『テラスハウス』東京編:第37〜40話—— 多様性を排除する嫌な空気が蔓延している

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2020年04月21日 07:01  リアルサウンド

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(c)フジテレビ/イースト・エンタテインメント

「2020年楽しいな。絶対楽しいな」


 36th WEEKで快は、花を水族館デートに誘おうとしているということを社長に告げると、「ダブルデートやっちゃう?」と提案される。それを受けて快も乗り気になり、その未来を想像して発した言葉が「2020年楽しいな。絶対楽しいな」だった。その後の辛い展開だけでなく、いま世界中の人々が置かれているコロナ禍の状況まで鑑みると「なぜこんなことに……」と苦悶せざるを得ない残酷な事態を見せた『テラスハウス』東京編:第37〜40話。ドロドロの人間関係模様を見せつけた末に、コロナの影響によって第41話以降の配信休止が発表された。快と花の話で言うと、社長の「ジョイン」がすべてを変えてしまったのは明らかだった。


(参考:『テラスハウス』東京編:第33〜36話ーーホラー、コメディ、ロマンスの三種盛り贅沢展開へ


・彼らの距離感を象徴する、花と快のハグのドラマ
 「2020年楽しいな。絶対楽しいな」から「なぜこんなことに……」へと至る経緯を追うために、京都旅行などでの快の欠点を並べ立てるのは簡単だけど、それはあまりにも一面的な見方であるし、苦しい話でしかない。だからここでは、快と花が交わした/あるいは交わさなかった“ハグ”のドラマをもとに、彼らの関係性の変化に迫ってみたい。


 時は36th WEEKにさかのぼる。2019年も年越し間近となり、実家などに帰るのか、メンバーそれぞれがテラスハウスを後にする場面。そこで花は「ハグしとく?」とみんなに向かって呼びかけ、お互いにハグをし合う。そこで快と花も親密なハグを交わした。その際の印象的な出来事について、花は後々ビビにこう語る。「快くんにぎゅっとされたとき、普通ハグって軽くするじゃん? でもぎゅーーってされて、ぎゅーってなった」「うれしかった」。言葉だけではなかなか伝わらないかもしれないけれど、つまるところ不意に強く抱きしめられて、花はキュンとしてしまったのだろう。そこではさらにビビから「快に付き合おうって言われたら付き合う?」と問われ、「付き合う」とも答えていた。


 さらにその36th WEEKでは、快がガパオライスを花につくってあげる場面での進展も。快がつくる料理を初めて食べた花は素直に感激し、何度も「おいしかった。ありがとう」と感謝を告げる。率先して洗い物もして、そのあとにちょっとした間があり、グッと快に詰め寄る花。「ごはん作ってくれてありがとう。(仕事で)疲れたからぎゅっとして」と言いながら。そこでのハグは、視聴者だけでなく、彼ら自身にも快と花のよき未来を予感させたはずだ。


 しかし、結果的にはこれが彼らの距離感が一番詰まった瞬間となってしまい、ここからは徐々に身体も心も離れていってしまう。そのなかでも象徴的なのは、花がプロレスで着るコスチュームを、快が誤って自分の洗濯物と一緒に洗ってしまう“コスチューム事件”が発生した夜(38th WEEK)。その際に、以前あの優しい抱擁を交わした場所にあったのは、快が被るキャップを振り払う花の姿だった。このなんというギャップ、悲劇的な展開……。


 その次の日(39th WEEK)には、快が花に真摯に謝罪をして事なきを得たものの、その夜に快はテラスハウスを卒業するとみんなに告げる。その後のお別れの場面。トランポリンデートのときに約束した花の絵をプレゼントし、メンバーそれぞれと別れの抱擁を交わす。しかし、花とは軽い握手のみで終わってしまう。快が去ったあとに花は「ハグはできなかった」と言う。「ハグはちょっとまだ。いつか。いつか今日のハグを」と。


 快と花にはいくつかのハグのドラマがあり、それは心の距離感とも密接に結びついたものだった。それは苦しいドラマでもある。しかしまたいつか“今日のハグ”を交わした日に、「なんであのときはハグができなかったんだろう」とふたりが笑い飛ばしてくれることを、彼らの恋模様にきゅんきゅんさせられたイチ視聴者としては願っていたい。


・多様性を排除する嫌な空気
 快と花のハグのドラマについては少し美化しつつ振り返ってみたが、この数週間のテラスハウスにはなんとなくずっと嫌な空気が蔓延していたことに視聴者は気づいているだろう。社長が快と花のデートに「ジョインする」と言った瞬間から、さまざまなものが音を立てて崩れ去っていった。


 元を辿れば、水族館デートというのは快が花のために企画したものであり、最初はふたりで行くつもりだった。しかし、社長との会話のなかでダブルデートもありだよねという空気になり、気づいたときには社長が権限を握っていて京都へ水族館旅行をすることになる。快に関しては、スタンダップコメディで行き詰まっていることもあって一度は旅行をキャンセルしたいとまで言うものの、社長の説得により結局敢行。それで「テンションが低い」「お金は出そうとしない」と散々に言われ、その際の悪い印象が“コスチューム事件”にまでつながってしまう始末だ。ただ楽しく花と水族館デートができればよかった快が、最終的にテラスハウスの環境に適応できず排除されてしまう。


 相手のことを本当に考えているのかわからない、「社長のジョイン(正面突破)」がもたらす悲劇。夢へと強引にキスを迫る異様な姿にも、結局同じことが言えるのではないだろうか。無期限の配信休止になってしまったテラスハウスだが、このドロドロの人間ドラマに食傷気味な視聴者にとっては、いいリフレッシュ期間になるかもしれない。


(原航平)


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