『ザ・ノンフィクション』「獣医師と行政が悪い」と語る院長の真意「花子と先生の18年 〜人生を変えた犬〜 前編

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2020年05月11日 21:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。5月10日は「花子と先生の18年 〜人生を変えた犬〜 前編」というテーマで放送された。

あらすじ

 東京杉並区「ハナ動物病院」の院長、獣医師・太田快作。院名の由来は大学生のときに保健所から引き取った愛犬、花子(18歳)だ。太田は老犬となった花子を大きなリュックに入れ、それを前に抱えて通勤している。

 もともと犬が好きで獣医学部に進んだ太田だが、花子との出会いから徹底的に動物の命について考えるようになる。当時、太田の通った大学の獣医学科では外科実習で保健所の動物を使った動物実験(実験後は基本、殺処分される)が行われていたが、太田はそれを拒否。欧米の大学で一般的な「動物実験代替法」で単位を取得する(なお、同大でも2018年から生体を用いた外科実習は行われていない)。ほか、散歩にも連れていかれることがなかった学内の実験動物の待遇向上のため、学内に「犬部」を発足。賛同者を集り、犬部の活動は保護犬の里親探しにまで広がり、のちに本や漫画にもなった。

 太田の動物愛護の活動は現在も続いており、休日は保護猫や多頭飼育で崩壊した家の飼い犬などを無料もしくは実費のみで避妊、去勢手術を行っている。さらにハナ動物病院では犬、猫の保護も行っており、月に一度開催される譲渡会は多くの人でにぎわう。

 花子について「今の僕の全て」「花子が僕をつくった」と話す太田。太田の20代、30代を共に過ごした花子だが、19年の夏の夜に倒れる。花子の腹には小さな腫瘍が見つかるが、もう花子は手術に耐えうる年齢ではなかった。

飼育を放棄、ボランティアにクレームする飼い主

 今回は動物がテーマの回だったが、聖人のような太田から、見るのも嫌になるような飼い主も登場する「人間回」でもあった。

 番組内で、年間4万6,411匹の犬、猫が殺処分されていると伝えられ(18年)、その多くが子猫だという。太田も休日返上で通常2〜1万円程度かかる猫の避妊、去勢手術を保護猫ボランティア活動をする団体と提携し、無料もしくは実費(2,000〜3,000円)のみで行っている。

 そんな中、格安で手術ができることを知った飼い主が、保護猫ではない飼い猫の施術をしにやってきた。だが、迎えに来た時間通りに手術が終わっていないことに対し、感じ悪くクレームを吐く。番組内では、姿も映らず声も変えられていたが、激高するのではなく、不思議なほど偉そうに嫌味なクレームを重ねていて、その振る舞いは日常においても感じ悪く生活しているのであろうことが伝わる。

 さらに、別の飼い主はすでに7匹飼っているため、今回手術した猫を「もしよければ(保護猫団体で預かってほしい)」と、飼育を放棄する。こうしてみると、「動物好きに悪い人はいない」は、ウソではないだろうか。

 犬や猫は一度の出産で数匹産む動物であり、放っておけばネズミ算式に増えていくことを知らないはずがないのに、避妊、去勢手術を行わない飼い主は腹立たしいくらい多い。番組内では、一軒家に71匹もの犬がうろつく、多頭飼育が崩壊した埼玉の老夫婦の様子も伝えられた。犬だらけの家の中の片隅では、生後間もないであろう子犬に乳を与える母犬の姿があった。

 太田は多頭飼育の崩壊について、「悪いのは獣医師と行政です」「(飼い主は素人だから知識がないが、)知識と情報があるにもかかわらず、(飼い主と)関わるのを避けた人間がいる」「(周辺住民から行政へ)苦情も噂もあったはず。把握していないわけがない」と話す。動物愛護センターはこういうときどうしているのか、という番組スタッフの質問に、太田と共に現場を訪れた保護ボランティアの女性が、愛護センターも1年半前から来ていたが、オスとメスを離しなさいと指導するだけだ、と話す。

 「クレームがあったので指導しました」という建前があればいいのだろう。1年半前に手を打てば、まだここまで犬は増えなかったはずだ。ボランティアスタッフも犬に去勢手術を受けさせるため、埼玉から東京にある太田の病院まで2時間かけてトラックで犬を運んでいた。1日かかりきりで10頭を施術しても、まだ埼玉には未去勢の犬が残っている。太田はこれについても、「埼玉の獣医師が一人一匹手術すれば一日で終わる」と話す。

 もちろん、だらしない飼い方をして、増やしに増やす飼い主が一番悪い。だが、そういう人をゼロにすることは不可能だろう。そのストッパーとして、法制度や条例があり行政があるが、それは番組を見る限り十分に機能していない。番組内では、クラウドファンディングで資金を募るとボランティアスタッフが話していたが、そうした「有志」によって現場は支えられているのだ。

動物を前にして出る、その人間の本性

 動物を飼う資格のない人が動物を飼っている現状を見せられしんどい回だったが、一方で太田をはじめ、愛情にあふれた人もたくさん出てきて救われた。太田の病院では保護犬、保護猫の譲渡会を月一回行っており、そこを訪れたある一家は「飼うなら保護犬がよかった」と話し、野犬(人間に一度も飼われたことのない犬)のニコを引き取る。

 太田と看護師とともに一家の自宅を訪れたニコは、初めての場所に椅子の下で少しおびえた様子だったが、それから1年後の写真として、笑顔を浮かべる家族の中心にニコがいる一枚が紹介されていた。ニコは幸福な犬になれたが、動物は飼い主を選べない。

 「道徳的発展は、その国における動物の扱い方で判る」という名言がある。これはガンジーの言葉という説と、そうではない説もあるが名言であることには変わりはない。なにも国に限らず、人間一人ひとりを見ても、弱い立場である動物を前にしたときに出る言動こそが、その人間の本性なのだと思う。

 次週は今回の後編。『花子と先生の18年 〜人生を変えた犬〜 後編』。太田が花子を看取るまで。

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