“最年少”一之輔、91歳の“レジェンド”金馬が放つ殺気にタジタジ?

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2020年07月19日 16:05  AERA dot.

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写真春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「最年長vs.最年少」。

【この記事のイラストはこちら】

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 将棋の王位戦が話題ですな。最年長で初めてタイトルを手に入れた47歳の木村王位に対するは、最年少17歳で王位戦に挑む藤井七段。世間はかなり最年少贔屓(びいき)のようです。一方、我々の世界では47歳などペーペーもいいとこで、寄席のプログラムによっては、私(42)が最年少ということはザラ。現在、落語協会の最年長は三遊亭金馬師匠(91)。昭和4年生まれ、芸歴80年になろうかというレジェンド中のレジェンド。太平洋戦争開戦の年に12歳で落語家になってるんですよ。一体どういうこと? めちゃくちゃ複雑な事情があるか、ものすごいノーテンキなのか、どちらかでしょう。師匠とは正月の上野鈴本演芸場の第1部で毎年出番がつながっていて、金馬師匠のあとに私が高座に上がります。第1部に出演する落語家のなかでは私が最年少。ここ何年かそんなかんじのプログラムなのです。

 今年のお正月のこと。昨年、師匠はご病気で寄席から遠ざかっていて、この正月が復帰戦。ご高齢な上に半年近くのブランクですから、お目にかかる前にはちょっとドキドキしました。金馬師匠、大丈夫かな、と。

 杞憂でした。師匠は身長が185センチくらいになってました。長い黒髪に、褐色に焼けた肌、お召しになったタンクトップの表には○に「金」の文字。腰から下は、なんとサラブレッドでした。3メートルはある二本のツノの間には電流が走り、放電しては森を焼き尽くす。両脇腹に5本ずつ生えるトゲには猛毒を含み、右手にピストル、左手に花束、唇には火の酒、背中に人生を。嘘。いや、それくらいのハツラツっつーことです。血色サイコー。声も出てるし、なによりお正月の楽屋にいるだけで全身から醸し出すその「おめでたオーラ」が凄い。

 私「あけましておめでとうございます、師匠。お元気そうでなによりです!」
 金馬師匠「はい、おめでとうございます。元気かどうか、わからないけどね! 戻ってこれましたっ! カカカカっ!(笑)」

 元気じゃない人は歯をむき出しにして「カカカカっ!」とは笑わないのです。

「こないだね……」。師匠が続けます。「いっちゃん(なぜか師匠は私のことをいっちゃんと呼ぶ)の出てたテレビを拝見しましたよ」

 私「(汗)拝見だなんて! 恐れ入りますっ!」
 師匠「あの、背の高いイイ男とやってる『落語』のやつね」
 私「東出さんとの『落語ディーパー!』(Eテレの落語を語る番組)ですね?」
 師匠「そう、それ。いろいろ話してたね。『鼠穴』(人情噺、師匠の得意ネタの一つ)についてさ」
 私「いやはや……すいません」
 師匠「いや、謝ることはないですよ。まぁ、いろいろ考えるのは……いいことだぁね……カカカカっ!」

『……』のときの師匠の全身から出る「殺気のようなもの」。「お前みたいな『赤子』に何がわかる?」と言ってるような……。師匠は笑いながら高座へ向かっていきました。

 この秋、師匠は名前をご子息の金時師匠に譲り、なんと自らは「金翁」を襲名されます。その頃、師匠にはきっと翼が生えてることでしょう。金馬師匠、いつまでもお元気で! 師匠の背中に乗って飛んでいきたい!

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります

※週刊朝日  2020年7月24日号

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