tofubeats&DJ Qと考える、コロナ禍における“リモートプロダクション”の今とこれから

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2020年06月07日 16:21  リアルサウンド

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 世界中のプロデューサー・シンガーがリモートワークで繋がり、1曲を制作するという、レッドブルの動画番組企画『Red Bull Check Your DMs』が配信された。現在は、日本を拠点に活動するtofubeatsと、イギリスが拠点のベースミュージック・プロデューサーのDJ Q、オランダのシンガーGaidaaによるコラボレーションに密着した第一回を見ることができる。


tofubeats、『Red Bull Check Your DMs』出演 イギリス&オランダのクリエイターとコラボ楽曲制作


 当初、同企画は、離れた活動拠点に身を置きながら、お互いがリモートでコラボレーションする、デジタル時代のアーティストの創作活動や考え方を追った動画番組として、始まる予定だった。しかし、改めて今の状況を踏まえて動画を見てみると、全く新しい価値観を読み取れないだろうか。リモートワークで創作環境をどう確保するかーーこれはつまり、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、オフィスや作業現場が閉鎖された、日本の音楽・エンタテインメント業界の現状と重なるのだ。コロナ禍の中、リモートワークや新しい生活様式への移行は、日本人である我々にとって、もはや無視できない。新しい日常を考えるとすれば、この企画は、音楽制作という枠を越え、状況に適応しつつ、価値観や考え方を一変させることの重要性を、我々に伝えようとしているのではないだろうか。


 今回リアルサウンドでは、日本のtofubeatsと、イギリスのDJ QをZoomで繋ぎ、コロナ禍における音楽活動の変化や、リモートプロダクションの「今」と「これから」についての考え方を語り合ってもらった。(5月11日取材/ジェイ・コウガミ)


(参考:tofubeats、鎮座DOPENESSらが早くも活用 インスタ「IGTV」は音楽シーンに浸透するか?


・「リモートでも化学反応は起こせるよ」
ーー今回レッドブルの新企画『Red Bull Check Your DMs』では、国や活動拠点に関係なく、お互い会ったことのないアーティスト同士のコラボレーションがテーマになっていますが、どのような形から始まったのでしょうか?


DJ Q:『Red Bull Check Your DMs』のプランを打診されて、プロデューサーを探している時、tofubeatsを候補に出したんだ。僕のマネージャーのElijah(UKグライムのレーベル・Butterz代表のElijah & Skillam)が元々、彼のマネージャーと繋がっていて、僕たちのデモ音源を交換していたから、tofubeatsのことはよく知っていた。彼のチームに連絡したら、快く了承してもらえて、早く決まったね。


tofubeats:UKのレッドブルに企画を頂く以前から、僕のマネージャーや友人が、イギリスのElijah & Skillamと友人でして。ありがたいことに、僕のデモ音源をElijahに渡してくれていたんですよ。


 あと、以前から僕がDJ Qのファンで。実は前にDJ Qの限定バンドルUSBをBandcampで買って、ずっと持っていたんです。それをプロモ用の動画撮影の時に紹介しようと思って、当日スタジオへ持っていったんですけど……撮ってもらうのを忘れるという(笑)。


ーー新型コロナウイルスによって、制作活動には、どのような影響がありましたか?


DJ Q: 自分は今、ロンドンの北にあるハダーズフィールドに住んでいる。イギリス政府のロックダウン(都市封鎖)で、あらゆる店は閉店状態だ。国の政策で、一日1時間は外で運動していいことになってるだけだね。普段は、家族と過ごして、スタジオで制作することが日常だ。新型コロナウイルスの感染拡大が広がってからも、音楽制作はアクティブに保ち続けている。こういう状況下では、意気消沈して、クリエイティブに必要なモチベーションを見失う人も多い。だから、創作活動を続けてクリエイティブな思考を維持することは、メンタル的にも大事だと思うよ。


 とはいえ、DJとしての活動が主体だから、複雑な気持ちではある。3月以降は、周りの人間も含めて、クラブでのDJの仕事やブッキングを全て失ってしまったから。だけど、他のDJたちも、新しいスキルを学んだり、プロジェクトを始めたりして、時間を有効活用している。状況が改善された時に向けて、今は前進するしかない。


tofubeats: 僕も、DJの仕事はほとんど無くなりましたが、DJ Qと同じく、新しいことを学ぶために時間を費やしてますね。今はプロダクションの仕事がメインなので、この状況で生まれた自分の時間を、今まで出来ていなかった勉強の時間に使っています。例えば、音楽理論を学んだりとか。あと、ライブやDJは週末にやることがほとんどだったので、毎週気持ちを切り替える必要が無くなった分、ずっと制作マインドのテンションが続いていて、スタジオ作業の効率は上がったと思います。そのぶん長時間仕事を続けないように気を付けて、スタジオに入る時間の使い方には注意しています。


ーー今回の企画は、現状を予期したような内容でしたね。


tofubeats:実は、今回の『Red Bull Check Your DMs』用に楽曲制作をしたり、プロモ動画を撮ったのって、去年の11月なんですね。相手に会わないでリモートで作業するという、奇抜なコラボレーションとして始まった企画だったはずなのですが……今の状況は誰も、全く予測していなかったですね。まるで将来のためにリハーサルしていたみたい。


DJ Q:tofubeatsと僕は、時代の先を走ってたな(笑)。イギリス全体で言えば、大勢の人が、通勤やオフィスワークが無くなって困惑していたけど、僕のプロダクションはリモートワークが当たり前なんだ。スタジオで一人で作業して、プロデューサーとオンラインで作業するのが日常だから、新型コロナウイルスが広まって、都市封鎖が始まっても、慌てる必要はなかったね。


tofubeats:僕も自分のスタジオがあって良かったなと思いました。


DJ Q:外出が制限された時、ボーカリストはエンジニアと一緒に作業する人が多いから、レコーディング用のスタジオやスペースが見つからなくて、苦労しているみたい。僕とtofubeatsはある意味幸運だったかもしれない。プロダクションのスタイルが”インディペンデント”だからね。


ーー音楽制作におけるリモートワークが、今回の企画の大きなテーマでもありますが、リモートワークやリモートプロダクションの強みや弱みは、どのように考えていますか?


DJ Q:コロナ禍が収束しても、今まで以上にリモートワークをする生活習慣が定着すると思う。通勤だけじゃないね。打ち合わせもリモートでできるし、スタジオに入って作業する代わりに、データをやり取りして、楽曲制作もできる。自分の慣れ親しんだ環境で、作業に没頭することは、アウトプットのクオリティを高めやすいと思う。今まで、遠隔でコラボレーションしながら楽曲制作してきたから、相手のエネルギーやフィーリングがリモートでも感じることができるようになった。スタジオに入って何かしらの化学反応を起こしたい気持ちも理解できる。でも、リモートでも化学反応は起こせるよ。


tofubeats:元々、僕は一人でスタジオで作業するスタイルなので、今でもそれが当たり前だったんですが、プロになってからは、スタジオに入って人とコラボレーションする機会が増えた、という状況の変化がありました。逆に今は、完全リモートに戻ったことで、一人作業の安心感や心地よさを感じています。僕は人と一緒にスタジオに入って、流れの中で制作するより、今回の企画のように、相手からデータを受けて、自分のペースで作って戻す、みたいなやり方のほうが、自分のバイブスが出しやすい。そういう意味で、リモートワークにやりやすさは感じてますし、自分に向いているとは思います。


 僕の性格なんでしょうが、人と顔を合わせない方が、大胆なエディットや提案ができるんですよ。今回も、DJ Qと一緒にスタジオにいたら、自分の声でラップはできなかったと思う。そういう部分が、逆にプロダクションの面白さへ繋がってきているところはありますね。


ーーコラボレーションする相手や、プロジェクトをリモートで一緒に進める相手を選ぶ際、どのようにして人を探しているのでしょうか?


DJ Q:フィーリングやバイブスが一番大事だね。それから、相手の音楽が好きになれるか。それらを探りながら、コラボレーションする相手をいつも決めている感じかな。起きている時はいつもオンライン状態だから、新しい音楽をネットで探したり、アーティストと会話してることが多いかも。僕はiMessageか、SNSのDMを使うことが多いね。


tofubeats:僕もDJ Qと似た探し方をしますね。オンラインで音源を聴いたり、ネットから情報を探したり。ただ、最近は、以前ほどアグレッシブにコラボレーターを探す時間は減っていて、逆に一人で作業する時間が増えてますね。あと、誘われて、コラボレーションする機会は増えました。


・「音楽の力によって、僕たちアーティストも助けられている」
ーーコロナ禍以降、DJたちはライブ動画配信にいち早く着手し始めました。マネタイズやチャリティ、ファンとのインタラクションなど、ライブ動画配信が提供する価値が拡大する中、今後の音楽シーンにどのような影響があると考えますか?


DJ Q:イギリスだと、大抵のDJはライブ動画配信をやっているね。全てのSNSで配信しているから、新しい音楽やDJをチェックするには最高だよ。だけど、数が多すぎて、誰がいつ配信をしているか、フォローしきれてはいない。ライブ配信は、クラブでプレイする機会がなかった若手DJやアーティストが、今まで得られなかった露出を獲得するためのプラットフォームだと思う。数週間前に僕もInstagram Liveで配信していた最中に、プロデューサーを見つけて、リミックスを依頼したことがあった。僕にとっても、新しい才能と出会えるチャンスが広がったから、音楽シーンにとっては良いことだと思う。


 そのうえで、大事なのは「新世代のアーティストたちは、新しいアイデアを持っている」と認めることだ。テクノロジーも熟知しているから、プロダクションのスキルも斬新し、エネルギーを感じる。過去10年で、若手アーティストが音楽シーンで認知されるためのハードルはどんどん下がってきた。僕が音楽を作り始めた時は、「FruityLoops」(現FL Studio)を使っていたけど、Logicは高すぎて手に入らなかったし、Cubaseの画面はまだ白黒で使いものにならなかったな。今は、誰でも好きなDAWを選べて、楽曲を配信できる時代になった。これは音楽を始めるチャンスという観点からすれば革命的な時代だね。


tofubeats:僕も、音楽が作りやすくなったことは、音楽シーンにとって良いことだと思ってます。あと、自分も一番最初に使ったDAWが「FruityLoops」だったので、Qの話はエモいですね(笑)。


 ライブ動画配信に関していえば、日本でもライブ配信を意識するアーティストの数が増えていく流れは強まると思っています。本格的なライブやDJセットが、配信で見れて、絶え間なく供給されるということは、凄く贅沢な視聴環境ですよね。ただ、僕はアーティストの動画配信も、新たな競争を生むんじゃないかなとも思っています。これまでのオンライン配信は、プロモーショナルな意味合いが強かった。ですが今後は、より商業的、ビジネス的側面が強まって、テレビの視聴率争いに似た構造になっていくでしょうし、時間や視聴者の奪い合いのような競争が激化して、淘汰されるアーティストも出てきたりするんじゃないかと考えています。


ーーライブ動画配信のやり方では、DJ同士がリモートで繋がってバーチャルフェスをやるように、新しい手法も試されていますが、何か新しい取り組みに可能性を感じることはありましたか?


DJ Q:イギリスでは、DJたちがライブ動画配信でNHS(イギリスの国民保健サービス)など医療機関やNPO宛に寄付を募る、チャリティ活動をやっているよ。簡単に寄付できる仕組みを作って、視聴者に寄付してもらうやり方が主流だね。巨額の寄付がDJやMCたちからによって集まっているんだ。


tofubeats:僕も、DJ EZの24時間連続DJライブ配信に感動して、寄付しました。


DJ Q:ありがとう。DJのチャリティ活動は、音楽コミュニティの連帯を強めてくれる効果もあると思っているよ。


tofubeats:イギリスと日本の音楽シーンでは、色々なやり方が違うので、比べられないと思いますけど、音楽から地域や社会に還元しようとする考え方は、共通しているんじゃないでしょうか。僕も自分の会社を通じて、医療関係機関に寄付したりしましたし、これは日本人の国民性だと思いますが、そういう活動をやっている方は多いと思っています。出来ることは小さいですが、音楽の力で集まったものを、地域に還元することは常に意識してますね。


ーー新型コロナウイルスは収束までの長期化が懸念されていますが、すでに音楽シーンから無くなったものや、形が変わらざるえないものも、すでにたくさんあります。アーティストの観点からコロナ禍の先を考えた時、現時点で失われつつあるものや、以前の状態を保つのが難しいものは、何だと思いますか。


tofubeats:コロナ禍の影響で、すでに経営が続けられなくなったクラブが出てきていますよね。そういうクラブは、仮に場所として再開できても、以前のフィーリングやバイブスまでは再生できず、失われていってしまう。それから日本だと、社会における音楽の優先順位はそれほど高くない。だから、補償が受けられなくて、音楽の仕事を失う人も増えると思います。そういう変化は作り手である自分も、意識せざるを得ない状況です。僕だって、ビジネス的な影響は、ゼロとはいえないですから。そう考えると、表面的には、クラブやライブハウスなどの経済再開に期待はあるでしょうが、一度失われたクラブカルチャーのムードや、DJシーンのテンションだったり、クラブに遊びに行く気分を回復させるには、収束までの期間よりも、さらに長い時間を要するのかもしれません。


DJ Q:これからの音楽シーンやクラブカルチャーは、「ソーシャルディスタンス」によって、大きく左右されると思う。クラブが再開すれば、一挙に人が押し寄せるはずだ。だが、その勢いも長く続かないと思う。自宅生活が長期化して、その反動で、遊びに行きたい人は多いだろうが、密集するクラブや音楽フェスティバルで、人と人との距離を保つのは簡単じゃない。イギリスの音楽シーンの将来は、政府の社会再開プランが明確にならなければ、一歩も先に進めない状態なんだ。すでに音楽フェスの多くが中止せざるを得ない状況で、経済的に追いつめられているだけに、さらに苦しい状況にならないかが心配だ。


ーーコロナ禍が収束しても、今後の生活には不安が残るかと思われますが、そんな社会状況の中で、音楽はどんな役割を果たせると思われますか?


DJ Q:新型コロナウイルスが広がってから、人は音楽に、ストレスや不安から開放してくれる癒やし効果を求める動きが高まったね。音楽を聴くことは、メンタルヘルス的にも前向きになったり、日常の憂鬱を解消する手助けになる。音楽は間違いなく、今後の社会の中で、重要な役割を担っていくはずだよ。


tofubeats:僕は音楽制作に没頭することで、新型コロナウイルスが蔓延する日常から、少し距離を置かせてもらっていると感じています。作業していない時でも、大量に買ったレコードを集中して聴いたり、昔のアーカイブを整理してますから。だから、音楽の力によって、僕たちアーティストも助けられているといえるんですよね。


ーーお二人とも今日はありがとうございました。


tofubeats:僕と僕のマネージャー二人とも、DJ QとButterzの長年の大ファンでしたと、ちゃんと本人に伝えられて良かったです(笑)。


DJ Q:ありがとう。早くまた日本に行きたいね。


tofubeats:日本に来たら、僕のスタジオでコラボレーションしましょう。


(ジェイ・コウガミ)


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