「接待を伴った飲食」が大好きな先輩に連れられ…一之輔が見た「夜の街」の流儀

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2020年07月05日 16:00  AERA dot.

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写真春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「夜の街」。

【画像】一之輔氏が見た「夜の街」とは…?

*  *  *
 前座の頃、「接待を伴った飲食」が大好きな先輩がいた。いや、今もいるが仮にSさんとする。Sさんは寄席の終演後、必ず「夜の街」に出掛ける。本来『前座』という身分に酒は御法度だ。でもまぁ、バレなきゃいいみたいな。それに『前座』は噺家のなかで一番下っ端のわりに、落語会のお手伝いなどで日々忙しく、年季が上になると懐が温かかったりする。Sさんは売れっ子だったので毎日飲みに行っても平気なくらい。

 Sさんが上野の中通りという「夜の街」を歩いていると「S〜っ!」と客引きのお姉さんが寄ってくる。カタコトの日本語で「キョウハヨッテカナイカ!?」「今日はいいや」「コンドハイツクルノダ!?」「またすぐ行くよ」「ゼッタイダナ! ユビキリマンゲンコ!」と言われ、『ユビキリマンゲンコ』をするSさん。「ユビキリマンゲンコっ!」という声が響く。「じゃあな!」とSさん。なんて大人な先輩なんだ!と思ったものだ。なんだよ、マンゲンコって。

 このSさんに初めて「接待を伴った飲食」に連れていってもらった。ある日「お前にオレの遊びを見せてやるからついてこい」というSさん。上野の寄席の昼の部をつとめて外に出ると、夕方の5時。ちょっと歩くと前からカタコトのお姉さんが手を振って走り寄ってきた。「Sー! オソカタネ!」「すまねえ。ちょっと野暮用で」。トリの師匠から小言を食ってただけなのに。「じゃ行くか」。中通りとは逆方向に歩き、3人でアメ横へ。ウイスキーと乾き物、果物をそれぞれ持ちきれないくらい買い込む。カタコト姉さんに言われるがままに勘定を払うSさん。「コレモテヨ、コーハイ」と私に指図する姉さん。「いくら出したんですか?」「それぞれ5千円くらいかなぁ」とSさん。「オレ前座だから」と満更でもなさそうだ。

 店は狭くて薄暗いソファが二つばかり。二人で座ると、さっきのお姉さんがさっき買ったボトルを持ってきた。「ナニツマムカ?」「じゃフルーツ盛り合わせと乾き物でいいや」「ハイヨ」。雑に切ったフルーツが並ぶ。乾き物もさっきSさんが買った「おばあちゃんのぽたぽた焼」とミックスナッツ。お姉さんは奥に引っ込んだまま出てこない。接待は伴わない系の店なのか?「よんできます?」「いーよいーよ。忙しいんだろ?」。たばこ吸っている姉さん。「つまみは食べてもいいし、食べなくてもいいよ」。二人で水割りを3杯だけ飲んで「じゃ行くか」とSさん。すぐにつまみを片付け隣のテーブル客にサッと出し、「マイドデス」とお姉さん。勘定を払い「これ」と別にポチ袋を渡すSさん。つまみは7千円。「今日は安かった」そうだ。

 自分で仕入れたものを、自分で高く買い、それには決して手をつけず、お小遣いを渡し帰っていく。「自分の店みたいですね、兄さん」「いやいや『お客』ですよ」「経営しちゃったほうが早いんじゃないですか?(笑)」「そんなことしちゃったらオレが通えないじゃないかよ」

 中通りを歩きながら「楽しいなぁ(笑)」とSさん。もう2軒飲みに行き「はい、車代」とSさんは私にポチ袋をくれた。「オレ、もう一回最初の店行ってくるからさ」と、Sさんは寿司折りを買い込んだ。寿司はまた自分で買うのだろうか。高そうだな、寿司だもの。

※週刊朝日  2020年7月10日号

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