映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が見せた希望と絶望  “勝てない”政治家・小川淳也が語った本音と覚悟(後編)

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2020年07月19日 18:00  AERA dot.

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写真「たまには正義が勝とうよ、と思うんです」と語る小川議員(撮影/写真部・掛祥葉子)」
「たまには正義が勝とうよ、と思うんです」と語る小川議員(撮影/写真部・掛祥葉子)」
 現職の衆議院議員、小川淳也さんを追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』がヒットしている。その“主役”である小川淳也さんと、監督の大島新さんにお話を伺いながら魅力を探る、その後編
(前編はこちら)。

【写真】「映画に希望を見た人と絶望を見た人がいる」と話す大島監督

 映画は2017年の総選挙の奥へ入っていく。

 小川さんは「希望の党」へ合流することになり、地元の盟友でもある国民民主党の玉木雄一郎さんと並んで記者会見を行うが、その場面を見て驚いた。玉木さんを一人で見るときは気づかないけれど、小川さんと玉木さんが並ぶと、まぁ、玉木さんて、こんなギラギラした人だったっけ? 小川さんはその隣で不安そうで、まるで子どものように見える。大島さんのカメラはそんな表情も遠慮なく映し出していく。

「並ぶと分かりますよね。僕も後で見てびっくりしました。ザ政治家みたいな玉木さんと……小川さんは普通だからこそ異質なんですよね」(大島さん)

 本当にそうだ。この選挙で小川さんはひたすら悩み苦しむが、それも包み隠さず、ありのまま大島さんにさらけ出す。忖度、嘘、隠匿、およそ小川さんにはそれがない。

「でも、政治家は玉木さんぐらいが頼もしく見えるんですよね。昔風の政治家然とした人が良かったり、偉そうな人が喜ばれたりもします。香川に行くとよく聞くのは、『小川さんはひょろひょろしてるから』って。それが悪いのかと思うけど、政治家は押し出しが強くないといけないという、そういうものあるんじゃないですかね。映画の中で、もう一つのキーワードとして小川さんが政治家に向いてるとか向いてないとかいうのがあって、私もよく話に出すし、ご両親もそういう話をしますが、そういうことですよね。小川さんの、よくある政治家像との遠さというのはあります」(大島さん)

 大島さんと小川さん、共に笑って話していたが、身近な後援会の人でさえ「政治家じゃなければ小川さんは何しても大成してたよね」と言うんだそう。そもそも、政治家には向いてないのかも、と。

 でも、だからこそ、「明日は今日より厳しいかもしれない」時代に生きる若者たちが今、この映画を見るんじゃないだろうか? コロナ禍の時代の変化の中、彼らこそ若い感性で新しい政治、新しい政治家像を、何ら確信めいたものなど特にないまま敏感に求め、探し、期待し、「私たちの世代も明るくなる」かもしれないといちるの望みを託し、もしやこの人かもしれない? その声を聞いて確かめたいと、集まってきているのではないだろうか?

 大島さんは言う。

「この映画を見て、政治家の声に耳を傾ける、ということをしてくれたらいいなと思うんです。政治家の声に耳を傾け、その上で投票してほしい。映画の中でも見られる小川さんと平井さんの選挙戦は対照的で、平井さんの事務所に行くと外壁に写真がばああっと貼ってあるんですけど、それがぜんぶ安倍さん。小川さんの事務所にはありえない。それは何かというと、自民党だから入れるという投票行動につながるんですね。香川に限らず全国どこでもあることではないでしょうか。そうじゃなくて、候補者一人一人の言ってることに耳を傾けてほしい、政治家の体重の乗った言葉を見極めて欲しい、この映画でそれを感じてもらえたらうれしいです」

 大島さんの言葉を受けて小川さんも言う。

「僕にも映画の感想が届くんですが、政治は自分たちの問題であり、選ぶ側である自分たちも問われていると思ったという感想が一番うれしいですね」

 映画はヒットし、メッセージは確かに届いていると感じる。

 そこで改めて小川さんに、私たち有権者の在り方を尋ねた。今、有権者に政治を深く考える習慣はなく、政治と生活を切り離して見ていて、誰かと語るなんて恥ずかしいとされる。いざ選挙となれば一過性のブームに乗りやすく、驚くほど忘れっぽい。日本の有権者の多くはとても未熟だ。

「有権者を教育することを政治家は当然やっていませんし、学校も親も誰も日本ではやっていないですね。親は政治の話なんてしたら駄目、変な人に思われるよと言い、社会の暗黙の了解として政治を忌避してきました。結果として今の政界は相当に信用されず尊敬されず、なのに機能不全な政治が国民生活に多大なマイナスの影響を及ぼしています。だからこの状況を放置しているのは国民総体だという当事者意識に行きついてもらわないといけないのです。たとえば北欧では政治家は絶対に悪いことはしないと国民は言います。日本は逆ですよね。あいつらは絶対に悪いことをしている、と。では悪いことをしないと見ている政治家を選んでいるのは誰かというと、その国の国民なんですね。あいつらは悪いことをするという政治家を選んでるのは、この国の国民です。もっと言うと、北欧では税金が高いですが、不満が少ない。何故なら自分たちのためにちゃんと使われているのが分かるから。現に失業しても大丈夫でしょう。社会保障はほとんど無料だ。教育もお金がかからない。年金も大丈夫。それで何が起こるかというと、人は貯金をしなくなる。不安がないからです。そうするとお金の巡りもよくなる。経済もよくなる。そういう社会は結局、信頼が信頼を呼ぶ連鎖をしている。しかし、この国ではあいつらは絶対に悪い奴らだと自分たちが選んだ人に言って、社会は穴だらけで不安が横たわっている。そうすると少々でも余ったお金があれば貯金する。お金の巡りは悪い。経済も社会保障もすべて傷んだ社会は不信が連鎖することになる。これは相当に大きいな違いですよね。僕がよく紹介する本に、スウェーデンの中学の教科書を翻訳した『あなた自身の社会』(新評論社)があります。その本では、あなたたちは社会の当事者で、自分たちの手で社会を変革し、築くことができると教えています。さらに家庭では、幼い頃から支持政党持ちなさい、その理由を人に説明できるようにしなさいと教育するっていうんですね。その結果として投票率90%を超えてるんですよ。いかに社会の当事者であるかを有権者に伝えていくか、有権者として人を育てるかというところまでさかのぼらないと、根本解決にはならないと思います」

 それは聞いているだけで相当な手間ですが、私たちにできるのでしょうか?

「政治家は一流だけど国民は三流、国民は一流だけど政治家は三流、というのはどちらもないですよね。国民と政治家が車の両輪としてお互いに頭を打ったり膝を擦りむいたりしながら、けん引し合って成長していくしかないんです。だから時間がかかるし、一筋縄ではいかないことを覚悟してほしいです。一夜明けると全てがきれいになってないからとあきらめがちだけど、そうじゃない。これで100点満点の政治だ、ここから先が理想の社会だということはないですから、永遠にやり続ける覚悟ですね」

 永遠にやり続ける覚悟……有権者としての自分は選挙に人一倍関心を持ち、都知事選ではツイッターで「#都知事選を史上最大の投票率にしよう」というタグを広めようと呼びかけ、日本のトレンド1位にもなった。でも、結果には結びつかない。すると、途方に暮れて落ち込むんです、と伝えてみた。

「落ち込んでもいいんですよ、それでまた立ち直れば。それに、そのおかげで何人かが選挙に行ったかもしれないんです。有権者の側も自分の一票でガラリと変わるとか思い込むと実際はそんなことはないので、あきらめやすくなります。日本には有権者が1億人、自分に1/1億以上の力があると過大評価すると挫折する。でも、ゼロ/1億じゃない。あくまでも1/1億の力があると等身大で自分自身の力を評価し、そこを出発点に置いて選挙に行ってほしいです。選挙に行くという行動は必須です。それ自体が権力者に対して最大のけん制になりえるんです」

 前述したが、香川一区には地元有力メディア・ファミリーの強固な地盤を持つ自民党議員がいて、小川さんは選挙区ではなかなか勝てず、敗者復活の比例当選を繰り返してきた。「ポレポレ東中野」で会った70代の女性が言っていたように、比例区当選の議員は党内で選挙区当選の議員に比べ、発言力が弱い。理想は高くすがすがしいほどの人間性を持っていても、政治家として成功できない。有権者が永遠に続く覚悟で、最大のけん制を放っても、永田町の理論は変わらないのか?それこそが国民から覚悟を奪い、政治に絶望をさせるんじゃないのか? 

「僕も何度も絶望しかかってます。安倍さんもそうだし、官僚もそうだし、野党内の偉くなる人もそうですけど、嘘でも何でも要領よく都合のいいことを言って、下の人はどうでもいい、上へひたすら媚びへつらうことが出来る人たちだ。そうすると僕にはそれは出来ない、というところで絶望しかかる。でも、どこで踏ん張れたかというと、それを子どもに言えるか?ということです。子どもに『いいか、世の中はこんなもんだから上の人の顔色を窺い、嘘ついて都合の悪いことは呑み込み、自分は最優先で他人はお構いなしだぞ』って言えるか?です。それはもう絶対のデッドラインで言えない。そうなれば、ここでふんばるしかないんです」

 ここでふんばるしかない。それは希望と見るか?絶望と見るか?

「映画を見て、小川さんの姿に希望を見た人もいれば、これだけの人でもまたうまくいかないんじゃないかって、絶望を見た人もいます」(大島さん)

「うん、その人の立場で色々違うでしょうし、半々ぐらいでいいと思います。このあいだTVドラマ『半沢直樹』の総集編を見たんですけど、半沢直樹が不正融資を回収する勝負に勝ったとき、赤井英和さんが演じる町工場の社長が『たまには正義が勝つんだな』って言ったんです。妻と見ていて、いい言葉だなぁと言いました。毎回、正義が勝つ世の中って堅苦しいし、そう気持ちよくない。利害も損も得も欲もある。でも、たまには正義が勝とうよ、と思うんです」

 ああ、そうですよ、そうです。たまには正義が勝ってくれなきゃ。正義はどんな姿をしているんですか?

「これからのリーダーは普段から国民に語り掛け、対話できる能力が必要です。我々が立ち向かう時代は、どの国も、どの歴史も経験したことない段階に入るので、明確に『これだ』という答えが簡単に出るほど単純じゃないと思うんです。だから国民もさ迷ってるでしょう? だからリーダーも自分は悩んでいますと、国民に対してはっきりと言っていいと思います。ただし、悩んでるだけじゃ駄目なんで、自分なりの見通しと、選択肢は最低限示さないとならない。いっしょに悩んでいっしょに考え、これがたった一つの正解じゃないかもしれないけど、ただ選べるのは一つだという前提で、その人の責任において国民の決断を促す、一緒に移行するという形のリーダーシップ以外、本当の解決にならないんじゃないかと。誰を批判するつもりはないけど、橋下徹さん、山本太郎さん、小池百合子さん、小泉純一郎さん、それぞれに熱狂したけど、それは本当の解決じゃないですよね。一時、気が紛れるかもしれない。一時目をそらすことで気持ちよくなるかもしれない。ただ本物の問題とか、本物の構造変化に正しくアプローチしているという確信はないはずなんです。これからは劇薬や偽薬じゃなく、漢方薬みたいな体質改善を緩やかに促していくリーダーシップが求められているんじゃないかという気がするんですよね」

 では、小川先生が総理大臣になったら何がしたいですか?

「新しいステージに社会を移行させます。そこで回復すべきは成長とか浮かれた話ではなく、持続可能性です。将来に至るまで、後々の世代まで、この社会は確かに続くと。温暖化もなければ、社会保障不安もない、財政赤字も拡大しない、こんな豪雨被害もない、そして政治を信頼できる、そういう社会にしたい、いや、します。そのための社会保障改革。これは国民の痛みをともなう話だけど、これをまずやり遂げないといけない。さらに世界に開かれた国を作る。人口減が激しいから、活力を維持するために世界に開かれた国にする。エネルギー環境調和を徹底して、温暖化とか原発依存とかは徐々に止める。最後にこれも壮大ですけど、国際社会をあげて解決しないといけない問題がほとんどなんで、国際社会の再構築に日本としてリード役を果たしたい。この4つのことをやりたいですね」

『なぜ君は総理大臣になれないのか』〜誠実さを笑うか泣くか いまの日本が浮かびあがる――コロナ禍の時代の変化の中にある今こそ必見の映画だ。ちなみに小川さん、まだ映画を1回も見てないと聞いて驚いた。

「これは監督の作品なので、僕が見て人に勧めたりするのは、作品の中立性や客観性を犯す可能性がありますから」

 なるほど、小川さんらしい。

●和田静香(わだ・しずか)/1965年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて最近は相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など。

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  • たまには正義が勝とうよ、と思うんです→ああ、そうですよ、そうです←ここ、最高に気持ち悪い。お互いに自分に酔いしれてる感じが凄い。
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  • 何故野党って離合集散でおわっちゃうんだろ
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