伊藤沙莉の共感できるヒロインが成功の要因 『いいね!光源氏くん』に詰まったラブコメのセオリー

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2020年05月16日 08:01  リアルサウンド

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『いいね!光源氏くん』写真提供=NHK

 現在、NHKのよるドラ枠で放送中の『いいね!光源氏くん』は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で放送中止や延期の作品が多い中、事前収録で最後まで観ることができる数少ない作品だ。


参考:伊藤沙莉の演技になぜ心動かされるのか 荒唐無稽な『いいね!光源氏くん』を成立させる“普通力”


 この作品は、あの誰もが知る『源氏物語』の光源氏(千葉雄大)が、突然、現代の普通のOLの沙織(伊藤沙莉)のもとに現れたことから始まる大胆な設定の物語。あれやこれやと、ラブコメディのセオリーが詰まっている。


 ラブコメディのお約束として一番大きいのが「ひょんなきっかけで男女が同居する」というものではないだろうか。日本に限らず、台湾や韓国でも幾度となくドラマ化されてきた『イタズラなKiss』や、木村拓哉と山口智子の『ロングバケーション』(フジテレビ系)、そして『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)や、世に“壁ドン”ブームを巻き起こすきっかけとなった『L・DK』、昨今話題のNetflix韓国ドラマ『愛の不時着』に至るまで、幾度となく使われてきた設定だ。


 今回の場合は、主人公の沙織が部屋の窓にバリで購入したという新たな簾とお香をセットしたところ、その窓辺に光源氏が迷い込んでくる。


 「ひょんなきっかけで男女が同居する」と、最初はなんとも思っていなかった2人が、“仕方なく”同居しているうちに、お互いの良いところを知ることになったり、また物理的に近い距離にいるだけに、ドギマギする胸キュンなシチュエーションになりやすい。


 『いいね!光源氏くん』の場合は、同居したのが、誰もが知るあの光源氏だけに、部屋に現れた瞬間から、沙織を抱きしめたりと、沙織をドギマギさせる。


 もう一つ、ラブコメで愛される設定に、「タイムスリップする」というものもある。こちらは、最近、NHKで再放送中の『アシガール』や、本作との共通することの多い韓国ドラマ『屋根部屋のプリンス』など、たくさん存在する。韓国では一時期、タイムスリップものが続々と作られたほどである。また、日本の少女漫画でもテッパンの設定で、まだまだ映像化されてないものも存在しているから、今後もドラマや映画の題材となる可能性もあるだろう。


 「タイムスリップ」ものがなぜラブコメディに多くなるかというと、男女のどちらかがタイムスリップすると、時代によるギャップを体験することとなり、ふたりの間にハチャメチャな出来事が起こりやすく、その出来事に立ち向かう中で、互いの理解を深めることになるからである。


 今回の場合は、タイムスリップしてくるのが、平安貴族であるために、雅すぎてコミカルなシーンも自ずと多くなる。光くんは、少しスマホを使っただけでも、疲れて寝てしまったり、走ったこともない。また、何か感情が動かさえると、すぐに和歌を詠むというのもクスっと笑わされてしまい、ヒロインでなくとも、光くんに惹かれていくこととなりやすい。


 また、ラブコメに欠かせないのが、ライバルのイケメンキャラクターの存在だろう。昨今のドラマでは、直接、恋に関係せずとも、複数人の多様なイケメンキャラクターが登場する。これは古くは『キャンディ・キャンディ』から、4人のイケメンが登場するという“発明”をアジア中に知らしめた『花より男子』に至るまで、どんな作品にも登場すると言っても過言ではないだろう。


 本作では、『源氏物語』の中にも登場する光の義兄の中将(桐山漣)や、その中将を家に住まわせてくれるホストのカイン(神尾楓珠)などがそれにあたる。


 中将は、おっとりしていてちょっととぼけたところのある光とは違い、どこかミステリアスな魅力を放っているし、カインも、現代人のイケメンキャラクターで、ときに沙織の良さをごく自然に褒めてくれるような優しさがある。


 そして、ラブコメで、実はもっとも重要なのが、ヒロインのキャラクターではないだろうか。ヒロインは、観ているものに「これは私の分身だ」と思わせるところがないといけない。誰かに「これは私だ」と思わせるには、どこか弱みや欠点を持っていたりして、そんなコンプレックスだらけの自分自身とつきあいながらも懸命に生きていることが必要となる。


 『花より男子』の牧野つくしであれば、お金持ちだらけの学園の中で、自分だけが庶民で、そこに違和感を持ちつつも強くたくましく生きていたりするし、『逃げ恥』の森山みくりであれば、大学院を卒業したが正社員の職にありつけず、また自分が「小賢しい」と言われる性質であることが、彼女自身を縛っていたりもする。しかし、こうした部分が、視聴者に共感されるところとなる。


 本作の沙織もまた、明るくて美人の妹・詩織(入山杏奈)がいることで、自分に自信が持てないというコンプレックスを持っている。そのことで、光くんに対しても、距離を置くところもある。やたらと、自己に対しても光くんに対しても冷静なところがあり、ひとりで「つっこみ」を入れることも多い。こうした役を伊藤沙莉が演じたことで、コミカルで荒唐無稽な設定の物語の中にも、現代を生きるOLのリアリティが増している印象も受ける。


 番組もいよいよ佳境となり、ハワイで光が出会った物理学者のフィリップ(厚切りジェイソン)や、彼らを追う謎の組織も登場し、ミステリーのハラハラドキドキも加わって佳境を迎えている。そんな中、光と沙織の関係性もどうなるのか、最後まで見逃せない展開が続きそうだ。(西森路代)


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