「映画に裏切られたことは一度もない、信じているので」永瀬正敏が映画界の”未来”に関わる理由

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2020年07月16日 08:40  ORICON NEWS

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写真永瀬正敏 (撮影:八田政玄) (C)oricon ME inc.
永瀬正敏 (撮影:八田政玄) (C)oricon ME inc.
 公開延期・撮影遅延が相次ぐ映画コンテンツのなかで「観終わってからしばらく動けなかった」「心に突き刺さる」と反響を集める新作映画がある。永瀬正敏が主演する『二人ノ世界』だ。学生主体の製作チームに永瀬が単身で乗り込み撮影をして、6年の歳月をかけてこの度公開となった。映画畑で俳優としての道を探求してきた永瀬に、市場の縮小が懸念される映画界の現状を聞くと、ピリリと一言。「僕は、映画に裏切られたことは一度もない。映画を信じているので、映画界については心配していません」と映画の“未来”をとらえる答えが返ってきた。

【写真】頚髄損傷の男性役を演じ、”顔芝居”で魅了する永瀬正敏…ラブシーンも

■二足、三足のわらじを履く学生たちに「僕のほうが学ぶことがありました」

――主演映画『二人ノ世界』が撮影から6年の時を経て、公開されました。当時、学生だった制作チームに参加することを決めた理由は、何だったのでしょうか。

永瀬正敏(以下 永瀬):一部の映画界の人達の中で「すごい脚本がある」と話題になっていて。プロデューサーさんに「読んでみて」と言われたんですが、確かにすごい脚本だったこと。もう一つは、「学生たち主体で撮りたい」と言われたことですね。学生たちは僕たちにとって“映画界の未来”ですから。未来といち早く仕事ができるのは光栄だなと思い、演じさせていただきました。

――学生チームとの作品作りは、通常の撮影と勝手が違う部分も多かったのでは。

永瀬:圧倒的に違うのは、みんな二足も三足ものわらじを履いていること。女優で出ながら、出番が終わるとパッと着替えて現場で演出部に参加したり。長い間映画の仕事をさせてもらっていると、悪い意味で心の中に“垢みたいなもの”がついてしまう部分もあるんですが、彼ら彼女らの作品への純粋な向き合い方や、作品を作り上げようとする強い思いに触れることで、僕のほうが学ぶことが多々ありました。

――永瀬さんが今回演じられたのは、頚髄損傷で首から下の自由を失った…という役柄でしたね。顔だけ、後ろ姿だけなど、体の一部だけの演技を必要とされるところもありましたが。

永瀬:難しかったですよ。お芝居は自己中心的にやりきるものではなく、相手の方とキャッチボールをしていくものですから。体の向きをちょっと変えるだけでも、キャッチボールが成立するんですよ。例えば、全盲のヘルパーを演じた土居(志央梨)さんとのシーンで、彼女がつまずいたとき、手を差し伸べるだけで、そのときに出るのが「ありがとう」なのか「余計なことしないで」なのか、そこで感情が出せるわけなんです。でも、僕の役では、それが一切できない。ストレスはたまりましたが、実際にこういう障害を持つ方はいらっしゃるわけで、僕はお芝居の上でやっているけど、実際にはそれが生活なんだという皆さんの実情や思いを常に抱えて、現場にいなければならないと思っていました。

――役作りでアドバイスをいただいた方も?

永瀬:最初はケアのお仕事をしている男性にアドバイスをいただきました。あと事故で全身麻痺になられてしまった女性にも現場に来ていただいて、色んなお話を聞かせていただいて。まだ若く可愛らしい女性なんですが、ニコニコ笑ってお話しされている中で、「でも、明日はまた生きたいと思うかわかんないですし」とか、ふとしたときにズシンとくる一言を言われるんです。前向きに生きなきゃという気持ちはもちろんあるけど、ふとしたときに出る感情は闇の部分で。心に抑え込んでいる本音があるのだろうと。

――作品ではどこまでも続く闇の中で最後に見つける小さな光が描かれますが、コロナ禍の現代と通じるものがありますね。

永瀬:本当はもっと早く公開したかったんですが…奇しくもこのような大変な時期になりました。この作品で描かれている主題が今の時代にも通じるものがある気がしています。

■「組ならではの共通体験があった」映画界における監督と俳優の絆

――永瀬さんの原点といえば、相米慎二監督の『ションベン・ライダー』ですよね。相米監督はどんな存在ですか。

永瀬:僕にとってはでかすぎる存在。悔しいけど、一生好きな人です(笑)。僕、相米さんに一回もOKをもらっていないんですよ。「まあそんなもんだろう」が一番良かった評価で。役者としては相米さんにいつかOKと言わせることが目標だったけど、相米のおやじのほうが先に逝ってしまったので、僕は一生追っかけていくんだろうと思います。

――映画のクルーを「〇〇組」と呼んで「『〇〇組』で仕事してみたい」という目標を持ったり、そこで師弟関係が築かれたりすることはよくあります。永瀬さんご自身は、若手の頃と今とで変化を感じるところもありますか。

永瀬:今は、ほぼ年下の監督と仕事することばかりなので、ちょっと居心地が悪いんですよ。監督が現場でいちばん偉い人なのに、“さん”付けで呼ばれるから(笑)。僕の原点である相米組でいうと、あの組を経験した役者同士で、言葉にならない強い絆を感じることはあります。柄本明さんや佐藤浩市さんとご一緒させていただくときは嬉しいですし、「相米さんだと、ここで雨降るよね」とかボソッと誰かが言うこともあります(笑)。相米監督はポイントで雨をバっと降らせるので。そういう相米組ならではの共通体験はたくさんありますね。

――『あん』『光』『Vision』など、河瀬直美監督の作品にも多数出演されていますが、河瀬組も独特な作り方をしますよね。

永瀬:河瀬さんは、相米さんとちょっと似ているところがありますよ。どちらも長回しですし、余計な芝居をさせない。いま振り返ると、相米さんは3日間リハーサルだけで終わったこともありますし。当時でも大人の事情を考えると、周りからいろいろ言われていただろうに、僕らの気持ちが出来上がるまで待ってくれていたんです。河瀬監督もそうで、「この役を生きてください。芝居は一切いりません」と言われる。映画って、ドキュメンタリーじゃない限りは嘘なんですよね。でも、嘘の上にもう一個嘘を重ねると、お客さんにバレてしまうから、嘘を重ねちゃいけないというのが河瀬さんの考え方で、僕もずっと同じ思いでした。

 ほぼ順撮りなので、気持ちが自然に入っていきますし、撮影開始数週間前から、その役が住んでいる家に実際に住んで、自分で必要なモノを買い、生活する。そうすることで、血肉になり、その役を生きられるんです。順撮りは撮影効率は悪いんですよ。でも、それよりも大事なものがあるでしょ?と。役者にとっては、とてもありがたく、お芝居の原点に帰れる現場です。

■「これからも映画は光に満ちている」アフターコロナで“新しい形”をつくる決意

――連ドラのご出演は『私立探偵 濱マイク』(2002年)以降、WOWOWプライムの『かなたの子』(2013年)だけですね。ドラマや舞台でなく、映画をメインに活動されることにはやはりこだわりがあるのでしょうか。

永瀬:僕自身は分けて考えているわけでは全然なく、生んでもらった現場がたまたま映画だっただけなんですよ。映画をやれない期間はテレビにすごくお世話になっていましたし、教えていただいたこともたくさんありました。ドラマも機会があればぜひやらせていただきたいですが、なかなかオファーがなくて(笑)。

――テレビドラマで永瀬さんのお芝居を観たい方も多い気がしますが。

永瀬:もう一つ、映画の場合、先々のスケジュールを言われることもありますね。試したことはあるんですけど、僕はお芝居を同時にできない、違う役を同じ時期にできないので、例えば「来年の秋に」と言われたら、そのあたりのスケジュールを丸々あけることになるんです。でも、映画では「あれ、なくなりました」「延期になりました」とか突然、平気で言うじゃないですか。僕はお話をいただいた順番に出演させていただくことにしているので、その時点ですでに他の仕事が入っていて、お断りせざるを得なくなることもあるんです。

――映画ならではのスケジュールもあるわけですね。いまの映画界に危惧されていることはありますか。

永瀬:今は映画界だけではなく、どの職業も大変ですよね。世界中が大変な時です。僕は今まで以上に自分の職業=役者を真摯に全うしていくことが大切じゃないかと思っています。皆さんがそうなさっているのと同じで。僕は今まで、映画に裏切られたことは一度もない。映画を信じているので、映画界については心配していません。今作り手の僕たちが映画を信じないでどうする!と思います。でもそこに甘んじるのではなく、僕たちは良い作品を作り続けなきゃいけない。わざわざ劇場にお客さんに来ていただくわけですから。

 アフターコロナで新しい基準ができざるを得ない部分もあるかと思いますが、そこは粛々と受け止めつつ、僕たちは手を取り合って互いに補いつつ、さらに素晴らしい作品を残していかなければいけないと感じています。日本だけでなく、海外の人も一緒にとか、新しいものができる可能性に期待しますね。映画業界を目指してくれる若い人たちや未来を支えてくれる子どもたちに「映画やりたい」「お芝居やりたい」と思ってもらえないと困るので、僕らが責任をもって新しいかたちを作っていかなければと思います。

――映画というカルチャーを今後どのように伝えていきたいですか。

永瀬:先輩方がたくさんいるので、僕なんかが言って良いのかな……でも、間違いなく言えるのは、映画は、時代も国も超えるということ。それを感じた出来事があって。ベルギーに初めて行ったとき、古着屋さんに行ったら、僕の映画のでっかいポスターが貼ってあったんですよ。そしたら店員さんが気づいてくれて、(ポスター指さしながら)「もしかしてこの人? 僕、この映画大好きなんだ」と言うんです。たまたま旅行で行って、たまたま好きな古着を見に行ったときだったので、びっくりしてしまって。僕らが国内外の大先輩の映画で感動するように、言葉が通じなくても映画という「共通言語」が必ずある。これからも映画は光に満ちていると僕は信じています。
(取材・文/田幸和歌子)

このニュースに関するつぶやき

  • 永瀬正敏は格好いいヽ(゚Д。)
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  • 「格好いいこと言ってみた」みたいな?w 映画は違う世界で育っていくよ。 問題ない。
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