羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今回の有名人>
「僕、嘘がつけないんで」手越祐也
記者会見(6月23日)
新聞や週刊誌が書いた記事は、「正しい」こともあれば、「間違っている」こともある。その記事が「正しい」のなら問題はないが、読んでいるほうは「正しい」かどうかを確認する術はなく、たとえ間違っていたとしても、その記事をもとに世論は形成されていく。こうなるとマスコミにとっては「書いたもん勝ち」もしくは、有名人にとっては「書かれ損」という状況が生じてしまう。特にやってもいない悪いことを「やった」と決めつけられたほうはたまらないだろう。
これまで多くの有名人が煮え湯を飲まされてきただろうが、最近はYoutubeで、自分の意見を発信できるようになった。ジャニーズ事務所を6月19日に退所した手越祐也が「あまりに事実と違う報道が多すぎる」「自分の口から真実を伝えたい」として、YouTubeで記者会見を生配信したのは、そんな意味が込められているのではないだろうか。
手越が会見で述べたのは、ざっとまとめると以下の通りだ。
|
|
1.ジャニーズ事務所とは揉めておらず、円満退所
2.NEWSのメンバーとも揉めていない
3.5〜6年前から、退所のことを考えていた
4.事務所から自粛を言い渡されて退所することになったと報道されているが、実際は3月に自分から申し出ていた
5.「文春オンライン」で書かれた「キャバクラ手越(女性を集めて飲酒した)」に関しては、事前にチーフマネジャーに会食予定と連絡を入れていた(ただし、女性が一緒で、お酒を飲むとは伝えてはいない)
6.その席では、医療従事者と、人の命を助けることの手伝いやボランティアができないかと話し合っていた
7.政府やジャニーズ事務所がステイホームを打ち出している中、3月に二度も外出したのは、すでに退所の意向を伝えてあったため、今後の活動について早急に打ち合わせる必要があった。だから、不要不急の外出ではない
つまり、手越はもう何年も前から退所について考えていて、今年の3月に実際に事務所に意向を伝えた。だからクビにされたわけではない。チーフマネジャーに外出することについても報告しているし、今後の人生のために必要な会合だったから、不要不急の外出ではない。さらに飲み会の内容も、ボランティアに関してなど真面目なものだから、やましいことはない、と言いたかったのだろう。事実、手越はあの会見で、ひたすら謝罪に徹していたという印象は受けなかった。
◎手越は嘘がつけないゆえに印象を悪くした?
会見で手越は「僕、嘘がつけないんで、思ってないことも言えないし、ゴマをすることもできない」と発言していた。子どもの頃、大人に「嘘をついてはいけない」と教えられた人は多いだろう。嘘をつかないことは善人の証でもある。手越は自分は嘘をついてまで、人に媚びたり、おもねったりしないので「誤解されやすいところがある」と自分を思っているのではないだろうか。
確かに手越は元来、嘘つきではないと思う。会見での彼の言い訳は、辻褄が合っていないし、ポイントもずれていて、イメージを悪くした気がした。嘘をつきなれている人なら、もっとうまくやったのではないだろうか。
|
|
それを強く感じたのが、先ほど挙げた会見の要点の「5」と「6」である。
緊急事態宣言といっても、全ての外出を自粛せよと言われていたわけではなく、例えば通院や食料品などの買い出しは認められていた。だから、手越が外出したとしても、それ相応の理由があれば、責められるいわれはない。外出がダメなのではなく、「理由」が問われるわけだ。
手越は、その点に関し、「医療従事者と、人の命を助けることの手伝いやボランティアができないかを話し合うため」と説明しているが、4月1日に日本医師会は、感染者が増え続ければ医療現場が持たないとして、「医療危機的状況宣言」を発令している。もし人の命を助けたいと本気で願うなら、医療崩壊を招かないようにすることが重要であり、とりあえずできることは自分が患者にならない、つまり人と接触しないことに尽きるので、会食をしている場合ではない。食事相手の医療従事者が前線で治療に当たっているとしたら、感染リスクを高めるような行為をうかつに取るはずがないし、もし前線にはいない医療従事者と食事をしたのなら、それは人命を助ける手伝いとどうつながるのだろうか。
また、理由にボランティアを持ってくるところも、ちょっとヘタクソだ。イメージを良くしたいときに、芸能人が人のための仕事である介護やボランティア、その他の社会貢献に取り組むと強調することはよくある。
2009年に酒井法子が覚せい剤取締法違反で逮捕された際、裁判で「芸能界は引退して、介護の仕事をしたい」と話していた(実際は介護の世界には進まず、芸能界に復帰)。19年、夫が知人男性への恐喝容疑で逮捕され、自身にも美人局疑惑が持ち上がり、書類送検された道端アンジェリカは、芸能活動を休止せざるを得なくなったものの、不起訴になって芸能界復帰を宣言。インスタグラムで「社会貢献活動を通して、またみなさまを幸せにできますよう努力いたします」と発表した。
|
|
無私の活動にエネルギーを注ぐことでイメージをアップしたいと思っているのかもしれないが、それで騙されるほど大衆は甘くない。手越の場合も、新型コロナウイルスの影響で、経済的に追い詰められているお店や友人にお金を届けたくらいのことを言ったほうが、よかったのではないだろうか。
チーフマネジャーに事前に連絡するくらいオープンにしていた会食だったというのも、これまたワキが甘い言い訳だ。やましいものではないと言いたいのかもしれないが、肝心の「誰と一緒」については触れていないことを明らかにしてしまっている。マネジメントする側が知りたいのは「外出するかどうか」よりも「誰と何をしているか」ではないだろうか。
◎嘘がつけないなら、手越は清廉潔白を心がけて
「嘘も方便」ということわざがある通り、嘘は必ずしも悪いものではないし、特に大人の世界では嘘をつかねばならない時もある。「嘘がつけない」のなら、嘘をつかなくてもいいように清廉潔白を心がける必要があるだろう。もし嘘をつかねばならないなら、細部までしっかり作りこんで、スキがあってはいけない。もしくは悪いことをしたら素直に謝り、かつ許されるという一流のかわいげを身に着けるしかない。嘘はつけない、でも謝るのも嫌では、オトナとしてやっていけないだろう。
手越はポジティブなキャラで売っているそうだが、記者会見の様子を見ている分には、本当は暗いのに自分を鼓舞して無理に明るくしているようにも感じられた。これは私の直感でしかないが、他人にはちゃんと嘘をつき、でも、自分に嘘をつかず、体に気を付けて頑張っていただきたい。そうでないと、NEWSのファンは浮かばれないよ。