EXO・ベッキョン「Bungee」、BTS、BAPほか……Jazzy HiphopのK-Pop20曲を解説!

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2020年06月03日 22:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。5月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲 ‖ 백현 (Baekhyun) - Bungee

 6月はEXO・ベッキョンのソロEPの2枚目『Delight』から「Bungee」を取りあげます。前作のEP『City Lights』もそうでしたが、1曲単位より是非アルバムで聴いていただきたい1枚です。

 今回はEP収録の「Bungee」や「R U Ridin'?」に感じる、Jazzy HiphopやChillHop、Lo-fi Hiphopについて解説します。紹介するのはどれも梅雨時にぴったりの楽曲なので、是非この時期に聞いてみてください。

 Jazzy Hiphopとは、一般的には2000年代初頭に日本ではやったJazzをサンプリングしたHiphopを中心に、そのムーブメントを取り巻く日本・海外のアーティストの楽曲のジャンルのことを指します。日本でしか使われないジャンル名の一つで、英語圏では「Jazz Rap」と呼称することのほうが多いです。ただ「Jazzy」に関してはJazzっぽい・Jazzの要素があるという意味でも使うので、検索したらDJ Mixなどは出てくると思います。

 では、JazzがHiphopに取り入れられるところから話していきますが、1985年にFusionバンドのCargoが出したJazz Rapがはしりと言われています。

 Fusionとは70年代半ばに発生した、Jazzに電子楽器を導入してロック・ラテンなどを融合させた派生ジャンルのことです。JazzというよりはFusionが前面に出ていて、あまり皆さんがイメージするJazzではないかもしれません。BPMもかなり速く、文字通りJazzにRapを乗せているという印象です。

■Cargo - Jazz Rap

 続いて88年にGang StarrというNYのコンビがリリースした「Words I Manifest」というデビュー曲です。JazzやFunk、Hiphopなど5曲ほどをサンプリングしていますが、曲が始まってすぐのベースのループがCharlie Parker & Miles Davisの「A Night in Tunisia」の冒頭です。サンプリングしている部分がベースの1ループだけなので、これもまだあまりJazzという感じはしないかもしれません。(サンプリングについてはこちらの記事「K-POP、サンプリングの元ネタを一挙解説」を参考にしてください)

■Gang Starr - Words I Manifest

■Miles Davis & Charlie Parker - A Night In Tunisia

 90年にはスパイク・リーが監督を務めた『Mo' Better Blues』という、Jazzを題材にした映画のサウンドトラックとしてGang Starrの「Jazz Thing」が使われます。これもThelonious MonkやLouis Armstrong、Duke Ellingtonの曲などたくさんのJazz楽曲をサンプリングしています。

■Gang Starr - Jazz Thing

Jazz Rap楽曲がプラチナディスクに

 88年から始動した「Native Tongues」はJungle Brothers、De La Soul、A Tribe Called QuestなどのHiphopグループを抱える集団ですが、たくさんのJazzをサンプリングしてJazz Rap楽曲をリリースしています。

 89年リリースのDe La Soulのデビューアルバム『3 Feet High and Rising』や、90年にリリースされたA Tribe Called Questのデビューアルバム『People's Instinctive Travels and the Paths of Rhythm』、91年リリースの2ndアルバム『The Low End Theory』も評価が高く、最終的にはアメリカでゴールド(50万枚)やプラチナ(100万枚)ディスク認定を受けます。

 『3 Feet High and Rising』や『The Low End Theory』は史上最高のHiphopアルバムの一つと言われており、今までのハードコアやギャングスタスタイルなどの、"ワルい”ことがカッコいいというHiphopの価値観の幅を拡げる転換点になり、以降たくさんのアーティストに影響を与えてきました。

 是非アルバム1枚を通しで聴いていただきたいですが、その中からJazz Rapとわかりやすいものを一つ挙げます。

■A Tribe Called Quest - Jazz (We've Got) (91)

 サンプリングの説明をした回でも少し言及しましたが、既存の曲をサンプリングする場合、どうしても著作権の問題がつきまといます。

 正式に許可をもらうには費用がかさみ、うまく切り取ってループにすれば原曲の製作者にバレないかもしれない……そもそもサンプリング文化が始まった当初は、製作者から使用許諾を取らないといけないという意識さえなかったかもしれません。

 91年にBiz Markieというアメリカのラッパーがリリースした曲が、サンプリング問題で訴訟を受け敗訴するなど、これ以降も著作権を巡ってたくさんの訴訟が起こされています。このJazz Rapのムーブメントにも、もちろんそのような問題はあり、弁護士を立てて対応していたレーベルもあります。

 一方で92年、イギリスのHiphopグループUs3が、Blue Note Recordsという39年設立のJazz専門名門レコードレーベルに所属しているGrant Greenの「Sookie Sookie」をサンプリングした楽曲「Tukka Yoot's Riddim」をリリースしますが、Blue Note Recordsは訴訟せず、Us3と契約を結びレーベルの楽曲を自由に使えるようにします。HiphopがBlue Note及びJazzの歴史に関心を集めてくれる可能性があるという考えからの行動でしたが、その後リリースされたHerbie Hancockの「Cantaloupe Island」をサンプリングした「Cantaloop」はアメリカで大ヒットを記録し、Blue Note Records初のゴールドディスク認定を受けます。

 以降サンプリングによって楽曲が大量に使用されたJazzアーティストの中には、金銭的に大きな利益を得る人もいました。

■US3 - Cantaloop (Flip Fantasia) (93)

 また92年、ジャズトランペット奏者のMiles Davis死後に、HiphopプロデューサーのEasy Mo Beeとの共作アルバムがリリースされ、JazzとHiphopの融合が実現します。Jazzを引用し、時には訴えられる側であったHiphopが、圧倒的に歴史の長いJazz側から歩み寄られることになったのです。

■Miles Davis - The Doo Bop Song

 このあたりがJazz Rapの人気の最高潮と言われていますが、先述のGang Starrメンバー・GuruはJazz Rapの人気に好感を持っており、更にネクストレベルへと昇華したい思いからJazzのアーティストたちをスタジオに呼び新しいジャンルを作ろうと試みます。「Jazzmatazz」という彼のソロプロジェクトのシリーズはvol.4まであります。どれもとても良いアルバムですが、個人的には3枚目の『Vol. 3: Streetsoul』がとても好きです。

Apple
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■Guru Featuring Donald Byrd - Loungin' (Vol. 1、93)

■Guru Featuring Erykah Badu - Plenty (Vol.3、2000)

■Guru feat. Commom - State Of Clarity (Vol.4、07)

 その後も90年代はたくさんのJazz Rap楽曲がリリースされます。

■Digable Planets - Rebirth Of Slick (Cool Like Dat)(93)

■Nas - The World Is Yours (94)

■De La Soul feat. Guru - Patti Dooke (93)

■Souls Of Mischief - 93 'Til Infinity (93)

■Common - Resurrection (95)

■The Pharcyde - Runnin' (95)

■The Roots - Dynamite! (99)

 90年代後半からはよりJazzを前面に打ち出したJazz Rapがたくさんリリースされ、個人的にはこの辺りからをJazzy Hiphopと呼ぶイメージがあります。

■Youth Explosion - People Under The Stairs (00)

■The Sound Providers - Who Am I? (feat. Grap Luva) (01)

■Asheru & Blue Black - This Is Me (01)

■Nujabes Featuring Shing02 - Luv(sic) (01)

■Jazz Liberatorz - What's real(feat. Aloe Blacc) (03)

 上記に名前のあるNujabesは、2003年に『サムライチャンプルー』という日本のアニメのサウンド制作を担っており、アニメの力を借りて一気に世界中に名前が知れ渡ることとなります。当時は日本人トラックメイカーもかなりシーンに影響を及ぼしており、Five DeezやFat Jon、Pase Rockなど海外のアーティストを客演に呼んだり、Shin-skiやDJ Ryowなどたくさんのトラックメイカーが頭角を現すようになります。

■Nujabes - Battlecry

 03年にはBlue Note RecordsがDJのMadlibに楽曲使用許可を出し、『Shades Of Blue: Madlib Invades Blue Note(ブルーノート帝国への侵略)』という、新たな視点からBlue noteの再構築を試みたアルバムがリリースされます。こちらも1曲しか挙げませんが、是非アルバムを聴いて頂きたいです。
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■Madlib - Slim's Return (03)

 Madlibは翌年04年にラッパーのMF Doomとの共同プロジェクトをMadvillainと名付け、『Madvillainy』というアルバムを出します。いわゆるJazzy Hiphopのような楽曲もあれば、後のLo-fi Hiphop、Chillhopと呼ばれるような楽曲もあり、Lo-fi Hiphopの元祖と言われるアルバムとなります。

■Madvillain - Raid

■Madvillain - Bistro

 さて、ここでLo-Fi Hiphopについてですが、「Lo-Fi」とはLow-Fidelityの略を起源としており、2000年代以降のLo-Fi Hiphopとしての「Lo-Fi」はサウンドが不明瞭だったり古臭かったりするイメージを指します。レコードを再生する時のプツプツ音や、よれたビート、環境音などが特徴です。

 古いJazzやSoulをサンプリングする点は今まで説明したJazz RapやJazzy Hiphopと同じですが、そのトラックの上にラップやボーカルが乗ることは少なく、インスト楽曲が多いです。Chillhopとも言われるように、Chill(ゆったりした、落ち着いた、リラックスしている)の部分がJazzy Hiphopに比べて強調されており、Chill out(スローテンポで家でゆったり聞くような音楽ジャンル)や、Chill Wave(ノスタルジー感のあるメロウなレトロポップサウンド)などからChillの部分がきているともいわれています。

 この「Chill」がつくジャンルは大きなくくりで「ベッドルームミュージック」などとも言われており、文字通り寝室でゆったりしながら聞くイメージの音楽のことを指します。Nujabesや、先程名前を出したMadlibと共同プロジェクトを組んでアルバムをリリースしたJ DillaなどがLo-Fi Hiphopの先駆者といわれています。

Youtubeストリーミングチャンネルの注目どころ4つ

 13年、Youtubeで一般ユーザーがライブストリームをホストできるようになり、VaporwaveやChill Waveなどの細分化されたジャンルに特化したチャンネルができ、リスナーは24時間常に同じようなジャンルの楽曲をラジオ局のように聞けるようになります。

 17年には、Lo-Fi HiphopやChillhopとタグ付けされたダウンテンポの楽曲をかけるチャンネルが流行し、数百万人の登録者がいるようなチャンネルも出てきます。

 有名なものをいくつか挙げると、Chilled cowChillhop MusicRyan Celsiusなどがあり、現在進行系で配信が続いています。韓国でも、ここ2〜3年インディーシーンでLo-Fi HiphopやChillhopのブームがあり、Mellowbeat Seekerのチャンネルでは韓国のインディーR&BやHip-hopが24時間聴けます。

 18年にはCozy(心地の良い)+K-Pop=KozyPopというプロジェクトが立ち上がり、Lo-Fi HiphopやChillhopの楽曲を集めたコンピレーションアルバム『Seoul Vibes』シリーズが始動し、つい先日『Seoul Vibes Pt.16』がリリースされ現在進行系で人気が続いています。こちらもYoutubeのチャンネルがあり、24時間韓国のR&BやHip-hopが聴けます。

Jazzy HiphopのK-Pop15曲

 それではいつも通りK-Popアイドルの楽曲でJazzy HiphopやLo-Fi Hiphopなものを挙げます。

 ちなみに「Jazzy」とくくるともっとたくさんありますが、Jazzy Hiphopだと「Hiphop」なのでビートがはっきりしていて上ネタ(ピアノやシンセなど)がループしているものをメインに、ラップが乗っているものだけと限定するとあまり数がないのでラップ・ボーカル問わず選んでいます。

■B.A.P - COFFEE SHOP (2013)

■Red Velvet 레드벨벳 - Be Natural (feat. SR14B TAEYONG (태용)) (2014)

■방탄소년단 (BTS) - Rain (2014)

■JONGHYUN 종현 - Love Belt (feat. YounHa) (2015)

■지코 (ZICO) - 너는 나 나는 너 (I Am You, You Are Me) (2016)

■정기고(Junggigo)X찬열(CHANYEOL) - Let Me Love You (2017)

■IU(아이유) _ Palette(팔레트) (Feat. G-DRAGON) (2017)

■문별 (Moonbyul) - 구차해 (2017)

■SUNMI - Black Pearl (2018)

■로꼬 (Loco), 화사 (마마무) - 주지마 (2018)

■Zion.T - 멋지게 인사하는 법(Hello Tutorial) (feat. 슬기 of Red Velvet) (2018)

■Brown Eyed Girls - 하늘 (2019)

■BANG YONGGUK (방용국) - ORANGE DRIVE (2019)

■태연 (Taeyeon) - 하하하 (LOL) (2019)
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■온앤오프(ONF) - Moscow Moscow (2019)

■CLC - Open the Window (2015)
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■백예린 (Yerin Baek) - Datoom (2019)

■BVNDIT (밴디트) - Children (2020)

■TXT (투모로우바이투게더) - 샴푸의 요정 (2020)

 昨今のたくさんの配信に疲れてしまった方は、何も考えずに流せるBGMに是非聞いてみてください。ちなみにここまで説明した欧米のJazz RapやJazzy Hiphopについては「WhoSampled」というサイトで曲名を入れると大体のものがどんな曲をサンプリングしたかが出てくるようになっています。曲の中で気になったフレーズがあったら是非探して原曲を聞いてみてください。JazzやSoulに対する苦手意識やハードルが下がると思います。

<落選したけど……紹介したい1曲>

■YUBIN(유빈) - yaya(넵넵) (ME TIME)
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 先月のチョンハと同じような選曲になってしまいましたが……元Wonder Girlsのユビンの新曲です。Wonder Girlsが2017年に解散してからもユビンはJYPに残り何曲かリリースしていますが、2020年に独立し自身でrrr Entertainmentという事務所を設立します。

 今回は新事務所になってから初のリリースで、曲の歌詞にも「와 Free다 프리야 now #d-day 디데이 I'm done with that 이 날만 기다림 (ああ自由だわ now #d-day ディーデイ それはもういい この日を待ってた)」や「THX JYP but Free now 참 편했지 뭐 꿀 빨았지 뭐 건강한 유기농 집밥 내 입엔 msg가 (JYPありがと でも今はもう自由 気楽だったし幸せだった 健康なオーガニック家庭料理 私の口にはmsgが)」とJYPという大きい会社に所属していた気楽さや恩恵、社食で提供されるオーガニック料理を半ば揶揄する歌詞が出てきます。

 JYPは会社を離れるアーティストにもバックアップ等を惜しまないことで有名ですが、13年JYPに所属していた彼女らしい曲ではないかなと思います。

<近況>
エンターテイメントのコンテンツが全てネット上に集中したことにより、今までよりもずっと忙しい日々を送っています。休みの日はオンライン配信されるライブやDJ配信などをハシゴしているといつの間にか1日が終わっています。
毎年世界各地で行われているKCONが6月20日からオンラインで7日間行われるらしいのですが、私は一体どうなってしまうのでしょう……。

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
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