第86回 マルチバースはキャラクタービジネスの可能性を広げるか?

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2020年07月29日 12:12  BOOK STAND

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もうすぐ製作が開始される、とアナウンスされたアメコミ・ヒーロー映画『フラッシュ』。スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンと同じDCコミックのヒーローです。
もともと人気があり、すでに『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』『スーサイド・スクワッド』でカメオ出演し『ジャスティス・リーグ』で大活躍。ドラマ・シリーズ「THE FLASH / フラッシュ」も好評です。

映画版フラッシュを演じているのはエズラ・ミラー、ドラマ版はグラント・ガスティンが演じています。どっちも甲乙つけがたい素晴らしいフラッシュですが、いよいよエズラ・ミラーが主役をはるフラッシュのソロ映画が始動ということで注目を集めています。

本作で噂されているのが1989年の、ティム・バートン版『バットマン』で主役のバットマン/ブルース・ウェインを演じたマイケル・キートンがバットマン役で登場する、ということ。実現したら相当のサプライズ&嬉しいのですが、ここで「え?」と思う方もいるでしょう。

直近ではベン・アフレックがバットマンを演じているし、来年公開予定の新バットマン映画『ザ・バットマン』ではロバート・パティンソンがこの役に起用されています。
この整合性はどうとればいいのか?

ここで重要なのは、アメコミには"マルチバース"という設定があることです。
"マルチバース"とは並行宇宙=パラレルワールドと考えていただければいい。
この宇宙に「もし●●だったら」の可能性の数だけ並行世界・地球(アース)があるという概念です。
これがコミックにいつから登場したかは諸説あるんですが、僕がこの設定を知ったのはDCコミックにおけるアース1と2でした。

スーパーマンやフラッシュらの主なDCヒーローは1930年代の終わりから40年代の初めにデビューしています。それからずっと描き続けられていくわけですが、ロングセラーになるほど新しい読者がついてこれない。
そこで1950年代から多くのヒーローを新設定・新コスチュームでリブート(再起動=仕切り直し)しました。この試みは成功しますが、ではそれまでのヒーローたちを愛していた読者の立場は?というわけで今までのヒーローたちはアース2とよばれる世界の住人であり、50年代からのヒーローたちはアース1での物語という形で両立させたのです。
後に"アース"の数は増えていくし、DCの場合、各アースが統合して新たなアースが生まれたりといくつかの変動をくりかえしていきます。

マルチバースを導入することで例えば19世紀にいたバットマンが切り裂きジャックと戦う、みたいな番外編を作ることができたり、先にも述べたようにマルチバースにいるヒーローたちが集結する的なイベントが可能になり面白さが広がりました。

一方、この設定は、キャラクタービジネスにおいても有益かもしれません。いまやマルチバースはコミックの枠を超えて、あるヒーローが映画化、アニメ化、ドラマ化、ゲーム化される度に、それらはすべて"マルチバースの関係にある"と説明されるようになりました。従ってマイケル・キートン、クリスチャン・ベール、ベン・アフレック、ロバート・パティンソンのバットマンは皆同時に存在している、という解釈なのです。そうすると仮にこの先ロバート・パティンソンのバットマン映画がシリーズ化されたとしても、ドラマでベン・アフレックのバットマンを復活させるということも不可能ではないのです。

ここでもう一つややこしいことを言うと、フラッシュというヒーローは超光速で走る力を持っているので時空を超えることが出来る。だからマルチバース間を行き来しやすいヒーローなのです。
今度の映画のエズラ・ミラーが演じるフラッシュは『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』でデビューしたフラッシュですから、本来彼のアース=世界でのバットマンはベン・アフレックが演じているバージョンであるハズ。しかしここにマイケル・キートンが登場するのであればフラッシュがマルチバースを駆け抜け、マイケル・キートンのバットマンが活躍しているアース(つまりティム・バートンが作り上げたバットマン世界)に行くということですね。
もしかするとフラッシュがマルチバース間をひっかきまわしアース同士の再統合が行われ、エズラ・ミラーのフラッシュとマイケル・キートンのバットマンが存在する新たなアースが誕生するのかもしれません。

このマルチバース設定はアメコミ・ヒーローに限らず、実は多くのキャラクター・ビジネスに応用されていると思います。
例えば、僕は原作版デビルマンもTVアニメ版デビルマンも両方とも好きですが、どっちが本当のデビルマンか?なんてことは考えなくていい。
コミック誌と子ども向けアニメということでそれぞれの特性にあわせアレンジを変えることは当然だし、ゴジラにおいても『シン・ゴジラ』、アニメ版「ゴジラ」、ハリウッド・ゴジラがここ数年立て続けにリリースされました。
これらはビジネス的に「あり」だし、ファンとしてはマルチバースと思えば「あり」ですよね。どれもマルチバースとしてパラレルに存在しているとすればどのバージョンのファンも安心(笑)そもそも可能性の数だけ世界が存在する、というのは素敵な発想だと思います。

さてマルチバースに興味を持った方なら、いま絶賛ブルーレイ等がリリースの「クライシス・オン・インフィニット・アース 最強ヒーロー外伝」がお薦めです。現在アメリカでは「アロー」「フラッシュ」「スーパーガール」等のDC系ヒーローTVドラマが計5本放送されており、放送局が一緒のことからこれらが共演。全宇宙の危機にいろいろなマルチバースを横断して集められたヒーローたちが力をあわせて活躍します。このドラマの中では歴代DC映画、ドラマがすべてマルチバースとして共存していたと説明され、冒頭述べたエズラ・ミラーとグラント・ガスティンという"甲乙つけがたい素晴らしいフラッシュ"同士が出会う夢のようなシーンがあるのです!
DCヒーローカタログとしても面白いですよ!

「クライシス・オン・インフィニット・アース 最強ヒーロー外伝」
https://warnerbros.co.jp/tv/crisis-on-infinite-earths/

(文/杉山すぴ豊)



『クライシス・オン・インフィニット・アース 最強ヒーロー外伝 (1~5話) [Blu-ray]』
著者:エズラ・ミラー,トム・エリス,クレス・ウィリアムズ,トム・ウェリング,エリカ・デュランス,ケビン・コンロイ,バート・ウォード,マーブ・ウルフマン,マット・ライアン,アシュレイ・スコット
出版社:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
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