『おっさんずラブ』『東京独身男子』、そしてABEMAとの『M 愛すべき人がいて』……テレ朝“土曜ナイトドラマ”枠はなぜ社会現象を生み出す?

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2020年06月13日 11:31  リアルサウンド

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(C)テレビ朝日/AbemaTV,Inc.

「アユを選んだのは俺じゃない。俺を選んだのも俺じゃない。神様です」(マサ〈三浦翔平〉)


 こんなふうに熱く真っ直ぐな台詞がたまらない。ついついSNSに書き込みしてしまいたくなる。もちろん、心酔するというよりは、ぷぷっと笑ってしまうものとして。ツッコミエンターテインメントといっても良さそうなテレビ朝日×ABEMA初の共同制作ドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系 土曜23時15分〜/ABEMAで全話独占配信中)は、唯一無二の歌姫・浜崎あゆみと彼女を見出し、大きく育てたエイベックスの松浦勝人をモチーフにした恋とサクセスの物語(フィクション)だ。


(参考:『M 愛すべき人がいて』を彩るアーティストと音楽ーー浜崎あゆみや懐かしいあの楽曲など“秀逸な使い方”に注目


 歌手を夢見る女子高生・アユ(安斉かれん)はレコード会社「A VICTORY」の敏腕専務マサ(三浦翔平)に才能を見出され、音楽界のトップスターとして上り詰めていく。原作は当事者へのインタビューをもとにしたフィクションとされているが、実在する人物と重ねてついつい本当のことでは……と思ってしまいそうなところ、このドラマはあまりにも表現がぶっ飛んでいるため、作りモノとして安心して楽しめるのである。その最たる要素が、マサの秘書・姫野礼香(田中みな実)のビジュアル。アユにあからさまに敵対心を燃やす彼女は、なぜかみかんの皮のような眼帯をしている。


 “みかん眼帯秘書”のように現実にはありえない感じの人物がヒール的な役割を果たすことは、1980年代に流行した「大映ドラマ」のようであると言われている。毎回、白い手袋を口で外してヒロインを脅す片平なぎさがこわかった『スチュワーデス物語』(1983年)、ヒロインを「薄汚いシンデレラ」と呼んで深夜0時に現れる石田鉄男がこわかった『少女に何が起こったか』(1985年)などなど、昭和の大映ドラマはヘンな悪役キャラが人気だった。


 『M』では“みかん眼帯秘書”のほか、小室哲哉がモチーフらしき音楽プロデューサー・輝楽(新納慎也)、「A VICTORY」社長・大浜(高嶋政伸)なども、ギラギラといかにも悪役感を漂わせ楽しませてくれる。そう。悪そうな人がツッコミどころ満載で、おバカでかわいげがある、というところが重要なのである。アユを鍛えるボイストレーナー・天馬まゆみを演じたのは水野美紀で、このキャラのスパルタっぷりも気持ちよくぶっ飛んでいた。彼女の名言は「イノシシをやれるくらいのパンチを」。


 水野美紀といえば、同じくテレビ朝日系の金曜ナイトドラマ『奪い愛、冬』(2017年)で、みかん眼帯秘書・姫野礼香の前身といえそうな松葉杖の女・森山蘭を演じていた(脚本は『M』と同じ鈴木おさむ)。主人公の恋路を邪魔する役割で、幼馴染(大谷亮平)に足を不自由にされたと、責任を問い続けるのである。この怪演が受けて『奪い愛、冬』は話題に。過剰に相手にプレッシャーを与える役を演じると水を得た魚のような水野美紀は、その後、『M』と同じ土曜ナイトドラマ『あなたには渡さない』(2018年)で、主人公(木村佳乃)から夫(萩原聖人)を略奪する愛人を演じる。小説が原作の文芸浪漫的なドラマで、木村佳乃と水野美紀が美しい仮面の下にうごめくマグマのような熱情を演じ、その女の濃密な心理戦が話題に。こちらはどちらかといえば愛憎渦巻く“昼ドラ”のテイストであった。


 漫画や小劇場テイストの『M』、シリアスなのにどこかおかしい『あなたには渡さない』までジャンルが多種多様な土曜ナイトドラマ。土曜の終わり、日曜に日付が変わる直前まで(現在は0時を越えて放送されている)の時間をひととき楽しめるこのドラマ枠は、2000年、2001年に放送された後、しばらくの間、バラエティー番組を放送していたが、2017年から再びドラマ枠になり、ここから快進撃をはじめる。第一弾は三浦春馬主演の『オトナ高校』。少子化する日本に歯止めをかけようと若者に恋愛の手順を教える“オトナ高校”が開校されるという社会派コメディ。それまでイケメンとしてかっこいい役をやってきた三浦が、うまく女性とコミュニケーションがとれなくて翻弄されっぱなしという役を、あえてのオーバーアクトで見せ、SNSを中心に盛り上がった。一見かっこいい男子の、意外な一面にフォーカスし、笑わせつつも、本質的なピュアさを浮き上がらせていくスタイルはその後『おっさんずラブ』(2018年)に踏襲され昇華されたといえるだろう。


 その『おっさんずラブ』は、田中圭、林遣都、吉田鋼太郎が演じる真剣な恋愛コメディ。演技巧者たちによって単なるハイテンションなコメディに収まらず、繊細な震える感情まで描き出し、男女関係なく人を愛する気持ちの尊さに、女性視聴者を中心にSNSが沸騰、視聴率はさほどでもないながら、関連グッズが売れ、映画化もされ、社会現象に。Season2『おっさんずラブ−in the sky−』(19年)も作られた。


 男性同士の仲睦まじい姿は女性視聴者の大好物。『東京独身男子』(2019年)は地位も名誉もお金も家事スキルもあるため、結婚する必要のないセレブ男子3人(高橋一生、斎藤工、滝藤賢一)の物語。チャラい人たちかと思いきや、3人とも実は真面目で不器用という感じの、外見と内面のギャップが描かれていた。恋愛ドラマというよりは男子3人の友情ものの側面が強く、この“仲良し男子”路線は、その後放送される、少年及び青年マンガを原作にした間宮祥太朗と渡辺大和がお笑い芸人を目指す『べしゃり暮らし』(2019年)でさらに強化された。同作では『東京独身〜』以上に男子ふたりの関係性に重きがおかれ、男性視聴者もハマっていた。


 そのほか、市原隼人が思いつめた瞳でせまる、濃密な恋愛もの『明日の君がもっと好き』(2018年)、窪田正孝がタイトル通り、だらだらしたヒモ生活を送る姿が微笑ましい『ヒモメン』(2018年)、余命を宣告された主人公(野村周平)と彼をひたむきに愛する少女(桜井日奈子)の少女漫画原作の純愛を正攻法で描く『僕の初恋をキミに捧ぐ』(2018年)、浜辺美波主演の男女問わず楽しめる推理モノ『アリバイ崩し承ります』(2019年)など、毎回テイストを変えて、多様な視聴者層にアピールしているユニークな枠が土曜ナイトドラマといえるだろう。


 そして、現在放送中の『M』は、恋あり、成功譚あり、奇抜なキャラありの豪華盛り合わせで、第1話の世帯平均視聴率は5.6%に。『おっさんずラブ-in the sky-』の5.8%、『東京独身男子』の5.7%に次ぐ好成績だった(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。これは、『オトナ高校』『おっさんずラブ』『あなたには渡さない』がやってきた、俳優が真剣になればなるほどおもしろいエンターテインメントの、ひとつの到達点といってもいい。


 さらに『M』 はABEMAとの共同制作。ABEMAでは地上波の放送時間にコメント連動企画を行っており、若い視聴者へ新しい見方を提供することで、トレンドにも毎回入っている。また、ABEMA視聴者も楽しめるキャスティング(『オオカミ』シリーズ出演者のキャスティングなど)などのプロモーションも相まって、地上波のユーザー×(比較的若い)ABEMAユーザーによって各世代からのユーザーが獲得でき、過去にない盛り上がりを各方面で生んでいる。ABEMAとの共同制作という新たなスタイルで、ますます土曜ナイトドラマの可能性が広がりそうだ。


(木俣冬)


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