伊東歌詞太郎が語る、“無敵のアホ”の生き様 「僕の人生は3割が成功、4割が失敗、3割が致命傷(笑)」

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2020年08月10日 11:01  リアルサウンド

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写真伊東歌詞太郎
伊東歌詞太郎

 シンガーソングライターの伊東歌詞太郎が、初のエッセイ『僕たちに似合う世界』を発表した。バンド活動、ネット動画の“歌い手”としての活動を経て、2014年にメジャーデビュー。シンガーソングライターとして国内外で高い評価を得る一方、2018年には初の小説『家庭教室』を上梓するなど、幅広いフィールドで才能を示している伊東歌詞太郎。本作『僕たちに似合う世界』には、小学校時代のいじめ、両親との複雑な関係、バンド活動における葛藤と挫折、ネットシーンとの出会いからデビューに至る経緯まで、波乱万丈としか言いようがない半生が、どこか軽やかな筆致によって、ありのままに描かれている。「書いているうちに、“バカだなー、こいつ”っておもしろくなってきた」と笑顔で話す彼に、本作について語ってもらった。(森朋之)


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■大事なことは身を委ねたほうがいい結果になることが多い


——初のエッセイ集『僕たちに似合う世界』(KADOKAWA)が発売されました。歌詞太郎さんは以前、「自分のことを知ってほしいわけではなく、楽曲を届けたい」という趣旨の話をよくしていました。


伊東歌詞太郎(以下、伊東):そう、「自分に興味なんてないでしょ?」と思ってたので。


——そんな歌詞太郎さんが自身の半生を綴った本を出すのは、すごく意外でした。


伊東:絶対に僕が出すはずのないジャンルの本ですからね。それは今も思ってます(笑)。


——エッセイ執筆のきっかけは、編集者からのオファーですか?


伊東:そうです。出版社の編集の方が群馬県の高崎までライブを見に来てくれて、その場で「歌詞太郎さんのエッセイを作りたい」と。最初は「何を言ってるんだろう、この人は。変わった人だな」と思いました(笑)。


——(笑)。エッセイなんて書くわけないでしょって?


伊東:おもしろい本になるわけない、と思ったんですよね。でも、「そんなことはありません。絶対にいい本になります」と真剣な目で言ってくれて。これまでの活動やライブのMCなどをふまえた上でオファーしてくれてたし、スタッフに相談したら「やったほうがいい」と言われて。この本にも書いてるんですけど、僕の判断力はアテにならなくて、そのせいで大きな失敗を繰り返してるんですよ。これまでの経験上、大事なことは人の判断、もちろん信頼している人にですけど、身を委ねたほうがいい結果になることが多くて。今回も人の意見を受け入れたということですね。書き始めたときは、どこをゴールにするかを決めてなかったんです。“今”をゴールにするのか、バンドが終わるまでなのか、まったく決めずにとりあえず書き始めて。結果として、子供の頃から今現在の自分までを書いたという感じですね。


——当然、これまでの人生と向き合うことになりますね。


伊東:はい。僕は本来、過去を振り返られないタイプだし、そういう生き方がクセになってるんです。なので久々に思い返すことが多かったんですけど、途中からおもしろくなってきちゃって。あまりにも何も考えてないというか、「アタマ悪いなーこいつ」って(笑)。普通はもうちょっと考えるはずなんですよ。「これをやったら、こういう結果になるだろうな」とか「こんなリスクが伴うな」とか。それがまったくないから、当然、失敗を繰り返す。僕、家庭教師のバイトをやってたんですけど、こういう生徒がいたら、間違いなく指導すると思います。「君がやろうとしていることには、こういうリスクがあるよ。少し立ち止まって考えたほうがいい」って。


——もう少しうまくやる方法があったはずだと。


伊東:本を書いてみてわかったんですけど、僕の人生は3割が成功、4割が失敗、3割が致命傷なんです(笑)。「普通に考えて、これ以上は活動を続けられないよな」という出来事が何度もあったんだけど、そのときは気づかないんですよね、失ったものの大きさに。致命傷を負うたびに「よっしゃ、また次からがんばるぞ」とやる気になって(笑)、2〜3年経ってから「あのときはヤバかったんだな」ってようやく理解するっていう。でも、そのときは状況が変わってるから、また前に進むことしか考えない。しかも、そういう自分は今も自分のなかにいるんですよね。ぜんぜん切り離されてないというか。


——それにしても波乱万丈な人生ですよね。小学校時代の腕の骨を折られるほどのいじめだったり、高校時代に父親に突然「お前と俺は血が繋がってないんだ」と告白されたり。


伊東:自分ではそれほど波乱万丈だとは思ってないんですよね。子供のときのいじめにしても、「これはいじめだな。ヤバイな」という認識はあるけど、自分は自分の人生しか知らないし、比較対象がないから、「早く小学校を卒業したいな」くらいしか思ってなくて。


——そういう過去を掘り返す作業は、きつくなかったですか?


伊東:それはまったくなかったです。というのも、自分のなかで「乗り越えた」という実感があるから。本のなかにも書きましたけど、きつい体験を乗り越えると、それが自分の個性になると思うんですよね。乗り越えてなければつらいでしょうけど、僕はそれを含めて肯定できているので。家族のことに関しては、乗り越える必要もないというか。父親から血が繋がってないと言われたときも、悲しくはなくて、「マジで?」ってビックリしただけなので(笑)。今は「そういう家族もあるよね」という感じですね。


——現実を受け止める力が強いのか……。


伊東:それもバカだからでしょうね(笑)。もう少し考える力があれば、傷ついたりしたんでしょうけど。


■ボカロシーンとの出会い


——音楽活動も紆余曲折ですよね。シンガーソングライターとしての才能は間違いなくあるのに、とても順調とは言えない道を歩んでいて。たとえば出来レースのオーディションに出た話だったり。


伊東:あれは僕もめちゃくちゃ悔しかったです。ただ、当時からは「バンドなんて上手くいかないのが当たり前」という考え方だったんですよ。だって、売れる人なんてほんとに僅かじゃないですか。役者とかプロ野球選手とか、“成功するのは一握り”と言われる職業がありますけど、バンドで成功するのって“一握りランキング”でもかなり上位だと思うんですよ。しかもバンドをやってるとお金は貯まらないし、大学の単位も取れない。そんなの当たり前だよなと思ってたんだけど、後になってバンド仲間に聞いてみると、みんな卒業していてビックリしたり(笑)。この前も、同じ大学出身のミュージシャンと話してて、「バンドやってると卒業できないよね」って言ったら、「いや、自分は4年で卒業しましたよ」って。


——学生時代の歌詞太郎さんには、「とりあえず卒業だけは」という発想がなかったんでしょうね。人生に保険を掛けないというか。


伊東:でもね、こういう考えも持ってるんです。すぐに結果を出せる人もいるけど、僕はそうじゃないし、下積みも当然あった。今後もまったく売れなくなったり、収入がゼロになる可能性もあるだろうし、一生音楽をやっていくためには、どんな状況になっても耐えられる準備が必要だなと。そこはディフェンシブなんですよね、じつは。これは自分だけの考えですけど、住む場所や家族を持つことも、ミュージシャンにとってはリスクになることもあるので。


——なるほど。アーテイストとしての突破口になったのは、ボカロシーンとの出会い。本のなかでも、ニコニコ動画で活動を始めた頃のことを生き生きと書かれていますね。


伊東:「世の中にこんなに素晴らしいところがあったんだ!?」と思いましたからね。それまでずっとバンドをやってたんですけど、ライブをやってもお客さんがゼロだったり、知り合いの音楽関係者からも「CDが売れない時代だから、やり方を考えなくちゃいけない」と言われて。自分としては「いい音楽をやってる」という実感があったし、あとは宣伝だなと思っていたんです。ただ、具体的なやり方がわからなくて。路上ライブをやれば月に10枚くらいCDが売れるから、1年に120枚売れたとして、そのうちの半分がファンになってくれて、それがどこかのタイミングでバン!と増えたら……みたいなことばかり考えてました(笑)。八方ふさがりでしたね。、


——売れるための戦略を立てることができなかった、と。


伊東:そうですね。あとはカフェでライブをやるとか、町興しのイベントに参加するとか。当時は「音楽リスナーが減ってるから、音楽に興味がない人にもリーチしないと」と思ってたんです。ところがニコニコ動画のシーンはお客さんが能動的にいい曲を探していて、しかも「この曲いいよ」って紹介しあっている。そのときの衝撃は今でも覚えてますね。「音楽好きの人、めちゃくちゃいるじゃん!」って。バンド界隈にはインターネットの音楽を評価しない人もいたけど、ニコ動のシーンは本当にクリーンで、しがらみも全然なくて。カバーが評価されていたのも、自分にとってはすごく良かったですね。


——その後の音楽活動も一筋縄ではいかなくて、活動のスタイル、作詞作曲に対する考え方も変化していて。ただ、“一生、歌っていくんだ”という決意だけはまったくブレないですよね。幼少期から。


伊東:何でそうなったのか、僕もキッカケを知りたいです(笑)。何で音楽を好きになったのか、自分なりに考えてみると、“純粋に歌うことが楽しかったから”というのは一つあると思います。子供って、快・不快で判断するところがあるし、「歌うのは楽しい! もうこれしかやりたいくない」と決めた可能性はあるなと。まあ、本当のところは結局わからないんですけどね(笑)。


——理由はわからないけど、とにかく歌い続けることだけは決めているというのも、歌詞太郎さんの強さだと思います。これまでの人生のなかで音楽を辞めるタイミングはいくらでもあったわけですけど、まったく辞めることを考えないっていう。


伊東:それは自分でも驚いてます(笑)。何度も言ってますけど、やっぱり頭が悪いんでしょうね。


——本のなかには“無敵のアホ”というワードが出てきますね。


伊東:アタマが悪いことを肯定する言葉を探したんですよ。要領が悪いと損をすることが多いし、人からバカにされることもある。それでもやりたいことを続けることで、人生には良いこともいっぱい起きるんです。良いことが3割、良くないことが7割だったとしても、「損のほうが多いじゃん」と否定するのではなくて、失敗した7割があったからこそ、最高な3割があったと肯定したいので。この本を読んでくれる人のなかに「自分は要領が悪い」「失敗ばかり」と思ってる人がいたとしたら、自分を肯定できるきっかけになるかもしれないし。まあ、そのために本を書いたわけではないですけど。


——読み手に対するエールではない?


伊東:少なくとも「人の背中を押そう」とか「元気になってほしい」という思いでは書いてないです。音楽もそうなんですよ。僕自身は音楽に何度も救われたし、感謝もしているんですけど、だからと言って「自分も人の人生にプラスになるような曲を作りたい」とは全然思わない。それっておこがましくないか?と思うし、音楽そのものに価値はないので。


——歌詞太郎さんは音楽にすごく大きな価値を見出している気がしますが。


伊東:自分で作った音楽は大好きだし、愛してます。それはつまり、自分の価値ですよね。自信があるから「ぜひ聴いてください」と言えるし、受け取った人が「失恋して落ち込んでたけど、元気が出ました」とか「通勤中に聴いて、勇気をもらいました」とか「何かいいっすね!」って言ってくれる。そうやってリスナーの人たちが価値を付けてくれるんですよ。この本もそうで、読んでくれた人がそれぞれに価値を見出してくれたらいいなと。


——では、歌詞太郎さんにとってこの本の価値とは?


伊東:単純におもしろいなって思います(笑)。Interestingではなく、Funny。笑いって、誰にとっても良いものじゃないですか。人生上手く行ってる人は「バカだなあ」って笑ってくれるだろうし、挫折を繰り返している人だったら、笑いだけじゃなくて共感してもらえるかもしれない。笑えるっていうのが、「この本、いいよ」って言える理由ですね、僕にとっては。


■ファンとの関係性


——半生を振り返って、それを文章にしたことで、歌詞太郎さん自身にも影響があったのでは?


伊東:うん、それはすごくありました。いちばんは自分を知れたこと。つまり「アタマが悪い」ということですね(笑)。「歌詞太郎さんって、どんな人ですか?」って聞かれると、「考えないで行動する人」とか「戦略を持たない人」なんて答えてたんですけど、それってちょっとカッコ良さを残そうとしてるじゃないですか。そうじゃなくて、「自分はバカなんだな」ということがはっきりした。それは明らかに良いことですね。


——ファンに対してはどうですか? 歌詞太郎さんのファンがこの本を読むと、音楽の背景をリアルに想像して「こういう人生を歩んできた人が、ああいう曲を書いて歌ってるんだな」という気持ちになると思うのですが。


伊東:そうですね。ライブで「自分には価値がない」というMCをしたとき、後から「それって、私たちの気持ちを否定していることになりますよ」と言われたことがあって。その気持ちもわかったんですよね。ファンの方に「歌詞太郎さん、好きです」と言われたら、「僕じゃなくて、音楽が好きってことですよね?」って聞き返したりしてたので。その後、自分も変わろうとして、「好きです」と言われたら「ありがとうございます」と返せるようになったんです。音楽を介して、自分を好きでいてくれるんだなとわかったというか。


——なるほど。


伊東:僕は人生の大半、起きている時間のほとんどを音楽に費やしているんですよ。本を読んだり、ごはんを食べたり、ネコと遊んでいるときも、常に音楽のことを考えてる。音楽を通して自分が出ているのは間違いないし、「音楽をやっていなければ、こんなに好かれる人間ではない」という根本も変わってないんですよね。この本を読んでもらえれば、そのことがわかってもらえるんじゃないかなと。ファンの皆さんに対しては、「あなたたちの気持ちはわかったから、僕の気持ちもわかって」という感じかな(笑)。


——本のタイトル「僕たちに似合う世界」についても聞かせてください。“僕”ではなく“僕たち”にしたのはどうしてですか?


伊東:“僕に似合う世界”はずっと探し続けてるんですけど、何年か前から“探す”と“作る”を両方やろうと思うようになって。そのなかで「僕が作る音楽を好きな人は、どんな人なんだろう?」と考えるようになったんですよ。いま応援してくれる人、これから先、僕の音楽に興味を持ってくれる人もそうですけど、たぶん、器用に立ち回れる人は少ない気がするんです。


——歌詞太郎さん自身がそうですからね。ファンはアーティストの鏡という言葉もあるし。


伊東:そうですよね。つまり“僕が似合う世界”というのは、“あなたが似合う世界”でもあるのかなと。なのでタイトルは「僕たちに似合う世界」にしました。


——この本自体が、リスナーと歌詞太郎さんの居場所になるのかも。小説「家庭教室」エッセイ「僕たちに似合う世界」に続く作品の構想はあるんですか?


伊東:常にあります。新しい小説のプロットもあるんですけど、この前、パソコンがクラッシュしちゃって3割くらいしか残ってなんですよ。残りの7割はこれから思い出します(笑)。


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