『ザ・ノンフィクション』東大相撲部員の青春「東大生の僕が手に入れたもの〜「東京大学相撲部」悩める青春〜

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2020年08月11日 15:42  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。8月9日は「東大生の僕が手に入れたもの〜「東京大学相撲部」悩める青春〜」というテーマで放送された。

あらすじ

 東京大学駒場キャンパスの片隅にある相撲部。1975年創部の歴史ある部活ながらも、華々しい実績があるわけでもなく、東大の中でも存在感は薄く、新入部員の獲得にも苦労している。女子マネージャーの田中は入部した際、なぜわざわざそんな変なところに、と家族から言われたという。

 前主将の4年の野口はムードメーカーで、中高一貫の男子校の進学校を首席で卒業。高校時代の学年一番となったテストの結果をスマホに残しており、それを見るのが楽しみだという。一方成人式では地元の中学に進学した友人らと交流できない「ぼっち状態」で、俺は東大生なんだというプライドで乗り越えたと自虐気味に後輩に話し、テニスサークルに入っていれば彼女ができたとぼやく。

 現主将の須山はイケメンの貴重な「陽キャ」。1浪して慶應義塾大学に進学するも、諦めきれず東大に入り直した努力家でもあり、相撲にも熱心だ。そんな須山と入学時点は相撲の力量が同程度だったものの、水をあけられたと話す益田。まわし姿でアイドルの振り付けを踊ったり、いつも笑顔の青年だが、何事にもやる気が出ず、将来にやりたいこともない自分に苦悩している。新入生の小山はバーチャル平城京を作るほど古代史が好きで、研究者志望。古代史のことばかり話すため「イカ東(いかにも東大生の略:勉強ばかりしていて恋人も作らず的なネガティブなニュアンスで使われる)」と言われると苦笑する。

 益田は一単位足りず留年してしまい、それでも番組スタッフの前では笑顔で、なぜこんなときでも笑顔なのかというスタッフからの質問に自分の笑顔は「自己防衛」なのだと話す。そんな益田を励ますべく、相撲部員たちは益田の髪を染める。親から反対されたとすぐ黒に戻してしまうが、その後、益田に変化が見られる。それまで親が買ってきた服をただ着ていたが、相撲部員の友人とともに服飾店に行くなど変わり始めた。春、野口は卒業前の追い出し稽古で部員たちとぶつかり稽古をしたあと、桜の咲きはじめたキャンパスの片隅にまわし姿のまま転がり空を眺めていた。

苦悩と仲間のいる相撲部員のまばゆい青春

 青春には「男女交際」が必要だと、特に野口は焦っていたように見えたが、東大相撲部員たちの過ごす日々は眩しすぎる青春に見えた。きっと部員たちも、卒業し年齢を重ねるごとに、かけがえのない時間を過ごしていたことに気づいていくのだろう。東大に入ったからといってすべてうまくいくわけではないという現実に直面し苦悩し、だが、苦悩を話すことのできる相撲部の仲間がいる。番組を見ていて、「苦悩」と「仲間」こそが青春なのではないかと思った。

 やりたいことがない自分に益田は苦悩していたが、私が「苦悩」しだしたのは、大学4年になって就職がさっぱり決まらないという現実に直面してからだった。少なくともそれまでの大学時代は、「ようやく受験勉強から解放されてうれしい、大学は面白くないし、毎日朝から晩までゲームをしていよう」という「苦悩する以前」の状況だった。

 人は現実で壁にぶつからないと苦悩しない。益田が苦悩しているのは、それだけ現実と向き合っていると言え、その時点でほかの大学生より先んじているとも思える。そして益田は悩むだけでなく、今まで親に買ってもらっていた服を相撲部員とともに買いに行くなど、できることから行動に移している。苦悩しながら前に進もうとする益田を応援したい。

 苦悩する益田の一方、同学年で「陽キャ」でもある須山は大人っぽい。慶應に入るも諦めきれず東大を受験しなおした須山は、その際に苦悩し乗り越えたものがあったのだろう。元主将の野口は、暴力的だった父親への憎しみが努力の原動力になっていると話し、苦悩とそれを乗り越えた過去が垣間見える。苦悩に押し潰される人もいるため、苦悩がいいことばかりとは言えないが、須山や野口の芯の強さは苦悩と必死で向き合い、乗り越えていった経験の賜物にも思える。

 一方で、その2人と異なる芯の強さを感じさせるのが古代史大好き・小山だ。“バーチャル平城京”を作る小山の古代史への情熱は、さかなクンの魚類への情熱に近いものを感じる。小山はその古代史愛ゆえに「イカ東」と揶揄されていると話すが、「好きなことがある」人は強いだろう。親世代に比べると経済面が不安定な昨今、「好きなことがある人が強い」という風潮は存在感を増している。古代史という情熱を注げる対象を持つ小山は時代の勝ち組と言っていいだろう。

 しかし、そうした「好きなことがある人が強い」という言葉は「学歴があればいい」とする、かつての刷り込みと変わらない。好きなものがない若者の苦しさ、切なさは益田が苦しんでいるように深いのではないだろうか。私自身も振り返ると、若い頃は「モテ」が全盛の価値観だったので、それで随分苦しんだ。好きなもの・学歴・モテも、あったら“よりいい”だろうが、なくてもほかに楽しく生きる道はあるし、それがないから「終わり」では決してない。

 こう生きたほうがいいという価値観なんて、時代や世代によってあっさり変わる。若い人ほど振り回されてしまいがちだが、どうかそんなものに振り回されないでいてほしい。

 次週のザ・ノンフィクションは『ザ・ノンフィクション それでも僕は生きていく 〜ももちゃんとの約束〜』。“126万人に1人”といわれる希少難病・アイザックス症候群など4つもの難病を抱える香取久之。仲間たちとNPO活動を始めるものの借金は3000万を超え、さらにステージ4の大腸がんが見つかってしまう。香取と、難病を抱える少女ももちゃんの日々。

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