クラムボン ミト×Q-MHz 黒須克彦がベーシスト視点で語る、アニソン制作の現在 「いい意味で“カオス”になっている」

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2020年04月13日 12:41  リアルサウンド

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写真左からQ-MHz 黒須克彦、クラムボン ミト(写真=池村隆司)
左からQ-MHz 黒須克彦、クラムボン ミト(写真=池村隆司)

 クラムボン・ミトによる、一線で活躍するアーティストからその活動を支えるスタッフ、エンジニアまで、音楽に携わる様々な”玄人”とミトによるディープな対話を届ける対談連載『アジテーター・トークス』。今回は、作編曲家でベーシストの黒須克彦との対談をお届けする。


参考:クラムボン・ミト×ニラジ・カジャンチが語る、ミュージシャンが求めるスタジオの条件とサウンドの潮流


 様々なアーティストのサポートベーシストとして活躍しつつ、アイドルからJ-POP、アニソンまで数多くの楽曲提供を行ってきた黒須。さらに作詞家の畑亜貴やUNISON SQUARE GARDENの田淵智也らと共に、プロデュースチームQ-MHzを結成するなど、日本の音楽シーンに多方面から深く関わってきた彼は、ここ10年の潮流をどう見ているのだろうか。同じベーシストということで「ベース談義」に花を咲かせつつ、多岐にわたるトピックについてざっくばらんに語り合ってもらった。(黒田隆憲)


■この10年で作家にスポットが当たるようになってきた


ミト:最初に私たちが会ったのは、黒須くんがサポートでベースを弾いていたメグさん(meg rock)のライブの打ち上げでしたよね。あれは確か2010年になったばかりだったと思います。僕はアニソン作家としての活動をスタートしたばかりで、他の作家さんがどんな活動をしているのか色々掘っていた時期だったので、その過程でもちろん黒須くんの名前も知っていたし、メグさん周りのプレーヤーたちがどんな活動をしていたのかも予め調べていました。私がアニソン作家周りの人たちと会うようになったのも、多分その頃からだったと思います。


黒須克彦(以下、黒須):覚えています。メグちゃんは作家活動をしつつアーティスト活動も積極的に行うスタンスの方だったので、様々な交流の場を僕に設けてくれた貴重な存在でした。彼女はとてもオープンで、周囲にはいつも作家やアーティストなど、様々な業界の人たちが混じり合っていて。メグちゃんが、僕の交友関係を広げてくれたと言っても過言ではないですね。


ミト:彼女が「ハブ」であったことは間違いないですよね。僕自身の初のソロ作『DAWNS』(2011年)でも、メグさんが歌詞を書いてくれていますし、その時も本当に気兼ねなく、「うん、やるやる!」という感じで引き受けてくれたのを覚えています。考えてみれば、今は作家同士のネットワークってだいぶカジュアルに広がっていますよね。それこそLINEでグループを組んで連絡を取り合ったり、交流会やワークショップを開いたりしてる。僕が作家を始めた頃は、ひたすら家にこもって作業ばかりしていたので(笑)、なんだか不思議な感じがします。


黒須:奇しくもその10年の間に、作家やクリエーターに以前よりもスポットが当たるようになってきたというか。それこそミトさんのような、表現者としてステージに立っていた人がどんどん作家としての活動も始めるようになりましたよね。それで僕らにも光が当たりやすくなったところはあると思います。


ミト:黒須くんの仕事で、やはり筆頭にあげられるのは「夢をかなえてドラえもん」(2007年)ですよね。あの巨大コンテンツ『ドラえもん』がリニューアルし、その新しい主題歌を同世代の作家が書いていることは本当に衝撃的でした。時代の転換期をリアルに感じたというか。変わらないと思っていたものが変わっていく、その現場に近しい人がいるということですからね。もちろん、他の作品もたくさん知っていたし、アニソン周りや作家業周りを掘っていけば必ずぶち当たる人だったんですけど。


 今考えてみると、2007年、2008年はアニソン周りでは色んなことが急激に変化していた気がします。同じ時期のJ-POPシーンを振り返ってみると、よりそう思う。神前暁さんがアニメ『らき☆すた』のオープニングテーマ、「もってけ!セーラーふく」をリリースしたのも2007年ですし、アニソン周辺で活躍するクリエーターたちが、この頃からシーンを席巻し始めたのはある意味では必然だったのかもしれない。ちなみに黒須くんがアイドル楽曲を手がけるようになったのは、『ドラえもん』の後?


黒須:後ですね。乃木坂46の「ぐるぐるカーテン」をリリースされたのが2012年だから、5年くらいインターバルがあります。それまでは基本的にアニソン周りが中心で、少しずつJ-POPフィールドにも軸足を置くようになっていった時期ですね。


ミト:黒須くんの楽曲は、ベースラインにも特徴がありますよね。例えば僕は、サポートベーシストとして黒須くんの楽曲をライブで演奏することが時々あるんですけど、8小節くらい弾いたところで「あ、これ黒須くんの曲だな」ってクレジットを見なくても分かる。


黒須:(笑)。それはやっぱり、スタイルだったりルーツ的なものだったりするんでしょうかね。曲作りの段階では、そこまでベースのことを考えていないんですけど。


■ベースに「作家性」が出るところが重要


ミト:いつも曲作りのどの段階でベースラインを考えています?


黒須:実をいうと、アレンジの最後なんですよ。最初の段階でラフのベースラインを入れておくことはありますが、ちゃんとフレーズを考えるのは他の楽器がすべて決まってから。


ミト:僕もそうです(笑)。もうほんとに最後の最後。上モノとリズムパターンを決めて、メロディラインも「これで大丈夫だな」というところまで固まってからようやく弾く、みたいな。ちょっと「筆入れ」っぽい感じかも。


黒須:そうそう、「筆入れ」分かります(笑)。


ミト:ただ最近は、自分の書いた楽曲ではあまりベースラインを動かさなくなりましたね。それは歳を取ったからなのか(笑)、それとも音楽シーン全体の傾向としてそうなってきているのか……自分でもちょっとよく分からないから、黒須くんにぜひ聞きたかったんだけど。


黒須:確かに僕も、自分の楽曲ではあまりベースを動かなくしているかもしれません。おそらくそれは、他の人の楽曲でベースを弾くときに色々オーダーされることが多いからじゃないかと、あえて自分の曲では、そこまで弾きまくらなくてもいいと思ってる(笑)。


ミト:田中秀和くんとのような作家が登場して、「オーギュメントコード」なんていう用語が、楽器をやらないリスナーにも浸透するようになってきたじゃないですか。そういう和声的な部分の面白さに最近は注目が集まっている気もしますね。その次にリズムで、最後にベースラインという優先順位(笑)。なんとなく、私自身の体感としてそう思います。


黒須:僕自身、好んで聴いてきたのがZIGGYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのような、シンプルな8ビートをひたすらガシガシ弾く音楽だったというのもあるかもしれないですね。出来るだけベースラインはシンプルに削ぎ落として、たまにアクセントとしてメロディックなベースラインを持ってくると「オイシイな」と思うタイプなので。


ミト:そんなこと言ってるけど、黒須くんのベースラインは決してシンプルじゃないですよ(笑)。ベースって、4弦で基本は単音弾きだからシンプルな楽器だと思われがちですけど、実際に音を出すまでのプロセスにもベーシストそれぞれのカラーが如実に出るんですよ。もっとも分かりやすいのはスライド。黒須くんのスライドは、もう黒須くんのスライドでしかない(笑)。この位置からこのスピードで来るっていうのがすごくよく分かるんですよね。


 後は、8ビートでもその音価というか。黒須くんのベースサウンドは、太くてドライブしているんですよ。一つ一つの「玉」が大きく聞こえる。僕の場合は割とアタックを際立たせ、低域補正というよりはリズム側に回る発想なので、アプローチの仕方がちょっと違うんです。もちろん、どちらが「良い/悪い」の話ではなくスタイルの違いですが。なので、黒須くんのベースラインをライブで再現するときには、いつもの発想を変えないと上手く演奏できないんです。基本的に私は他人のベースラインをコピーするのが大好きで、家でも普通にCM観ながらKenKenのベースとかなぞったりして遊んでるタイプなんですけど(笑)、黒須くんのベースはコピーし甲斐があるんですよ。


黒須:僕からすればミトさんのベースは、絶対に思いつかないスタイルだなと昔から思っていました。フレージングやグルーヴももちろんですが、ドライブした時の気持ち良さみたいなところが特に好きですね。スライドして次の音へと移動する際の、いわば「うねり」のようなプレイを聴くと、自分はまだまだだなと痛感します(笑)。


 2018年に赤坂BLITZで行われたイベント(『musicるFES−Spring Edition−』)で、久しぶりにミトさんのベースラインを生で聴かせてもらったんですけど、音がめちゃ太くてびっくりしました(笑)。僕も極力太い音を出すつもりでいるんですけど……。


ミト:いやいや、めちゃめちゃ太いじゃないですか(笑)。


黒須:楽器や機材周りもそうですが、やはり弾き方から生み出される太さに圧倒されましたね。


ミト:私、あまりベーシストに自分のプレイを評してもらう機会ってあまりないから、顔が赤くなりますね(笑)。そういえば以前、ある雑誌で沖井くん(沖井礼二)とベーシスト対談をさせてもらったことがあるんですけど、沖井くんのベースも独特なんですよ。楽曲に「無理をさせてる」ベースラインというか、緻密に構築していったアレンジをベースでぶっ壊すようなアプローチをしていて(笑)。そこが彼の楽曲の特徴にもなっているんですよね。ほんと、ベースラインって「作家性」が出るというか。だからこそ、作家にベーシストが多いとも言えるかもしれない。堀江晶太くんもそうだし、田淵智也くんもそう。


黒須:ああ、確かに!


ミト:MONACAの広川恵一くんもベーシストですよね。「いい曲書くなあ」と思う作家は大抵ベーシストと言っても過言じゃない。世間からはよく、「ベーシストはアンサンブルを俯瞰できるからアレンジャーに向いている」みたいな言い方をされますけど、それより何よりベースに「作家性」が出るというところが重要なんじゃないかと思いますね。


■「アニメに曲なんか書かねえぞ」みたいなアーティストは最早いない


黒須:ほんと、色んなタイプの作家さんがここ10年で登場しましたよね。それこそロックバンド出身の人もいれば、ジャズ畑の人もいる。ファンク、プログレ、ダンスミュージックなど、様々なジャンルの「本職」の方々がアニソン界隈にも増えてきて、いい意味で「カオス」になっている2020年というがします。


 そして、そういう人たちが書いた楽曲を、例えば『リスアニ!LIVE』のようなイベントでは、ハウスバンドとして演奏する機会があって。そこで色んなスタイルを演奏することが出来るのは非常にありがたいんですよね。で、毎年『リスアニ!LIVE』に参加させてもらって思うことは、ここ数年でジャンルの細分化がさらに進んでいるということです。例えば、ASA- CHANG&巡礼の「花」が、リアレンジされて『惡の華』のエンディングテーマに起用されるとか、どういう経緯で起きるのですかね?(笑)


ミト:新たに放送されるアニメのパイロット版が出来た時、「こんな感じの曲を」みたいに仮で既存曲を入れておくことがあるんですよ。僕も以前、劇伴の仕事で呼ばれた時に監督から「実は制作中に、クラムボンの曲をずっとイメージしていたんです」と言われたことがあって。そんなふうに監督の頭の中に楽曲のイメージがあり、そこから引っ張ってくるパターンは結構あるんじゃないかと。ひょっとしたらASA- CHANG&巡礼も、そんな感じで起用されることになったのかもしれないですよね。これはあくまでも僕の想像ですが。


 やっぱり、ここ最近のアニメ監督の方たちって、サブカル方面の造詣が非常に深い人が多くなってきていますよね。要するに、私たちと同じ世代の監督が増えてきている。『推しが武道館いってくれたら死ぬ』のエンディングテーマが、えりぴよ(CV:ファイルーズあい)による松浦亜弥「♡桃色片想い♡」のカバーだったりするのとは全く違う文脈の話ですが。


黒須:なるほど。昔だったら監督から「こんな感じの曲を」という要望があった際、職業作家さんに「それふうの楽曲」を発注する、という流れだったのが、ここ10年は「それよりも本物に頼んじゃおう」という流れになってきているんでしょうね。もう、誰がアニソンを手掛けてもおかしくない状況になってきているように思います。


ミト:以前だったらアニソン界隈に介入することに違和感を持つ人もいたと思うのですが、そういった垣根はほとんど消えたといっていいのかもしれない。「アニメに曲なんか書かねえぞ」みたいなアーティストは、最早いないと思う。


黒須:その突破口を開いた一人は、紛れもなくミトさんですよ。


ミト:いやいや(笑)。とにかく私はアニメが好き過ぎたので、むしろ自分がそこに安易に介入してはいけないってずっと思っていたんです。やるなら本気でやらなきゃいけないし、何かの真似事になるわけにはいかない。そのためには研究し尽くさないと危険だと思っていましたね。実をいうと、クラムボン結成してすぐくらいからオファーは頂いてたんですよね。しかも、そこそこ大きなコンテンツだったので、その時には踏み込めなかったのですが。


黒須:そんなことがあったんですね。


ミト:なので、いまだに自分が「突破口を開いた」という自覚はないんです(笑)。それこそASIAN KUNG-FU GENERATIONや、YUIちゃんの『鋼の錬金術師』のような、愛のあるコラボが色々あった中で、たまたま僕らもやらせてもらえるようになっていったというか。ただ、豊崎愛生ちゃんの一連の楽曲やアニメ『花咲くいろは』のエンディングテーマ(「はなさくいろは」)など、「やるならどこにもないような楽曲を作りたい」と思って取り組んでいたら、どこにもなさ過ぎな楽曲ができたかな、とは思っています(笑)。


 話は戻るのですが、ライブで人のベースラインを色々コピーできるのは、結構ありがたいですよね。自分の体に「違う文脈」が流れ込むような感覚というか。私、自分ではあまりスラップとかやらないのに「スラップベースを弾く人」と思われていたりするのは、きっと自分以外のベーシストが考えたフレーズを演奏する機会が多いからだと思います。


黒須:確かにそれはありますね(笑)。ただ、今は新型コロナウイルス肺炎の影響で、なかなかライブもできない状況になっていて。4月以降の状況次第で、業界的にも自分の活動的にも一つの転換期がくるのではないかと思っていて。


ミト:本当にそう思います。今、音楽業界のシステムから何から全て抜本的に見直さなければならない局面に来ている。比べるものではないですが、所謂3.11を超えた事態というか……。今、みんながどうやって過ごしているのかすごく気になりますね。作家としては、とにかく作品を作り続けるしかないと思うのだけど、バンド仲間やテックさん、ステージ周りのスタッフ……みんなSNSの書き込みを読む限りでは、本当に深刻な様子が伝わってきて。それをこれからどうするべきなのか、各々で考えるべき日々に来ています。


 例えば「無観客ライブ」で収益を上げられたとしても、実際にお金が入ってくるのはずっと後ですからね。そもそも、全てのミュージシャンが同じことを出来る資本や体力を持っているわけじゃない。もちろん、今はそれぞれができることを試行錯誤しながらやっていることに意義があるのかと思うんですけど。……すみません、脱線してしまいましたね(笑)。とにかく、一刻も早く収束してくれることを願います。黒須くん、今日はありがとうございました。


黒須:こちらこそありがとうございました。(黒田隆憲)


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