【ネタバレあり】互いに”寄り添いながら”トラウマと向き合い乗り越えていく…「サイコだけど大丈夫」は究極の大人の童話

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2020年08月11日 18:33  cinemacafe.net

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写真Netflixオリジナルシリーズ「サイコだけど大丈夫」独占配信中
Netflixオリジナルシリーズ「サイコだけど大丈夫」独占配信中
兵役を終え、「愛の不時着」「ホテルデルーナ」で印象的なカメオ出演をして俳優復帰したキム・スヒョン。ヒットドラマ「ドリームハイ」「太陽を抱く月」「星から来たあなた」から映画『リアル』まで、アジアで絶大な人気を誇り、優れた演技者にしてミステリアスな眼差しの持ち主、モムチャン(筋肉美)俳優として知られた彼が本格復帰作として選んだドラマ「サイコだけど大丈夫」が8月9日(日)、最終回を迎えた。

彼が演じたのは、自閉症スペクトラム症の兄サンテを支えるために自分を抑えながら生き、反社会的傾向のある“サイコ”な童話作家コ・ムニョンとの“運命”の恋に苦悩する主人公ムン・ガンテ。ティム・バートンを彷彿とさせる、一度観たら忘れられない不気味さを感じさせる童話のアートワークも相まって、とても“ハッピーエンド”を迎える気がしなかった今作は、思いもかけない温かな涙に包まれて幕を閉じた。

キム・スヒョン演じるガンテ、その兄サンテ、そしてムニョン、それぞれが迎えた“魂の救済”は、日本でも一ジャンルとなっている“大人が泣ける絵本”のような癒やし効果で、新たな韓流ドラマの傑作となる予感がする。


運命か、悪縁か…韓流の定石をくつがえす三角関係

「愛の不時着」や「ザ・キング:永遠の君主」と同じスタジオドラゴン制作による今作は、本国での放送終了後、同日にNetflixで配信されると連日TOP10入り、「愛の不時着」「梨泰院クラス」に続く話題作となっている。

その物語はムニョンの作風のごとくかなり独特だ。キム・スヒョンが演じたガンテは、早くに父を亡くし、12歳で母を亡くして以来、7歳年上の兄サンテと2人暮らし。精神病院の“保護士”や様々なアルバイトをしながら、人間関係を最低限にシャットアウトして兄と転居を繰り返している。保護士とは精神疾患の患者の安全のために“体を張る”職種らしく、キム・スヒョン演じるガンテも必要とされればすぐさま駆けつける。


たったひとりで兄サンテの世話をしてきたガンテにとって、まず自分よりも兄、そして必要とされている人たちのために動くことが仕事であり、日常。そうして自分の感情や欲望を抑えながら、兄に向かう世間の冷たく、偏見に満ちた視線にも立ち向かいながら生きてきたガンテは、笑っているようで笑っていない、ジョーカーのような“仮面”の感情が張りついたまま大人になった。ガンテにとって愛する兄は大切な存在ではある一方、母の愛情を奪い自分の人生を縛りつけてきた存在でもあり、その矛盾が彼の心に暗い影を落としている。

そんなガンテが少年時代、凍った川で溺れかけたところを助けてくれたのがコ・ムニョンだった。以来、少年ガンテは彼女を慕っていたが、少女ムニョンは彼の小さな花束を無残にも踏みにじった。彼女も彼女で、“怪物”のような推理小説家の母に育てられたことで、愛を知らずに孤独を抱えたまま大人になった。その母は人気小説の最終巻を脱稿した後に失踪した、という。


ベストセラー童話作家となったムニョンもまた、子どものファンから「お姫様みたい」と言われるのが我慢ならない、むしろ魔女を愛する高慢な女性。愛嬌もない、健気な頑張り屋でもない、年上の男性におかずをよそってもらうのが当たり前のヒロイン。従来のドラマならば、次の項で紹介する主人公ガンテに片想いする幼なじみ・ジュリがヒロインに配され、ムニョンのようなキャラクターならば物語を引っかき回すだけの役どころだったろう。

欲しいものは必ず手に入れないと気が済まない、常に“空腹”な状態のムニョンは、その心の闇とは裏腹に、書店でも、病院でも、スーパーでも浮きまくる華やかなファッションがトレードマーク。演じる「無法弁護士〜最高のパートナー」『ワーニング その映画を観るな』ソ・イェジの神々しいまでの佇まいやスタイルの良さもあって韓国メディアがこぞって取り上げ、話題となっている。今作に登場するOK精神病院の名物院長によれば、彼女の盛りすぎなファッションは自己顕示欲の表れではなく自己防衛、つまり自らを守るための鎧なのだ。


また、ガンテの兄ムン・サンテは人気アニメ「赤ちゃん恐竜ドゥーリー」と同じくらい、童話と呼ぶにはあまりにもダークな作風のムニョンの絵本が大好き。自身も特別な絵の才能の持ち主だ。かつて母が殺害される現場を目撃して以来、現場で見た“蝶”の悪夢を見るようになっていた。


このサンテ役を演じるのは、ドラマ賞を席巻した「椿の花咲く頃」や「ストーブリーグ」(前者では百想芸術大賞助演賞を受賞)、映画『操作された都市』『エクストリーム・ジョブ』の悪役からD.O.とタップダンスを踊る『スウィング・キッズ』など仕事が途切れない技巧派オ・ジョンセ。今作でもまた絶妙な視線の逸らし方や身体表現、言語表現などで自閉症スペクトラム症の青年に扮している。


そんな3人がそれぞれにとってトラウマが残る故郷で、しかもムニョンが所有する森深い洋館で共同生活を始め、物語が大きくうねり出す。ガンテの存在が感情の爆発を抑える自分の“安全栓”になると気づいたムニョンが、彼をつなぎ止めるためにサンテを挿絵作家として雇ったのだ。彼女の孤独を知るからこそ、突き放すことのできないガンテ。磁石のように吸い寄せれられた2人が恋人になるのも時間の問題だった。

さらにサンテにとっては、ムニョンが憧れの作家から仕事上のパートナーに、さらに“家族”となったことが嬉しくて、誇らしくて仕方ない。物事へのこだわりがどこか似ている2人は譲れないことも多く、口げんかが耐えないが、お互いの存在がお互いの作風に新境地をもたらしていく。ときには仕事の邪魔だと、ガンテを追い払うようになるくらいだ。


かと思えば、ある衝撃的な事実が判明し、3人の関係が運命ではなく“悪縁”であることがわかる第14章「手とアンコウ」では、あのムニョンが泣き崩れ、サンテに詫びるシーンもある。当初の不穏な雰囲気はどこへやら、すっかり愛着の湧いた彼らがここからさらに最終回に向けて成長していく様は涙なしには見られない。それぞれがお互いに寄りかかりながらトラウマと向き合い、乗り越えていくことに心地のよさや魂の解放を感じているのが伝わってくる。そして今作も、家族の在り方や韓国的家族主義に新風を吹き込むドラマでもあった。



愛おしい脇役とサイドストーリーにも大きなヒントあり

そんな3人の周囲には、似た者同士で心に傷を抱えた彼らを放っておくことのできない人たちばかり。3人それぞれの成長に影響を与える彼らが、シリアスな局面ではときに笑いをもたらし、家庭料理のような温かさで包み込んでくれるのも今作の魅力だ。

ガンテの友人でムニョンとも元“親友”ナム・ジュリは、各地を転々とする兄弟を案じてガンテを故郷のOK精神病院に誘う。元JYPの練習生であり、女優転身後は「あやしいパートナー」「ロマンスは別冊付録」などに出演するパク・ギュヨンが好演。


ムニョンを育てた編集者で、出版社“サンサンイサン”のイ・サンイン代表は彼女に振り回されっぱなしでも、数少ない理解者の1人。ムニョンとは正反対のジュリにひと目ぼれする。演じるのは「ボーイフレンド」のキム・ジュホン。

“サンサンイサン”のアートディレクターなのにムニョンの世話係や雑用ばかり任されるユ・スンジェには、『サニー 永遠の仲間たち』「彼女の私生活」のパク・ジンジュ。


サンテが心を開くのに10年かかったという、ガンテの唯一の親友チョ・ジェスには、「ザ・キング 永遠の君主」のカン・ギドゥン。


そして、「大丈夫じゃなくても大丈夫」がモットーのOK精神病院オ・ジワン院長は、朴訥な人柄でトラウマ治療の第一人者。サンテに病院の壁画を描くよう依頼する。演じるのは、「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」などの名優キム・チャンワン。


OK精神病院の師長パク・ヘンジャは細かいところに気がつく院長のよき右腕だったが、最も共感できない人物に…。演じるのは「王は愛する」のチャン・ヨンナム。


推理小説家の妻のため、山の上に瀟洒な洋館を立てた著名な建築家、ムニョンの父コ・デファン(イ・オル)。現在はOK精神病院に入院中。脳腫瘍の一種、膠芽腫で余命幾ばくもない身で…。


このほか、OK精神病院の調理師でジュリの母カン・スンドク役でキム・ミギョンが“国民の母”ぶりを発揮、病院の入院患者たちも3人の人生に大きく関わってくる。


「大人がハマる絵本」のような、謎解きと癒やしの童話集

今作の各エピソードタイトルには、「赤い靴のお嬢さん」「眠れる森の魔女」「美女と野獣」「みにくいアヒルの子」など、世界の有名童話や物語、それを模したタイトルや、劇中でムニョンが記した絵本のタイトルが使用され、彼らのトラウマの原因や心理を紐解くための鍵ともなっている。

例えば、第6章「青ひげの秘密」では、ペローによる17世紀末の童話「青ひげ」で妻を次々に殺害した富豪の物語をベースに、ガンテ&サンテ兄弟とムニョンの過去、彼女の父デファンの罪(!?)が初めて描かれる。

イソップ寓話の「王様の耳はロバの耳」を冠した第9章では、秘め事を口に出さずに我慢し続けていると病気になる、という教えに沿って(!?)ガンテがムニョンとついに初デートへ。ニコニコ笑顔で2ショット写真を撮る姿は、それまでの2人とはまるで別人のよう。


もし、序盤のムニョンの傍若無人ぶりやガンテたちの不遇に、このまま見進めるのはパワーが必要かも…と思ったとしても、ぜひ少しずつでいいので、この第6章までは見てみてほしい。以降、ガンテとムニョンのロマンスはようやく進展し、失踪したムニョンの母にまつわる謎解きも加速、試練に襲われてもお互いを求め合う気持ちがますます抑えられなくなる2人を見守らずにはいられない。

さらに最終章のタイトルは、“絵ムン・サンテ、作コ・ムニョン”でやがて完成する新作絵本「本当の顔を探して」そのもの。想像を超えて思い入れ深まる各キャラクターたちの魂が癒やされ、さらに成長していく物語として劇中とリンクし、ほかのコ・ムニョン作品と同様、ときどき残酷で辛辣なのに、たくさんの涙と少しの笑いでしっかりとヒーリング効果をもたらす。今作に登場する重要なモチーフ・蝶が古代ギリシア語でプシケー(Psyche)、「生命」「心」「魂」を意味することやPsychology(心理学)の語源であることにも思いを巡らす。


絵本の世界では、登場人物の心理描写が浮かんでくるような“挿絵”は必要不可欠だ。挿絵が単なる状況説明・情景説明以上の意味を成すように、中世の洋館のようなムニョンの自宅や、OK精神病院の絶妙な光の取り入れ方や壁一面のサンテの絵、風光明媚なロケ地などの世界観づくりが今作の寓話性をいっそう高めている。


なお、ムニョンの絵本「悪夢を食べて育った少年」「ゾンビの子」「春の日の犬」「手、アンコウ」は、ドラマ放送直後から本国で大反響を呼んでおり、今作脚本のチョ・ヨンと冒頭のクレイアニメの原画やサンテが描く絵なども手がけたコンセプトアーティスト、チャムサンのタッグにより実際に発売され、書籍化もされるなど大きなムーブメントとなっている(全て韓国語、「手、アンコウ」は8月21日発売予定)。

(text:Reiko Uehara)

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  • あーサイコな人たちの話ね・・・ どうでもいいや。 ただ喜ぶ層って一定数いるんだけど、あっちの人に近い人達なんだろうなあ。
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