浦和ナルシス、高田馬場AREA、池袋手刀……コロナ禍で独自のカラー活かした企画行うV系ライブハウス

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2020年06月21日 12:01  リアルサウンド

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リアルサウンド編集部

 新型コロナウイルスの影響で4カ月前ほどから、全国のライブハウスは休業を余儀なくされた。今月19日には都内のライブハウスへの休業要請が解除されたが、「密」を避けるためには収容人数を大幅に減らす必要があり、収支を成り立たせるのは厳しい。まだまだ本格的な再開とは程遠いのが現実だ。SNSでは聞き覚えのあるライブハウスの営業終了の知らせが流れてくることもあり、歯がゆさを感じている。そんな苦しい状況ではあるが、全国各地にあるライブハウスは存続をかけ、クラウドファンディングや配信ライブなど、新しい取り組みを次々と実行している。私が追いかけているV系シーンでは、独自のカラーを活かした企画を実施しているライブハウスが目立った。各ライブハウスの特色と共に、その企画内容を紹介していきたい。


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■埼玉の愛されライブハウス「浦和ナルシス」
 今年で38周年を迎えた浦和ナルシスは、埼玉・浦和にある地元密着型のライブハウス。県内でも有数のターミナル駅である浦和駅を出て、銀行、不動産屋、カフェ、メガネ屋など、地元民の生活に密着した店舗が軒を連ねる平和な大通りを歩き、小さな路地を一本入ったところに浦和ナルシスはある。その立地もさることながら、スタッフの温かな接客も印象的で、「アットホーム」という言葉が最も似合うライブハウスだ。埼玉出身のバンドマンの実家的存在でもあり、大きなバンドが全国ツアーで浦和ナルシスに帰ってくると妙に嬉しい気持ちになるのは、きっと私だけではないだろう。


 数多のミュージシャンのホームとして愛されている浦和ナルシスは、自身のYouTubeチャンネルを通して、埼玉愛の強いアーティストたちの音楽を配信し、アーティストと二人三脚でこのコロナ禍を乗り切ろうとしている。たとえば埼玉出身のNoGoD団長による弾き語り配信や、始動から浦和ナルシスを拠点に活動しているDANGER☆GANGによるバンギャ初心者へ向けたV系のノリ紹介動画など、アーティストによって企画は様々。中でも、浦和ナルシスで人生初のライブを行ったという摩天楼オペラの苑と彩雨は特に気合いが入っており、一日限りのバンド「黒の暁」を立ち上げ、浦和ナルシスへの寄贈楽曲の制作を企画するなど、本格的な活動に乗り出している。また、浦和ナルシスのオンラインショップでは、ボイスメッセージつきのチェキや、配信中にコメントを読んでもらえる有料の応援カード(500円〜1万円)など、リスナーの購買欲をそそるグッズの販売も展開。さらに浦和ナルシスのファンが立ち上げたクラウドファンディングでは、578人の支援により524万円以上の資金が集められるなど、アーティストのみならずファンからの支援も大きな力になっているようだ。


■V系の聖地「高田馬場AREA」
 V系のライブハウスといえば、やはり高田馬場AREA。フロアに柵や段差が多いため、どの位置からでも視界が開けており、“とにかく見やすい箱”として人気のライブハウスである。毎年莫大な本数のV系バンドのライブが行なわれていることから、ファンにとっては“あの思い出のライブを観た箱“になることも多く、まさにV系の聖地と言っても過言ではない。


 そんな高田馬場AREAが企画したのは、『AREA Presents 配信ONEMAN LIVE 「STAY HOME」』と題した配信ライブ。若手からベテランバンドまで、V系シーンを網羅したようなバンドを取り揃え、オリジナルのセットリストでのライブを配信している。配信ライブは他のライブハウスでも広く行なわれている取り組みだが、高田馬場AREAでの配信ライブの映像は、とにかくクオリティが高い。まるで映像作品のようなカメラワークで、ここぞというシーンをしっかり映してくれるので、生のライブを観ているような没入感を味わえる。ファンのツボを熟知した配信ができるのは、長年V系のライブを共に作り続けてきた高田馬場AREAならではと言えるだろう。ライブができない、ライブへ行けない、というそれぞれのもどかしさを抱えたファンとアーティストを「ライブ」で結びつけるのは、やはりV系の聖地が担う役割なのだ。


■カオスな世界で楽しめる「池袋 音処・手刀」
 高田馬場AREAがV系の聖地なら、池袋手刀(チョップ)はアングラ界隈の聖地だろうか。池袋駅北口(西口(北))を出て、風俗店や激安居酒屋などの看板が立ち並ぶ繁華街を抜けた路地にある、小さなライブハウスが池袋手刀だ。その立地の危うさに加え、出演アーティストのクセもかなり強い。白塗り系や密室系(<密室ノイローゼ>所属および関係の深いアーティスト)などV系シーンの中でも濃いバンドの他、パンクバンドやアングラ劇団など、世界観の強いアーティストたちが一堂に会するカオスな場所が池袋手刀なのだ。ちなみにドリンクカウンターには「手刀酒場」という看板が掲げられており、ライブハウスとは思えないほど豊富な種類のお酒を味わうことができる。


 お酒にこだわりのある池袋手刀では、配信ライブを行なうアーティストへお酒などを差し入れできるという新しいサービスを実施している。オンラインショップからシャンパン(5500円)、ビール(800円)、ポッキー(500円)のチケットを購入することで、ファンからの差し入れがアーティストに届くというシステムになっているため、配信を盛り上げるアイテムとしても、ファンとアーティストの距離を縮めるアイテムとしても活躍しているようだ。さらにオンラインショップでは、出演アーティストの血英鬼(池袋手刀では「チェキ」を何故かこう表記する)に加え、池袋手刀のスタッフが映った血英鬼、アーティスト手作りの大仏ブローチ、池袋手刀オリジナルの布マスクなど、様々なアイテムが雑然と並べられており、他では中々見ないカオスな空間になっている。危機的状況に立たされているのは確かなはずなのに、その状況をどこか楽しんでいるようにも見えるのは、池袋手刀にしかない魅力だ。


 ライブハウスが配信という新たな常識に適応しつつ存続を続けていくためには、ライブハウスをただの箱として見せるのではなく、“いつも面白そうなことをやっている場所”とリスナーに認識してもらい、アーティストのファンではなく“ライブハウスそのもののファン”を増やす必要があるのかもしれない。そうなれば、今回挙げた取り組みを発端に、ライブハウスは今後、より独自のカラーを強め、他との差別化を図っていくことだろう。(南 明歩)


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