渡辺大知が語るジャームッシュと『パターソン』 「生きていること自体が映画になってしまう感覚」

0

2020年06月09日 12:21  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真渡辺大知
渡辺大知

 ジム・ジャームッシュ監督最新作『デッド・ドント・ダイ』が、新型コロナウイルスによる公開延期を経て6月5日より全国公開された。そんな最新作の公開を記念して、リアルサウンド映画部では『デッド・ドント・ダイ』に繋がるジャームッシュの過去作の魅力に迫る特集を展開。ラストを飾る第3回では、日本でもスマッシュヒットを記録した『パターソン』の魅力を、ミュージシャン・俳優の渡辺大知に語ってもらった。


参考:過去作から振り返る、“鬼才”ジム・ジャームッシュ監督の魅力


ーー渡辺さんはジム・ジャームッシュ作品の大ファンだそうですね。好きになったきっかけはなんだったんですか?


渡辺大知(以下、渡辺):出会いは大学1年生の頃でした。大学に入って最初に仲良くなった友達にジム・ジャームッシュのDVDボックスを貸してもらって、『パーマネント・バケーション』『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー』の3本を観ました。彼は大学の同級生だったんですけど、年が2つ上で、年齢的には先輩で。浪人してる時期にいろんな映画を観漁っていたような人で、当時19歳だった自分にとっては“ちょっとカッコいい”お兄さんみたいな存在でした。ジム・ジャームッシュという監督の名前自体は聞いたことがあって、作品も観てみたいなとは思っていたんですけど、ちょうど何から観ようかなと思っていた時期だったので、その初期3作のDVDボックスを貸してもらうことになったんです。その3本に衝撃を受けて、そこから作品を追っていくようになりました。


ーーその当時、具体的にどういうところに衝撃を受けたんですか?


渡辺:「何か大きな事件が起こらなくても映画って出来てしまうんだ」という感覚が大きかったですね。何か特別ことが起こるわけでもないのに、思いが伝わってきたり、生きるっていうことがすごく伝わってきたり……。人間が生きて、いろんなことを考えて、いろんなことを感じる。それだけで映画になるということを教えてもらったような気がしました。


ーーまさにジャームッシュの作風がそうですよね。


渡辺:そうなんです。たとえば日常的に散歩はするけど、じゃあ何で歩くのかという理由は別にない。でも、散歩ってすごく気持ちよくて楽しいなっていう感覚はある。そんなふうに、そのとき何に出会ったとか、何かを発見したとかそういうことではなくて、ただ歩く行為自体が意外と楽しいということに気づかせてくれたんですよね。そういう新しい“映画を観る喜び”を教えてもらったような気がするんです。あと、それまであまりそういう映画を観てこなかったということもありますが、初めて撮影がすごいと思ったんですよね。カメラマンのトム・ディチロの存在も大きかったです。


ーージャームッシュ作品では『パーマネント・バケーション』や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、『コーヒー&シガレッツ』などに参加していたカメラマンですね。


渡辺:トム・ディチロのカメラワークには痺れましたね。自分が高校3年生のときに映画に出演させてもらったのも大きかったんですけど、カメラを意識させない撮影ではなく、風景を切り取る道具として、デザインの効果としてのカメラを、初めてすごくカッコいいなと思いました。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で、ウィリー(ジョン・ルーリー)たちが部屋を歩いている姿をカメラがただ追ってるのとかも、まるで壁が生きているかのような、まるで部屋が彼らを撮影してるかのような印象を受けて。カメラに意思があるように思えたのが、本当にスゴいなと思ったんですよね。


ーー『ナイト・オン・ザ・プラネット』や『ブロークン・フラワーズ』、直近の『パターソン』や最新作『デッド・ドント・ダイ』ではフレデリック・エルムスが撮影を担当しています。


渡辺:やっぱり全然違いますよね。『パターソン』とかはむしろ作為を全く見せないカメラですよね。言葉や表情が重要な『ブロークン・フラワーズ』や『パターソン』にはそれがバッチリハマっていた。それもスゴい境地ですよね。初期の頃のジャームッシュは、映画でどういうことができるかを提示するというか、自分の中にある映画のイメージを言葉にしているような印象が僕にはありました。で、『パターソン』に関しては、もうついにここまで来たかと(笑)。映画を作ろうということよりも、生きていること自体が映画になってしまうみたいな、そんな感覚を初めて覚えました。


ーーいい意味で、映画を作ろうという意識が感じられなかったと。


渡辺:ジャームッシュが、いろんなものに目を止めたり、いろんなものに耳を傾けたりしていく中で、その延長線上に映画が出来ちゃったみたいな感じがしたんです。たとえば、音楽や詩、デザインなど、いろんなものが作中に出てきますが、耳を傾ける行為そのものが音楽になっていったり、何かに目を向けること自体がデザインになっていったり……映画や音楽などの表現って、高尚なものとして捉えられがちになることもありますけど、もっと生きることに近いんだよと教えてくれるような感じがあったんですよね。


ーー表現も、日々の生活の中にあるものと同じだということですよね。


渡辺:ちょっと話が変わってしまうんですけど、昔、柳家小三治さんの落語を見に行って、これまた衝撃を受けたことがあるんです。僕が言うまでもなく本当にすごい方なんですけど、そのときに、落語をやろうとか笑いを取ろうという意識が感じられなくて、自分が話したいことをポロポロ話して、気付いたら落語になっていたというような印象を受けたんですよ。落語をやっているというよりも、柳家小三治の生き様自体が落語になっているなと。それと全く同じようなことを、『パターソン』を観て感じたんですよね。ジム・ジャームッシュという人が、いままで生きてきて、映画を撮ってきたことの延長線上として、この映画がぽっと生まれたような気がしたんです。いままで映画でやってきたことのすごく大事な部分を凝縮したような印象もありましたね。


ーー集大成的な作品でもあると。


渡辺:そうですね。ただ当時は、「本当はこういう映画が作りたかった」ということでもなく、この次の作品は、映画という作り物でどれだけ遊ぶかみたいなことに振り切るんじゃないかなと思ったんですよね。そしたら、『デッド・ドント・ダイ』というゾンビ映画を撮ると発表されて、震えました(笑)。なので、『パターソン』はジャームッシュにとっての集大成であり、通過点であるのかなと。彼にとってこの作品が、単なる通過点だったことが素晴らしいなと思いました。それもジャームッシュのキャリアがないとできないことですし、リアルタイムでそういう映画に触れられる機会もなかなかないので、リアルタイムで劇場で実感できたのは、僕にとっては経験として大きかったですね。


ーージャームッシュの生き様がそのまま映画になっているような感覚ですよね。


渡辺:本当にそうなんですよね。ジム・ジャームッシュという人は、僕にとってはもうアイドルのような存在で、会ったこともないただのファンでしかないんですけど、彼が今まで見てきたものや好きになった景色、気になった音とか、そういうものが全部こっちまで届いてくるような気がして。あんなに空気みたいな映画を観たのは初めてでした。音楽ではたまに感じることがあるんですが、「映画でもそういうことってできるんだ」と。そう感じられたのも、すごくワクワクしたポイントでしたね。ナチュラルさとファンタジーの絶妙なバランスも見事でした。


ーーそんな中で一番好きなシーンはどこですか?


渡辺:一番好きなシーンか……。難しいですけど、すごく印象的だったのは、パターソンが詩を書いている10歳の女の子に会うシーンですね。最初観たときはあの女の子の存在がめちゃくちゃ大きかったんですけど、2回目に観るとなったときに、彼女がどんな詩を書いていたか覚えてなかったんですよ。で、実際にもう1回観てみたら、詩の内容は素晴らしいんですけど、映画の内容とはあまり関係がないんですよね。妻のローラがカップケーキを焼いてるシーンもすごく印象に残っていたけど、それが彼女の表現やセンスにはあまり関係がなかったり……。つまり、結果どうこうよりも、行為そのものがこの映画の中では重要だったんだと思ったんです。その行為によって、パターソンの心が動くのがものすごく重要だったんだなと。


ーー確かに何度観ても新しい発見がある映画かもしれません。


渡辺:会話ひとつとってもそうですし、所作や表情などもかなり繊細に、細かく作られてると思います。アダム・ドライバーも本当にいいですよね。大好きです。


ーー『パターソン』のようなアート系の作品から、『スター・ウォーズ』のような大作まで、大活躍ですね。


渡辺:まさに彼はそれぞれの作品の世界の中で生きているということですよね。パターソンの状態で『スター・ウォーズ』の世界にはいられないですし、同じジャームッシュの作品でも『パターソン』と『デッド・ドント・ダイ』は全然違う世界なわけで。おこがましくも同じように演技をさせていただいている立場から言うと、演技って、“監督が何を求めているか”じゃなくて、“その映画が何を求めているか”なんですよね。だから正解がなくて、すごく難しいんだと思うんです。監督が「もっとこうしてくれ」と言ってたとしても、映画が求めてない可能性もある。本当にその場その場の繊細な空気で、スタッフ・キャスト含めみんなで作るものだと思うので、それをいかに敏感にキャッチできるかが重要なのかなと。


ーーなるほど。ものすごく説得力があります。


渡辺:でも、僕が勝手にそう思ってるだけで、アダム・ドライバーに聞いたら「そんなの考えたこともない」って言われるかもしれません(笑)。それはわからないですけど、アダム・ドライバーがすごいのは、その存在感の上で、本当に繊細な表情、感情の機微を、言葉なしでも伝えられるところですね。言葉なく言葉を発せる人というか。技術も含め、本当にカッコいいなと思います。


ーー『パターソン』で言うと、『ミステリー・トレイン』以来27年ぶりにジャームッシュ作品に出演した永瀬正敏さんも印象的でしたよね。


渡辺:永瀬さんにはお会いしたことがないんですけど、日本映画界のスターですよね。永瀬さんが20代の頃に出演された映画も好きな作品がたくさんあるぐらい、僕にとってはヒーローみたいな存在です。『パターソン』を観ても思ったんですけど、永瀬さんがすごいのは、ヒーローなのにヒーロー感を消せるところ。本当にどこにでもいる人にも見せられるところがスゴい。


ーーまさにその通りだと思います。


渡辺:言葉を選ばずに、あえてリスペクトを込めて言わせていただくと、そういう“どこにでもいる人”になれるのがすごくカッコいいと思ったんですよね。そういう意味では、『ミステリー・トレイン』はヒーローのときの永瀬さんで、それが作品に合っていて素晴らしかった。でも『パターソン』ではひゅっと普通の人になれてしまう。さっきの話にも通じることではありますけど、同じジム・ジャームッシュの作品だけど、全然違う人に見えるんです。ジム・ジャームッシュと永瀬正敏という2人が、年を重ねていろんなことを経験して、すごくカッコいい年の取り方をされていることに、また憧れを抱きました。


ーー渡辺さんは2015年に公開された『モーターズ』で監督も経験されていますよね。映画を撮る上でジャームッシュの影響もあったんですか?


渡辺:それはめちゃくちゃありましたね。さっき言ったような『ストレンジャー・ザン・パラダイス』から受けた衝撃は、自分の土台になってると思っていて。今後どうなるかはわからないですけど、『モーターズ』は初めて自分で撮る映画だからこそどんどん実験しようという思いで、当時自分がやりたいことを全部詰め込むような気持ちで撮りました。カメラは作為的に動かしまくったりしましたが、主演の渋川清彦さんにはすごくオフビートな演技をしていただきました。そういうオフビートな感じは、やっぱりジャームッシュからの影響が強かったなと思います。というか、部屋のシーンを撮る前に『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観返した気もしますね(笑)。


ーーめちゃくちゃ影響受けてますね(笑)。


渡辺:そうでした(笑)。カメラマンさんに「ここはちょっと『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の最初に部屋のシーンをイメージして撮ってほしい」とか言ってたような気がします。モロに影響受けてますね。


ーー芝居の面でも受けている影響はあるんですか?


渡辺:具体的にどう影響を受けてるとかはないと思うんですけど、自分が演技をするときに一番大事にしてるのが、先ほどの話にも通じる、“その世界でいかに普通に生きれるか”ということなんですよね。“普通”って難しいんですけど、その世界の中で、地に足がついてる状態で息をしていることをものすごく重要視しています。だから、「こういう芝居を見せてやろう」とか一度も思ったことがないんです。呼吸の仕方だったり、心臓の鼓動みたいなことを意識しながら、きちんとその世界に存在することを常に考えてます。そういう感覚は、ジャームッシュに限らず自分が好きになった監督たち、自分が好きになった映画に出てる人たちに共通してることなのかもしれません。


ーージャームッシュとは“音楽”という共通点もありますよね。


渡辺:大ファンであると同時に、同じものを好きになりそうだなと勝手に思ってます。バーで横に並んだら、共通の趣味で盛り上がれるんじゃないかなと(笑)。ジャームッシュもそうですが、マーティン・スコセッシだったり、アキ・カウリスマキだったり、エミール・クストリッツァだったり、自分が好きになる映画監督は音楽の匂いのする人がやっぱり多いですね。自分でバンドをやったり、バンドマンを自分の映画に出したりする監督には、やっぱりちょっと惹かれてるようなところが照れ臭いながらもありますね。そういう人に惹かれるようなタチだから、いつの間にか音楽をはじめてたんだろうし、いつの間にか映画のお仕事もさせていただいているのかなと思います。僕が一番大事にしてるのが、「いい鑑賞者になりたい」「いいファンになりたい」ということなので、好きが高じて、気付いたら自分でもやっていた感じなのかもしれません。そういう意味では、1人の人間としてもジャームッシュにシンパシーを感じるところはありますね。


ーーちなみに、一番好きなジャームッシュ作品は何ですか?


渡辺:その質問はめちゃくちゃ難しいですね……。そのときの気分によって『ナイト・オン・ザ・プラネット』だったり『ミステリー・トレイン』だったり……でも一番回数多く観てるのはやっぱり『ストレンジャー・ザン・パラダイス』ですね。『パターソン』も捨て難かったり、難しいです(笑)。あとは『デッド・ドント・ダイ』もまだ観ることができてないので、またジャームッシュにワクワクさせてもらえることを楽しみにしています。(取材・文=宮川翔)


    あなたにおすすめ

    ニュース設定