乃木坂46×バナナマン、欅坂46×澤部・土田、日向坂46×オードリー……グループ力を際立たせる坂道×芸人の関係性

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2020年06月23日 06:01  リアルサウンド

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乃木坂46『しあわせの保護色』(通常盤)

 バナナマンと乃木坂46の『乃木坂工事中』(テレビ東京系)、土田晃之&澤部佑(ハライチ)と欅坂46の『欅って、書けない?』(テレビ東京)、オードリーと日向坂46の『日向坂で会いましょう』(テレビ東京)。人気芸人と坂道シリーズによるこの3番組は、それぞれの関係性と持ち味による相乗効果が評価され、お笑いファン、アイドルファンの双方から高い支持をあつめている。


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 お笑い芸人がMCを担当する番組にアイドルが出演し、グループの魅力をアップさせたことは過去にも数多くあった。坂道のプロデューサーでもある秋元康が1980年代、とんねるずを番組のMCに迎え、おニャン子クラブを誕生させた『夕やけニャンニャン』はその代表例だ。


 モーニング娘。は、テレビ東京系でオンエアされていた『ASAYAN』出身。彼女たちのアイドルとしての成長を見守ったMCが、ナインティナインである。ちなみにモー娘。の「。」は、ナイナイの矢部がユニット名に含めることを番組中に提案した。


 そんなモー娘。でインパクト大だった出演番組は、石橋貴明(とんねるず)と中居正広が司会をつとめた『うたばん』だ。石橋は、飯田圭織に「ジョンソン」という絶妙なニックネームをつけるなど、メンバーのキャラ付けに一役買った。


 AKB48の冠番組『ネ申TV』では、毒舌とあだ名づけで再ブレイクした初代MC・有吉弘行、2代目MC・おぎやはぎがメンバーたちをスパルタ的に翻弄。彼女たちはそれに食らいつきながら、バラエティでの対応力を磨いていった。


 そもそもお笑い芸人は、人間を観察する力が強い人ばかり。徹底的に観察をして、気になった点を率直に突く。そして笑いへと昇華していく。ここで挙げた番組はいずれも、芸人がアイドルの容姿や言動の特徴を見逃さずにすくいあげることで、新たな側面が発見されてきた。


 そこで今回は、3番組について触れながら、アイドルとお笑い芸人の関係性の重要さ、そこから生まれた化学反応について考察していく。


●乃木坂のバラエティ感度の良さが光る『乃木坂工事中』
 芸人とアイドルの関係性を語る上でポイントにあげたいのは、イジり、イジられのやりとりだ。アイドルは決して笑いや喋りのプロフェッショナルではない。先述したように芸人たちがいかに観察眼を鋭く働かせ、イジっていくか。アイドルはそれをどのように受けるのか。逆に彼女たちがイジる側にまわったとき、芸人はどんなリアクションをとるのか。これが芸人とアイドルの組み合わせのおもしろいところだ。


 『乃木坂工事中』は、乃木坂46の「場の空気が良く分かっている部分」が実感できる番組だ。バラエティ感度と勘が抜群に良い。乃木坂46といえば結成から現在まで、生駒里奈、白石麻衣、西野七瀬、齋藤飛鳥、生田絵梨花ら屈指のメンバーを次々輩出。その背景には、現状に甘んじず「世代交代」を一つのテーマとし、後輩が先輩を常につきあげ、グループ内でうねりを作り、誰が前に出ても場を成立させられるほど、個々のタレント性が磨き上げられている点がある。


 そんな乃木坂46を生かしているのがバナナマン。ふたりは2008年『キングオブコント』で準優勝するなどのコント師だ。番組でも、乃木坂46を巻き込んでコント的な流れを作り出している。


 設楽統は細かい箇所まで目を配り、いちいち横やりをいれるのが特徴。同番組の「念願の新春日村賞大決算祭!」(2016年1月3日放送回)におけるビーチフラッグ対決のときのこと。うつぶせに寝そべってスタンバイするメンバー。そこで設楽が声をかける。そうするとメンバーは、上半身だけ起こして後方に顔を向ける。まるでその姿はオットセイ。このズボラな対応に、「何だその態度は!」と物申す設楽。これを何度も繰り返す。誰も気にしないような仕草、行動に目を光らせ、「いける」と思えば食らいついてなかなか離さない。乃木坂46の面々はそれを理解しているのか、設楽にきっちり乗っかって盛り上がりを作った。


 一方、乃木坂46とは違う意味でのアイドル性を持つ日村勇紀は、体を張って乃木坂を引き立てる。日村との関係性で、乃木坂46が「一番思い出深い」と語っているのが2017年7月に明治神宮野球場にて行われた『乃木坂46 真夏の全国ツアー2017』だ。日村は、メンバーに内緒で「インフルエンサー」のダンスを猛練習し、ライブ当日にステージへ乱入。でも自分からは、それほど目立とうとはしなかった(とは言ってもいるだけで目立つけど!)。日村に気づいたメンバーは驚きながらも、彼をセンターに据えるフォーメーションを形成。サプライズ演出だが、「どうすれば場が良くなるか」をすぐ見極めてパフォーマンスを繰り広げた。


 2016年5月16日オンエア回「来たれ新入部員!大募集大会!」では、堀未央奈がアクション(格闘技)クラブを立ち上げたいとプレゼンテーション。日村は身体を張ってキックを食らいまくった。さらに「不意打ち、ノーガードのところを攻撃した方がおもしろいから」と言わんばかりに、メンバーに合図を出して自らボコボコになる一幕もあった。この回はコント的なおもしろさが発揮されており、堀未央奈が天然の小ボケをかましたと思ったら、和田まあやが空手経験者らしい蹴りで感心を持たれ、川後陽菜が日村を襲撃して混沌とさせるなど、シークエンスとしてお見事だった。


 『乃木坂工事中』は乃木坂46とバナナマンの息のあったコントでもあるのだ。バナナマンのフリに対し、乃木坂46メンバーは瞬時のタイミングで反応する。そして何かしら必ずオチがつく。両者のコンビネーションが光る。


●欅坂46をMCが育てる『欅って、書けない?』
 欅坂46といえば、クールさのなかに暗鬱や孤独を抱えているイメージを持たれている。楽曲「大人は信じてくれない」では、子どもと大人のあいだにある歪み、他者や社会との相容れない関係性について歌われていた。また「サイレントマジョリティー」には社会的なメッセージが込められている。鋭利で、硬質さがあり、どこか冷たさを感じさせるグループだ。


 2015年10月にスタートした『欅って、書けない?』では、欅坂46の、不器用でありながら少しずつ個性が育まれている様が楽しめる。その成長をバックアップしているのが土田晃之とハライチの澤部佑だ。


 番組開始当初、土田、澤部と欅坂46の絡みはどこか“不協和音”だった。当時の欅坂46は不慣れさもあって随分とおとなしかった。澤部、土田のフリにも言葉数少なく返答をしていた。話題がなかなか広がっていかないところが課題だった。2015年11月9日オンエア「夏合宿潜入レポート」で土田は、VTRを観たあと、メンバーにこのように話す。


「ボーカルレッスンをやっても変わらないよと思ったりするけど、変わりますからね。真面目にやっておいた方がいいですよ。専門学校で発声・発音をやらされて、何の役に立つんだよと思って、うちの事務所でネタ見せに言ったら、みんな声が出ていないことに気づく。声が出ていると相手にも伝わりやすくなる」


 このようなコメントを投げかけたのは、番組がはじまったばかりとはいえ、脱皮する気配が感じられない歯がゆさや、特色の薄さに対するもどかしさから、「これじゃあ番組として成立しないからもっと頑張れ」という土田なりの叱咤激励のような感じがした。「これはあなたたちの冠番組なんですよ」と。


 ワイドショーでコメンテーターもつとめる土田は、気質的にも問題点があれば堂々と物申すタイプ。バナナマンが乃木坂46にとって「公式お兄ちゃん」と呼ばれているように、土田のそういった厳しさこそが、欅坂の「公式お父さん」と称される所以でもある気がする。しかし一方で、「MC土田のお誕生日会」(2018年9月12日回)では、土田の大好きなおニャン子クラブの楽曲「セーラー服を脱がさないで」をメンバーが歌う場面があった。歌詞が飛んでしまったりすると、土田自ら一緒に歌ってあげる姿もあり、心が温まった。厳しさ、優しさ、その両面で土田は父親的である。


 澤部は、欅坂46のテンションをあげるのがとてもうまい。澤部のイジりで伸びたメンバーは、何といっても尾関梨香だ。澤部、尾関の関係性は、「妙にリアル」と言われるくらい愛情にあふれている。2019年7月1日回では、尾関に肉を「あーん」で食べさせてもらう澤部の嬉しそうな顔が大きく映し出された。そういう「まんざらでもなさ」を包み隠さない澤部の素直な性格が、メンバーの信頼を勝ち取ったのではないか。


 小池美波とのやりとりも素晴らしい。澤部は、小池に物をおねだりされて、デレたら負けという企画に挑戦しているが、そこで2度にわたって完敗を喫している。ここでも澤部の「まんざらでもなさ」が露呈し、笑いをあつめた。負けたとはいえ、「ゆうくん」と猫なで声で甘える“小池の本気”を余すことなく引き出した澤部は絶賛に値した。ファンの歓喜を誘発し、「試合に負けて勝負に勝った」感があった。


 番組が始まって4年半が経つが、欅坂はまだまだ伸び代ばかり。これからも土田、澤部の育成力が試される。


●日向坂が若林の指令のもとで怪物・春日に挑む『日向坂で会いましょう』
 日向坂46は、アイドルの可愛らしさを押し出した「王道路線」を歩んでいる。グループにとってのテーマでもある楽曲「ハッピーオーラ」に〈大事なのは前を向くこと〉という歌詞があるように、「欅坂46の2軍」という見られ方をされていた時期や、日向坂46のルーツ的存在だった長濱ねるが前身グループ・けやき坂46を卒業したときも、ポジティブな姿勢で乗り越えてその後の飛躍に結びつけている。どんな逆境にもぶつかっていける強さが日向坂46にはある。


 そんな日向坂46の『日向坂で会いましょう』のMCはオードリーだ。オードリーといえば、お笑い界のモンスター・春日俊彰を相方・若林正恭が調教師のごとく操ってネタを組み上げていく。ラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)の2020年4月25日回で、若林が「春日は自分で振らない、偉そうなことを言っているだけでボケない」とその特徴を語ったように、他を寄せ付けない春日の独特のスタンスは、基本的に若林にしか生かせないものである。


 同番組では、そんな若林がキーマンとなっている。司令塔的な役割を担い、日向坂46メンバーの糸を引いて春日に挑ませ、笑いを生んでいく形だ。メンバーは若林のキラーパスを受けながら、持ち前の「逆境を乗り越える力」で春日の牙城を打ち崩そうとする。


 2019年6月23日回から3週にわたってオンエアされた企画「男・春日完全奢り!日向坂46ご褒美BBQバスツアー」は、その陣形を象徴するものだった。メンバー全員参加のBBQ費用を春日が全額負担するという、このツアー。若林は、別のロケバスに乗り込んで春日とメンバーのツアーをモニタリング。春日にバレないように、メンバーへいろんな指示を出していく。


 スーパーでの買い出し時。若林の指令で上村ひなのは春日にカートをぶつける。「意外と強心臓」と言われるように、何度もアタックする上村に、春日としては至極真っ当に「引くな」とツッコミをいれる。さらに3台のカートに囲まれて身動きがとれなくなった春日について、若林は「カートを自分で引き寄せた」と気づき、松田好花にそのことを指摘させる。松田は、若林の指示に従い「自分で引き寄せましたよね」とツッコむばかりか、「嬉しいんですかぁ?」とSっ気のある一言までかぶせて、春日のニヤつきを引き出させる(ちなみに春日は、日向坂46にとっての「公式ド変態」といわれている)。芸人同士の絡みでは見られない春日の顔がそこにはあった。若林の暗躍、メンバーの実行力が生かされた場面だ。


 ちなみに若林は、『オールナイトニッポン』の2017年10月7日回で「自分は芸能界では2軍、3軍」、『たりないふたり』(日本テレビ)の2020年5月28日回でも「MCは生徒会長か暴走族しかいないのではないか。自分は学校で3軍のエースだった。だから(MCをつとめて)偉そうに見えるのが怖い」と語っている。この言葉は、かつて「欅坂46の2軍」と言われていた日向坂46に似ている。若林と日向坂46の相性の良さは、たどってきた背景の近さが要因になっているのかもしれない。となると、「1軍」を自称する春日は、若林やメンバーにとって毎回倒しがいのある良いライバルなのだ。


 若林は『たりないふたり』でさらに「バットを短く持って、1個1個を確実にやってきた」と、大振りせずに続けてきた結果が現在につながっていると話した。『日向坂で会いましょう』で日向坂46は、まだビッグヒット的な企画を飛ばせてはいないものの、各回で着実に見どころを作り上げている。2020年4月26日オンエア「第2.5回企画プレゼン大会」は派手ではないものの良い回だった。宝塚歌劇団が好きな濱岸ひよりが、オードリーのふたりの名前を宝塚風にアレンジ。春日を「春野翼」、若林を「若香響」とネーミングし、その好センスに春日は「(実際に)いそうだね」「うまいな、やっぱり好きなだけあって」と舌を巻いた。番組が進むにつれて、各メンバーのそういった「うまさ」が目立つようになってきた。


 お笑い芸人とアイドルの相乗効果で成り立つ3番組。これからどのような発展を番組が遂げていくのか、期待がふくらむ。(田辺ユウキ)


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