深田晃司×濱口竜介が語る、「ミニシアター・エイド基金」の成果とこれからの映画業界に必要なこと

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2020年05月28日 12:01  リアルサウンド

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写真深田晃司監督、濱口竜介監督
深田晃司監督、濱口竜介監督

 新型コロナウイルスの感染拡大防止、それにともなう自粛要請によって、全国のミニシアターは閉館の危機に直面している。2月から収益減少は始まり、3月には観客0の回が出てしまう劇場が続出。そして、緊急事態宣言にともない、約2カ月間の休館を余儀なくされた。十分な資本金がある大手シネコンとは異なる経営規模の小さいミニシアターにとって、それは死刑宣告にも等しかった。


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 そんな状況の中、立ち上げられたのが、映画監督である深田晃司と濱口竜介が発起人となった「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」。「外出自粛の状況があと3カ月続いた時に、閉館の危機に直面する運営団体」を対象に、日本独自のミニシアター文化を守るためのクラウドファンディングだ。


 SNS上で立ち上げ時から大きな話題となった本施策だが、蓋を開けてみれば、文化芸術活動のクラウドファンディングにおいて日本初(※Motion Gallery調べ)となる開始3日間での1億円を達成。約1カ月間の期間を経て、最終的に総額3億3,102万5,487円を達成した。1団体あたりの平均額は303万円になるという。


 緊急事態宣言の終了にともない、徐々に映画館の再開が動き始めている中、「ミニシアター・エイド基金」の発起人である深田監督、濱口監督の2人に、実施の経緯から今回の施策を通して得たもの、そして映画人としての今後の活動まで話を聞いた。


●映画界に携わるすべての人にとって勇気に


ーー緊急事態宣言は解除されましたが、この数カ月の間に映画界は大きな危機にさらされています。そんな状況の中で、「ミニシアター・エイド基金」が3日で1億円、最終的に3億を超える金額を達成したことは多くの映画人を勇気づけました。改めて、立ち上げの経緯から教えてください。


濱口竜介(以下、濱口):3月末に名古屋シネマスコーレの副支配人・坪井篤史さんのインタビュー記事を読んだことが最初のきっかけでした。僕の作品も上映していただいた場所であり、舞台挨拶にも呼んでいただいた場所です。そんな身近な場所が休館・閉館が目の前にある状況に追い込まれている。だとすれば何かをしなくてはいけないと。それから知り合いの映画館の皆さんの声を聞いて、何かできないかと思案して、『ハッピーアワー』のプロデューサーたちとMotion Galleryの大高健志さんに声をかけた直後に、深田さんから声がかかりました。


ーーちょうど濱口さんが動こうと考えていたときに深田さんも同じ考えだったと。


深田晃司(以下、深田):そうですね。それなら一緒にやりましょうと始まりました。私も濱口さんも、作品のほぼすべてがミニシアターで上映されてきましたし、監督になる前からも好きな映画の多くはミニシアターで上映されていた作品でした。いわば、ミニシアターによって映画監督にしてもらったようなものです。国の補償もはっきりと見えず、多くのミニシアターが大変な状況になっている。自分自身を育ててもらったミニシアターのためにも、なんとかしたいという思いでした。結果としてそれが映画文化の多様さを守ることにつながればと。


ーーそして、4月13日の13時からクラウドファンディングが開始されると、開始3日間で1億円を達成しました。この速さは誰も想像していなかったと思います。


深田:3日での1億円達成は本当に驚きました。もちろん、全国のミニシアターの数を考えれば、1億円は越えなくてはいけない目標と設定はしていたんです。ただ、Motion Galleryでの最高金額が約7000万円と聞いていたので、容易ではないだろうと。私もクラウドファンディングを何回かやったことがあるので、そんなに簡単に集まるものではないと分かっていました。なので、1カ月きちんと宣伝をして、条件を達成できればと思っていたのですが……。予想外のスピードに感謝したと同時に、映画ファンの思いを甘く見積もっていたんだなとも感じました。最終的に「ミニシアター・エイド基金」は、2万9926人の方がコレクターになっていただきました。ミニシアターに無くなって欲しくないと願う方が2万人以上はいると数字として可視化できたことは、映画界に携わるすべての人にとって勇気になるものだったと思います。


濱口:ミニシアター、映画文化を、この状況下で少なからぬお金を払うというアクションを取ってまで守りたいと思う人がこれだけいる。映画ファンと言っても漠然としか見えていなかった存在が、こうして可視化できたことは本当に大きなことだと思います。


●その場しのぎにならない継続的な支援を


ーー3億円を達成し、映画館の再開も徐々に始まっていますが、今後も安泰とはまったく言えない状況です。もし、多くのミニシアターがなくなってしまったとしたら、映画界にはどんなことが起きるでしょうか?


濱口:数字のことだけで言えば、2019年に日本で公開された映画は1278本(一般社団法人日本映画製作者連盟より)。そのうち約1000本がミニシアターで上映されています。では、ミニシアターは全国のスクリーン数でどれだけの割合を占めているかというと約1割。なので、ミニシアターがなければ日本の観客はこれだけ多様な映画文化を映画館で享受することがまったくできなくなってしまうわけです。それをどれだけの人が“損失”と考えるかは定かではありませんが、映画の多様性は確実に失われます。では、ミニシアターでかかるような作品はオンライン上映すればいいという意見もあるかと思います。しかし、ミニシアターでかかるような映画は、映画館という場所を必要としている作品が多い。集中力を持って観られる必要がある映画、映画館という環境が必要な映画。それがミニシアターにかかる映画の多くであり、そういった映画体験が失われることがそっくり起きると思います。


深田:極端なことを言えば、私の映画も濱口さんの映画も、ミニシアターがなくなれば上映できなくなる可能性が高いです。8時間を超えるワン・ビン監督の作品などは映画館で観てこそですよね。濱口さんが話したように、上映される作品のほとんどが、全スクリーンの1割程度のミニシアターが担っている。でも、経済的な面ではミニシアターで上映されない作品、シネコンで上映される作品がほとんどを担っている。じゃあそれらの方が“いい”作品で、ミニシアターで上映される作品には価値がないかと言ったら、決してそうではないですよね。もちろん、芸術的価値も経済的価値も両方あるに越したことはありません。しかし、現在の仕組みだと、経済的価値を短期的にもちえない作品は簡単に駆逐されてしまう状況です。「ミニシアター・エイド基金」によって、そういった作品を支えたいと思う人がいることを可視化できたことは大きいですが、継続的に支援できる仕組みを考えなければ、その場しのぎにしかならないと言えます。


ーーなるほど。改善するためには何が必要なのでしょうか?


深田:文化予算が上がるというのがまずひとつ。そして映画業界に限っていえば、何よりも業界の中で互助する関係にならなければいけないと思います。例えば、アメリカでは映画館の組合があり、平時のときから積み立てていたお金を映画館に分配する形で、閉館を免れているという話を聞きました。そういった仕組みを日本でも作らなければいけない。韓国やフランスは、チケット税という形で、興行収入が映画界に再分配される仕組みになっている。シネコンで上挙げた収益が映画界に再分配されることによって、また多様な映画の製作や上映が保証されるわけです。こういった制度設計を行うためには、当然それぞれがバラバラではできません。フランス、韓国には映画のための公的な機関があるのが大きいわけです。しかも、現場のニーズを理解した人がトップに立っている。日本でも早急に作る必要があると思っています。


ーー「ミニシアター・エイド基金」として、第2弾、第3弾の動きなどはあるのでしょうか?


濱口:「ミニシアター・エイド」は公共的な機関でもなく、数人が集まってできた組織です。これが可能となったのも、緊急事態宣言によって、それまでの仕事がストップした状況があったからです。社会がある程度、平時に向かって動き出していくと、我々も今までと同じように動くことは難しいです。なので、「ミニシアター・エイド」としての第2弾、第3弾は基本的には考えていません。今後は映画に関わる仕事に限らず、多くの困った方が声を挙げられる環境があること、そしてその声を抑え込むのではなく誰かが聞き取ること、それを実現できる仕組みを考えていかなければいけないと思います。


深田:これで終わり?と思われてしまうかもしれないのですが、濱口さんが話したように、自粛期間だからこそできたことでした。「ミニシアター・エイド基金」を立ち上げてからは平時よりも忙しく、事務仕事をなめてはいけないと改めて感じました。4月からの2カ月間は朝から晩までほとんど「ミニシアター・エイド基金」のことしか行っていないです。今回は私たちに時間があったからできたことですが、これを常設することは難しい。セーフティーネットに関わる方が疲弊するような体制では長く続きません。なので、同じ形で第2弾、第3弾を考えるのではなく、恒常的な制度を構築することにエネルギーを注いでいく必要があると考えております。


●コロナ禍を経ての作品作り


ーー「ミニシアター・エイド基金」の活動を通して、お二人が得たものは何かありますか?


濱口:コレクターの方々のコメントを読んでいると、本当に一人ひとりにとってミニシアターが人生のかけがえのない場所になっていたことが分かります。映画館で働く方々は、お客さんと劇場で触れ合っても、その思いまでは知ることができません。週の入場者数がどんどんと減少していく中で、自分たちの行っていることが何になっているのか、何の役に立っているのか、こんなことをやって意味があるのかと思っていた方もたくさんいたと思うんです。でも、少くない数の方がミニシアターで得た経験によって人生が豊かになった、それが可視化されたことはものすごい大きな価値だと思います。その一方で、特に劇場関係者の方々に言いたいことは、「逃げてもいいんですよ」ということです。自発的ではない形で誰かのための犠牲になるならば、それは絶対に避けるべきです。「ミニシアター・エイド基金」の分配がいくことで、「映画館をやめられない」と思ってしまう方もいると思うんです。お金以上のものを受け取ってしまったと思う方もたくさんいると思います。でも、それがその人自身の生活を破壊するものであるとすれば、間違っています。お金はお金でしかありません。厳しい話ですが、お金が尽きたら辞める。ないものをなんとかしようとしてはいけないと思っています。個人的には何にお金を費やすべきかと言えば、建物や場所ではなく、人なんじゃないかという気はしています。もちろん場所も物も失われてしまえば取り戻すのは難しい。それでも人の暮らしが保たれれば、映画館という場を作った人たちの志は保たれるわけです。それがあれば、いずれ立て直すこともできますから。


深田:練馬区のとんかつ屋さんの店主が、自殺を疑われる火災によって亡くなられたというニュースがありました。このコロナ禍でお店を休業しなくてはいけなくなったことに、精神的に非常に悩まれていたと聞きます。人はなぜ生きていくのかと考え始めたら哲学の世界になってきてしまいますが、私は本質的には人が生きなくてはいけない理由なんてないのだろうと考えています。でも、それでは生き辛いから生きていくために多くの人がさまざまなものに価値を見出していく。それが仕事の人もいれば、趣味の人もいる。恋人や家族かもしれない。でも、今回の新型コロナウイルスは、さまざま人の価値を大きく揺るがしました。特に映画業界は“不要不急”のものとして扱われ、自分の仕事は、本当は価値がないのではないかと思った映画関係者も少なくないはず。でも、「ミニシアター・エイド基金」を通しても分かったように、そこに生きる価値を見出してくれる人が本当に多くいるんです。繰り返しになりますが、私自身も大きな勇気をもらいましたし、作り手、俳優、スタッフ、映画関係者のすべての方にとって、一日一日を生きていく糧になったのではないかと思います。


ーー最後に、監督としての今後の作品についてお伺いいたします。コロナ禍を経ての作品作りには何か影響がありますでしょうか?


濱口:「変えよう」という思いは一切ないです。今までどおりにそのときどきの作りたいものを作っていくだけですね。感染防止のために、ソーシャル・ディスタンスが必要と言われますが、そもそもカメラは常に距離がないと撮れないものであり、映画製作の根本には“距離”がある。それが前提なわけです。じゃあ、「メイクさんは接触するけどそれはどうするのか」「キスシーンはどうするのか」ということが問題になってくると思いますが、それによって表現が限定されるという考え方はしないほうがいいと思っています。必要なメイクはすべきだし、キスシーンが必要なら撮るべきだし、その目的のために役者さんとの合意プロセスを構築すべきだと考えています。撮られるべき物語に向かって準備をしてそれを撮るだけと思っています。


深田:私もスタンスを変えることはありません。これは自分に限らず、すべからずすべての作家・人間がそうだと思うのですが、あらゆる表現は環境に支配されているものだと思っているんです。これは「自由意志とはなにか」という議論になっていきますが、人間が自由意志だと思っているものも実は環境の反射物でしかないんじゃないかと。自分がどんなに国際人であろうとしたところで、日本で生まれ日本で育ち、日本語という言語を使うことによって制約されているものがあるわけです。コロナ禍や「ミニシアター・エイド基金」の経験や記憶は、反射物として私の中の創作には影響されていくはずですが、それ以上でもそれ以下でもないと思います。今後面白いと思うのは、これだけ世界規模であらゆる国があるひとつの災厄に巻き込まれたのは第二次世界大戦以来だと思うんです。大戦後は、映画をはじめ、あらゆる表現がどうしたって戦後をどう捉えるかと向き合わざるをえませんでした。それと同じように、コロナ禍を経て、どういった作品が現れてくるのか。一人の人間として興味深く感じているところです。(リアルサウンド編集部)


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