『ザ・ノンフィクション』コロナ禍、歌舞伎町で働き暮らす人たちの今「歌舞伎町 便利屋物語 〜人生を変えた この街で〜」

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2020年08月25日 14:22  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。8月23日は「歌舞伎町 便利屋物語 〜人生を変えた この街で〜」というテーマで放送された。

あらすじ

 トイレの詰まり解消から業務用のエアコン清掃、店内改装、ペットの世話、さらにラウンジでカウンターに立って客の相手まで、何でも24時間365日対応の便利屋「親孝行」。今年で10年目になる社長の由藤神一の仕事ぶりは歌舞伎町の飲食店のオーナーたちから信頼されており、顧客の自宅、事務所の合鍵を50本以上預かっている。

 由藤は便利屋になる前は、歌舞伎町のいわゆる「おなべ」の従業員が働くホストクラブで働いていた。由藤は、北海道で2人男の子が続いたあとの、待望の女の子として生まれ、「あやか」と名付けられるも、物心ついたときから自身の性に違和感があり、スカートをはくのも髪の毛を伸ばすのも嫌で、「オトコオンナ」とからかわれることもあったという。

 由藤は21歳で歌舞伎町に上京。その後2015年に性別適合手術を受け、戸籍の上でも男性になっている。由藤は歌舞伎町で便利屋として働くことを、街への「恩返し」だと話す。なお、実家の家族との仲は良好で、保育士だった母親のために保育所を開設し、開催した祭りは人で賑わうなど生まれ育った地域社会とのつながりも築いている。

 歌舞伎町を代表するクラブの一つ、ホストクラブ愛本店の創業者である愛田武氏が18年に亡くなった際、由藤はその遺品整理と氏の「金色の棺に入りたい」という希望を叶えるため棺の塗装を依頼される。由藤がかつて働いていたホストクラブは愛田社長が開いた店で、由藤がホストクラブで面接を受けた際に、たまたま店にいた愛田氏が後押ししてくれたり、また、由藤の両親が店を訪ねた際も愛田氏が店にいて、「神一だったらどんな仕事をしても成功する 」と言ってくれたのだという。愛田氏の葬儀では由藤が塗装した金色の棺と、祭壇にはシャンパンタワーと「愛」の文字をかたどったオブジェが飾られていた。

 20年2月、新型コロナウイルスの影響がまだそれほど見えていなかった時期に、由藤から番組スタッフに20年9月に北海道に戻る、という手紙が届く。歌舞伎町の顧客からは惜しまれていたが、その後新型コロナウイルスのあたかも発生源かの如く伝えられた歌舞伎町の多くの飲食店は休業を余儀なくされる。由藤は帰郷をいったん保留とし、飲食店の休業で失業してしまった人を新たに雇い、歌舞伎町のため働く。

 この放送は、ウイルスの発生源のようにいわれがちな新宿・歌舞伎町で「働いて、暮らして、生活している」人たちの生の声や姿を伝えた、意義ある回だったと思う。今、地方の人と話すと、東京、特に新宿はウイルス蠢く「バイオハザード」のような状況に思われていると感じることがあるが、8月現在の新宿は、学校も開いているし、人通りは減ったとはいえ開業している店も多い。

 しかし今から3カ月前。緊急事態宣言下の5月の新宿は全く様子が違っていた。店舗はほぼ休業中で、昼間なのに駅前は眠ったように静かで、数えられるほどしか人がいなかった。その様子は、かつてドキュメント番組で見た、猛毒の化学兵器による攻撃を一帯に受け、建物は一切破壊されていないが人や生物だけが息絶えた異様なほど静かな海外の都市によく似ていた。

 しかし、新宿で働く人によれば、緊急事態宣言が出た直後の4月は、さらに人がいなかったという。由藤やその顧客である新宿で働く人たちは、どんな思いで新宿の街を日々見ていたのだろう。そして、この状況はまだまだ解決の糸口が見えないのだ。

そこまで近くない人の何気ない一言が人を救うこともある

 ホストクラブ愛本店の創業者、愛田氏のことを由藤は「東京のお父さん」とも話す。この2人は「かつてのオーナーと従業員」という関係だ。愛田氏は由藤が働いていたホストクラブだけでなく、さまざまなナイトクラブを手掛け、スタッフも大勢いたことだろう。イチ従業員とオーナーという関係で見れば、2人の距離はそこまで近いものではないといえるだろう。 

 しかし愛田氏は、北海道から上京しホストクラブの面接に挑む由藤の背中を押し、また、由藤の両親がそのホストクラブを訪れた際も、両親に対し「神一はどんな仕事をしても成功する」と太鼓判を押し、酒を飲み交わしてくれたのだ。そこまで距離が近くない相手だから言える、軽口ともいえるが、一方でこの愛田氏の気軽で何気ない親切さに、由藤は随分救われたのだろう。

 距離がそれほど近くない人の、何気ない優しさに人は案外救われている。ここ数週の『ザ・ノンフィクション』を見ても、大学卒業間近で引きこもってしまった青年、ヨウヘイは家族に何を言われても表情は固まったままだったのに、自立支援施設で地元の人と交流した際、酒席で地元のおじさんに、「(あなたは)いい子だよ」と言われたときは涙を流していたし、85歳の食堂店主「はっちゃん」は旅先で宿がなく泊めてくれた満生さんへの恩を20年以上たっても忘れず、満生さんを神様のように大切に思っていた。

 親切にした側からしてみたら、覚えてすらいないかもしれないことが、その人を救っているのだ。人と人がゆるくつながっていくことの大きな意味を感じる。一方で、家族など近すぎる距離の人からの言葉というのは、素直に受け取りにくいところもある。近しい人間関係の難しさも思った。

 次週のザ・ノンフィクションは『最終学歴は中卒だけど… 〜ボクの働く場所〜』。あるベンチャー企業が企画した「ヤンキーインターン」――地方の中卒・高卒者を対象に、食・住・職を無償で提供し、企業への就職を支援するというものだ。その中には起業家になりたい18歳や家族を幸せにしたい21歳の姿もある。「中卒」の彼らは未来を切り拓くことができるのか?

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