伝記映画やドキュメンタリー製作、さらには出演まで 音楽スターにまつわる映画ブーム到来!?

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2020年05月27日 08:01  リアルサウンド

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『ミス・アメリカーナ』Netflixにて独占配信中

 ここ5年、音楽スターにまつわる映画が猛烈な勢いを見せている。『ボヘミアン・ラプソディ』などの伝記ジャンルはもちろん、それぞれビートルズとブルース・スプリングスティーンの楽曲を扱う『イエスタデイ』、『カセットテープ・ダイアリーズ』といった音楽主導映画も続いているし、ストリーミングでは音楽ドキュメンタリーが大流行。ミュージシャンの役者業チャレンジならば、レディー・ガガの『アリー/ スター誕生』につづいてカミラ・カベロ主演『シンデレラ』やブルーノ・マーズのディズニー映画が待ち受けている。映画界と音楽界の蜜月、その業界事情を探ってみよう。


参考:映画・音楽業界ともに大きなメリット クイーン、エルトン・ジョンなど音楽映画増加の背景は?


 特に大盛況のジャンルが、大御所ミュージシャンに関する伝記映画だ。N.W.Aの軌跡を描く2015年作『ストレイト・アウタ・コンプトン』、クイーンのメンバーを製作に据えた2018年作『ボヘミアン・ラプソディ』の2つが歴史的ヒットを記録して以降、数え切れないほどの企画が立ち上がっている。2020年には『ロケットマン』(歌曲賞)に『ジュディ 虹の彼方に』(主演女優賞)がアカデミー賞の栄光に届いたし、今後としては、アレサ・フランクリンにマイケル・ジャクソン、デヴィッド・ボウイ、セリーヌ・ディオンなど、そうそうたる企画が世界各国で目白押しだ。


 元々、音楽伝記映画はハリウッドのドル箱だった。1980年代には『歌え!ロレッタ愛のために』、2000年代には『Ray/レイ』が大ヒットを記録している。難点としては、数多の企業群や関係者と交渉して、楽曲や表現の権利をたくさん取得していかなければならないこと。企画実現のハードルが非常に高かったのだ。しかしながら、2010年代にはアーティスト含めた音楽産業サイドの姿勢が大きく変わり、率先的に権利交渉を進めてくれるようになったと報じられている。主要因はマネーだ。BBCなどの取材によると、Spotifyなどの音楽ストリーミングサービスが普及したため、関連映画リリースが楽曲消費につながりやすい環境が整った。クラシックなアクトの関係者からすれば若年リスナーにも門戸が開けるところも魅力だろう。『ボヘミアン・ラプソディ』公開から半年でクイーンのSpotifyストリームは3倍以上に跳ね上がり、そのうち7割が30歳未満のリスナーだったという。ピュアセールスはさらに好調だったため、同バンドのカタログ利益は440万ドルから1800万ドル近くに増大したとBillboardが推定している。


 劇場映画産業からしても、音楽映画の重要度は増加した。Netflixなどのビデオストリーミング媒体が勢力を増してコンテンツ量が増えた今、消費者にお金を払って劇場に来てもらうには「シアターならではの体験」が武器となる。ここでポピュラー音楽の力が発揮されるのだ。『ボヘミアン・ラプソディ』と『アリー/ スター誕生』が成し遂げた、そこに参加していると錯覚させるほどのコンサート・シークエンスは劇場設備あっての没入体験だろう。そして、音楽スターが持つ「IP(知的財産権)」パワーがある。スーパースター関連作なら、一般的なオリジナル映画よりも興味を抱く消費者が多くなるわけだ。Spotify幹部シュリーナ・オングいわく「(幅広い年代を惹きつける)ノスタルジー喚起には音楽が最も効果的」という側面もあるようなので、『ワンダーウーマン 1984』やディズニー&ピクサー『2分の1の魔法』など、過去のヒット曲を活用した予告編がつづく状況も不思議ではない。


 音楽スターの「IP」、言い換えればブランドパワーは、音楽テーマ以外の作品、さらにはゲスト出演にまで及ぶ。たとえば、2019年アメリカにおいて中規模オリジナルながら『ロケットマン』をもしのぐ興行成績を記録した犯罪映画『ハスラーズ』。同作のチームは、ジェニファー・ロペスらメインキャストのほかにカーディ・Bやリゾといった音楽スターをゲストに招致することで「映画好きの女性なら誰か一人は好きなキャストがいる状態」を完成させた。この作品にしても、マーク・ウォールバーグ主演のNetflix映画『スペンサー・コンフィデンシャル』にしても、ゲスト出演した若手ミュージシャン、カーディ・Bとポスト・マローンの存在が予告編の最初に映されている。


 Netflixなどの映像ストリーミング勢も音楽映画ブームまっただ中だ。その主戦場はドキュメンタリーにある。2015年、生前のエイミー・ワインハウスを追う『AMY エイミー』がヒットした頃より、ジャンルブームに貢献したとされるプラットフォームは『ニーナ・シモン〜魂の歌』を配信したNetflixおよびAmazonプライム・ビデオであった。定額制ストリーミングで配信されれば、熱心なファン以外も話題作を簡単に観ることができるし、話題に火がつきやすい。


 近年のNetflixは、クラシックアクトのみならず、ビヨンセやトラヴィス・スコットといった現役チャートトッパーのドキュメンタリー配信につとめている。2020年には、Apple TV+が200万ドル程度で制作されたビリー・アイリッシュのドキュメンタリーを2600万ドルで購入。Amazonも近い値段でリアーナのドキュメンタリーを買っている。これらは、同年に『ミス・アメリカーナ』が配信されたテイラー・スウィフトのNetflixディールを遥かに上回る額だという。なぜそんなに差があるのかというと、単に時間の問題で、ブームによって音楽ドキュメンタリーの取引価格が急速に高騰していった、ということらしい。


 もちろん、音楽スターの「IP」及びコンサート映像需要によってストリーミング側は存分に儲けることができる。『テイラー・スウィフト: レピュテーション・スタジアム・ツアー』は数年にわたってNetflixサブジャンル枠のトップを維持したという。ミュージシャンにしても、楽曲消費増加が見込めることはもちろん、効果的なブランディング・ツールとしてドキュメンタリーを活用できる。同じくテイラーの『ミス・アメリカーナ』がいい例だ。ここで彼女は「優等生」でありつづけたキャリアと後悔を語り、政治的沈黙を破った理由や摂食障害の経験、新恋人について赤裸々に告白している。日本でも話題を呼んだ本作が新たな「テイラー像」形成に寄与したことは間違いない。


 『ブラックパンサー』&ケンドリック・ラマー、『ライオン・キング』&ビヨンセといった映画と連動するコンセプトアルバムも特筆に値するが、そのかたわら、出演した映画を音楽表現に活かすスターも散見される。『アリー/ スター誕生』のワンシーンに出演したホールジーは、これが自分の主演バージョンだ、とばかりに同作によく似た『Finally // beautiful stranger』のミュージックビデオを制作している。『アンカット・ダイヤモンド』にゲスト出演したザ・ウィークエンドに至っては、アルバム『After Hours』の予告編で同作のオープニング・シークエンスを再現してみせた。さらに、撮影現場を共にした(同映画のスコア制作者)ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーは『After Hours』において合計3曲の制作に参加している。こうしたクリエイティビティの化学反応は、音楽と映画、そのどちらも楽しむ者にとってはたまらない現象だろう。2020年5月現在、新型コロナウイルスによってエンターテインメント界は危機に立たされているが、もし劇場や制作現場が再開したのなら、豪華絢爛な音楽スター映画が人々の心を潤してくれるはずだ。


【参考】
・https://www.thewrap.com/top-10-highest-grossing-music-biopics-from-tupac-to-queen-photos/
・https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-48941104
・https://www.boxofficemojo.com/year/2019/
・https://www.hollywoodreporter.com/news/music-documentaries-popular-amy-success-837375
・https://www.billboard.com/articles/columns/hip-hop/8550969/the-weeknd-reveals-after-hours-album-title


(辰巳JUNK)


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