった。画面には“下層YouTuber”が展開する”地獄”が、次々に映し出されていった。しかし、そこに顔をしかめながらツッコむ男の姿はなかった。

 番組が放送されたタイミングも、奇妙なハマり方をしていた。テレビでは連日、新型コロナウイルス関連のニュース速報が、画面上にテロップで表示されていた。東京五輪・パラリンピック延期の方針が政府から発表されたのは、番組放送の前日、24日のことだった。

 そして25日。『水曜日のダウンタウン』が始まる2時間半ほど前、NHK総合では『2020スタジアム』という、東京五輪・パラリンピック関連の番組が生放送されていた。司会は、NHKで大会のスペシャルナビゲーターを務める嵐の5人。聖火リレーを翌日に控え、大会への機運を高める放送になるはずだった。

 しかし、番組冒頭、櫻井翔が次のように告げる。

「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界中がいま大変なことになっています。この夏に予定されていました東京五輪・パラリンピックは、2021年に延期することになりました」

 櫻井がそう語る画面の上部にも、「不要不急の海外渡航をやめるよう要請へ 全世界対象は初 感染拡大で外務省」というニュース速報のテロップが入る。放送時間も当初の予定を大幅に短縮。20時43分までの放送予定だったところを20時13分で終了し、東京都知事の緊急の記者会見へと切り替わった。都知事は会見で、週末の不要不急の外出自粛を要請した。

 そんなタイミングでの、『水曜日のダウンタウン』の放送だった。新型コロナウイルスの影響で社会が不安定になり、テレビ画面にもニュース速報を知らせるテロップが数多く流れる中での、例のテロップと、浜田の不自然な不在だった。

 浜田に何かあったのか――。そんな疑問と不安がよぎる。しかし、番組では何もなかったかのように、説の検証が続く。「下層YouTuber地獄説」に続いてお送りされたのは、「嫁『坊主にしたい』と言い出して夫から許可もらうの困難説」、そして「自分の衣装を間違えて着てしまった師匠がマネージャーに激昂していたら『それ僕のなんですけど…』とは言い出しづらい説」。いずれも芸人を対象としたドッキリ企画だ。

 迎えた番組ラスト。最後の説のプレゼンターだったサバンナ・高橋が、おもむろに語りだす。

「本日は、もうひとつ説がございます」

 そして、画面に次の文字が映される。

「『この番組は○月○日に収録したものです』のテロップを冒頭に出して浜田をひたすらカットしてOAしたら何かあったと思う説」

 冒頭のテロップと、画面から消えた浜田。これもまた、番組中にひそかに検証されていた説のひとつだったのだ。

 もしかしたら説かもしれない。そんな想像もしていたけれど、それでも種明かしを聞いて驚いた。と同時に、安堵した。

 その上で思った。この説、浜田以外で成り立つだろうか? アウトローの気配から縁遠い人物、たとえば恵俊彰を対象にした仕掛けだったら、「もしかしたら逮捕されたのかも」といった疑念が、疑念にとどまらず確信になっていたかもしれない。種明かしの後も、ネタとしてスムーズに受け止められなかったかもしれない。松本は浜田をずっとアウトローな人物としてネタにしてきたけれど、そんなダウンタウンの長い時間の積み重ねが、今回の説の立証に最も必要な条件だったのだろう。

 また、この説が特殊なのは、番組の中で検証結果が示されなかった点だ。今回の仕掛けについて事前にスタッフから聞いていたという松本は、次のように言う。

「説立証されるかどうかは、オンエアされるまでわからない」

 数多くの説にひとまず答えを出してきた『水曜日のダウンタウン』は、とうとう番組内で答えを出さない説を放送したのだ。

 さて、時間は23時の少し前、この日の『水曜日のダウンタウン』の放送がすべて終わる。同番組の視聴後特有のモヤモヤとした余韻が、しばらく残る。その余韻の中で、この日の説を振り返って気づく。芸人を対象にドッキリを仕掛けていた番組が、同時に視聴者にもドッキリを仕掛けていたことを。”下層YouTuber”を笑って始まった番組が、テロップひとつで右往左往する視聴者の反応を笑って終わったことを。

 画面の向こうの他人を安全圏から笑う視線が、いつの間にか反転し、自分たちに向かう。なんだか不思議なテレビ体験だった。

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