UNISON SQUARE GARDENはバラードも名曲揃い サブスク解禁を機に紐解くバンドの姿勢

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2020年06月28日 12:02  リアルサウンド

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UNISON SQUARE GARDEN『MODE MOOD MODE』

 UNISON SQUARE GARDEN(以下、ユニゾン)が、メジャーデビュー以降にリリースしたフルアルバム7作を各サブスクリプションサービスにて解禁した。これまでCDにしか収められていなかった楽曲も手軽に聴けるようになり、アルバムという形態にこだわってきた彼らの珠玉の作品群に新たに出会うリスナーも多いはず。本稿では、スローテンポでメロディアスなバラードソングを軸に、ユニゾンのアルバムとバンドの姿勢を紐解いていきたい。


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 メジャー1stアルバム『UNISON SQUARE GARDEN』は、原点にしてすでに怒涛のロックサウンドを土台とした躍動的なポップソングを確立しており、11年前の作品でありながら収録曲は今なおセットリストに入り続けている。そんなアルバムの最後を飾る「クローバー」は流麗なアルペジオと穏やかなドラムロールが夢心地を誘う美しいバラードだ。


 直接的な説明はなく、抽象的な情景や心象描写で綴られる、初期のユニゾンに多く見られた歌詞世界はこの曲にも健在だ。それらをじっくりと読み進めていくのが田淵智也(Ba)の書く歌詞の楽しみ方の1つだろう。この曲には、全編通して無垢なものを慈しむフィーリングが漂っていることが分かる。自分たちの放つ誇り高き音楽が“変わらない”ことへの強い祈りと、これまでのあらゆるシーンが〈未来のパズルに続いてる〉というこれからへの期待が綯い交ぜになった、メジャーデビューの門出に相応しい1曲だ。


 その後、苦戦の季節を経て、2011年「オリオンをなぞる」を契機に鍵盤や管弦編曲を取り入れ始めると風向きが変わった。そのアプローチの結晶となった2013年の4thアルバム『CIDER ROAD』には、ポップサイドに振り切ったユニゾンの楽曲たちが詰まっている。


 そのラスト前に配置された「君はともだち」はピアノとストリングスの音色がフィーチャーされたバラードだ。6分を超える長い演奏時間でじっくりと、シンプルな言葉選びが為されるこのアルバムでは異端な1曲。ここに刻まれた大切な人に向けた親愛の情を“名前”というアイテムを用いて描き出してある。歌詞中の“君”はファンのメタファー……なんて分かりやすいことはきっとないだろうが、そんなことも思わせてくれる温かさに満ちている。オーセンティックなポップスをユニゾン流にやるとどうなるか、そんなトライアルに挑んでいた時期だからこそ生まれた名曲だ。


 2015年の「シュガーソングとビターステップ」で知名度を一気に上げた後に制作された、2016年の6thアルバム『Dr.Izzy』は、ヒット曲の存在に浮かれずに自分たちの信じる“良いバランス”のアルバムを研ぎ澄ませた、ユニゾンのブレなさを証明するような傑作だ。


 「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」は、同作唯一のバラードだ。他の多くの収録曲が、ユニゾンらしいセンスを展開する中、跳ねるリズムとしなやかなフレージングがまどろむように響く。恋愛とも音楽とも取れるような絶妙なラインで、“思いが届く”場面を描いたピュアな思慕が零れる1曲だ。この何気ない曲も、アルバムの濃密な流れの中でひと休みできるような抜群の役割を果たす。必要なピース以外一切の不純物はいらないという、ユニゾンのアルバム哲学は徹底されている。


 現時点での最新オリジナルアルバム、2018年の『MODE MOOD MODE』は遊び心にも富んだ彩り豊かなアルバムで、ここにもバラードは1曲。8分の6拍子で刻むドラムに合わせ、感傷が降り積もっていくような悲恋の歌「夢が覚めたら(at that river)」だ。歪んだギターと熱のあるボーカルで別離する2人を映し出していくこの歌は、田淵智也が「フッとメロディが湧いてくるシチュエーション」があって閃いた曲とのこと(『MUSICA』2018年2月号より)。バンドストーリーや主義を描く曲ではない作家性の強い楽曲だが、こういったプロダクションも作品の一部に織り込む今のユニゾンの強さが伺える。


 ちなみにこの楽曲はリリース後、今に至るまでライブでは未披露となっている。『CIDER ROAD』収録の「お人好しカメレオン」がリリースから7年後の15周年ライブの1曲目を飾ったように、この曲もまた然るべきタイミングでプレイされるのを待っているはず。


 ユニゾンのバラードは、例外はあれど多くが“比較的分かりやすい言葉”で“強い純粋さ”を持った楽曲が多い。シングル曲である「harmonized finale」や「春が来てぼくら」ももれなく素直に背中を押してくれる。ボーカル、ギター、ドラム、ベースがせめぎ合うカオティックでスピーディーな楽曲や、どこから飛び出るか分からないワードセンスがユニゾンのパブリックイメージである一方、静かに、それでいて確かな存在感を放つバラード曲にもまた、彼らの美学が宿っている。今回のサブスク解禁を機に、より多くの人にこのバンドの奥深さが届いて欲しい。(月の人)


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