スーパーGTに期待したい“次の一手”アウディのDTM撤退が世界に与えた衝撃と国内レース界の反応

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2020年05月22日 12:21  AUTOSPORT web

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昨年までミッドシップレイアウトだったNSX-GTも今年からClass1規則に乗っ取ってFRに変更した。
世界が新型コロナウイルスに揺れていた4月27日。アウディのDTMドイツ・ツーリングカー選手権撤退という報せは、瞬く間に海を越え、国内レース関係者のあいだでも驚きを持って受け止められた。

 およそ10年前から始まったスーパーGTとDTMの話し合いは、双方の努力によって『Class1(クラス1)』規定を完成させ、2019年は日本とドイツで1戦ずつ特別交流戦も行われた。とくに約半年前の富士の興奮はまだ記憶に新しく、それだけに衝撃は大きかった。

 2018年にメルセデスが撤退し、かわって参入したRモータースポーツのアストンマーティンも2019年の1シーズン限りで活動を終了するなど、たしかにDTM側に不穏な気配はあった。それでも成功裏に終わった昨年の特別交流戦によるものか、日独両シリーズのコラボによる相乗効果を信じて、期待に胸をふくらませている矢先のニュースだった。

 アウディの撤退発表を受けて、BMWはその“やめ方”を強いニュアンスで批判した。ワークス1社では少なくとも現状のかたちを維持できるはずもなく、DTMは存続をかけた重大な局面に立たされている。

 そして、こうした事態はスーパーGTにとって対岸の火事では済まされない。スーパーGTとDTMの両シリーズで使用されることを前提に開発・製造されてきたクラス1車両向けの共通パーツが、これまでどおりの価格で安定して供給されるのか否か。また、タイヤの内圧センサーなどアウディの純正パーツを使用していた部品供給についても今後の対応が気になるところだ。

■DTMとの特別交流戦は奇跡のレースだった

 メルセデスとアウディの2社で行われていたかつてのDTM(2006〜11年)にBMWは2012年から加わったかたちだが、それ以前の段階でBMWはさまざまな検証・検討を行っていた模様だ。

「あれはたしか2011年くらいのことだった思います。当時、BMWモータースポーツ部門の責任者だったマリオ・タイセンがわざわざ日本にやって来た。彼の訪日の理由はGT500の3社に『この先、本気でDTMと一緒にやっていく気があるのか?』を確かめに来ていたんです。将来的に欧州以外でのマーケティングツールとして利用できる可能性があるのなら、BMWとしてDTMに復活する価値があると考えていたんでしょう。そして、実際に彼らは2012年から帰ってきた」(レース関係者)

 マリオ・タイセンが取った言質に間違いはなく、日本でも2014年からDTMとのコラボが加速。それ以来、段階的に推し進められてきた共通ルール化は、2019年にDTMのエンジンが直列4気筒ターボとなり、さらに2020年からホンダのNSX-GTもクラス1規定に準拠したFRレイアウトが採用されたことで(日独で一部異なる部分はあるが)完成にこぎ着けたといっていい。およそ10年の歳月を経て、やっとの思いでたどり着いたところだっただけに、やはり言葉にならない思いは強い。

 GTAとITR e.V、そして両シリーズに関わるマニュファクチャラーが一堂に会する『ステアリング・コミッティ』はこれまで何度も開かれてきたが、その会に当初から出席していたトヨタの高橋敬三氏も落胆の思いを隠さない。

「私たちも事前に何も知らされていなかったので、あのニュースを見たときは本当に驚きました。時間はかかってしまいましたが、グローバルなコラボレーションとコストダウンの両立がはかられたクラス1がようやく軌道に乗ってきたところだっただけに非常に残念です」

 また、あるドライバーは「昨年の交流戦は僕たちも興奮したので、今年も楽しみにしていました。この先、アウディ不在でDTMが続けられるとは思えないので、もう二度とあのような場(特別交流戦のような機会)がなくなってしまうことが悲しい。いまから思えば、あれは“奇跡のレース”だったんですね」と率直な思いを口にした。

■スーパーGTが担う重責と新たな指針

 新型コロナの世界的な蔓延により、グローバル企業である自動車メーカーも苦境に立たされているが、何とかこの難局を乗り切ってほしい。そして、GT500を戦う3社にはこれまでどおりスーパーGTを支え続けてもらいたい。

 不幸中の幸いとも言えるのは、2020年がちょうど新車導入のタイミングだったことかもしれない。年次改良など細かな開発は継続されていくだろうがこれまで3年刻みで同じ車両が使われていたことを考えれば、少なくとも2022年までの向こう3年間は現在の車両を使えることになる。DTMとのコラボに暗雲が垂れ込めるいま、新たな指針や次の一手を考えるための時間的猶予は残されている。

 これまでそうしてきたように、この先もスーパーGTはレースの迫力や熱量など「興行としての価値」を下げることなく、よりいっそうのコストダウンを成し遂げ、プロモーションの充実もはかっていくだろう。

 そして、マーケティング主導で行われていたためにパドックの華やかさはあったものの、結果的に厳しい状況に追い込まれたDTMの反省を踏まえるならば、やはりスーパーGTでは研究開発の領域を維持していくことも欠かせない。

 とくに新型コロナによっていままで以上に苦しくなる各メーカーの参戦意義を考えるなら、それは環境技術にあてられるべきだろう。

 環境技術の代表例は“ハイブリッド”だが、WEC世界耐久選手権で採用されているようなストロング・ハイブリッドはコスト的に難しい。GT500で導入するならLMDhなどと同様にシステム自体はワンメイクとし、エネルギーマネジメントの領域で各社が技術競争できるシロを残しておく必要があるかもしれない。

 もしくは、愚直に内燃機関としての究極を目指すのも選択肢のひとつだろうか。たとえば、現在のGT500で採用されているNRE(2リッター直列4気筒ターボ)を、量産の世界において間違いなく次世代のスタンダードとなる“1.5リッター直列3気筒ターボ”に変えるのはどうか(これはBMWが量産分野で積極的に採用しているエンジンでもある)。

 いずれにしても、DTMの窮状を踏まえてスーパーGTも新たな指針を打ち出す必要がある。「さらなるコストダウン」と「プロモーションの充実」に加えて、3メーカーの参戦意義となる「環境技術の導入」をどう盛り込んでいくか──。新型コロナが国内レース界に深刻な打撃をおよぼすことは間違いない。だからこそ、その復活にはスーパーGTの力が不可欠。GTAおよび国内3社による次の一手に期待したい。

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