超贅沢な“ハードボイルド“コメディー映画 桃井かおりの号令で名優たちが集まった

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2020年07月09日 11:30  AERA dot.

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写真阪本順治(さかもと・じゅんじ)/1958年生まれ、大阪府出身。監督デビュー作「どついたるねん」(89年)で芸術選奨文部大臣新人賞ほか、「顔」(2000年)で日本アカデミー賞最優秀監督賞などを受賞。その他主な作品に「KT」(02年)、「闇の子供たち」(08年)、「半世界」(19年)など多数(撮影/写真部・小黒冴夏)
阪本順治(さかもと・じゅんじ)/1958年生まれ、大阪府出身。監督デビュー作「どついたるねん」(89年)で芸術選奨文部大臣新人賞ほか、「顔」(2000年)で日本アカデミー賞最優秀監督賞などを受賞。その他主な作品に「KT」(02年)、「闇の子供たち」(08年)、「半世界」(19年)など多数(撮影/写真部・小黒冴夏)
 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【「一度も撃ってません」の場面写真はこちら】

*  *  *
 タイトルから人を食っている。宣伝コピーは“ハート・ボイルド”コメディー。実際、観れば映画の楽しさを味わうことができる。

 市川進、御年74。トレンチコートにブラックハットのいでたちで、夜な夜な大都会のバー「Y」に出没。旧友のヤメ検エリート石田や元ミュージカル界の歌姫ひかると共に酒を飲み、情報交換をする。彼はちまたでうわさの伝説のヒットマン。だが実は、ただの売れない小説家で……。

 市川を演じるのは石橋蓮司さん。映画主演は19年ぶりだ。阪本順治監督は言う。

「蓮司さんはヤクザの役もやれば検事役もやる。役の振り幅がすごく広い。せっかくだからハードボイルド的なものと非常に喜劇的なものと、蓮司さんが持っている両方を一本の映画で見せたいという気持ちがありました」

 明るいうちはゴミ出しに洗濯、妻のブラジャーを気遣いながら干すなどきちんと主夫業をこなす。ところが夜になると一転、トレンチコートにブラックハットで紫煙(しえん)をくゆらす、そのギャップ。

 5年くらい前、脚本家の丸山昇一さんから今回の元となる粗筋をもらったが立ち消えに。ところが、亡き原田芳雄さんの自宅に石橋さん、岸部一徳さん、桃井かおりさん、大楠道代さん、佐藤浩市さん、江口洋介さんと集まった時のこと。桃井さんが阪本監督に、「(原田さん主演で『大鹿村騒動記』を撮ったんだから)今度は蓮司さんで一本撮ろうよ」と声を掛けた。

「『実は僕も考えていました』と言ったら、桃井さんが『みんな出るよね?』と言ってくれたんです。その後も柄本明さんが手を挙げてくださるなど参加者が増え、そのたびに丸山さんが出演者を単なる顔出しゲストではなく、そこにいる意味を持つように脚本を書き直してくれました」

「蓮司さんと共演することの喜びにこれだけの俳優が集まった」と阪本監督が言うように、映画からは演じる側の楽しさが伝わってくるよう。だが決して仲間内映画ではない。

「いくら仲が良くても現場は現場。彼らが何をもって撮影を楽しみ、何をもって緊張していたかというと、蓮司さんの世代で主演を取り、これだけオールスターが集う映画は昨今ないわけです。俳優たちはその醍醐味(だいごみ)みたいなものを楽しみに来つつ、昨今ない作品だけにそれなりの気構えで来ないと作品を台無しにしてしまう。そんな緊張感があったのではないかと思います」

 俳優たちが生み出す演技はまるで、異なる楽器が絶妙に絡む即興演奏のよう。

「日本映画を支えてきた人たちとご一緒すると、うらやましくもあり悔しさもあります。一方で、その良き時代の匂いみたいなものを私も嗅ぎたいという気持ちがある。現実に返ると映画業界も良いことばかりではないので、監督をしつつ彼らと同じ夢を見たいという気持ちになるわけです。撮影現場で、『映画っていいよなぁ』って、あらためて思いたいと」

◎「一度も撃ってません」
青春を諦めきれない大人たちの喜劇。東京・TOHOシネマズ日比谷、新宿武蔵野館ほか全国公開中

■もう1本おすすめDVD「大鹿村騒動記」

「一度も撃ってません」には、原田芳雄さんが書き残した文字がバーの店名として刻まれている。ある意味、原田さん主演の映画「大鹿村騒動記」(2011年)があってこそ生まれた作品だ。石橋蓮司さんを始め、本作は「一度も撃ってません」の主要役者が顔をそろえる。

 舞台は歌舞伎が伝承されている長野県大鹿村。鹿料理店を営む風祭善(原田)も目前に迫る公演に向けて稽古に励んでいた。そんなある日、18年前に幼なじみの治(岸部一徳)と駆け落ちした妻の貴子(大楠道代)が村に帰ってくる。治は、脳の疾患による記憶障害となった貴子を善に返す、と言うのだった……。

 過疎化や認知症、性同一性障害など現代日本が抱える諸課題をコメディー仕立てで描いた。公開当時は、立て続けに起きた親しい人の死にクヨクヨしていた筆者だが、すべてを受け入れる善の限りない優しさに癒やされ、芸達者な俳優たちが見せてくれた人生の妙に、年を重ねることの恐れから解放されたものだ。9年経った今、さらにそう思う。

 二つの作品に通底する「おかしみ」を味わって思う。今の世の中、もっと大人が楽しめる映画があっていい。

◎「大鹿村騒動記」
発売元:セディックインターナショナル/講談社
販売元:東映/東映ビデオ
価格4700円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

※AERA 2020年7月13日号

このニュースに関するつぶやき

  • 石橋蓮司さんか…蟹江敬三さんや平泉成さんと並んでギラギラした強烈な悪役多かったからね。山崎努版の『雲霧仁左衛門』での木鼠の吉五郎の印象が強いかな。
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